CO₂施用とは
CO₂施用(しーおーつーせよう)とは、施設園芸で作物の光合成に必要な二酸化炭素(CO₂)を補うため、ハウスや温室内、または作物群落の周辺へCO₂を供給する環境制御技術です。炭酸ガス施用とも呼ばれます。
施設内では、日射が強くなって作物の光合成が進むと、換気量が少ない条件ではCO₂が消費され、外気より低い濃度まで低下することがあります。CO₂施用は、この不足をCO₂発生装置、液化炭酸ガス、配管・ダクト、局所施用チューブなどによって補います。
CO₂は光合成の原料ですが、CO₂だけを増やせば収量が増えるわけではありません。日射、温度、飽差、相対湿度、気流、根域水分、養分、葉面積、着果負担などの条件によって効果は変わります。
特に乾燥して飽差が大きくなり、作物が水ストレスを受けて気孔を閉じている状態では、施設内のCO₂濃度を高めても葉への取り込みが十分に増えない場合があります。
CO₂施用の基本は、濃度をむやみに高くすることではなく、光合成が行われている時間帯にCO₂不足を起こさせないことです。設備を導入する前に、まず無施用時のCO₂濃度を測定してください。
CO₂施用の基本模式図
CO₂施用で重要な考え方
施設内では、作物が光合成を始めるとCO₂濃度が急速に低下する場合があります。特に冬季など、日射があるにもかかわらず換気窓を閉めている時間帯では注意が必要です。
従来は、施設を閉めやすい早朝に比較的高い濃度で短時間施用する方法が多く利用されてきました。現在は、それだけでなく、光合成が行われる日中にCO₂不足を生じさせない低濃度・長時間施用や、施設内外のCO₂濃度差を小さくするゼロ濃度差施用も利用されています。
CO₂施用量を増やすほど効果が高くなるわけではありません。作物のCO₂吸収量には限界があり、換気中には施設外への流出も増えます。CO₂濃度だけを見るのではなく、日射、換気、温湿度、飽差、かん水、生育状態を合わせて判断します。
ゼロ濃度差CO₂施用とは
ゼロ濃度差CO₂施用とは、作物の光合成によって施設内のCO₂濃度が低下したとき、CO₂を補給して施設内を外気と同程度の濃度に保つ考え方です。
ここで注意すべきなのは、ゼロ濃度差施用を「400ppmに設定する方法」と理解しないことです。過去の研究や技術資料では外気濃度を約400ppmとして試験した事例が多くありますが、大気中のCO₂濃度は年、季節、地域によって変化します。
実際の管理では、固定された400ppmを外気濃度と決めつけるのではなく、必要に応じて外気CO₂濃度も測定し、その時点の外気濃度を基準として判断します。
CO₂濃度の目安は作物と換気状態で変わる
CO₂施用について、一律に「何ppmが適正」と断定することはできません。作物、作型、日射、施設構造、換気量、施用方式、CO₂供給能力などによって適正な設定が変わります。
| 条件 | 考え方・試験事例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 日中の基本 | 施設内を外気濃度より大きく低下させない | 外気濃度を固定値と決めつけず、実際の外気条件を基準に判断します。 |
| ゼロ濃度差施用 | 施設内を外気と同程度のCO₂濃度に維持する | 「400ppm固定」という意味ではありません。 |
| 施設トマトの試験事例 | 日中400~600ppm程度 | 新潟県の試験では7~16時に、換気停止中600ppm、換気中400ppm以上として管理した事例があります。 |
| 換気停止中 | 600ppm程度とした試験事例あり | 同試験では900ppmと600ppmで収量差が認められず、高濃度ほど増収するとは限りません。 |
| 換気中 | 外気濃度程度を下回らせない考え方 | 換気量が増えるほどCO₂の施設外への損失も増えます。 |
| 局所施用 | 群落近傍の濃度を基準に制御する方法がある | 全体施用と同じセンサー位置・設定値をそのまま使用できるとは限りません。 |
表中の数値は研究事例であり、すべての施設に適用できる基準値ではありません。特に「600ppmにすれば増収する」「800ppmならさらに増える」といった判断はできません。
CO₂濃度センサーの設置位置
CO₂施用では、センサーの位置によって表示値が大きく変わる場合があります。発生装置の吹出口、CO₂チューブの穴の直前、換気窓、出入口など、局所的な影響が強い場所だけを測定すると施設内を代表する値になりません。
全体施用の場合は、作物群落の代表的な高さで、CO₂吹出口や換気口の直接的な影響を避けた位置を基本として測定します。施設が大きい場合や濃度むらが疑われる場合は、中央部、端部、風上・風下など複数地点を比較します。
局所施用では、施設全体の濃度だけでは施用効果を評価できない場合があります。作物の葉や株に近い群落内でも測定し、実際にCO₂が届いているかを確認します。
- 発生装置・吹出口の直近:実際より高い値となり、群落内のCO₂不足を見落とす場合があります。
- 換気窓・出入口付近:外気の影響を強く受けるため、施設全体の代表値としては注意が必要です。
- 作物群落の代表位置:全体施用の管理値を確認する位置として利用します。
- 葉・株近傍:局所施用で、実際に作物周辺へCO₂が届いているか確認する際に有効です。
CO₂濃度は時間変化も大きいため、瞬間値だけでなくデータロガーなどで日変化を記録すると、CO₂不足が起きている時間帯を判断しやすくなります。
主なCO₂施用方式
- 燃焼式:灯油やLPGなどを燃焼してCO₂を発生させる方式です。設備費や供給能力だけでなく、燃焼状態、発生熱、水蒸気、不完全燃焼、機器の点検を含めて管理します。
- 液化炭酸ガス式:ボンベやタンクからCO₂を供給します。燃焼を伴わないため燃焼熱や燃焼排ガスを発生させず、制御しやすい反面、ガス価格、供給体制、容器・タンクの安全管理が必要です。
- 局所施用:チューブやダクトによって株元、葉付近、群落内部へCO₂を供給します。換気時などに施用効率を改善できる場合があります。
- 排ガス回収・利用方式:暖房機などから発生するCO₂を回収・浄化し、栽培施設へ供給する方式です。未処理の燃焼排ガスをそのまま栽培施設へ導入する方法とは区別して考える必要があります。
CO₂の全体施用と局所施用の比較図
CO₂局所施用とは
CO₂局所施用とは、施設全体の空気へ均一にCO₂を供給するのではなく、チューブやダクトを利用して作物群落や株の近くへ供給する方法です。
作物の近くへ直接CO₂を供給できるため、施設全体のCO₂濃度を高める方法より、換気時などにCO₂利用効率を改善できる場合があります。
農研機構のイチゴ促成栽培試験では、特定の試験条件下で、群落内への局所CO₂施用によって全体施用より可販果収量が22%増加し、CO₂施用に使用した灯油量が27%減少した事例があります。
この数値を一般的な増収率や燃料削減率として扱ってはいけません。品種、施設構造、換気条件、チューブ配置、センサー位置、施用濃度などが異なれば結果も変わります。
局所施用では、チューブを設置しただけで効果が決まるわけではありません。穴位置、チューブ長、送風量、群落構造、風向、循環扇、換気状態によって濃度分布が変わるため、群落内のCO₂濃度を測定しながら調整します。
イチゴ・トマトでのCO₂施用
CO₂施用は、イチゴ、トマト、ミニトマト、キュウリ、ピーマン、花き類などの施設栽培で利用されています。
冬季から春先は施設を閉鎖する時間が長いため、日中でもCO₂不足が起こることがあります。そのため、イチゴやトマトではCO₂施用を検討する機会が多くなります。
トマトでは、施設内のCO₂濃度を日中に外気より大きく低下させない低濃度長時間施用や、換気状態に応じて設定値を変える管理が研究されています。
イチゴでは植物体が比較的低い位置にまとまるため、施設全体へ施用するだけでなく、株元や群落内へ供給する局所施用が有効となる場合があります。
作物名だけでCO₂施用の効果を判断することはできません。無施用時のCO₂濃度、日射、温度、飽差、根域水分、草勢、葉面積、着果負担、換気状態を確認した上で設定します。
CO₂施用と温湿度・かん水管理
CO₂施用は、CO₂濃度だけを独立して管理する技術ではありません。
日射が増えて光合成や蒸散が活発になると、水の需要も増加します。CO₂施用によって光合成を促進しても、根域が乾燥して吸水が追いつかなければ、気孔が閉じてCO₂を十分に取り込めない場合があります。
反対に、過湿状態を作ればよいわけでもありません。高湿度が長時間続き、葉濡れや結露が生じれば病害リスクが高まる場合があります。
CO₂、日射、温度、相対湿度、飽差、かん水を個別に見るのではなく、作物の状態と合わせて管理してください。
CO₂施用で誤解されやすい点
- 「CO₂発生機を入れれば増収する」:誤りです。CO₂不足が収量を制限していなければ、設備を導入しても期待した効果は得られません。まず無施用時の濃度を測定します。
- 「CO₂濃度は高いほどよい」:誤りです。作物の反応には限界があり、換気による損失、燃料・ガス費、安全性も考慮する必要があります。
- 「外気CO₂濃度は400ppmで固定されている」:誤りです。400ppmは過去の研究や技術資料で多く使用された代表値です。実際の外気濃度は年、季節、地域によって変化します。
- 「ゼロ濃度差施用=400ppm施用」:誤りです。施設内をその時点の外気と同程度に維持する考え方です。
- 「早朝だけ施用すれば十分」:条件次第です。早朝施用後、日中にCO₂不足が発生する施設では、早朝施用だけでは不足します。
- 「換気を始めたらCO₂施用は必ず無意味」:一律には判断できません。換気量による損失は増えますが、ゼロ濃度差施用や局所施用が利用される場合があります。
- 「局所施用なら必ず省エネになる」:誤りです。チューブ配置、送風量、センサー位置、換気条件が不適切であれば期待した効果は得られません。
- 「センサー1台の値だけ見ればよい」:危険です。施設内に濃度むらがある場合、1点だけでは実際の群落環境を把握できません。
- 「燃焼式なら発生したガスをそのまま使えばよい」:危険です。機器の燃焼状態、指定燃料、排ガス、安全装置、点検条件を守る必要があります。

CO₂施用の時間帯図
CO₂施用の安全管理
CO₂施用では、作物栽培のための濃度設定と、作業者の安全管理を分けて考えなければなりません。
日本産業衛生学会「許容濃度等の勧告(2026年度)」では、二酸化炭素の許容濃度を5,000ppmとしています。
この許容濃度は、労働衛生上の曝露評価に利用する値です。5,000ppmまでなら安全であるという境界値でも、CO₂施用機の運転目標値でもありません。
- 燃焼式では、機器指定の燃料を使用し、不完全燃焼や異常燃焼がないか確認します。
- 液化炭酸ガスでは、ボンベ・タンクの転倒、漏えい、配管、保管場所を確認します。
- 高濃度運転後や密閉施設へ入室する場合は、十分な換気と濃度確認を行います。
- ピット、地下部、密閉された機械室などでは、CO₂が滞留する可能性を考慮します。
- 警報器、強制換気手段、点検記録、緊急時の対応方法を決めておきます。
- 暖房機などの排ガスを利用する場合は、排ガス利用を前提として設計された装置・システムを使用し、未処理の排ガスを安易に施設内へ導入しません。
導入前に確認すべき項目
- 無施用時の日中CO₂濃度を測定しているか
- CO₂不足が何時から何時まで発生しているか記録しているか
- 外気CO₂濃度との違いを確認しているか
- センサーが吹出口や換気口の影響を直接受けていないか
- 施設内の複数地点で濃度差を確認したか
- 日射、温度、相対湿度、飽差を記録しているか
- 換気開始時刻、換気量とCO₂施用時間の関係を把握しているか
- かん水量、根域水分、肥培管理が生育量に追いついているか
- 草勢、葉面積、着果負担に問題がないか
- 設備費、燃料費・ガス代、電気代、保守費を増収分で回収できるか
- 燃焼機器、ボンベ、配管、警報器、換気設備の安全管理ができるか
CO₂施用の導入を急がない方がよい条件
次の状態では、CO₂施用設備を購入する前に既存の栽培環境を確認した方がよい場合があります。
- CO₂濃度を測定していない:不足しているか分からないため、設備投資の根拠がありません。
- 温湿度や飽差を測定していない:CO₂以外の環境要因が光合成を制限している可能性を判断できません。
- 根傷み、過湿、乾燥がある:CO₂を増やしても吸水や養分吸収が追いつかない場合があります。
- 過着果などで草勢が著しく低下している:CO₂施用より着果負担や養水分管理の修正が先です。
- 換気量が非常に大きい:全体施用ではCO₂損失が大きくなるため、局所施用や制御方法を含めて再検討します。
- 安全管理体制がない:警報、換気、点検、作業手順を確保できない状態で高濃度のCO₂を扱うべきではありません。
よくある質問
CO₂施用の読み方は?
一般には「シーオーツーせよう」と読みます。「炭酸ガス施用」と呼ばれることもあります。
CO₂施用は肥料ですか?
一般的な肥料を土壌や培地へ施す作業とは異なります。CO₂施用は、光合成に必要な二酸化炭素を空気中へ供給する環境制御技術です。
「CO₂施肥」「炭酸ガス施肥」という表現が使われる場合もありますが、窒素、リン酸、カリなどの肥料成分を施す作業と同じ意味ではありません。
CO₂施用は何ppmがよいですか?
一律には決められません。作物、日射、換気量、施設構造、施用方式などによって変わります。
施設トマトでは、換気停止中600ppm、換気中400ppm以上として日中に施用した研究事例がありますが、これは当時の試験条件です。現在の施設で「外気相当」を管理する場合は、固定した400ppmではなく実際の外気濃度を基準に判断します。
CO₂施用は夜間にも必要ですか?
一般的なイチゴ、トマト、キュウリなどの施設栽培では、CO₂施用の主目的は光がある時間帯の光合成促進です。暗期に漫然とCO₂を供給しても通常は光合成には利用されません。
人工照明や補光によって夜間にも光合成を行わせている栽培では条件が異なります。
CO₂発生機だけ購入すれば増収しますか?
判断できません。無施用時にCO₂不足が発生しているか、日射、温湿度、飽差、水分、養分、換気、生育状態がどうなっているかを確認する必要があります。
測定記録がない状態でCO₂発生機だけを購入するのは、誤投資につながる可能性があります。
CO₂施用は早朝だけでよいですか?
早朝だけで十分とは限りません。早朝の施用を停止した後、日中に光合成が進んで施設内CO₂濃度が外気より低下する場合があります。
早朝高濃度施用、日中低濃度長時間施用、ゼロ濃度差施用のどれが適するかは、日射、換気、施設構造、作物、生育状態によって判断します。
CO₂濃度センサーはどこに置けばよいですか?
発生装置やCO₂吹出口の直近、換気窓の直下などは避け、作物群落を代表する位置で測定します。局所施用では、施設全体の測定値だけでなく、葉や株に近い群落内でもCO₂濃度を確認します。
CO₂施用の参考動画
CO₂施用は、発生装置、配管、チューブ、作物群落、換気との位置関係を含めて理解する必要があり、文章だけでは実際の施用方法を把握しにくい技術です。
局所施用やトマトでの炭酸ガス施用を確認する際は、次の動画が参考になります。
施設園芸によるCO2局所施用導入事例
農林水産省 maffchannel「スマート農業推進フォーラム」
施設園芸によるCO2局所施用導入事例(YouTube)を見る
トマトの効率的炭酸ガス施用技術の開発
兵庫県立農林水産技術総合センター
トマトの効率的炭酸ガス施用技術の開発(YouTube)を見る
動画について:
これらの動画は、施設園芸におけるCO₂施用や局所施用の考え方を理解するための参考資料として紹介しています。
農材ドットコムが制作・管理している動画ではありません。
動画の内容、公開状況、URLなどは公開元の都合により変更または削除される場合があります。
また、動画内の施用濃度、設備構成、運転条件は特定の施設・作物・試験条件または導入事例に基づくものであり、すべての圃場にそのまま適用できる基準ではありません。
参考資料
- 日本施設園芸協会「大規模施設園芸・植物工場 共通テキスト CO₂制御の実際」
- 千葉県「トマトにおける炭酸ガスの効果的な施用について」
- 千葉県「トマト・キュウリにおける炭酸ガス施用の技術指導マニュアル」
- 農研機構「局所CO₂施用技術によりイチゴの増収とCO₂施用にかかる燃油使用量の削減を両立できる」
- 新潟県「施設トマト栽培におけるCO₂の日中低濃度施用の効果」
- 愛知県農業総合試験場「イチゴ促成栽培におけるミスト噴霧とCO₂長時間施用が生育・収量に及ぼす影響」
- 農研機構「CO₂施用と加湿制御を組み合わせた場合のトマトの生育と養分吸収」
- 気象庁「大気中二酸化炭素濃度の観測結果」
- 日本産業衛生学会「許容濃度等の勧告(2026年度)」
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