根腐れとは
根腐れ(ねぐされ)とは、植物の根が傷んで褐変・黒変し、軟化や腐敗、枯死などが進む状態を広く表す言葉です。
英語ではRoot Rotと表記します。
根腐れが進むと、根の吸水や養分吸収の働きが低下し、葉の黄化、しおれ、生育不良などが現れます。被害が大きい場合は、株全体が枯死することもあります。
根腐れは、特定の病原体による一つの病名ではありません。
土壌や培地の過湿による酸素不足、病原体の感染、高温・低温、高い肥料濃度などによる根傷みが関係し、複数の要因が重なって被害が進む場合もあります。
ただし、根が傷んで吸水機能が低下していても、必ずしも腐敗が起きているとは限りません。
根腐れと根傷み、病原体による根腐病を区別して考えることが、原因を判断するうえで基本となります。
根腐れと根傷み・根腐病の違い
根の異常には、原因や状態の異なるものがあります。
| 用語 | 主な意味 | 判断上の注意 |
|---|---|---|
| 根腐れ | 根の褐変、枯死、腐敗などを伴う状態を広く表す言葉 | 原因は一つとは限らない |
| 根傷み | 酸素不足、高EC、温度障害、物理的損傷などによって根の機能が低下した状態 | 腐敗を伴わない場合もある |
| 根腐病 | 病原体の感染によって根が腐敗する病害の名称 | 作物ごとに病原体や正式な病名が異なる |
根が茶色くなったというだけでは、これらを区別できません。
原因を判断する際は、根の状態、栽培環境、発生経過、病原体の有無などを確認します。
根腐れが起こる主な原因
過湿による根の酸素不足
植物の根は、呼吸によって生育や養分吸収に必要なエネルギーを得ています。
土壌や培地の空隙が長時間水で満たされると、根に供給される酸素が不足しやすくなります。
根の呼吸が妨げられると、吸水や養分吸収の機能が低下し、根の褐変や枯死につながる場合があります。
このような障害が進むと、枯死した根の組織が分解され、腐敗を伴うこともあります。
ただし、過湿状態になった植物が必ず根腐れを起こすわけではありません。作物の種類、根域温度、土壌の通気性、過湿の程度や継続時間などによって影響が異なります。
病原体の感染
根に病原体が感染すると、根の組織が侵され、褐変や腐敗などの症状が発生します。
根部に病害を引き起こす代表的な病原体には、次のようなものがあります。
- Pythium属などの卵菌類:作物によって根腐病や苗立枯病などを引き起こします。
- Phytophthora属(フィトフトラ属)の卵菌類:疫病や根腐れを伴う病害などの原因となります。
- Fusarium属(フザリウム属)の真菌:作物によって根腐病、萎凋病などに関与します。
- Rhizoctonia属(リゾクトニア属)の真菌:根腐病、苗立枯病などを引き起こす種類があります。
これらは代表例であり、すべての作物で同じ病害を引き起こすという意味ではありません。
また、卵菌は真菌とは系統的に異なります。病原体によって有効な防除方法や農薬が異なるため、症状だけで薬剤を選ぶことは避けてください。
高ECや不適切な培養液管理
土壌や培地、培養液の塩類濃度が高すぎると、根の吸水が妨げられ、生育不良や根傷みが発生する場合があります。
また、培養液のpHが作物に適した範囲から外れると、養分の吸収や利用に影響することがあります。
ただし、ECやpHの異常が、そのまま病原体による根腐病を意味するわけではありません。
ECとpHは根域環境を評価する指標であり、それだけで根腐れの原因を確定することはできません。
根域の高温・低温
根域温度が作物の適温から大きく外れると、根の伸長や吸水機能が低下することがあります。
特に養液栽培では、培養液の温度が高くなるほど、一般に水に溶け込める酸素の量が少なくなります。
さらに、根や微生物による酸素消費も関係するため、液温が高い条件では根域の酸素不足に注意が必要です。
ただし、高温や低温だけで根腐病と診断することはできません。
根詰まりや物理的な損傷
ポット内で根が過密になったり、植え替えや定植時に根が傷ついたりすると、吸水や生育に影響する場合があります。
また、根の損傷部位が病原体の侵入に関係することもあります。
根詰まり、根傷み、病原体による腐敗は、症状が似ていても対処方法が異なります。
根腐れの主な症状
根に現れる症状
根腐れが進むと、次のような変化が見られる場合があります。
- 新しい白色の根や細根が少なくなる。
- 根が褐色や黒褐色に変化する。
- 根の組織が軟らかくなり、崩れやすくなる。
- 細根が枯死・脱落し、根量が減少する。
- 病害によっては根の表皮や皮層が剥がれやすくなる。
ただし、植物の根は常に白色とは限りません。
作物の種類、根の老化、培地や肥料成分による着色などによって、健全な根でも褐色を帯びる場合があります。
根の色だけで判断せず、組織の硬さや細根の状態、新しい根の発生状況を合わせて確認してください。
地上部に現れる症状
根の機能が低下すると、地上部にも異常が現れる場合があります。
- 土壌や培地が湿っているのに葉がしおれる。
- 葉が黄化し、生育が停滞する。
- 晴天の日中にしおれ、朝夕に回復することがある。
- 葉先や葉縁が枯れ込む場合がある。
- 被害が進むと株全体が枯死する。
これらは根腐れに特有の症状ではありません。
乾燥、肥料濃度障害、根詰まり、茎や導管を侵す病害などでも似た症状が現れます。
土耕栽培・鉢栽培での根腐れ対策
土壌や培地の排水性を確認する
土耕栽培では、排水不良や土壌の締まりによって根域が過湿になる場合があります。
圃場では、明渠・暗渠の排水状態、耕盤の有無、低い場所への滞水などを確認します。
鉢栽培や育苗では、培地の排水性に加え、ポットの排水孔、育苗トレー、底面給水設備の管理状態も確認してください。
水が排出されていても、培地内部が長時間過湿になっている場合があります。
灌水量と灌水間隔を見直す
灌水量は、作物の種類、生育段階、培地の保水性、気象条件などに応じて調整します。
表面が乾いていても、根域内部には水分が多く残っていることがあります。
反対に、表面が湿っていても、根が分布する部分では水分不足が生じる場合があります。
そのため、灌水回数を一律に減らすのではなく、根域の水分状態を確認してから調整します。
培地の物理性を確認する
育苗培土やココピートなどの培地では、粒度や繊維割合によって保水性と通気性が異なります。
細粒が多く、排水しにくい培地では、灌水後に根域が過湿になることがあります。
一方、粗い培地では乾燥が早くなり、水分不足や灌水ムラが問題となる場合があります。
培地の種類だけで良否を判断せず、根の分布、保水性、排水性、灌水方式を組み合わせて管理します。
養液栽培での根腐れ対策
養液栽培では、土壌を使用しない方式であっても、根腐病などの根部病害が発生します。
特に循環式の栽培では、病原体が培養液を介して広がる可能性があります。
根腐れが疑われる場合は、培養液の状態と設備の運転状況を確認します。
溶存酸素(DO)と液温
水中に溶けている酸素を溶存酸素(DO:Dissolved Oxygen)と呼びます。
根が培養液に浸る水耕栽培では、溶存酸素の不足が根の呼吸や生育に影響します。
一般的な水耕栽培の管理資料では、DOが6mg/Lを超える状態が良好な酸素供給の目安として紹介されています。
ただし、この数値はすべての作物や養液栽培方式に共通する安全基準ではありません。
根域の酸素条件は、作物、栽培方式、液温、培養液の流れなどによって異なります。
エアポンプが作動しているというだけで、根域に十分な酸素が供給されているとは判断できません。
培養液のEC・pHを確認する
培養液のECやpHが適正範囲を外れると、根の養分吸収や生育に影響することがあります。
また、急激なECやpHの変化が根に負担を与え、病害が発生しやすくなる場合があります。
ただし、一部の病害で特定の培養液管理による発病抑制効果が報告されていても、それをすべての根腐病へ適用できるわけではありません。
根腐病の予防を目的として、自己判断でECを高く設定することは避けてください。
培養液の流れと設備の状態
培養液の循環不良や水位の異常、流路の詰まりなどが、根域環境に影響する場合があります。
次の事項を確認します。
- 循環ポンプや給液装置が正常に動作しているか。
- 栽培ベッド内の培養液が適切に流れているか。
- 給液系統や配管に詰まりがないか。
- 培養液の液温、EC、pH、必要に応じてDOを確認しているか。
- 循環槽や配管に汚れ、根の残さなどが蓄積していないか。
病原体の持ち込みと拡散を防ぐ
養液栽培では、感染苗、汚染された資材、栽培設備などを介して病原体が持ち込まれる場合があります。
病害が発生した施設では、根の残さや設備内に病原体が残存する可能性もあります。
健全苗の使用、器具の洗浄、設備の衛生管理、発病株の適切な処理などが基本となります。
培養液の殺菌・除菌設備を導入する場合は、対象病原、処理能力、培養液への影響、維持管理費を含めて判断します。
根腐れが疑われるときの確認手順
根腐れが疑われる場合は、次の順序で原因を調べます。
- 地上部の症状を確認する:しおれ、黄化、生育停滞、枯死株の有無を調べます。
- 根の状態を観察する:褐変、軟化、細根の脱落、新根の発生状況などを確認します。可能であれば健全株と比較します。
- 根域環境を確認する:土壌や培地の水分、排水性、EC、pH、根域温度などを調べます。水耕栽培では液温やDO、流量も確認します。
- 発生分布を調べる:圃場の低い場所、特定の灌水系統、同じ育苗ロットなどに発生が集中していないか確認します。
- 病害の可能性を判断する:発生が拡大している場合や原因が不明な場合は、普及指導機関や病害診断機関などへ相談します。
根の褐変と地上部のしおれが同時に発生していても、病原体による根腐病と確定できるわけではありません。
病原の特定には、分離・同定や分子生物学的検査などが必要となる場合があります。
根腐れが発生した場合の対処方法
原因に応じて根域環境を改善する
過湿や酸素不足が疑われる場合は、排水設備、灌水設定、培地の状態を確認します。
養液栽培では、循環装置、酸素供給、液温、EC、pHなどを点検します。
ただし、根腐れの原因が分からない段階で、急激に灌水を停止したり、培養液濃度を変更したりすると、かえって障害が拡大するおそれがあります。
病害が疑われる株への対応
病原体による根腐病が疑われる場合は、発生株や周辺株の状態を確認し、必要に応じて発病株を除去します。
養液栽培では、感染株を放置すると培養液中の病原密度が高まる場合があります。
ただし、すべての根傷みで株を除去する必要があるわけではありません。
病害の種類や発生状況を確認して判断します。
農薬による防除
病原体が関与する根腐病では、登録農薬による防除が必要となる場合があります。
農薬を使用する際は、農林水産省「農薬登録情報提供システム」と製品ラベルで、対象作物、適用病害、使用方法、使用時期、使用回数などを確認してください。
特に養液栽培では、土壌散布用や土壌混和用の農薬を、そのまま培養液へ添加できるとは限りません。
また、消毒剤や殺菌剤を自己判断で培養液に添加すると、根への薬害や培養液成分への影響が生じる場合があります。
農薬の登録内容と使用方法を確認せずに、培養液や根域へ処理してはいけません。
根腐れで誤解されやすい点
- 根が茶色いので根腐れ病である:根の老化や培地による着色、肥料濃度障害などでも変色する場合があります。組織の状態や病原体の有無を含めて判断します。
- しおれているので水が足りない:根が傷んで吸水できなくなると、培地が湿っていてもしおれます。根域の水分を確認せずに灌水を増やすと、過湿を悪化させる場合があります。
- 根腐れは水を減らせば治る:過湿が原因なら管理改善が役立つ場合がありますが、病害や高ECなどが関係していれば別の対応も必要です。
- 高ECはすべて根腐れを引き起こす:ECの適正範囲は作物や栽培条件によって異なります。高ECによる根傷みと、病原体による根腐病は区別します。
- エアポンプが動いていれば酸素不足にならない:酸素供給量、液温、培養液の流れ、根の酸素消費量などによって実際の根域環境は変わります。
- 根腐れには殺菌剤を使えばよい:病原体が原因でない場合、殺菌剤では根本的な問題が解消しません。病原が関与する場合も、登録内容と適用条件に基づいて防除します。
- 殺菌設備を導入すれば根腐れは発生しない:殺菌設備は病原密度を低減する手段ですが、酸素不足や高ECなどの生理障害まで解消するものではありません。
参考資料
- 農林水産省「農業生産工程管理の共通基盤に関するガイドライン・豆類」(湿害対策)
- 千葉県「養液栽培における根部病害防除」(令和7年版病害虫防除指針、PDF)
- 農研機構「トルコギキョウの根腐病(急性いちょう病)」
- 農研機構「病原菌名検索:Pythium」
- University of Missouri Extension「Hydroponic Nutrient Solutions」(2026年、培養液・溶存酸素管理)
- University of California IPM「Root, Stem, and Crown Rots」
- 農林水産省「農薬登録情報提供システム」
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