接ぎ木とは
接ぎ木(つぎき)とは、植物の芽や枝、茎などを別の植物に接合し、両者を一体化させて育てる繁殖・栽培技術です。英語では「Grafting」と呼ばれます。
根と茎の下部を主に担う植物を台木(だいぎ)、接合されて地上部の生育や開花・結実を主に担う部分を穂木(ほぎ)と呼びます。
野菜では、土壌病害への抵抗性を持つ台木の利用や草勢の調整、低温・高温などへの適応性改善を目的として行われます。果樹では、優良品種の栄養繁殖、樹勢や樹高の調整、品種更新などにも利用される技術です。
接ぎ木をしても、台木と穂木の遺伝子が一つに混ざって新しい品種になるわけではありません。両者はそれぞれの遺伝的性質を基本的に保持します。ただし、台木の特性が穂木の生育、収量、果実品質などに影響することがあります。

接ぎ木が成立する仕組み
接ぎ木では、台木と穂木の切断面を密着させ、傷ついた組織を再生させることで一体化を進めます。
接合部分では、傷口を修復する細胞が増殖し、カルス(癒傷組織)などが形成されます。その後、導管や師管といった水分・養分の通導組織が再びつながり、台木から穂木への水分供給や、植物体内の同化産物の移動が可能になります。
接合部分が正常に機能し、穂木が生育を再開した状態を活着(かっちゃく)と呼びます。
果樹などの木本植物では、台木と穂木の形成層が接するように合わせることが重要です。野菜の幼苗接ぎ木でも、切断面の密着と組織の再形成が欠かせません。
ただし、接合部にカルスが形成されただけでは、十分な活着が成立したとは判断できません。通導組織が機能し、その後の生育を支えられることが必要です。

接ぎ木を行う主な目的
野菜の土壌病害対策
トマト、ナス、キュウリ、スイカなどの果菜類では、特定の土壌病害に抵抗性を持つ台木を利用し、発病リスクの軽減を図ります。
例えば、トマトでは青枯病や萎凋病、キュウリやスイカではつる割病などへの対策として接ぎ木が利用されます。
ただし、抵抗性の対象となる病害や病原菌の系統は台木品種によって異なります。接ぎ木苗であれば、すべての土壌病害を防げるという意味ではありません。
草勢や環境適応性の調整
台木は根系の発達、水分や養分の吸収、草勢などに影響します。作物や台木品種によっては、低温期の生育改善や高温・乾燥条件への適応性向上などが期待されます。
一方、台木の草勢が強すぎると、茎葉の生育が過剰になったり、着果や品質に影響したりする場合があります。収量が必ず増加するわけではなく、穂木との組み合わせや栽培条件に応じた選定が必要です。
果樹の繁殖と樹勢・樹高の調整
リンゴ、ナシ、カンキツ、モモ、ブドウなどの果樹では、目的とする品種を同じ遺伝型のまま増やすために接ぎ木が広く利用されています。
また、台木によって樹勢や樹高、土壌への適応性などを調整できます。樹が大きくなりにくいわい性台木は、栽培管理や収穫作業の省力化を図る目的でも利用されます。
すでに植えられている樹の品種を変更する場合には、高接ぎなどの方法が使われます。
接ぎ木に利用される主な作物と台木
| 穂木となる作物 | 主な台木の例 | 主な利用目的 |
|---|---|---|
| トマト | 抵抗性トマト台木 | 青枯病・萎凋病などへの対策、草勢調整 |
| ナス | トルバム・ビガーなど | 青枯病などへの対策、草勢調整 |
| キュウリ | カボチャ類など | つる割病対策、低温期の生育改善など |
| スイカ | ユウガオ、カボチャ類など | つる割病対策、草勢調整など |
| リンゴ | JM系台木、M系台木など | 樹勢・樹高調整、苗木生産 |
| カンキツ | カラタチなど | 樹勢・土壌適応性の調整、苗木生産 |
表は一般的な組み合わせ例です。使用できる台木は、穂木の品種、対象病害、栽培地域、作型などによって異なります。特定の台木名だけで、すべての病害に対する抵抗性や接ぎ木親和性が保証されるわけではありません。
接ぎ木の主な方法と特徴
野菜で利用される接ぎ木方法
- 斜め合わせ接ぎ:台木と穂木の茎を斜めに切り、切断面を合わせてチューブやクリップなどで固定する方法です。トマトなどで利用されています。
- 呼び接ぎ:台木と穂木の双方に根を残した状態で茎に切り込みを入れ、接合後に穂木側の根を切り離す方法です。キュウリやスイカなどで利用されます。
- 片葉切断接ぎ:台木の子葉の片方と生長点を切除し、穂木を接合する方法です。ウリ科野菜で利用され、接ぎ木装置にも採用されています。
- 挿し接ぎ:台木に穴や切り込みを設け、調整した穂木を挿し込んで接合する方法です。
果樹や花木で利用される接ぎ木方法
- 切り接ぎ:台木に切り込みを設け、削った穂木を差し込む方法です。
- 割り接ぎ:台木を割り、くさび形に削った穂木を挿入する方法です。
- 腹接ぎ:台木の側面に切り込みを入れて穂木を接合する方法です。
- 芽接ぎ:穂木から採取した芽を、台木の樹皮などに接合する方法です。
接ぎ木方法は、植物の種類、苗齢、茎径、接ぎ木時期、作業者の技術、育苗設備などを考慮して選びます。
接ぎ木の作業と養生・順化
野菜苗の接ぎ木では、接合精度だけでなく、作業前の苗づくりと接ぎ木後の環境管理が活着率に影響します。
- 台木と穂木の準備:対象病害や栽培条件に適した組み合わせを選び、接ぎ木方式に合う苗齢・茎径になるよう育苗します。
- 切断と接合:清潔な刃物で切断し、切断面が乾燥しないうちに正確に接合します。
- 接合部の固定:苗径と接ぎ木方式に適したクリップ、チューブ、テープなどで固定します。
- 養生:接ぎ木直後は蒸散による水分損失を抑えるため、温度、湿度、光、気流を調整した環境で管理します。
- 順化:接合部の癒合が進んだら、湿度や光などを段階的に通常の育苗環境へ近づけます。
- 活着確認:穂木のしおれ、接合部の変色、茎の折れ、正常な新葉の展開などを確認します。
養生条件は作物や接ぎ木方式、苗の状態によって異なります。温度や湿度、遮光率、養生日数を一律に設定することは適切ではありません。
特に、長時間の過度な高湿度管理は病害発生につながる場合があり、反対に急激な換気や強光への移行は萎凋を引き起こします。苗の状態に応じて段階的に順化を進めます。
接ぎ木親和性と活着後の生育不良
接ぎ木親和性とは、台木と穂木が正常に接合し、その後も一体の植物として生育できる適合性を指します。
近縁の植物では接ぎ木が成立しやすい傾向がありますが、同じ科や属の植物であっても、すべての組み合わせで接ぎ木が成功するわけではありません。
接ぎ木不親和性があると、接合部の肥大や異常な組織形成、通導機能の低下、生育不良、接合部からの折損などが生じる場合があります。
また、初期に活着したように見えても、その後の生育段階で不親和性が顕在化することがあります。特に果樹では、育苗時の活着率だけでなく、長期間の生育実績も判断材料になります。
接ぎ木苗を定植する際の注意点
接ぎ木部分を土に埋めない
野菜の接ぎ木苗では、台木の病害抵抗性を活かすため、接ぎ木部が土に埋まらないように定植するのが基本です。
穂木部分から新しい根が発生して土壌中に伸びると、台木の根を経由せずに穂木が直接土壌と接することになり、対象病害への対策効果が低下するおそれがあります。
ただし、果樹の植付け深さには作物や台木方式ごとの違いがあるため、すべての植物に同一の基準を適用することはできません。
台木から伸びる芽を管理する
台木部分から伸びた芽を放置すると、穂木との競合や、意図しない枝・果実の発生につながります。
台木から発生した不要な芽は、接ぎ木部を傷めないように除去します。
接合部の強度を確認する
接ぎ木部は、活着後も植物体の構造上の弱点になる場合があります。定植や誘引作業では、茎に過度な曲げや引張りの力をかけないよう注意します。
固定具についても、使用資材の仕様と茎の肥大状況を確認し、締め付けや食い込みが起こらないよう管理します。
接ぎ木による病害対策の限界
接ぎ木は、対象病害に抵抗性を持つ台木を利用することで、発病リスクを軽減する技術です。しかし、抵抗性台木であっても、病原菌の種類や系統、土壌中の病原菌密度、温度などの条件によっては発病する場合があります。
抵抗性台木でも発病する事例
例えば、キュウリ黒点根腐病では、カボチャ台木を利用した接ぎ木キュウリで発病が確認されています。高知県が2025年12月26日、福岡県が2026年3月3日にそれぞれ特殊報を発表しています。
この事例は、特定の病害に対する台木の抵抗性を、別の病害にもそのまま当てはめることができないことを示しています。
接ぎ木苗を選ぶ際は、圃場で問題となっている病害を特定し、その病害に対する台木品種の抵抗性を確認することが基本です。
また、病原菌密度の高い圃場では、台木の利用だけで被害を十分に抑制できない場合があります。必要に応じて輪作や土壌病害対策などと組み合わせて管理します。
接ぎ木資材の種類と選定方法
接ぎ木に使用する資材には、接ぎ木クリップ、接ぎ木チューブ、接ぎ木テープ、接ぎ木ピン、保護フィルムなどがあります。
それぞれ接合部を固定・保護する役割がありますが、適する作物や苗径、接ぎ木方式は異なります。
| 資材 | 主な用途 | 選定時の注意点 |
|---|---|---|
| 接ぎ木クリップ | 野菜苗の接合部固定 | 苗径、固定力、接合部の形状 |
| 接ぎ木チューブ | 斜め合わせ接ぎなどの固定 | 茎径との適合性、取り付けやすさ |
| 接ぎ木テープ | 果樹・花木などの固定、乾燥防止 | 伸縮性、被覆範囲、締め付け |
| 接ぎ木ピン | 適合する方式での接合部固定 | 苗の硬さ、茎径、接合精度 |
資材単価だけでなく、接ぎ木作業時間、活着率、出荷可能な苗の割合、廃棄ロスなどを総合的に評価します。
大量生産を行う育苗施設では、自動接ぎ木装置や養生設備の導入によって省力化できる場合があります。ただし、処理能力だけでは採算を判断できません。設備費、稼働率、苗の供給体制、活着後の歩留まりを含めた検討が必要です。
接ぎ木で間違えやすい判断
- 接ぎ木すればすべての病害に強くなる:抵抗性は対象病害や台木品種によって異なります。病害の種類と台木の抵抗性情報を照合します。
- 一度つながれば接ぎ木は成功:初期の活着と長期的な親和性は同じではありません。特に果樹では接合後の生育も確認します。
- 接ぎ木部を埋めても問題ない:野菜では穂木からの発根によって台木の病害対策効果を損なう場合があります。適正な植付け深さを守ります。
- 高湿度に保てば必ず活着する:温度、光、気流、順化方法も活着に影響します。作物や苗の状態に合わせて管理します。
- 固定具を変更すれば活着率が上がる:切断面のずれ、苗齢の不揃い、不適切な養生条件が残っていれば改善しません。工程全体を点検します。
- 接ぎ木によって新しい品種が生まれる:通常の接ぎ木では台木と穂木の遺伝的性質は基本的に維持されます。品種改良のための交配とは異なります。
接ぎ木の参考動画
接ぎ木では、台木と穂木の切断面の作り方、形成層の合わせ方、固定方法などが作業精度に影響します。文章だけでは確認しにくい工程を、次の動画で紹介しています。
栗の切接ぎ木の方法
岡山県農林水産総合センター森林研究所が公式ページで紹介している、クリの切り接ぎに関する動画です。
リンゴの接木の秘密 その1
福井県の園芸LABOの丘が公開している、リンゴの接ぎ木に関する解説動画です。
動画について:これらは果樹の接ぎ木を理解するための参考動画であり、農材ドットコムが制作・管理しているものではありません。公開状況や内容は変更される場合があります。また、野菜の幼苗接ぎ木とは作業方法や養生条件が異なるため、動画の手順をそのまま他の作物に適用しないでください。
関連する資材分類・農業用語
参考資料
- 農研機構「トマト用接ぎ木装置を開発」(2021年)
- 新農業機械実用化促進株式会社「機械化栽培マニュアル 野菜接ぎ木ロボット」(1995年、農研機構公開資料)
- 農研機構「株枯病抵抗性のイチジク台木新品種『励広台1号』」(2020年)
- 農研機構「ピーマン台木品種『台パワーZ』」
- 愛知県総合教育センター「接ぎ木の方法」
- 岡山県森林研究所「岡山甘栗の紹介」(接ぎ木実演動画を含む)
- 福井県「おうちから楽しむ『園芸LABOの丘』」(リンゴの接ぎ木動画を含む)
- 福岡県病害虫防除所「キュウリ黒点根腐病の特殊報」(2026年3月)
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