スリップス(すりっぷす)

スリップス
スリップス

スリップスとは

スリップス(thrips)とは、アザミウマ類を指す英語由来の呼び方です。農業現場では、葉や花、果実などを加害する小さな害虫の名称として広く使われています。

作物を加害するアザミウマ類の多くは体長1~2mm程度で、細長い体をしています。植物の表面を傷つけて細胞の内容物を吸い取るため、葉のかすり状白斑、花弁の変色、果実表面の傷やサビ状被害などを引き起こします。

さらに、一部の種類は植物ウイルスを媒介し、作物の生育や収量にも影響します。特に施設園芸では、花や新芽の内部に潜んだ個体を見逃しやすく、被害が目立つ頃には発生密度が高まっている場合があります。

なお、アザミウマ類にはほかの小昆虫を捕食する種類も存在します。スリップスという名称だけで、すべての種類を農業害虫と判断するのは正確ではありません。

キュウリの花に発生したスリップス(アザミウマ類)キュウリの花に発生したアザミウマ類

スリップスとアザミウマの違い

スリップスとアザミウマは、農業現場ではほぼ同じ意味で使われます。「スリップス」は英語のthripsに由来し、「アザミウマ」は日本語での呼び方です。

ただし、アザミウマ類には多くの種類があり、寄生する作物、発生場所、薬剤感受性、媒介するウイルスなどが異なります。防除対象を調べるときは、可能な範囲で種類まで確認することが大切です。

代表的なスリップスの種類と被害を受ける作物

国内の農業で問題になる主なアザミウマ類には、次のような種類があります。表中の作物は代表例であり、寄主植物のすべてを示すものではありません。

種類 主に問題になる作物・被害
ミカンキイロアザミウマ トマト、イチゴ、花き類など。花や果実の加害、TSWVなどの媒介
ヒラズハナアザミウマ トマト、イチゴ、花き類など。花への寄生、果実被害、TSWVなどの媒介
ネギアザミウマ ネギ、タマネギ、ニラなど。葉のかすり状食害、IYSVの媒介
ミナミキイロアザミウマ キュウリ、ナス、ピーマンなど。葉や果実の加害、MYSVなどの媒介
チャノキイロアザミウマ ブドウ、カンキツ、茶など。新芽や果実表面の傷、サビ状被害

種類を見分ける際には、体色だけで判断しないでください。同じ種類でも雌雄や季節によって体色が異なる場合があります。また、似た種類の識別には、触角や体毛などを顕微鏡で確認する必要があります。

農業で問題になる主要アザミウマ5種の比較イラスト主要アザミウマ5種の比較イラスト。正確な種の同定には詳細な形態観察が必要です。

スリップスによる主な症状

スリップスによる被害は、寄生する部位によって異なります。食害を受けた部分は白色や銀白色に変化し、時間が経つと褐色やサビ状になることがあります。

  • 葉:細かな白斑、かすり状の傷、銀白色の光沢、褐変などが見られます。新芽が加害されると、展開後の葉に縮れや奇形が現れる場合もあります。
  • 花:花弁の変色、褐変、傷などが発生します。バラ、カーネーション、トルコギキョウなどでは、わずかな傷でも商品価値が低下します。
  • 果実:果面に細かな傷、サビ状の変色、変形などが発生します。被害が現れる場所や形状は、作物やアザミウマの種類によって異なります。
  • ネギ類:葉に白いかすり状の傷が発生します。多発すると葉の黄化や生育不良につながるほか、ウイルス病にも注意が必要です。

こうした症状は、ハダニ類、その他の微小害虫、薬害、生理障害、風による擦れなどでも生じます。症状だけでは加害虫を断定できないため、虫体や発生部位を合わせて確認します。

スリップスが媒介するウイルス病

アザミウマ類による被害には、直接的な食害と、ウイルスを媒介することによる病害があります。ウイルス病は食害とは異なり、感染後に殺虫剤を散布しても植物体内のウイルスを除去することはできません。

代表的なウイルスには、トマト黄化えそウイルス(TSWV)、アイリス黄斑ウイルス(IYSV)、メロン黄化えそウイルス(MYSV)、インパチェンスえそ斑点ウイルス(INSV)などがあります。

これらのウイルスは、媒介能力を持つアザミウマの種類が異なります。例えば、ネギアザミウマはIYSVを媒介し、ネギやニラ、タマネギなどでえそ条斑病の原因になります。

アザミウマが媒介する代表的な植物ウイルスでは、幼虫期に感染植物からウイルスを獲得し、成虫になってからも伝搬する仕組みが知られています。そのため、成虫の侵入を防ぐだけでなく、感染植物や周辺の寄主植物を管理し、施設内での増殖を抑えることが欠かせません。

なお、トマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)の主要な媒介虫はタバココナジラミです。アザミウマが媒介するTSWVとは、原因ウイルスも媒介虫も異なります。

スリップスが増えやすい条件と発生源

スリップスは、育苗施設から持ち込まれる苗、周辺雑草、栽培残渣、隣接ほ場などが発生源になることがあります。施設の換気口や出入口から成虫が侵入し、作物上で増殖する場合もあります。

多くの害虫種は温暖な時期に増殖が進みますが、発生に適した温度や季節は種類によって異なります。加温施設などでは、冬季にも発生が続くことがあります。

アザミウマ類の卵は植物組織内に産み付けられることが多く、種類によっては前蛹・蛹の時期を土中や株元周辺で過ごします。また、幼虫や成虫が花の内部、葉の重なった部分、新芽などに潜むため、農薬が十分に到達しない場合があります。

周辺雑草の管理

施設やほ場の周辺雑草は、アザミウマ類の越冬場所や増殖場所になることがあります。

例えば、ミカンキイロアザミウマでは、カキ園やカンキツ園に生えるハコベ、ホトケノザなどの葉で越冬する事例が報告されています。ただし、すべてのアザミウマ類が同じ雑草を利用するわけではありません。

発生密度が高まった後に、作物に隣接する雑草を一斉に刈り取ると、成虫が周辺の作物へ移動する可能性があります。除草は、侵入が増える時期より前から計画的に行い、周辺での発生状況も確認してください。

スリップスの発生源と増殖に関係する条件のイラストスリップスの発生源と増殖に関係する条件

スリップスを見つける方法

スリップスは体が小さく、特に発生初期は見落としやすい害虫です。被害が出やすい部位を定期的に観察し、虫体を確認します。

  1. 葉裏や新芽を観察する:葉の重なった部分、成長点付近、若い葉などを確認します。
  2. 花の内部を調べる:イチゴ、ナス、ピーマン、花き類などでは、花の中に成虫や幼虫が潜んでいないか確認します。
  3. 白い紙やトレーに落とす:花や葉を軽くたたき、落下した小さな虫を観察します。
  4. ルーペを使う:10~20倍程度のルーペや拡大鏡を使うと、虫体の存在や大まかな特徴を確認しやすくなります。
  5. 粘着捕虫シートを設置する:青色や黄色の粘着板で飛翔成虫を捕獲し、発生時期や増減の傾向を把握します。

粘着板に付着した虫の数と、実際に作物へ寄生している虫の数は必ずしも一致しません。粘着板の設置位置や高さ、色、周囲の環境でも捕獲数は変わるため、作物の直接観察と併用します。

種類の識別が難しい場合や、ウイルス病の発生が疑われる場合は、病害虫防除所や普及指導機関などへ相談してください。

作物別に注意したいスリップス被害

イチゴ・キュウリ・ナス・ピーマン

花や新芽、果実周辺への寄生に注意します。イチゴでは果実の着色不良や傷、キュウリやナスなどでは葉や果実への加害が問題になることがあります。

受粉用昆虫や天敵を利用している施設では、農薬の影響を確認せずに散布すると、それらの活動を妨げるおそれがあります。

バラ・カーネーション・トルコギキョウ

花弁の傷や変色が商品価値に直結します。開花後に被害を確認しても傷は元に戻らないため、蕾や花の内部を早めに調べ、発生初期から管理することが大切です。

ネギ・タマネギ・ニラ

ネギアザミウマによる葉のかすり状食害に加え、IYSVが原因となるえそ条斑病に注意します。

食害痕とウイルス病の病徴は混同されやすいため、えそ条斑や黄化などが見られる場合は、地域の発生情報や病害診断も確認してください。

ブドウ

チャノキイロアザミウマなどによる新梢、花穂、果房、果粒への加害が問題になることがあります。シャインマスカットなどの生食用品種では、果面の傷が等級や販売価格に影響する場合があります。

被害が見え始めた時点では加害時期を過ぎていることもあるため、地域の発生予察情報や品種ごとの防除暦を確認します。

スリップスの防除方法

スリップスの防除では、IPM(総合的病害虫管理)の考え方に基づき、侵入防止、発生源の管理、発生状況の確認、天敵の利用、登録農薬による防除などを組み合わせます。

防虫ネットで施設への侵入を減らす

施設栽培では、側窓、天窓、妻面、出入口などの開口部に防虫ネットを設置します。

一般的な防虫ネットでは、アザミウマ類などの微小害虫に対して0.4mm以下の目合いが一つの目安です。ただし、種類や製品構造によって侵入抑制性能は変わります。

目合いを細かくすると通気抵抗が増し、夏季のハウス内温度が上昇するおそれがあります。防虫性能だけで選定せず、換気能力や作物の適温も含めて検討してください。

赤色ネットや光反射機能を持つネットには、一般的な白色ネットより大きな目合いでも侵入抑制効果を得られる製品があります。ただし、効果は製品、対象種、使用条件によって異なります。

光反射シートなどで飛来を抑える

シルバーマルチや光反射シートは、アザミウマ類の飛来を抑える目的で利用されます。作物が繁茂して反射面が隠れると、効果が低下する場合があります。

近紫外線除去フィルムや赤色LEDを利用する防除技術もありますが、対象種、作物、照射条件などに制限があります。受粉用昆虫の行動や作物の品質に影響する場合もあるため、導入前に技術資料を確認します。

天敵を利用する

アザミウマ類の防除には、タイリクヒメハナカメムシ、アカメガシワクダアザミウマ、カブリダニ類などが利用される場合があります。

ただし、利用できる天敵や適した放飼条件は、作物、対象種、害虫密度、温湿度などによって変わります。天敵製剤を使う場合は適用内容を確認し、使用する農薬との相性も調べてください。

登録農薬を適切に使用する

農薬による防除では、発生している種類と作物に適した登録農薬を選びます。花や新芽の内部に潜む個体には薬液が届きにくく、卵や蛹など薬剤が作用しにくい発育段階も存在します。

農薬を使用する際には、作物名、適用病害虫名、希釈倍数、使用液量、使用方法、使用時期、使用回数、有効成分を含む農薬の総使用回数などを確認します。

薬剤抵抗性を管理する

アザミウマ類の中には、特定の薬剤に対して感受性が低下した個体群が確認されている種類があります。

同じ作用機構の薬剤を繰り返し使用すると、薬剤抵抗性が発達する危険があります。商品名が異なっていても、同一成分や同じ作用機構に分類される場合があるため、IRACコードを確認して薬剤を選択します。

ただし、IRACコードが異なれば必ず効くという意味ではありません。防除効果が低い場合は、薬剤感受性の低下だけでなく、散布ムラ、薬剤が届きにくい場所への潜伏、使用時期の遅れ、施設外からの再侵入なども調べます。

スリップスに使える農薬の調べ方

農薬登録は変更されるため、過去の記事や固定された農薬一覧だけで使用可否を判断してはいけません。

例えば、同じアザミウマ類の防除でも、イチゴ、バラ、ネギ、キュウリ、ブドウでは使用できる農薬が異なる場合があります。また、適用病害虫名が「アザミウマ類」ではなく、特定の種類名で登録されていることもあります。

現在の登録内容は、農林水産省の農薬登録情報提供システムと製品ラベルで確認してください。都道府県の防除基準や最新の発生予察情報も参考になります。

スリップス防除で間違えやすい判断

  • 葉に白い傷があればスリップスと決めつける:ハダニ類、その他の微小害虫、薬害、生理障害でも似た症状が出ます。虫体と被害部位を合わせて確認します。
  • 粘着板だけで防除できると考える:粘着板が主に捕獲するのは飛翔成虫です。植物組織内の卵や花・葉に潜む幼虫には直接作用しません。
  • 防虫ネットの目合いだけで性能を判断する:糸径、織り方、色彩、機能性によって侵入抑制効果が異なります。通気性も確認してください。
  • 農薬の商品名を変えれば抵抗性対策になると考える:作用機構が同じ場合があります。IRACコードと有効成分を確認します。
  • 薬剤の効きが悪い原因を抵抗性だけに求める:散布ムラ、潜伏場所、再侵入なども考えられます。原因を確認せず、希釈倍数や使用量を登録範囲から外して変更してはいけません。
  • スリップスがすべてTYLCVを媒介すると考える:TYLCVの主要な媒介虫はタバココナジラミです。アザミウマ類が媒介するウイルスとは区別します。

スリップスについてよくある質問

スリップスの農薬は何を使えばよいですか?

作物、アザミウマの種類、栽培時期、農薬登録内容によって異なります。作物名と適用病害虫名が一致しているか確認したうえで、地域の防除基準も参考にしてください。

スリップスに農薬が効かないのはなぜですか?

薬剤抵抗性のほか、花や新芽への潜伏、卵や蛹への効果不足、散布ムラ、施設外からの再侵入などが考えられます。原因が不明なまま薬剤の濃度を高めたり、同じ系統を繰り返し使用したりするのは避けてください。

イチジクの果実に傷があればスリップスですか?

果実表面の傷やサビ状被害だけでは判断できません。果実周辺や葉、新芽などで虫体を確認し、被害が発生した時期や部位も調べます。原因の特定が難しい場合は、地域の病害虫防除所などに相談してください。

スリップスは冬でも発生しますか?

種類や地域、栽培環境によって異なります。加温された施設などでは冬季にも発生が続く場合があります。露地でも、種類によっては雑草や植物体周辺で越冬します。

スリップスの参考動画

スリップスの防除技術を理解するため、広島県立総合技術研究所の研究成果発表動画を紹介します。

この動画では、アザミウマ類の概要と、ジャスモン酸類縁体を利用した害虫忌避技術について説明されています。トマトやキクでの試験事例も紹介されており、化学農薬による殺虫だけに依存しない防除技術を考える参考になります。

新たな害虫忌避剤の開発利用 ~ジャスモン酸類縁体で植物防御力を高める世界初の忌避剤を実用化~
広島県立総合技術研究所 農業技術センター(令和6年度研究成果発表会)

新たな害虫忌避剤の開発利用(YouTube)を見る

動画について:この動画は、アザミウマ類の生態と防除技術を理解するための参考資料として紹介しています。農材ドットコムが制作・管理している動画ではありません。動画の公開状況やURLは公開元の都合により変更される場合があります。紹介される技術が、すべての作物やアザミウマ類に適用できるわけではありません。実際に利用する際は、対象作物、対象害虫、農薬登録内容、使用条件を確認してください。

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