被子植物(ひししょくぶつ)

被子植物
被子植物(ひししょくぶつ)

被子植物とは

被子植物(ひししょくぶつ)とは、胚珠(はいしゅ)が心皮(しんぴ)によって包まれ、通常は子房(しぼう)の内部に収められている種子植物のグループです。英語ではangiospermsまたはflowering plantsと呼ばれます。

被子植物は花をつくります。ただし、「花をつくる」といっても、すべての植物が目立つ花弁をもつわけではありません。イネやトウモロコシのように、花弁が目立たない植物も被子植物です。

農業で栽培される植物の多くは被子植物で、イネ、コムギ、トウモロコシ、ダイズ、トマト、ナス、キュウリ、イチゴ、リンゴ、ブドウ、茶、バラ、キクなどが含まれます。

被子植物を見分ける基本:
「きれいな花を咲かせる植物」という意味ではありません。植物学上重要なのは、胚珠が心皮によって包まれていることです。学校理科では「胚珠が子房の中にある植物」と整理すると分かりやすくなります。

被子植物の特徴

被子植物には、種子をつくるほかの植物群と区別するうえで重要な特徴があります。

  • 胚珠が心皮に包まれている:心皮から構成される子房の内部に胚珠があります。
  • 花をつくる:花は被子植物の生殖に関わる器官ですが、花弁や萼が目立たない種類もあります。
  • 花粉管によって精細胞が運ばれる:受粉後、花粉が発芽して花粉管を伸ばし、精細胞を胚珠へ運びます。
  • 重複受精を行う:2個の精細胞が異なる細胞と融合し、胚と胚乳の形成につながります。
  • 受精後、胚珠は種子へ発達する:形成された種子には次世代の植物となる胚が含まれます。
  • 子房は通常、果実へ発達する:果実は種子を包み、保護や散布に関係します。

被子植物と裸子植物の違い

種子植物は、大きく被子植物と裸子植物に分けて考えることができます。

両者の代表的な違いは、胚珠が子房の内部に包まれているかどうかです。

  • 被子植物:胚珠が心皮に包まれ、通常は子房の内部にあります。
  • 裸子植物:被子植物のような子房を形成せず、胚珠が外部に露出しています。

マツ、スギ、イチョウ、ソテツなどは裸子植物です。これに対して、イネ、トマト、ダイズ、リンゴなど、多くの農作物は被子植物です。

「種子をつくる植物=すべて被子植物」ではありません。裸子植物も種子をつくります。

受粉から種子・果実ができるまで

一般的な被子植物では、花粉が雌性側の受粉可能な部分に到達する受粉の後、花粉が発芽して花粉管を伸ばします。

花粉管は精細胞を運び、胚珠の内部へ到達します。その後、精細胞と卵細胞などが融合して受精が成立します。

受粉と受精は同じ現象ではありません。

柱頭に花粉が付着しても、花粉が正常に発芽しなかったり、花粉管の伸長が停止したり、受精に至らなかったりすることがあります。施設園芸や果樹栽培で着果不良を調べる場合、「花粉が付いたから受精した」と判断するのは誤りです。

標準的な有性生殖では、受精後に胚珠が種子へ発達し、子房は果実へ発達します。

ただし、実際の植物には例外があります。受精しなくても果実が発達する単為結果や、子房以外の組織も果実の形成に大きく関与する植物があります。このため、「受精すれば子房だけがそのまま果実になる」と機械的に考えるのも正確ではありません。

被子植物に特徴的な重複受精

被子植物の生殖を理解するうえで重要なのが重複受精(ちょうふくじゅせい)です。

花粉管によって運ばれた2個の精細胞のうち、一方は卵細胞と融合して受精卵をつくります。受精卵はその後、種子の中の胚へ発達します。

もう一方の精細胞は胚嚢内の中央細胞と融合し、胚乳の形成につながります。胚乳は、種子の発達や発芽後の初期生育に利用される養分と深く関係する組織です。

このように、一つの花粉に由来する2個の精細胞がそれぞれ異なる細胞と融合するため、「重複受精」と呼ばれます。

イネ、コムギ、トウモロコシなどでは、成熟種子にも胚乳が多く残り、人が食用として利用する部分の大部分を占めます。一方、マメ類などでは、種子の成熟過程で胚乳の養分が子葉へ移され、成熟種子では胚乳がほとんど残らないものがあります。

被子植物は単子葉植物と双子葉植物だけに分かれるのか

学校理科では、被子植物を単子葉植物(単子葉類)と双子葉植物(双子葉類)に分け、子葉、葉脈、根、維管束などの違いを比較する方法が用いられています。

植物の形態を理解するためには有用な整理ですが、現在の系統分類では、この二分法をそのまま被子植物の進化系統として扱うことはできません。

DNAなどを用いた分子系統解析によって、単子葉類は一つの系統としてまとまるのに対し、従来「双子葉類」と呼ばれていた植物全体は一つの単系統群ではないことが分かっています。

従来の双子葉植物の大部分は真正双子葉類(eudicots)という系統群に含まれますが、モクレン類など、従来は双子葉植物とされた別系統の植物もあります。

分類を見るときの注意:
学校理科で用いる「単子葉類・双子葉類」という形態的な整理と、現在のAPG分類による進化系統の整理は、目的が異なります。「学校で習う分類が間違い」という意味ではなく、利用する場面を区別する必要があります。

現在のAPG分類における被子植物

現在、被子植物の系統分類にはAPG分類が広く利用されています。

2026年に公表されたAPG Vでは、核DNAと葉緑体DNAを利用した大規模な系統解析など、近年蓄積された研究成果を踏まえて被子植物の分類体系が整理されています。

APG分類では、被子植物を単純に「単子葉類」と「双子葉類」の二つだけに分けません。

被子植物には、アンボレラ目、スイレン目、アウストロバイレヤ目などの初期に分岐した系統、モクレン類、単子葉類、真正双子葉類など、複数の主要な系統があります。

そのため、古い植物図鑑や農業資料と現在の資料では、同じ植物でも科名や分類上の位置が異なる場合があります。分類を確認するときは、どの分類体系に基づく資料なのかを確認します。

農業で被子植物を理解する意味

農業で扱う主要作物の多くは被子植物です。そのため、花、受粉、受精、種子、果実の関係を理解することは、果菜類、果樹、採種栽培などを理解する基礎になります。

特に果菜類や果樹で着果不良が発生した場合は、開花しているかどうかだけでは原因を判断できません。

確認すべき過程には、花粉形成、葯からの花粉放出、花粉媒介、柱頭への受粉、花粉発芽、花粉管伸長、受精、受精後の子房発達などがあります。

温度や湿度などの環境条件はこれらの過程にそれぞれ影響するため、「花が落ちた=受粉不良」と決めつけず、どの段階で異常が起きているかを分けて考える必要があります。

また、被子植物という分類だけから栽培条件や病害虫対策を決めることはできません。必要な温度、水分、肥培管理、受粉条件、病害虫防除などは、作物・品種・作型ごとに判断します。

被子植物で誤解されやすい点

  • 「花が目立つ植物=被子植物」ではありません。
    イネ科植物のように、一般に「花らしい」と感じにくい花をつくる被子植物もあります。
  • 「種子をつくる植物=被子植物」ではありません。
    裸子植物も種子を形成します。両者の重要な違いは胚珠が子房に包まれているかどうかです。
  • 「被子植物=単子葉類+真正双子葉類」でもありません。
    モクレン類や被子植物の初期に分岐した系統など、いずれにも含まれない系統があります。
  • 「双子葉植物=真正双子葉類」ではありません。
    従来の双子葉植物全体は単系統群ではなく、その大部分が真正双子葉類に含まれます。
  • 「受粉=受精」ではありません。
    花粉が受粉した後、花粉発芽、花粉管伸長、精細胞の輸送などを経て受精へ進みます。
  • 「被子植物だから同じ栽培管理ができる」わけではありません。
    被子植物は非常に多様な分類群です。栽培管理や防除は作物ごとの性質を基準に判断します。

被子植物の参考動画

被子植物では、受粉後に花粉管が伸び、精細胞が胚珠へ運ばれて受精に至ります。この過程は静止画だけでは位置関係や時間的な変化を理解しにくいため、次の動画が参考になります。

受粉と受精の観察―中学
NHK ONE for School

受粉と受精の観察―中学(NHK ONE for School)を見る

動画について:
この動画は、被子植物の受粉から受精までの過程を理解するための参考資料として紹介しています。
農材ドットコムが制作・管理している動画ではありません。
動画の内容、公開状況、URLなどは、公開元の都合により変更または削除される場合があります。
また、受粉方法、花粉管の伸長、受精や結実に必要な条件は、植物の種類、品種、温度、湿度などによって異なります。

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