pH(ぴーえっちまたはぴーえいち)

pH(ぴーえっちまたはぴーえいち)
農業におけるpH

pH(ピーエッチ・ピーエイチ/通称:ペーハー)とは?農業で重要な土壌pHの意味・測定方法・作物への影響

農業におけるpH(ピーエッチ/ピーエイチ、通称:ペーハー)とは、土壌、原水、培養液などの酸性またはアルカリ性の程度を示す指標であり、特に土壌pHは、作物の養分吸収、生育、土壌改良の判断に関係します。JIS Z 8802では「ピーエッチ」または「ピーエイチ」と読みますが、農業・園芸の現場では、ドイツ語読みに由来する「ペーハー」という呼び方も使われています。一般に水素イオン濃度指数と呼ばれますが、厳密には水素イオンの活量に基づく状態概念であり、単一の病害名、単一の原因菌、肥料成分量、特定資材を示すものではありません。

多くの作物は弱酸性の土壌で生育しやすい傾向がありますが、適するpHは作物、土壌の種類、地域の診断基準、栽培方式により異なります。また、測定対象、抽出方法、採取位置、温度、EC、施肥履歴によって値の意味は条件により変動します。pHの数値だけでは、生育不良の原因、病害、肥料不足、石灰資材の必要量を判断できません。

英語表記は「pH」です。関連語として、ペーハー、ピーエッチ、ピーエイチ、土壌pH、酸性土壌、土壌酸度、pH(H2O)、pH(KCl)、ECがあります。

農業におけるpHの概要

pHは、溶液中における水素イオンの活量を対数で表した指標です。数値が低いほど酸性側、数値が高いほどアルカリ性側にあることを示します。pHが1異なる場合、水素イオン活量には10倍の差があります。

pHは「ペーハー」「ピーエッチ」「ピーエイチ」のどれが正しい?

JIS Z 8802では、pHは「ピーエッチ」または「ピーエイチ」と読みます。一方、農業・園芸の現場では、現在も「ペーハー」という呼び方が使われています。「ペーハー」はドイツ語読みに由来する呼び方であり、JIS上の読み方ではありません。

現場での会話では「ペーハー」を誤りとして切り捨てる必要はありません。ただし、文書や測定記録では「pH」と表記します。読み方を補足する場合は、pH(ピーエッチ/ピーエイチ、通称:ペーハー)のように記載すると誤解を防げます。

一般的な説明では、pH7を中性、pH7未満を酸性、pH7を超える範囲をアルカリ性と表現します。ただし、pHは常に0〜14の範囲に限定されるわけではありません。また、中性となるpHは温度によって変動します。

農業で扱うpHは、大きく分けて土壌pH原水・かん水のpH培養液・排液のpHがあります。これらは測定対象が異なるため、数値を相互に置き換えて評価することはできません。

土壌pHは、土壌に水または塩化カリウム溶液を加えて作った懸濁液(けんだくえき)を測定した値です。土壌懸濁液のpHは、水溶液中の水素イオン活量と単純に同一視できる数値ではありません。測定条件をそろえたうえで、土壌の状態を比較するための特性値として扱います。

作物ごとの適正な土壌pHの目安

phpH 酸性1-6  中性7 アルカリ性8-14

多くの作物は、弱酸性の土壌で生育しやすい傾向があります。ただし、適する土壌pHは、作物、品種、土壌型、地域の診断基準、病害の発生履歴などにより異なります。次の数値は一般的な目安であり、全国一律の施肥基準ではありません。

土壌pHの目安 主な作物例
pH6.0〜7.0 ホウレンソウ、アスパラガス、タマネギ、ネギ、キャベツ、ハクサイ、トウモロコシ、ショウガなど
pH6.0〜6.5 ニンジン、カブ、カボチャ、キュウリ、ゴボウ、コマツナ、サトイモ、ダイコン、ブロッコリー、ニンニク、トマト、ナス、ピーマンなど
pH5.0〜6.0 ジャガイモ、サツマイモなど

注意:ブルーベリーなど、より酸性側の土壌を好む作物もあります。また、同じ作物でも、品種、地域、土壌型、作型、病害履歴によって判断が変わる場合があります。石灰資材などを施用する前に、地域の施肥基準と土壌診断結果を確認します。

pHの詳細説明

土壌pHが作物の生育に与える影響

土壌や培養液のpHが適正範囲から外れると、肥料を施用していても、養分が根から吸収されにくくなる場合があります。鉄、マンガン、ホウ素、リン酸などは、pHによって溶けやすさや植物への利用性が変化します。

酸性側へ偏りすぎると、石灰や苦土などが不足しやすくなるだけでなく、アルミニウムや一部の微量要素の影響が強くなる場合があります。一方、アルカリ性側へ偏りすぎると、鉄、マンガン、亜鉛などが吸収されにくくなり、欠乏症に似た症状が現れる場合があります。

ただし、葉の黄化、生育停滞、根傷み、葉縁枯れ、着果不良などが発生していても、pH異常だけが原因とは限りません。ECの上昇、塩類集積、肥料組成の偏り、過湿、乾燥、根域温度の異常、酸素不足、病害、線虫、害虫、土壌物理性の悪化でも類似症状が発生します。

葉色、根色、草勢、写真などの視覚情報だけで、pH異常を断定することはできません。測定値、採取条件、施肥履歴、かん水履歴、排液率、根の状態、病害虫の有無を組み合わせて評価します。

土壌pHの測定方法

土壌pHは、土壌に水または塩化カリウム溶液を加え、懸濁液を作って測定します。国内の土壌診断では、乾土と水を一定の割合で混合して測定するpH(H2O)が広く利用されています。塩化カリウム溶液を用いる場合は、pH(KCl)と記載します。

  • pH(H2O)
    水を用いて測定する土壌pHです。一般的な栽培管理や土壌診断基準では、この値が用いられることが多くあります。
  • pH(KCl)
    塩化カリウム溶液を用いて測定します。土壌粒子に保持されている水素イオンやアルミニウムイオンの影響を含め、潜在的な酸性を把握する材料になります。

一般に、酸性土壌ではpH(KCl)がpH(H2O)より低くなる傾向があります。ただし、差は土壌の種類、粘土含量、腐植含量、CEC、塩基飽和度、塩類集積の状態などで変わります。pH(H2O)とpH(KCl)を無条件で換算してはいけません。

代表的な採土方法

土壌診断では、圃場内の偏りを避けるため、対角線上の交点と線上の合計5地点などから採土し、均一に混合して試料を作る方法があります。これは代表的な採土方法の一つです。

施設内土壌や畝立て栽培では、肥料やかん水の位置によって数値が偏る場合があります。特に、株元、点滴チューブの直下、畝の肩、通路では、同じ圃場内でも値が異なる場合があります。

採土位置と採土深は、作物、作土深、畝の形状、栽培方式、診断目的に応じて決めます。明確に条件が異なる区画や、生育差が大きい区画は分けて採土します。異なる位置や深度で採取した試料を無条件に比較してはいけません。

土壌pHを評価するときの確認事項

土壌pHを評価する場合は、圃場(ほじょう)の1地点だけを測定して結論を出してはいけません。同じ圃場内でも、採取位置、作土深、畝(うね)の位置、肥料の施用位置、点滴チューブの直下、通路、排水条件により値が異なる場合があります。

特に施設園芸では、長期間の施肥、局所的なかん水、土壌表面からの水分蒸発により、塩類が偏って集積する場合があります。土壌pHを測定する際は、複数地点から採土し、採取深度、採取日、施肥直後かどうか、石灰資材の施用履歴、ECの値を記録します。

土壌pHが低いという理由だけで、直ちに石灰資材を追加してはいけません。交換性石灰、交換性苦土、交換性加里、CEC、塩基飽和度、EC、土壌の緩衝能(かんしょうのう)、作物別の診断基準を確認したうえで、必要量を判断します。

土壌が酸性化する主な原因

土壌pHは一定ではありません。降雨によってカルシウムやマグネシウムなどの塩基類が流亡すること、作物が養分を吸収し収穫物として圃場外へ持ち出されること、施肥条件によって土壌の酸性化が進むことなどが影響します。

酸性化が進むと、石灰や苦土などの不足だけでなく、交換性アルミニウムの影響、リン酸の固定、微量要素の過不足、土壌微生物の活動変化などが生じる場合があります。

低pHを確認しただけで石灰資材の施用量を決めず、EC、CEC、交換性塩基、塩基飽和度、土性、腐植、作土深を併せて確認します。

pHと病害発生の関係

土壌pHは、一部の土壌病害の発生程度に影響する場合があります。例えば、ジャガイモそうか病やアブラナ科野菜の根こぶ病では、土壌pHが発病程度に関係することがあります。

ただし、病原体の有無、菌密度、土壌水分、排水性、地温、品種、連作履歴なども発病に関与します。pHだけで病害を診断、防除、根絶できるわけではありません。

pH調整を検討する場合も、地域の防除指針、作物、圃場履歴、土壌診断結果を確認します。

養液栽培・養液土耕栽培におけるpH

養液栽培や養液土耕栽培では、培養液のpHが肥料成分の溶解性、沈殿、根からの吸収、根域環境に影響します。野菜類の養液栽培では、pH5.5〜6.5程度が管理目安として示される場合がありますが、すべての作物、培地、肥料処方、栽培方式に共通する絶対値ではありません。

培養液の評価では、次の測定対象を区別します。

  • 原水
    井戸水、水道水、雨水、貯留水など、肥料を混入する前の水です。
  • 給液
    肥料を混入し、作物へ供給する直前の培養液です。
  • 培地内溶液
    ロックウール、ヤシ殻培地、土壌など、根域内部に保持されている溶液です。
  • 排液
    培地や根域を通過して排出された溶液です。
  • 循環培養液
    循環式の養液栽培で回収・再利用される培養液です。

給液pHが適正でも、根域pHが適正とは限りません。作物の養分吸収、硝酸態窒素とアンモニア態窒素の比率、培地量、培地の種類、日射量、液温、かん水回数、排液率などによって根域pHは変動します。

pH調整剤を追加する前に、EC、原水の重炭酸濃度、肥料処方、液温、排液率、根の状態を確認します。原因を確認せずに酸またはアルカリの投入量だけを増やすと、急激なpH変動、根傷み、肥料成分の沈殿、設備腐食、作業事故につながるおそれがあります。

pH計の校正・洗浄・保管

pH計は、分析手順や取扱説明書に従って校正し、測定後に電極を洗浄し、乾燥や汚れを防いで適切に保管します。電極の汚れ、乾燥、劣化、校正不足、液温差があると、測定値の信頼性が低下します。

使用する標準液、校正頻度、洗浄方法、保存液の種類は、機器や電極の仕様によって異なります。簡易測定値は、圃場内の変化や異常を早期に把握するための補助値として扱います。土壌改良資材の施用量を決定するときは、採土条件と分析方法をそろえた土壌診断結果を優先します。

関係する作物

  • 野菜類
    トマト、キュウリ、ナス、ピーマン、イチゴ、ホウレンソウ、ネギ、レタス、キャベツ、ダイコン、ジャガイモなど。
  • 果樹類
    ブルーベリー、カンキツ、ブドウ、リンゴ、モモ、ナシなど。
  • 花卉類(かきるい)
    キク、バラ、カーネーション、トルコギキョウ、鉢物など。
  • 穀物類・豆類
    イネ、ムギ、トウモロコシ、ダイズなど。

作物に適する土壌pHは一律ではありません。地域の土壌診断基準、土壌型、作型、栽培方式を確認して判断します。

評価方法

  • 土壌栽培
    複数地点の土壌pH、EC、交換性塩基、CEC、塩基飽和度、採取深度、施肥履歴、石灰資材の施用履歴を確認します。
  • 養液栽培
    原水、給液、培地内溶液、排液または循環液のpHとECを区別して測定します。液温、排液率、肥料処方、かん水回数も記録します。
  • 生育障害が発生した場合
    葉、茎、根、果実の症状を観察し、病害虫、根傷み、過湿、乾燥、温度、肥料成分の偏りを併せて確認します。

誤診しやすい例

  • 葉の黄化を低pHによる鉄欠乏と断定する
    黄化は、根腐れ、過湿、低温、肥料切れ、微量要素の過不足、病害でも発生します。
  • 生育停滞を高pHによる養分吸収障害と断定する
    EC上昇、根域温度、日射不足、根詰まり、線虫、土壌物理性の悪化でも生育は停滞します。
  • 給液pHが適正であるため、根域環境も正常と判断する
    培地内溶液や排液のpHとECが大きく変動している場合があります。
  • 低pHを確認したため、直ちに石灰資材を追加する
    土壌の緩衝能、CEC、交換性塩基、作土深などを確認しなければ、適切な施用量は判断できません。

pHの役割

  • 酸性・アルカリ性の把握
    土壌、原水、培養液、排液が酸性側またはアルカリ性側へ偏っていないかを確認する指標になります。
  • 養分吸収障害の予防
    土壌や根域で、養分が作物に吸収されにくい状態になっていないかを検討する材料になります。
  • 土壌改良の判断材料
    石灰資材などの施用を検討する際の基礎データになります。ただし、pH単独で施用量を決定することはできません。
  • 培養液管理の確認
    肥料処方、原水条件、作物の養分吸収、排液管理に問題がないかを点検する材料になります。
  • 経時変化の把握
    同じ測定方法で継続的に記録することで、圃場や根域環境の変化を把握しやすくなります。

pHに関する課題と注意点

課題1:pHだけで石灰資材の施用量を決めてしまう

なぜ間違いなのか:同じ土壌pHでも、必要な改良量は土壌の種類、CEC、緩衝能、作土深、交換性塩基、作物によって異なります。砂質土と粘土質土では、同じ量の石灰資材を施用してもpHの変化量は同じになりません。
誤解されやすい点:低pHであれば、石灰資材を追加するほど改善すると考えやすい点です。
注意点:土壌分析を行わずに石灰資材を追加すると、高pH化、塩基バランスの悪化、微量要素欠乏を招く場合があります。交換性石灰、交換性苦土、交換性加里、CEC、ECを確認して判断します。

課題2:異なる測定対象と測定方法を混同する

なぜ間違いなのか:土壌pH、原水pH、給液pH、排液pHは、それぞれ異なる状態を示します。また、土壌pHでも、pH(H2O)とpH(KCl)は測定方法と意味が異なります。
誤解されやすい点:同じ「pH」という表記であるため、数値だけを並べて比較できると考えやすい点です。
注意点:記録には、測定対象、採取場所、採取深度、採取日時、抽出方法、液温、EC、使用機器、校正日を残します。測定値だけを保存する運用では、再現性を確保できません。

課題3:見た目の症状をpH異常と決めつける

なぜ間違いなのか:葉の黄化、生育停滞、根傷み、葉縁枯れは、pH異常以外でも発生します。施設園芸では、塩類集積、過湿、乾燥、根域温度、肥料組成、病害、線虫、酸素不足が重複する場合があります。
誤解されやすい点:pHと微量要素欠乏の関係が知られているため、目視症状から原因を逆算できると考えやすい点です。
注意点:写真や葉色だけで断定せず、pH、EC、根の状態、排液率、施肥履歴、かん水履歴、温度、病害虫の有無を確認します。

混同しやすい指標の比較

pHとECの違い

pHは、酸性またはアルカリ性の程度を示す指標です。一方、ECは電気伝導度であり、土壌溶液や培養液に含まれるイオン量の影響を受ける指標です。

pHが適正でも、ECが高すぎる場合があります。反対に、ECが適正でも、特定の肥料成分が不足または過剰になっている場合があります。pHとECは代替関係ではなく、両方を確認する必要があります。

pH(H2O)とpH(KCl)の違い

pH(H2O)は、水を用いて測定する土壌懸濁液のpHです。一般的な土壌診断や栽培管理で広く利用されます。

pH(KCl)は、塩化カリウム溶液を用いて測定します。土壌粒子に保持されている水素イオンやアルミニウムイオンの影響を含め、潜在的な酸性を検討する材料になります。

両者は同じ数値にはなりません。分析値を比較するときは、抽出方法を必ず確認します。

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