摘心(てきしん)とは
摘心(てきしん)とは、植物の主茎や側枝の先端にある生長点を含む部分を取り除き、茎や枝の伸長、枝数、着花・着果などを調整する栽培管理作業です。「摘芯」とも表記され、英語では「Pinching」や「Topping」などと呼ばれます。
摘心には、頂芽優勢を弱めて側枝の伸長を促す目的と、茎や枝の伸長を止めて収穫部位や栽培期間を調整する目的があります。
例えば、キクでは摘心によって側枝の発生を促す栽培方法があります。一方、トマトでは、最終収穫予定の花房より上で主茎を摘心し、それ以上の花房形成を制限する場合があります。
摘心した茎の先端はそれ以上伸びなくなりますが、植物全体の成長が停止するわけではありません。残された葉や腋芽、側枝などは、その後も生育を続ける場合があります。
摘心の目的と作用
側枝の伸長を促す摘心
植物には、茎の先端にある頂芽の働きによって、下位の腋芽(えきが・わき芽)の伸長が抑制される頂芽優勢という性質があります。
頂芽を取り除くと、この抑制状態が変化し、残された腋芽が伸びて側枝を形成する場合があります。
頂芽優勢には、植物ホルモンのオーキシン、サイトカイニン、ストリゴラクトンなどが関係しています。オーキシンが腋芽に直接移動して伸長を止めるという単純な仕組みではなく、複数の調節機構が関与しています。
摘心後の側枝の伸長は、植物の種類や品種、腋芽の形成状態、生育段階、光・温度・養水分条件などによって異なります。
茎や枝の伸長を止める摘心
摘心は、側枝を増やすためだけに行う作業ではありません。
トマトなどでは、計画した収穫段数に達した段階で主茎の先端を取り除き、それ以上の伸長と新しい花房の形成を制限することがあります。
この場合、摘心の目的は収穫予定の果実を管理することであり、側枝の発生を積極的に促すことではありません。
側枝を伸ばすための摘心と、収穫段数を制限する摘心では、実施する時期や位置、その後の管理方法が異なります。
摘心と芽かき・摘葉・剪定の違い
摘心は整枝作業の一つですが、次の作業とは対象となる部位や目的が異なります。
- 摘心・摘芯:茎や枝の先端にある生長点を含む部分を取り除き、伸長や分枝などを調整する作業。
- 芽かき・摘芽:不要な芽を取り除き、残す枝数や位置を調整する作業。
- 摘葉:葉を取り除き、葉量や受光状態などを調整する作業。
- 剪定:枝の切除や切り戻しなどによって、樹形や枝の配置、生育状態を調整する作業。
例えば、トマトの葉の付け根から伸びるわき芽を取り除く作業は「芽かき」です。主茎の先端を取り除く「摘心」とは区別します。
また、摘心は剪定の一種として扱われる場合もありますが、一般に枝の先端の生長点を対象とする点で、枝全体の切り戻しや間引きとは区別されます。
農作物における摘心の具体例
トマトの摘心
トマトの主茎1本仕立てでは、計画した最終収穫花房より上で主茎を摘心する場合があります。
一般的な栽培方法の一例として、最終花房の上に本葉2枚を残して摘心する方法があります。残した葉は、その後の光合成や果実の生育に関わります。
ただし、摘心する花房段数や残す葉数は、品種、栽培期間、草勢、栽培方式などによって異なります。
長期多段栽培など、主茎を継続して伸ばす栽培方式では、短期栽培と同じ摘心方法を適用できません。
エダマメ・ダイズの摘心
エダマメやダイズでは、主茎の先端を摘心することで、腋芽の伸長や分枝が促される場合があります。
摘心によって草丈や枝数、着莢位置などが変化する可能性がありますが、必ず増収するわけではありません。
特に、品種、播種時期、栽植密度、生育量、開花時期などによって反応が異なります。摘心によって葉面積が失われたり、着莢数が減少したりする可能性もあるため、導入には条件の確認が必要です。
営利栽培で新たに摘心を導入する場合は、無摘心区との比較によって、可販収量と作業時間を確認することが望まれます。

ブロッコリーのV字仕立て
農研機構では、ブロッコリーの品種「夢ひびき」を対象に、摘心によって側枝を伸ばし、2つの花蕾を収穫するV字仕立て技術を研究しています。
この研究では、7~11葉齢で摘心し、その後に強い側枝を2本残して仕立てることで、直径約12cmの花蕾を1株から2個収穫できることが示されています。
研究条件では可販品質の花蕾数が増加しましたが、栽培期間が長くなり、花蕾1個当たりの重量が低下することも確認されています。
この成果は特定の品種と作型によるものであり、すべてのブロッコリー品種に適用できるわけではありません。
花き類の摘心
キクやカーネーションなどの花き類では、摘心によって側枝の伸長を促し、枝数や開花位置を調整する栽培方法があります。
摘心する回数や節位、最終摘心の時期は、品種や作型、目標とする草姿・開花時期によって異なります。
一方、1本の茎に花を咲かせる栽培などでは、不要な分枝を増やさない管理が必要なため、摘心の目的や必要性が異なります。
摘心を行う際の判断ポイント
摘心の目的を先に決める
摘心前に、側枝を増やしたいのか、茎の伸長を止めたいのか、収穫部位を調整したいのかを明確にします。
目的が異なれば、切除する位置と、その後に残す芽や枝の数も変わります。
摘心する時期と位置を確認する
分枝を促す摘心では、利用したい腋芽が形成されている節位を残す必要があります。目的の芽より下で切除すると、必要な枝を確保できない場合があります。
収穫段数を制限する摘心では、最後に収穫する花房や果実の位置を確認し、必要な葉を残して作業します。
摘心位置を誤ると、着果部位や葉面積が不足することがあります。作物別の栽培指針や品種特性を確認して判断します。
摘心後の枝数と葉量を管理する
摘心後に腋芽が伸長した場合、枝数や葉量が増えることがあります。
枝数が増え過ぎると、受光条件の悪化や作業空間の不足につながる場合があります。一方、枝や葉を過度に除去すると、光合成に必要な葉面積が不足するおそれがあります。
摘心後も、目的とする枝数、葉量、着果数を確認しながら、必要に応じて芽かきや誘引などを組み合わせます。
作業時の衛生管理
摘心は植物体に傷をつける作業です。傷口から侵入する病原体や、手指・器具を介して伝搬する病原体に注意します。
特に、接触伝染するウイルスなどが問題となる作物では、作業者の手指や器具の衛生管理が必要です。使用する消毒方法は、対象病原体に対する有効性と器具への適合性を確認します。
病徴が疑われる株では、通常の摘心作業を続けず、原因確認と病害の拡散防止を優先します。
作業時の葉や茎の濡れ、傷口の乾燥条件なども病害リスクに関係しますが、適切な作業条件は対象作物や病害によって異なります。
摘心で起こりやすい失敗
- 必要な枝を残せない:側枝を利用する予定なのに、目的の腋芽より下で摘心してしまう。
- 必要な葉を除去してしまう:収穫予定の果実を残していても、光合成に必要な葉が不足する場合がある。
- 側枝が伸びない:腋芽の形成状態や生育環境によっては、摘心しても期待した分枝が得られない。
- 過繁茂になる:摘心後に多数の側枝が伸び、受光条件や作業性が悪化する場合がある。
- 収穫時期がずれる:摘心によって新たな側枝を利用する場合、収穫までの期間が延びることがある。
- 病害を広げる:感染株に使用した手指や器具を介して、病原体が健全株に伝搬する可能性がある。
摘心の効果を評価する際は、枝数や草丈だけでなく、可販収量、果実や花の品質、収穫時期、作業時間なども確認します。
摘心の参考動画
摘心は、茎や枝のどの位置を取り除くかによって、その後の生育が変わります。実際の作業を映像で確認すると、芽かきとの違いや、残す枝の判断を理解しやすくなります。
次の動画では、農研機構の研究者がウンシュウミカンの1年生苗の管理について解説しています。春と夏の摘心を実際の植物で確認できます。
【みかん栽培】#8 1年生苗の管理
農研機構(NAROchannel)
摘心に関する解説は、動画の5分10秒頃から始まります。
農研機構「1年生苗の管理」摘心の解説から見る(YouTube)
動画について:
この動画は、ウンシュウミカンの幼木管理における摘心と芽かきの違いを理解するための参考資料です。農材ドットコムが制作・管理している動画ではありません。動画の公開状況やURLは、公開元の都合により変更される場合があります。また、動画で紹介される摘心時期や方法はウンシュウミカンの幼木を対象としたものであり、トマト、エダマメ、花き類などにそのまま適用できるものではありません。
関連する資材分類・農業用語
参考資料
- 日本植物生理学会「摘心の影響」
- 日本植物生理学会「頂芽優勢の仕組」
- 日本植物生理学会「スイカなどのウリ科植物に摘心が必要な理由について」
- 農研機構「ブロッコリーV字仕立てによる12cm径花蕾の2花蕾どり増収技術」
- 農研機構「夏秋ナスの改良U字仕立て・側枝更新剪定法」
- 農林水産省 植物防疫所「Tomato brown rugose fruit virusの解説」
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