水耕(すいこう)

水耕
水耕とは、養液栽培の一方式で、ロックウールやヤシ殻などの固形培地を基本的に使用せず、植物の根へ培養液を直接供給して栽培する方法。

水耕とは

水耕(すいこう)とは、養液栽培の一方式で、ロックウールやヤシ殻などの固形培地を根域の主要な支持・保水媒体として使用せず、植物の根へ培養液を直接供給して栽培する方法です。

一般に「水耕栽培」とも呼ばれ、培養液中に根を伸ばす方式や、根の表面へ培養液を薄く流して栽培する方式などがあります。

苗の保持にスポンジや育苗用培地などを少量使用する場合もありますが、根の生育環境を培養液と空気によって形成することが特徴です。

水耕と養液栽培の違い

養液栽培には、水耕のほか、ロックウール、ヤシ殻、パーライトなどの固形培地を使用する方式があります。

そのため、水耕は養液栽培に含まれる栽培方式の一つであり、両者は厳密には同義語ではありません。

なお、英語の「Hydroponics(ハイドロポニックス)」は、水耕を指す場合のほか、固形培地を利用する無土壌栽培まで含めて使われる場合があります。

日本語の栽培方式を分類する際は、水耕と固形培地耕を区別して説明する方が明確です。

主な水耕方式

水耕には、培養液の保持方法や根への供給方法によって、いくつかの方式があります。

代表的なものが、湛液型水耕(DFT)と薄膜水耕(NFT)です。

湛液型水耕(DFT)

湛液型水耕(Deep Flow Technique:DFT)は、栽培槽に一定の深さで培養液を保持し、植物の根を培養液中へ伸ばして栽培する方式です。

培養液の水位を維持しながら、循環やエアレーションなどによって根域への酸素供給を図る方式があります。

培養液量が比較的多い構造では、給液が一時停止してもNFTほど急速に根が乾燥しにくい特徴があります。

しかし、培養液中の酸素は根や微生物によって消費されるため、根域への酸素供給が不十分になると、生育障害につながる場合があります。

湛液型水耕では、培養液の水位と酸素供給の状態を管理することが基本です。

湛液型水耕(Deep Flow Technique:DFT)
湛液型水耕(Deep Flow Technique:DFT)

薄膜水耕(NFT)

薄膜水耕(Nutrient Film Technique:NFT)は、緩やかな傾斜を付けた栽培ベッドやチャンネルに培養液を薄く流し、植物の根へ水分と養分を供給する方式です。

根の一部が空気に触れやすく、根は培養液と空気の両方から酸素を得られる構造になっています。

一方、培養液の流れが停止すると、根域への水分や養分の供給が途絶えるため、根の乾燥や高温障害が短時間で発生する場合があります。

また、根量が増加すると流路が狭くなり、培養液の流れが偏ったり、排水が妨げられたりすることがあります。

NFTでは、培養液の流量、流路、ポンプの稼働状態を継続的に確認する必要があります。

薄膜水耕(Nutrient Film Technique:NFT)
薄膜水耕(Nutrient Film Technique:NFT)

その他の水耕方式

DFTやNFTのほか、毛管現象を利用して根へ培養液を供給する「毛管水耕」や、栽培パネルを培養液に浮かべる浮き床式の水耕などがあります。

また、根の一部を空気中に露出させ、培養液への強制通気を必要としない方式も研究・実用化されています。

すべての水耕方式でエアポンプや培養液の常時循環が必要というわけではありません。

必要な設備は、根の配置、培養液の供給方法、根域の酸素確保の仕組みによって異なります。

水耕で重要な栽培管理

水耕では、土壌が持つ養分や水分の保持・緩衝機能に依存せず、培養液と設備によって根域環境を形成します。

主に次の項目を管理します。

培養液の濃度と肥料組成

培養液には、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウムなど、植物の生育に必要な養分を適切な濃度と比率で含ませます。

肥料組成は、作物の種類、生育段階、使用する原水の水質などを考慮して設定します。

培養液のECは、イオン濃度の状態を把握する指標ですが、個々の養分が適切な割合で含まれているかまでは判断できません。

ECが目標範囲内でも、特定の養分が不足したり、過剰になったりする場合があります。

pHの管理

培養液のpHは、養分の溶解状態や植物による吸収に影響します。

pHの変化は、原水の性質、肥料組成、植物の養分吸収などによって生じます。

ECとpHの両方を確認し、作物と栽培方式に応じた範囲に管理します。

液温と酸素供給

水耕では根が培養液に直接接するため、液温が根の生理活動に影響します。

液温が高くなると、一般に空気と平衡状態にある水の飽和溶存酸素濃度は低くなります。

さらに、根や微生物の酸素消費が増加する場合もあり、酸素不足が発生しやすくなります。

培養液中に溶けている酸素を「溶存酸素(DO)」と呼びます。

エアポンプなどによって気泡を発生させていても、根域の溶存酸素が十分であるとは限りません。

必要に応じて液温と溶存酸素を測定し、根の状態と合わせて判断します。

培養液の流量と水位

DFTでは栽培槽内の水位、NFTでは培養液の流量や流路の状態が栽培管理の基本になります。

ポンプの吐出量が正常でも、根の発達や配管の詰まりによって栽培ベッド内の流れが不均一になることがあります。

栽培槽全体で水分、養分、酸素が適切に供給されているかを確認します。

水耕の特徴と利点

水耕は土壌を使用しないため、土壌の物理性や化学性の影響を受けにくく、根へ供給する水分や養分を調整しやすい栽培方式です。

また、地面の土壌を栽培に使用しないことで、土壌由来の病原体や連作障害の一部を回避できる場合があります。

主に次の利点が期待されます。

  • 養水分管理の精密化:培養液の濃度や供給量を作物の生育に応じて調整できます。
  • 栽培環境の再現性:培養液や設備の条件を管理することで、土壌条件によるばらつきを減らせる場合があります。
  • 養水分の再利用:循環式では回収した培養液を再利用でき、水や肥料の排出量を抑えられる場合があります。
  • 作業の省力化:給液や養液調製、栽培ベッドの搬送などを自動化しやすい方式があります。

ただし、水耕だから必ず生育速度、収量、品質、作業効率が向上するわけではありません。

日射、温度、湿度、品種、栽植密度、液温、養分管理などが適切でなければ、生育不良や品質低下が発生します。

また、水や肥料の削減効果も、循環方式、排液量、洗浄方法、培養液の交換頻度などによって変わります。

水耕の注意点

ポンプや電源の停止

水耕設備では、給液ポンプや循環ポンプ、制御装置などの故障が栽培に直接影響します。

特にNFTでは、給液停止によって根が乾燥しやすくなるため、停電やポンプ故障への備えが必要です。

DFTでは培養液が栽培槽内に保持されるため、給液停止による乾燥リスクは比較的小さくなりますが、酸素供給が途絶えると根域の酸素不足が進む場合があります。

設備停止時の影響は、培養液量、液温、根量、停止時間などによって異なります。

根腐病などの病害

土壌を使用しない水耕でも、根腐れや病原体による根の病害は発生します。

水耕栽培では、Pythium属などの病原体による根腐病が問題となる場合があります。

循環式の設備では、病原体が培養液を介して複数の栽培ベッドへ広がる可能性があります。

そのため、培養液の衛生管理、栽培槽や配管の洗浄、必要に応じた殺菌設備の導入などを検討します。

なお、液温上昇や酸素不足による根の傷みと、病原体による根腐病は原因が異なります。

根の褐変や生育不良が確認された場合は、根域環境、培養液の状態、発生状況などを確認し、必要に応じて病原体を検査します。

培養液の汚染と食品安全

水耕では、原水、肥料、設備、作業器具などを介して培養液が汚染される可能性があります。

根の病害に加え、農産物の食品安全に関わる微生物汚染にも注意が必要です。

貯水タンクの蓋、配管や栽培槽の洗浄、原水の水質確認、培養液の再利用時の適切な処理などを行います。

土壌を使用していないことと、培養液や農産物が衛生的であることは同じではありません。

設備費と維持管理費

水耕設備には、栽培槽、培養液タンク、給液装置、配管、計測機器などが使用されます。

栽培方式によっては、液温調節装置、殺菌装置、監視設備、非常用電源なども必要になります。

設備を導入する際は、初期費用だけでなく、電力費、培養液管理費、洗浄費、部品交換費、設備停止時の損失なども含めて検討します。

水耕と植物工場の違い

水耕は植物の根へ水分や養分を供給する栽培方式を表す言葉です。

一方、植物工場は、光、温度、湿度、二酸化炭素、養液などの環境を制御し、計画的に作物を生産する施設や生産システムを指します。

植物工場では水耕が利用されることがありますが、水耕栽培のすべてが植物工場に該当するわけではありません。

水耕は、太陽光を利用する施設でも、人工光を利用する施設でも実施できます。

「水栽培」との違い

園芸や教育用途で行われるヒヤシンスなどの「水栽培」は、球根などに蓄えられた養分を利用し、水だけで発根や開花をさせる場合があります。

これに対し、農業生産で行われる水耕では、基本的に作物の継続的な生育に必要な肥料成分を含む培養液を供給します。

ただし、「水栽培」は日常的な呼び方として幅広く使われるため、農業用語として水耕と厳密に区別されない場合もあります。

水耕の参考動画

水耕栽培は、培養液の供給方法や根域の構造が方式によって異なります。

水耕設備の実例を知る資料として、農林水産省が公開している次の動画が参考になります。

農水省職員が農業参入した企業に潜入してみた!~船舶から水耕栽培!?~編
BUZZMAFF ばずまふ(農林水産省)

船舶用水耕栽培装置の開発経験を持つ企業の取り組みを紹介した動画です。水耕設備の実用例を知る参考になります。

農水省職員が農業参入した企業に潜入してみた!~船舶から水耕栽培!?~編(YouTube)を見る

動画について:
この動画は、水耕栽培設備の実例を知るための参考資料として紹介しています。

DFTとNFTの構造比較や栽培管理の標準手順を解説するものではありません。また、紹介されている設備の性能や経済性を農材ドットコムが保証するものではありません。

農材ドットコムが制作・管理している動画ではありません。公開状況やURLなどは公開元の都合により変更または削除される場合があります。

実際の水耕設備の選定や栽培管理では、作物、栽培方式、施設規模、培養液管理条件などを確認してください。

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