光合成とは
光合成とは、
植物が光エネルギーを利用して二酸化炭素(CO2)を固定し、
糖などの有機物をつくる一連の反応です。
酸素発生型光合成を行う植物では、
水が反応に利用される過程で酸素が発生します。
農作物では、光合成によってつくられた炭水化物などが、
葉、茎、根、果実、種子などの生長や維持に利用されます。
光合成速度が高ければ、そのまま収量や品質が高くなるわけではありません。
植物は光合成産物を呼吸でも消費します。
さらに、葉などでつくられた光合成産物が果実や根などへ転流し、
利用・蓄積されることで生長や収穫物の形成につながります。
農作物の収量や品質には、
光合成だけでなく、呼吸、転流、着果量、葉面積、根の状態、
養分、水分、生育段階など多くの要因が関係します。
純光合成速度とは
植物は光がある時間にも呼吸を行っています。
葉のガス交換では、
光合成によるCO2吸収と呼吸などによるCO2放出を合わせた結果として、
植物が正味でどれだけCO2を取り込んでいるかを
純光合成速度として扱います。
純光合成速度が0になる条件では、
CO2の吸収と放出がほぼつり合っています。
施設園芸で光合成を考える場合には、
光合成反応だけでなく、
植物が最終的にどれだけCO2を正味で取り込めているかを見る必要があります。
光合成を左右する主な要因
光
光は光合成のエネルギー源です。
光が弱い条件では光合成速度が制限されますが、
光を強くすれば無制限に光合成速度が高くなるわけではありません。
弱い光から光強度を高めていくと純光合成速度は増加しますが、
やがて増加が小さくなる領域があります。
この関係を考える際に用いられるのが、
光補償点と光飽和点です。
光補償点
光合成によるCO2吸収量と、
呼吸などによるCO2放出量がほぼ等しくなり、
純光合成速度が0となる光の強さを光補償点といいます。
光補償点より弱い光では、
植物体の条件によってはCO2放出量が吸収量を上回ります。
光飽和点
光を強くしても、
光合成速度の増加が小さくなる領域の目安を
光飽和点といいます。
光補償点や光飽和点は、
植物の種類だけで決まる固定値ではありません。
品種、生育段階、葉齢、温度、CO2濃度、
それまで葉が受けてきた光環境などによって変化します。
「この作物は○○lx以上なら光合成が十分」といった単一の数値だけで栽培環境を判断するのは適切ではありません。
PPFDと日射量
施設園芸では
日射量が重要な環境指標ですが、
植物の光合成を直接考える場合には、
光合成有効放射(PAR)や
光合成光量子束密度(PPFD)も利用されます。
PPFDは、
光合成に利用される波長域の光について、
単位時間・単位面積あたりに到達する光子の量を表す指標です。
植物育成用LEDなどの光源では、
人間の目の明るさを基準としたluxよりも、
PPFDの方が光合成用光源の評価に適しています。
一方、日射量はハウス内の
環境制御、
灌水・かん水制御、
遮光判断などに広く利用されます。
測定対象や目的に応じて指標を使い分けます。
二酸化炭素(CO2)
CO2は光合成の原料です。
葉周辺のCO2濃度が低下すると、
他の条件が良好でも光合成が制限されることがあります。
施設園芸では、
CO2施用によって
作物周辺のCO2不足を補うことがあります。
CO2濃度を高くすれば、常に光合成速度や収量が増えるわけではありません。
CO2施用への反応は、
光強度、温度、水分状態、気孔開度、葉面積、
換気量などによって変化します。
換気量が大きくなると、
供給したCO2が施設外へ流出する量も増えます。
ただし、
換気中のCO2施用に意味がないということではありません。
作物群落内のCO2濃度、
換気量、施用位置、施用方式などによっては、
換気中に低濃度施用や局所施用を行う方法もあります。
CO2濃度だけを単独で制御するのではなく、
日射や換気状態などと組み合わせて判断します。
温度
光合成に適する温度は、
作物、品種、生育段階、葉温、光強度、
CO2濃度などによって異なります。
「光合成の適温は20~25℃」などと、すべての植物に共通する温度範囲として扱うことはできません。
施設園芸では、
気温だけでなく葉温も関係します。
強い日射を受けた葉では気温より葉温が高くなる場合があります。
十分な蒸散が行われている葉では、
蒸散冷却によって葉温上昇が抑えられることがあります。
水分・気孔・蒸散
植物がCO2を取り込む主要な経路となるのが
気孔です。
根からの吸水が蒸散に追いつかないなど、
植物体内の水分状態が悪化すると、
水分損失を抑えるために気孔が閉じやすくなります。
気孔が閉じるとCO2が葉内へ入りにくくなり、
光や周囲のCO2濃度が十分であっても、
光合成速度が低下する場合があります。
光合成を維持するには、
光やCO2だけでなく、
根域の水分状態と蒸散のバランスも関係します。
湿度と飽差(VPD)
施設内の湿度は、
蒸散や気孔開度を通じて光合成に影響します。
相対湿度だけでは、
植物が受けている蒸散要求を十分に表せない場合があります。
同じ相対湿度でも、
気温や葉温が異なれば、
空気と葉との水蒸気圧差は変化するためです。
施設園芸では、
温度と湿度の関係から求める
飽差(VPD:水蒸気圧飽差)も、
水分環境を判断する指標として利用されます。
飽差が大きすぎる条件では蒸散要求が大きくなり、
根からの吸水が追いつかなければ、
気孔閉鎖につながる場合があります。
反対に、
湿度を高くすれば高くするほどよいわけでもありません。
蒸散、養分移動、結露、病害発生なども含めて判断します。
養分と根の状態
光合成には窒素、マグネシウム、鉄などを含む
さまざまな無機養分が関係します。
根の活性低下や根域の酸素不足、
過度な塩類集積などによって吸水・養分吸収が低下すれば、
地上部の光合成にも影響することがあります。
養液栽培では、
EC、
培養液組成、
根域温度、溶存酸素なども、
作物の水分・養分状態を通じて光合成と生育に関係します。
C3植物・C4植物・CAM植物
植物はCO2を固定する仕組みの違いなどから、
C3植物、C4植物、CAM植物に分類されます。
- C3植物:
イネ、ムギ類、ダイズ、トマト、キュウリ、イチゴなど、
多くの農作物が含まれます。 - C4植物:
トウモロコシ、サトウキビなどが代表例です。
葉内でCO2を濃縮する仕組みを持ち、
高温・強光条件などでは、
C3植物より効率よくCO2を固定できる場合があります。 - CAM植物:
パイナップルや多くの多肉植物などにみられます。
主に夜間に気孔を開いてCO2を取り込み、
有機酸として一時的に蓄え、
昼間に利用することで水分損失を抑えやすい仕組みを持ちます。
C3、C4、CAMは、
それぞれ異なる環境へ適応した炭素固定の仕組みです。
「C4植物の方がC3植物より常に光合成効率が高い」という意味ではありません。
光合成と収量の関係
光合成によってつくられた炭水化物などを供給する葉などの器官を
ソース、
果実、根、成長点など、
光合成産物を受け取り利用・蓄積する器官を
シンクとして考えることがあります。
例えば果菜類では、
葉の光合成能力が十分であっても、
果実数や果実の成長能力など、
シンク側の条件によって収量が制限されることがあります。
反対に着果負担が大きすぎれば、
果実などのシンクが必要とする量に対して、
葉で生産できる光合成産物が不足する場合があります。
「光合成を増やせば、収量も同じ割合で増える」と単純に考えることはできません。
施設園芸で光合成を考えるときの注意点
施設園芸では、
光、CO2、温度、湿度、水分などを
それぞれ個別に最大化することが目的ではありません。
例えば、
日射が強くCO2が十分でも、
施設内が高温になり、
根からの吸水が蒸散に追いつかなければ気孔が閉じ、
光合成速度が低下することがあります。
低日射時には、
CO2濃度だけを高めても光が制限要因となり、
追加したCO2への反応が小さくなる場合があります。
乾燥条件では、
適切な加湿によって気孔閉鎖を抑え、
CO2吸収を維持できる場合があります。
しかし、
湿度を過度に高めると蒸散量が低下し、
カルシウムなどの養分移動や、
結露・病害発生などへ影響する可能性があります。
施設園芸では環境条件を単独で見るのではなく、
日射、CO2、気温、湿度、葉温、
根域水分などを測定しながら、
総合的に環境制御します。
光合成についてよくある質問
光が強いほど光合成は増えますか?
弱光域では、
光を強くすると光合成速度が増加します。
一定以上では増加が小さくなり、
高温や水分不足などが重なれば、
強光下でも光合成速度が低下することがあります。
CO2を多く与えれば収量は増えますか?
必ずしも増えるとは限りません。
CO2施用への反応は、
光、温度、水分、葉面積、着果量、
換気状態などによって変わります。
低日射、根域の水分不足、大きな換気量など、
別の要因が制限している場合には、
追加したCO2への反応が小さくなることがあります。
湿度を高くすれば光合成に有利ですか?
乾燥条件で気孔が閉じている場合には、
適切な加湿によって気孔閉鎖を抑え、
光合成を維持しやすくなる場合があります。
湿度は高ければ高いほどよいわけではありません。
蒸散、養分移動、結露、病害なども含めて判断します。
日射量が多ければ収量も増えますか?
一般に光は乾物生産の重要な要因ですが、
収量との関係は作物、季節、葉面積、温度、CO2、
着果負担、水分状態などによって変化します。
日射量だけから収量を判断することはできません。
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