スリップス(すりっぷす)

スリップス(すりっぷす)
スリップス

スリップスとは

スリップス(すりっぷす・thrips)とは、農業現場で作物を加害するアザミウマ類を指す呼び方です。葉、花、新芽、果実などを吸汁・加害し、葉のかすり状白斑、花弁の変色、果実表面のサビ状被害、奇形、品質低下などを引き起こします。

スリップスは体が非常に小さく、成虫や幼虫を肉眼だけで正確に見分けるのは困難です。農業現場で重要なのは、「小さい虫がいるかどうか」だけではなく、どの作物の、どの部位に、どのような症状が出ているか、さらに発生しているアザミウマ類の種類と登録農薬の適用が合っているかを確認することです。

発生確認には、肉眼観察だけでなく、10〜20倍程度のルーペや拡大鏡を使うと確認しやすくなります。ただし、ルーペで分かるのは体色、大きさ、発生部位などの大まかな特徴であり、種類を正確に同定できるとは限りません。正確な同定が必要な場合は、普及指導機関、病害虫防除所、専門機関への確認が必要です。

スリップスキュウリの花にアザミウマ 

スリップスとアザミウマの違い

スリップスとアザミウマは、農業現場ではほぼ同じ意味で使われます。 スリップスは英語の「thrips」に由来する呼び方で、日本語では一般にアザミウマ類と呼ばれます。

ただし、アザミウマ類には多くの種類があり、作物、地域、施設栽培か露地栽培かによって問題になる種類が異なります。代表的な種類には、ミカンキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマ、ネギアザミウマ、ミナミキイロアザミウマ、チャノキイロアザミウマなどがあります。

スリップスの主な症状

スリップス被害の典型は、葉・花・果実の表面がこすられたように白っぽく、銀白色、褐色、サビ状に変化する症状です。 ただし、症状だけで種類まで断定することはできません。

  • 葉の症状:かすり状の白斑、銀白色の光沢、褐変、葉の縮れ、奇形が見られることがあります。
  • 花の症状:花弁の変色、褐変、傷、開花不良が見られることがあります。バラ、カーネーション、トルコギキョウなどでは商品価値を大きく落とします。
  • 果実の症状:いちご、きゅうり、なす、ピーマン、ぶどう、いちじくなどで、果面のサビ状被害、着色むら、変形、傷果が問題になることがあります。
  • ネギ・玉ねぎの症状:葉に白いかすり状の食害が出るほか、IYSVによるネギえそ条斑病が問題になる場合があります。

発生原因と増えやすい条件

スリップスは、苗、周辺雑草、収穫残渣、施設内外の寄主植物、隣接ほ場などから持ち込まれたり飛び込んだりして増えます。春から秋にかけて発生しやすく、施設栽培では条件が合うと長期間問題になります。

危険なのは、発生源を確認せずに薬剤散布だけで抑えようとする判断です。卵は植物組織内、蛹は土中や株元周辺にある場合があり、薬剤がかかりにくいステージが存在します。そのため、薬剤だけで完全に防除するという考え方は危険です。

また、施設周辺やほ場周辺の雑草は重要な発生源になることがあります。特に、ハコベ、ホトケノザなどの雑草で越冬・増殖する事例が報告されており、春先から周辺雑草を放置すると、作物への飛び込みや密度上昇につながる場合があります。

ただし、雑草名だけで発生リスクを断定することはできません。問題になる雑草は、アザミウマの種類、作物、地域、栽培時期によって変わります。除草は、作物に成虫を追い込まないよう、発生初期から計画的に行うことが重要です。

スリップスの種類と作物別の注意点

スリップスは種類によって問題になる作物や症状が変わります。ネギアザミウマはネギや玉ねぎ、アスパラガスなどで問題になり、IYSVを媒介することがあります。ミナミキイロアザミウマは、きゅうり、なす、ピーマンなどの果菜類で問題になります。ミカンキイロアザミウマやヒラズハナアザミウマは、花や果実の被害、トマト黄化えそウイルスなどの媒介に注意が必要です。

ぶどうでは、チャノキイロアザミウマなどによる新梢、花穂、果房、果粒の被害が問題になることがあります。シャインマスカットなど商品性の高い品種では、わずかな果面被害でも等級低下につながるため、発生初期の確認が重要です。

主要アザミウマ5種の比較イラスト主要アザミウマ5種の比較イラスト 

スリップスの防除方法

スリップス防除は、農薬だけでなく、侵入抑制、発生源対策、発生確認、薬剤ローテーションを組み合わせて考える必要があります。

  1. 発生を確認する:葉裏、花、果実周辺、新芽、ネギ類の葉身などを観察し、必要に応じて青色粘着板などで発生状況を確認します。虫体が見えにくい場合は、10〜20倍程度のルーペや拡大鏡を使うと確認しやすくなります。
  2. 発生源を減らす:ほ場内外の雑草、収穫残渣、摘葉・摘芯残渣を放置しないようにします。残渣や雑草にスリップスが残ると、次の発生源になります。ただし、発生後に作物近くの雑草を一斉に処理すると、条件によっては作物側へ成虫を移動させる可能性があります。雑草管理は発生初期から計画的に行うことが重要です。
  3. 侵入を抑える:施設栽培では開口部の防虫ネット、赤色ネット、近紫外線除去フィルム、シルバーマルチ、光反射シートなどが使われる場合があります。反射資材は、アザミウマ類の飛来や作物への定着を抑える目的で利用されます。ただし、作物が繁茂して反射面が隠れると効果は落ちやすく、受粉用昆虫、作物、施設条件への影響も確認する必要があります。
  4. 登録農薬を確認する:農薬は「作物名」「適用病害虫名」「使用時期」「使用回数」「希釈倍数」「使用方法」を必ず確認します。同じスリップスでも、作物が違えば使える農薬は変わります。
  5. 薬剤抵抗性を避ける:同じ系統の薬剤を連用すると抵抗性が発達し、防除効果が落ちる危険があります。作用機構の異なる薬剤をローテーションする考え方が必要です。
  6. 天敵を利用する場合:タイリクヒメハナカメムシやカブリダニ類などが利用される場合があります。ただし、天敵は放せば必ず効くものではありません。導入時期、餌密度、薬剤影響、温湿度、作物上での定着性を見なければ失敗します。
  7. スリップスの発生原因と増えやすい条件スリップスの発生原因と増えやすい条件

農薬一覧をそのまま信用してはいけない理由

「スリップスに効く農薬一覧」という検索需要は強いですが、固定の一覧をそのまま使うのは危険です。農薬登録は更新され、作物名、適用病害虫名、使用時期、使用回数、使用方法によって使用可否が変わります。

特に、いちご、バラ、ネギ、玉ねぎ、きゅうり、ぶどう、アスパラガスでは、作物ごとに登録内容を確認する必要があります。農薬を使う場合は、農林水産省の農薬登録情報提供システム、都道府県の防除基準、農薬ラベルを必ず確認してください。

誤解されやすい点

  • 「スリップスはTYLCVを媒介する」は誤り:TYLCVは主にタバココナジラミが媒介します。スリップスで注意すべき代表例は、TSWV、INSV、IYSV、MYSVなどです。
  • 「オオタバコガは天敵」は誤り:オオタバコガは害虫です。天敵として扱ってはいけません。
  • 「粘着板を置けば防除できる」は不十分:粘着板は発生確認や一部捕殺には役立ちますが、多発後の主防除として過信すべきではありません。
  • 「シルバーマルチだけで防除できる」は危険:シルバーマルチや光反射シートは飛来抑制に役立つ場合がありますが、作物が繁茂して反射面が隠れると効果は落ちやすく、多発後の主防除にはなりません。
  • 「農薬を強くすれば解決する」は危険:薬剤抵抗性、卵や蛹への薬剤到達不足、周辺からの再侵入により、薬剤だけでは失敗することがあります。
  • 「症状だけで種類を断定できる」は危険:白斑、サビ、褐変、奇形は他害虫、薬害、生理障害、擦れ、病害でも起こります。虫体、発生部位、時期、作物を合わせて判断します。
  • 「雑草名だけで発生源を断定する」は危険:ハコベ、ホトケノザなどが発生源になる事例はありますが、問題になる雑草はアザミウマの種類、作物、地域、栽培時期によって変わります。

よくある質問

スリップスとアザミウマは違いますか?

農業現場では、ほぼ同じ意味で使われます。スリップスは英語由来の呼び方で、日本語ではアザミウマ類と呼ばれます。ただし、アザミウマ類には多くの種類があり、作物や防除方法が同じとは限りません。

スリップスの症状は何ですか?

葉のかすり状白斑、銀白色の光沢、花弁の変色、果実表面のサビ状被害、奇形などが代表的です。ただし、症状だけでスリップスと断定するのは危険です。ハダニ、コナジラミ、薬害、擦れ、生理障害との区別が必要です。

スリップスを確認するには何を使えばよいですか?

葉裏、花、果実周辺、新芽などを観察し、10〜20倍程度のルーペや拡大鏡を使うと虫体を確認しやすくなります。白い紙やトレーの上で花や葉を軽くたたき、落ちた虫を観察する方法もあります。ただし、ルーペ観察だけで種類を正確に断定するのは困難です。作物被害が大きい場合やウイルス病が疑われる場合は、病害虫防除所や専門機関に確認してください。

いちじくのスリップスはどう見分けますか?

果面のサビ状被害や細かな傷だけでは判断不能です。果実周辺や葉裏に微小な虫体がいるか、黒い糞点があるか、同じ時期に周辺作物や雑草で発生していないかを確認します。症状だけで農薬散布を判断するのは危険です。

スリップスの農薬は何を使えばよいですか?

作物、対象害虫名、栽培ステージ、収穫前日数、使用回数によって変わるため、ここで特定の農薬を断定することはできません。農林水産省の農薬登録情報提供システム、都道府県の防除基準、農薬ラベルを確認してください。

バラのスリップス対策で重要なことは何ですか?

花弁の変色や傷が商品価値に直結するため、花の内部や蕾の段階での発生確認が重要です。多発してからの散布では品質低下を防ぎきれない場合があります。粘着板、発生源管理、登録農薬、天敵利用の可否を組み合わせて判断します。

ネギや玉ねぎのスリップスで注意すべき点は何ですか?

葉の白いかすり状食害に加え、IYSVによるネギえそ条斑病に注意が必要です。発病株や周辺雑草、ネギアザミウマの発生状況を合わせて確認し、発生源を残さない管理が重要です。

シルバーマルチや光反射シートはスリップス対策になりますか?

シルバーマルチや光反射シートは、アザミウマ類の飛来や作物への定着を抑える目的で使われる場合があります。ただし、作物が繁茂して反射面が隠れると効果は落ちやすく、多発後の防除手段として過信すべきではありません。防虫ネット、発生源管理、登録農薬、薬剤ローテーションと組み合わせて考える必要があります。

雑草管理はスリップス対策になりますか?

周辺雑草は、スリップスの発生源になることがあります。ハコベ、ホトケノザなどが関係する事例もありますが、問題になる雑草はアザミウマの種類、作物、地域、栽培時期によって変わります。発生後に作物近くの雑草を一斉に処理すると、条件によっては作物側へ成虫を移動させる可能性があるため、春先や発生初期から計画的に管理することが重要です。

参考資料

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