膨圧(ぼうあつ)

膨圧
膨圧(ぼうあつ)

膨圧とは

膨圧(ぼうあつ)とは、植物細胞内に水が入り、細胞内容物が細胞壁を内側から押すことによって生じる圧力です。

英語ではTurgor Pressureと表記します。

植物細胞では、細胞内外の水ポテンシャルの差によって水が移動し、液胞などへ水が入ると細胞内容物が膨張します。

植物細胞には細胞壁があるため、細胞内容物の膨張に対して細胞壁が抵抗し、その結果として細胞内部に圧力が生じます。

この圧力が膨圧です。

膨圧は「細胞に含まれる水の量」そのものではありません。

細胞内の水分状態、溶質濃度、細胞壁の性質などによって変化する力学的な状態です。

膨圧と水ポテンシャル

膨圧を理解するには、水ポテンシャルとの関係が重要です。

植物細胞の水ポテンシャルは、単純化すると、

水ポテンシャル = 浸透ポテンシャル + 圧ポテンシャル

として考えることができます。

このうち、生きた細胞の内部で細胞壁を押す圧力に関係するのが圧ポテンシャルです。

一般的な膨圧を持った植物細胞では、この圧ポテンシャルは正の値になります。

細胞内に糖、有機酸、無機イオンなどの溶質が蓄積すると浸透ポテンシャルが低下し、細胞外との水ポテンシャル差に応じて水が細胞内へ移動します。

水が入るにつれて膨圧が高まり、水の流入を促す力と膨圧による反作用が釣り合う方向へ進みます。

「浸透圧によって水が入るから膨圧が生じる」とだけ説明すると不十分です。

実際の水移動は水ポテンシャル差によって決まります。

膨圧と液胞

成熟した植物細胞では、大きな液胞が細胞体積の大部分を占めることがあります。

液胞内に溶質が蓄積し、水が取り込まれると液胞が膨張し、原形質膜を介して細胞壁を内側から押します。

このため液胞は、植物細胞の膨圧形成に大きく関係しています。

植物が十分に吸水していると葉や若い茎に張りがあるのは、多数の細胞が膨圧を維持していることが一因です。

膨圧と細胞の伸長

膨圧は植物細胞が伸長するための駆動力の一つです。

若い細胞では、膨圧によって細胞壁へ力が加わり、細胞壁が伸長可能な状態にあると細胞の体積が増加します。

ただし、

膨圧が高ければ、それだけで細胞が伸びるわけではありません。

細胞壁が十分に緩まず、伸展できない状態では、膨圧があっても大きな不可逆的伸長は起こりません。

植物の細胞伸長には、

  • 水の供給
  • 膨圧の形成
  • 細胞壁の伸展性
  • 細胞壁成分の形成

などが関係します。

膨圧だけを植物生長の原因として説明するのは不正確です。

膨圧が低下すると植物がしおれる理由

植物への水分供給が不足すると、細胞内の水分状態が変化して膨圧が低下します。

膨圧によって保たれていた葉や若い茎の張りが失われると、植物体がしおれて見えることがあります。

例えば晴天時に蒸散が急増し、根からの吸水が追いつかない場合には、土壌に水分が残っていても日中に膨圧が低下することがあります。

これは水分ストレスと関係する現象です。

ただし、

しおれ=土壌の水不足とは限りません。

根腐れや根圏の過湿、根の障害などによって吸水能力が低下している場合にも、植物体の膨圧が維持できず、しおれることがあります。

原因を確認せずに灌水量を増やすと、過湿を悪化させる場合があります。

膨圧と浸透調節

植物は乾燥や塩類濃度の変化などに対し、細胞内へ溶質を蓄積して浸透ポテンシャルを低下させることがあります。

これを浸透調節といいます。

適合溶質や無機イオンなどの蓄積によって細胞の水ポテンシャルを調節し、水を保持して膨圧の維持に寄与する場合があります。

ただし、浸透調節が起これば乾燥障害を受けないという意味ではありません。

水分ストレスが強すぎたり長期間続いたりすれば、膨圧低下、生長抑制、光合成低下などが起こります。

塩類集積と膨圧

施設栽培では、肥料成分などの塩類が根域に集積すると、土壌溶液や培養液の浸透ポテンシャルが低下します。

その結果、根の周囲に水が存在していても、植物が水を吸収しにくくなることがあります。

「土が湿っているから水分ストレスはない」とは判断できません。

高い塩類濃度では、植物体の水分状態が低下し、膨圧維持が難しくなることがあります。

土耕ではEC、養液栽培では培養液や排液のECなども確認し、根域の水分量だけで判断しないことが必要です。

原形質分離と膨圧

植物細胞を細胞内より水ポテンシャルの低い溶液に置くと、水が細胞外へ移動して膨圧が低下します。

さらに水が失われると、原形質膜が細胞壁から離れる原形質分離が起こることがあります。

膨圧低下と原形質分離は関連する現象ですが、同じものではありません。

通常の軽いしおれや気孔開閉を、そのまま原形質分離と説明してはいけません。

原形質分離は、細胞から水が大きく失われた状態を理解するために用いられる概念です。

膨圧と気孔の開閉

気孔は、2個の孔辺細胞によって形成されています。

孔辺細胞の内部でカリウムイオン(K+)、陰イオン、糖などの溶質状態が変化すると水ポテンシャルも変化し、水の出入りによって孔辺細胞の膨圧が変わります。

孔辺細胞の膨圧が高まり、その細胞壁の構造に応じて形が変化すると気孔が開く方向へ動きます。

逆に膨圧が低下すると、気孔は閉じる方向へ動きます。

「K+が入れば気孔が開く」という一段階だけの仕組みではありません。

実際の気孔開閉には複数のイオン輸送、代謝、光、CO2濃度、水分ストレス、植物ホルモンなどが関係します。

気孔の状態は気孔コンダクタンスにも影響し、蒸散や光合成と深く関係します。

オジギソウと膨圧

オジギソウは、接触や傷害などの刺激を受けると葉をすばやく動かします。

この運動には、葉柄の基部などにある葉枕と呼ばれる器官の運動細胞が関係しています。

刺激が伝わるとイオン移動などに伴って水が急速に移動し、葉枕の運動細胞の膨圧が変化します。

左右または上下の組織で膨圧差が生じることで、葉柄や小葉が動きます。

オジギソウの接触による高速運動を「原形質分離による運動」と説明するのは不適切です。

また、接触刺激による高速運動と、昼夜に伴って葉の角度などが変化する就眠運動は区別します。

膨圧と水分ストレス

植物体の水ポテンシャルが低下すると、条件によっては細胞の膨圧も低下します。

膨圧が低下すると、

  • 細胞伸長の抑制
  • 葉や茎のしおれ
  • 気孔開閉の変化
  • 生長速度の低下

などにつながることがあります。

植物は浸透調節などによって膨圧をある程度維持することがありますが、その能力には限界があります。

膨圧低下は水分ストレスによって起こる現象の一つであり、水分ストレスそのものと完全な同義語ではありません。

膨圧と灌水管理

農業では膨圧を直接測定して灌水することは一般的ではありません。

実際の栽培管理では、

体積含水率、
pF値、
水ポテンシャル、
EC、
飽差(VPD)、
日射、
植物のしおれや葉の状態

などを栽培方式に応じて組み合わせて判断します。

しおれを見つけたからといって、すぐに灌水するのが正しいとは限りません。

根域が過湿になっていないか、根が健全か、塩類が集積していないかも確認します。

膨圧でよくある誤解

膨圧は細胞内の水分量だと考える:
水分量そのものではありません。細胞内容物が細胞壁へ加える圧力です。

水を吸えば必ず膨圧が高くなると考える:
細胞内外の水ポテンシャル、溶質濃度、細胞壁の性質などによって状態は変わります。

膨圧が高いほど植物はよく生長すると考える:
細胞伸長には細胞壁が伸長可能な状態にあることも必要です。膨圧だけでは生長量を判断できません。

葉がしおれたら水不足と判断する:
根腐れ、過湿、根傷み、高塩類濃度などでも吸水が妨げられ、膨圧が低下する場合があります。

気孔はK+だけで開閉すると考える:
K+は重要ですが、陰イオン、糖、膜輸送、水移動、植物ホルモンなど複数の機構が関係します。

オジギソウの葉が閉じるのは原形質分離だと考える:
主な運動器官である葉枕で起こる急速なイオン・水移動と膨圧変化が関係します。

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