葯(やく)

葯
葯は雄しべの一部で、内部の葯室・花粉嚢で花粉が形成され、成熟後に花粉を放出します。

葯とは

葯(やく、anther)とは、
雄しべを構成する器官の一つで、
花粉をつくり、成熟した花粉を外へ放出する部分です。
多くの被子植物では花糸の先端にあります。

葯の内部には花粉嚢(葯室)があり、その中で花粉が発達します。
成熟すると葯の壁が裂けたり、孔が開いたりして花粉が外へ出ます。
この仕組みは作物によって異なります。

花の構造を示した模式図

葯の構造

多くの被子植物の葯は、左右に位置する2つの半葯からできています。
半葯の間をつなぐ部分を葯隔(やくかく)と呼びます。

それぞれの半葯には1個または2個の花粉嚢があり、
典型的な葯では全体で4個の花粉嚢を持ちます。
ただし、植物によって数や形には違いがあるため、
「葯には必ず4個の花粉嚢がある」とは限りません。

葯の断面図葯の断面図:半葯、葯隔、葯室・花粉嚢、花粉粒

葯の中で花粉ができるまで

葯の花粉嚢では、花粉母細胞が減数分裂して
小胞子をつくります。
その小胞子がさらに発達して花粉粒となります。

成熟した花粉粒が葯から放出され、
同じ花または別の花の
柱頭に付着すると
受粉につながります。

葯の裂開と花粉の放出

花粉が成熟すると、葯は一定の部分から開いて花粉を外へ出します。
これを葯の裂開(れっかい)といいます。

多くの植物では葯が縦方向に裂ける縦裂開が見られます。
一方、ナスなどでは葯の先端付近にある孔から花粉を放出する
孔開が見られます。
植物によって花粉を放出する仕組みは異なります。

ナスやトマトなどでは、振動によって葯から花粉が出やすくなる性質があり、
マルハナバチによる訪花や振動を利用した受粉管理とも関係します。

葯の裂開と花粉放出の模式図葯が成熟すると、壁が割れて(これを裂開といいます)、中から無数の花粉が飛び出します。

農業と葯

受粉・着果

葯の発達や花粉の成熟、花粉の放出状態は、
果菜類や果樹の受粉・着果に関係します。

ただし、着果不良を葯だけの異常と判断するのは適切ではありません。
花粉の発芽能力、柱頭の状態、温度、湿度、草勢、品種特性、
受粉昆虫の活動なども合わせて確認する必要があります。

人工受粉用の花粉採取

ナシ、リンゴ、モモなどの果樹では、
人工受粉に使用する花粉を得るため、
花やつぼみから葯を取り出して花粉を採取することがあります。

採取した葯を適切な温湿度条件に置いて開かせ、
花粉を取り出す工程は開葯(かいやく)と呼ばれます。
自然な葯の開き方を説明する植物形態学上の「裂開」と、
花粉調製作業としての「開葯」は、文脈を分けて考えると分かりやすくなります。

葯培養とは

葯培養とは、未熟な花粉や小胞子を含む葯を培養し、
花粉・小胞子由来の植物体を得る組織培養技術です。
主に育種や研究で利用されます。

半数体を得た後に染色体を倍加すると、
遺伝的に固定された倍加半数体(DH)を短期間で作出できる場合があります。

ただし、培養によって得られる植物体が必ず半数体になるわけではありません。
作物や品種、培養条件によって再生率や倍数性は異なり、
葯壁などの体細胞に由来する植物体が生じる場合もあります。

葯培養と葯採取の違い葯培養と葯採取の違い

葯で誤解されやすい点

  • 葯と花粉は同じものではありません。
    葯は花粉を形成・保持・放出する器官で、花粉は葯の内部で形成されるものです。
  • 葯と花粉嚢も同じものではありません。
    花粉嚢は葯の内部にある、花粉が形成される部分です。
  • 着果不良=葯の異常とは限りません。
    花粉の活性、柱頭の状態、温湿度、受粉条件など複数の要因を確認します。

葯の読み方と英語

葯は「やく」と読みます。
英語ではantherといいます。

  • 葯:anther
  • 雄しべ:stamen
  • 花糸:filament
  • 花粉:pollen
  • 花粉粒:pollen grain

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