気孔コンダクタンス(きこうこんだくたんす)

気孔コンダクタンスとは

気孔コンダクタンスとは、葉の気孔を通して、水蒸気や二酸化炭素(CO2)などの気体がどの程度移動しやすいかを表す指標です。

英語ではStomatal Conductanceと表記し、gsなどの記号で表されます。

気孔コンダクタンスが大きいほど、一般には気孔を介したガス交換が起こりやすい状態です。

気孔が閉じる方向へ変化すると、通常は気孔コンダクタンスも低下します。

ただし、

気孔コンダクタンスは「気孔の開口幅そのもの」を測った値ではありません。

気孔を介したガス移動のしやすさを表す物理・生理的な指標です。

コンダクタンスとは

コンダクタンスとは、物質やエネルギーの「通りやすさ」を表す考え方です。

気孔コンダクタンスの場合は、葉と周囲の大気との間で、水蒸気やCO2が気孔を通過する際の移動しやすさを表します。

逆に、移動しにくさを表す指標を気孔抵抗といいます。

概念的には、

コンダクタンスが大きい=通りやすい

抵抗が大きい=通りにくい

という関係になります。

気孔コンダクタンスと蒸散

葉内部には水蒸気が存在し、気孔が開くと葉と外気との水蒸気濃度差に応じて水蒸気が外へ移動します。

これが蒸散です。

気孔コンダクタンスが高い状態では、他の条件が同じであれば水蒸気が気孔を通過しやすくなり、蒸散も起こりやすくなります。

しかし、

気孔コンダクタンスが同じなら蒸散量も必ず同じになるわけではありません。

蒸散量には、葉温、湿度、飽差(VPD)、風速、葉面境界層なども関係します。

気孔コンダクタンスと光合成

植物は気孔から二酸化炭素(CO2)を葉内部へ取り込み、光合成に利用します。

気孔コンダクタンスが低下すると、CO2が葉内部へ拡散する経路も制限され、光合成速度が低下する場合があります。

水分不足時には植物が気孔を閉じることで蒸散による水分損失を抑えますが、同時にCO2の取り込みも制限されます。

このため、気孔コンダクタンスは水利用と光合成を結びつける重要な指標です。

ただし、

気孔コンダクタンスが高ければ、必ず光合成速度が高いわけではありません。

光合成速度は、光、葉温、CO2濃度、葉の生理状態、酵素活性、葉肉内のCO2拡散などにも左右されます。

気孔コンダクタンスを変化させる要因

気孔コンダクタンスは一定ではありません。

日射、水分状態、湿度、飽差(VPD)、CO2濃度、葉温、植物ホルモン、生育段階などによって変化します。

例えば晴天時に光を受けると気孔が開き、気孔コンダクタンスが高くなる作物があります。

その後、日中に飽差が大きくなったり、植物体の水分状態が低下したりすると、気孔が閉じる方向へ反応し、気孔コンダクタンスが低下する場合があります。

作物や条件によって反応の大きさは異なります。

気孔コンダクタンスと水分ストレス

水分ストレスが強くなると、多くの植物では水分損失を抑えるため気孔を閉じる反応が起こります。

その結果、気孔コンダクタンスが低下します。

この性質を利用して、植物の水分状態を評価する研究があります。

しかし、

気孔コンダクタンスが低いことだけで水分ストレスと断定することはできません。

低日射、高CO2濃度、大きな飽差、葉齢、測定時刻など、水分不足以外の要因でも気孔コンダクタンスは変化します。

気孔コンダクタンスと水ポテンシャル

植物体の水ポテンシャルが低下すると、気孔コンダクタンスが低下する場合があります。

これは植物が水分損失を抑えるために気孔を閉じる反応と関係しています。

ただし、両者は常に単純な比例関係になるわけではありません。

植物は根からの化学シグナルなどによって、葉の水ポテンシャルが大きく低下する前に気孔を閉じる場合もあります。

そのため、

水ポテンシャルと気孔コンダクタンスは、植物の水分状態を見る異なる指標です。

気孔コンダクタンスと飽差

飽差(VPD)は、葉や大気から水蒸気が移動する条件に大きく関係します。

飽差が大きくなると蒸散要求が高まり、多くの植物では過度な水分損失を防ぐため、気孔コンダクタンスを低下させる反応がみられます。

ただし、

飽差が大きければ気孔コンダクタンスが必ず一定値まで低下するわけではありません。

作物、品種、根域水分、日射、生育段階などによって反応は異なります。

気孔コンダクタンスの単位

植物のガス交換測定では、気孔コンダクタンスを

mol m-2 s-1

などで表すことがあります。

研究分野や計算方法によっては、

m s-1

などの単位が使用される場合もあります。

また、水蒸気に対する気孔コンダクタンスとCO2に対する気孔コンダクタンスでは、気体の拡散特性が異なるため数値をそのまま同一視できません。

論文や測定機器の数値を比較する際は、対象となる気体と単位を確認してください。

気孔コンダクタンスの測定方法

気孔コンダクタンスの測定には、ポロメーターや光合成蒸散測定装置などが利用されます。

ポロメーターでは、葉面からの水蒸気移動などを測定して気孔コンダクタンスを求めます。

光合成蒸散測定装置では、葉を測定チャンバーに挟み、CO2や水蒸気の濃度、流量、葉温などを測定して、光合成速度、蒸散速度、気孔コンダクタンスなどを計算します。

測定値には、

  • 測定時刻
  • 葉位・葉齢
  • 日射・光強度
  • 葉温
  • 湿度・飽差
  • CO2濃度
  • 葉面付近の気流

などが影響します。

異なる条件で測った数値を単純に比較しないでください。

葉面境界層との違い

葉の表面近くには、周囲より空気の動きが小さい葉面境界層が形成されます。

気孔から出た水蒸気や、葉へ向かうCO2は、気孔だけでなく葉面境界層も通過します。

このためガス交換を考える場合には、

気孔コンダクタンス

と

葉面境界層コンダクタンス

を区別します。

風が弱く葉面境界層が厚い条件では、気孔が十分開いていても葉と周囲の空気とのガス交換が制限される場合があります。

農研機構の光合成速度推定研究でも、葉面境界層コンダクタンスの設定が大きく外れると推定誤差が増えることが示されています。

個葉と群落の気孔コンダクタンス

個々の葉について測定する気孔コンダクタンスと、作物群落全体のガス交換を表すコンダクタンスは区別する必要があります。

研究ではバルク気孔コンダクタンスなど、群落全体を対象にした指標が用いられることがあります。

個葉で測定した値を、そのままハウス全体やほ場全体の値として扱うことはできません。

施設園芸での利用

施設園芸では、気孔コンダクタンスを測定することで、作物が実際にどの程度気孔を開いてガス交換しているかを評価できます。

日射量、飽差、根域水分、CO2濃度などと組み合わせれば、環境条件に対する作物の反応を詳しく解析できます。

ただし、気孔コンダクタンスだけを見て、

「灌水不足」
「CO2不足」
「高温障害」

などの原因を断定することはできません。

環境データと植物体データを組み合わせて判断する指標です。

気孔コンダクタンスでよくある誤解

気孔コンダクタンスは気孔の穴の大きさだと考える:
気孔開口の幾何学的な大きさそのものではありません。気孔を介した気体の移動しやすさを表します。

値が高いほど作物の状態が良いと考える:
高いほど良いという指標ではありません。水分損失も大きくなり得ます。

値が低ければ水不足と判断する:
低日射、高CO2、大きな飽差、葉齢などでも低下します。水分ストレスだけが原因ではありません。

気孔コンダクタンスが高ければ光合成も比例して高くなると考える:
光合成にはCO2拡散以外の生化学的・環境的な制限もあります。

違う時刻や違う葉の値をそのまま比較する:
気孔コンダクタンスは短時間でも大きく変化します。葉位、時刻、日射、飽差などの測定条件をそろえる必要があります。

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