キュウリ黒点根腐病とは
キュウリ黒点根腐病(きゅうりこくてんねぐされびょう)とは、糸状菌の一種であるMonosporascus cannonballus(モノスポラスカス・キャノンバルス)がキュウリの根に感染し、根腐れや地上部の萎凋(いちょう)を引き起こす土壌伝染性病害です。
発病初期には、晴天の日中に葉や茎がしおれ、朝夕や曇雨天には回復する状態を繰り返します。病状が進むと細根が腐敗・脱落し、根の吸水機能が低下して、株全体が急激に枯れることがあります。
本病の特徴は、腐敗した根の表面に直径約0.3mmの小さな黒点(子のう殻)が形成されることです。
類似した症状を示すキュウリホモプシス根腐病とは病原菌が異なります。両者は防除対策を検討するうえでも区別が必要です。

キュウリ黒点根腐病の病原菌と伝染経路
病原菌の学名はMonosporascus cannonballusです。ウリ科作物を侵す病原菌で、キュウリのほか、メロンやスイカなどにも黒点根腐病を引き起こします。
病原菌は感染した植物の根に子のう殻を形成し、内部に子のう胞子をつくります。これらが罹病根の残渣とともに土壌中に残存し、次作の伝染源になります。
感染源となる土壌が農機具や長靴などに付着し、別の圃場に持ち込まれることも、病害の拡大を防ぐうえで注意すべき経路です。
根の腐敗によって吸水機能が損なわれるため、日中の蒸散量が増える時間帯に萎凋が目立ちやすくなります。病状が進行し、根の機能が大きく失われると、朝夕にも回復しなくなります。
キュウリ黒点根腐病の主な症状
地上部に現れる症状
収穫期頃から萎凋症状が現れることがあります。初期には日中だけ葉がしおれ、気温や日射が低下すると回復しますが、根の腐敗が進むと株全体が枯死する場合があります。
ただし、日中にしおれる症状だけで本病と診断することはできません。水分不足、過湿による根傷み、ネコブセンチュウ、つる割病、ホモプシス根腐病などでも類似の症状が現れます。
根に現れる症状
感染した根では、初めに細根が腐敗して脱落し、残った根が飴色から褐色に変化します。
症状が進行すると、根の表面に直径約0.3mmの黒点状の子のう殻が形成されます。
この黒点は根の先端付近に認められることが多く、診断上の重要な手掛かりになります。ただし、発病初期には黒点がまだ形成されていない場合もあります。
キュウリ黒点根腐病の診断方法
正確な診断には、地上部の萎凋症状と根の状態を組み合わせて確認します。
- 萎凋の発生状況を調べる:収穫開始時期、晴天日中の萎凋、朝夕の回復状況、圃場内の発生分布を記録します。
- 根を丁寧に掘り取る:株元から半径30cm程度の範囲を目安に、根の先端部分までできるだけ切らずに採取します。
- 根の腐敗を観察する:細根の脱落、飴色から褐色への変色、根量の減少などを確認します。
- 黒点状の構造物を調べる:根に付着した土を丁寧に除き、根表面の小黒点を観察します。必要に応じてルーペや実体顕微鏡を使用します。
- 類似病害と比較する:ホモプシス根腐病の黒色構造物や、ネコブセンチュウによる根こぶなどとの違いを確認します。
黒点状の構造物は本病を疑う有力な所見ですが、肉眼観察だけで病原菌の種類を確定できるとは限りません。判断が難しい場合や、次作に向けた大規模な防除対策を検討する場合は、病害虫防除所や普及指導機関などに診断を相談してください。
キュウリ黒点根腐病とホモプシス根腐病の違い
両病害とも根の腐敗と地上部の萎凋を引き起こすため、症状だけでは混同しやすい病害です。
| 比較項目 | 黒点根腐病 | ホモプシス根腐病 |
|---|---|---|
| 病原菌 | Monosporascus cannonballus | Diaporthe sclerotioides(旧学名:Phomopsis sclerotioides) |
| 主な地上部症状 | 日中の萎凋、回復の反復、進行時の枯死 | 日中の萎凋、回復の反復、進行時の枯死 |
| 根の症状 | 細根の腐敗・脱落、根の飴色〜褐色化 | 細根の腐敗・脱落、根の褐変・黒褐変 |
| 特徴的な構造物 | 小黒点状の子のう殻 | 偽子座や疑似微小菌核 |
| 診断時の注意 | 根の先端付近に形成される子のう殻を確認 | 根の黒色帯状病斑や菌核様組織を確認 |
ホモプシス根腐病でも根表面に微小な黒点状構造が形成されるため、黒点があるという事実だけでは両者を識別できません。黒色構造物の形態や形成位置を確認し、必要に応じて病原菌の同定を行います。
キュウリ黒点根腐病の発生と関係する条件
地温と作型
病原菌Monosporascus cannonballusは比較的高温で生育する性質があります。福岡県の2026年3月の特殊報では、培地上で11〜37.5℃の範囲で生育し、最適温度は30℃前後とされています。
ただし、この数値は病原菌の培養条件に関する情報です。圃場での発病温度や発病率を直接示すものではありません。
メロンでは地温25〜30℃程度の高温条件で発病が助長されるとの防除資料がありますが、キュウリで同じ温度範囲を発病の判定基準として扱うことはできません。
ウリ科作物の連作
病原菌は感染した根の残渣とともに土壌中に残存するため、ウリ科作物の連作は感染源を維持する要因になります。
再発圃場では、過去の作付履歴と発病状況を確認し、ウリ科以外の作物への転換や輪作を検討します。
根域の乾燥と過湿
土壌の過度な乾燥や過湿は根の生育を妨げ、吸水能力を低下させます。病原菌に感染している株では、こうした根への負担が萎凋や被害の顕在化につながる場合があります。
灌水量を増やすだけでは根腐れは解決しません。土壌水分、排水性、根の生育状況を確認し、過度な乾湿の変動を抑える管理が求められます。
接ぎ木栽培でも発生する
岩手県の2006年の発生事例は自根キュウリでしたが、その後、カボチャ台木を使用した接ぎ木キュウリでも黒点根腐病が確認されています。
高知県では2025年、福岡県では2026年に発生に関する特殊報が公表されました。
カボチャ台木を使用していることだけを根拠に、本病の発生リスクがないと判断してはいけません。台木を選定する場合は、対象病害に対する品種・系統ごとの耐病性情報を確認する必要があります。
キュウリ黒点根腐病の防除と再発防止
本病は根を侵す土壌伝染性病害であり、根が大きく腐敗した株を灌水や追肥だけで回復させることは困難です。
防除では、感染源の除去と拡散防止、次作の作付計画を組み合わせます。
発病株と残根の処理
発病が確認された株はできるだけ早く抜き取り、根を含めて適切に処分します。土壌中に感染した根を残すと、次作の伝染源となるおそれがあります。
圃場外への搬出・処分に際しては、周囲へ土や植物残渣を散乱させないよう注意し、地域の処分ルールに従ってください。
農機具・資材による汚染拡大の防止
発生圃場の耕うんや整地に使用した農機具には、病原菌を含む土壌が付着している可能性があります。
別の圃場で使用する前に付着土壌を丁寧に洗い落とし、汚染土壌を持ち込まないよう管理します。長靴や運搬資材についても同様に注意します。
輪作と作付体系の見直し
本病が発生した圃場では、ウリ科作物の連作を避け、ウリ科以外の作物を組み込む輪作を検討します。
病原菌は土壌中に長期間残存するため、短期間の作付け変更だけで感染源がなくなるとは限りません。再作付けの判断には、過去の発病履歴や圃場条件も考慮します。
根域環境の改善
排水不良の改善、過度な乾燥の回避、灌水管理の見直しなどにより、根の健全な生育を維持します。
ただし、これらは主に根への負担を軽減するための対策であり、土壌中の病原菌を直接除去する処理とは区別する必要があります。
農薬と土壌消毒の取り扱い
福岡県病害虫防除所が2026年3月3日に公表した特殊報では、2026年2月26日時点で本病に対して登録のある農薬はないとされています。
農薬の登録内容は変更される場合があるため、使用を検討する際は農林水産省の農薬登録情報提供システムで最新の登録状況を確認してください。
土壌消毒には薬剤、太陽熱、蒸気、土壌還元などの方法がありますが、他の土壌病害に効果がある方法でも、本病に対して同じ防除効果が得られるとは限りません。
消毒方法や設備の導入を検討する場合は、本病に対する効果の確認された技術情報を基に、処理温度、深さ、期間、費用などを評価してください。
キュウリ黒点根腐病で間違えやすい判断
- 日中にしおれるので黒点根腐病と判断する:萎凋は複数の病害や生理障害で起こります。根の観察と類似病害との比較が必要です。
- 根に黒点があれば確定診断できると考える:ホモプシス根腐病でも黒色構造物が形成されます。構造物の種類を確認します。
- 接ぎ木キュウリなら感染しないと考える:カボチャ台木での発生事例があります。接ぎ木の有無だけでは安全性を判断できません。
- 灌水や追肥を増やして回復させようとする:根が腐敗している場合、施肥や灌水の増量では根本原因を解決できません。
- 土壌消毒剤ならどれでも使用できると考える:農薬登録と対象病害への効果を確認しなければ、誤防除や不適正使用につながります。
関連する資材分類・農業用語
参考資料
- 福岡県病害虫防除所「令和7年度病害虫発生予察特殊報第2号 キュウリ黒点根腐病」(2026年3月3日)
- 高知県病害虫防除所「令和7年度病害虫発生予察特殊報第3号 キュウリ黒点根腐病」(2025年12月26日)
- 岩手県病害虫防除所「キュウリ黒点根腐病(仮称)の発生について」(2007年2月6日)
- 岩手県農業研究センター「岩手県におけるキュウリホモプシス根腐病の発生生態と防除に関する研究」(2014年・黒点根腐病との識別に関する研究を含む)
- 農研機構「キュウリホモプシス根腐病防除マニュアル」(類似病害との識別を参照)
- 農林水産省「農薬登録情報提供システム」
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