加里とは
加里(かり)とは、農業・肥料分野で、植物の必須元素であるカリウム(K)に由来する肥料成分を表すときに使われる名称です。
窒素、りん酸とともに肥料三要素の一つに数えられます。
農業現場では「カリ」「加里」「カリウム」が近い意味で使われることがありますが、厳密には区別が必要です。
- K:元素としてのカリウム
- K⁺:植物が根から吸収する主な形態であるカリウムイオン
- K₂O:肥料成分の「加里」を表示するときに用いられる酸化カリウム換算値
肥料に表示されている「加里○%」は、元素Kそのものの含有率ではありません。
日本の肥料保証票では、加里の含有量は原則として酸化カリウム(K₂O)に換算して表示されます。
加里・カリウム・K₂Oの違い
肥料ではN-P-Kという表現が広く使われるため、「K=肥料袋に表示された加里成分量」と考えやすいですが、数値を扱う場合には注意が必要です。
肥料成分としての加里量はK₂O換算で示されます。
おおよその換算関係は次のとおりです。
- K = K₂O × 約0.83
- K₂O = K × 約1.20
例えば、K₂Oとして10kgの加里は、元素Kでは約8.3kgに相当します。
KとK₂Oの分析値・施肥量を換算せずに比較してはいけません。
また、K₂Oという表示は肥料成分量を統一して表すための換算表現です。
塩化加里や硫酸加里などの肥料中に、酸化カリウムそのものがその割合で存在し、植物がK₂Oとして吸収するという意味ではありません。
植物体内でのカリウムの働き
植物はカリウムを主としてK⁺として吸収します。
カリウムは植物体内で主要な陽イオンの一つとして存在し、次のような生理機能に関与します。
- 浸透圧の調節:細胞内の水分状態や膨圧の維持に関与する
- 気孔の開閉:孔辺細胞におけるK⁺の移動が気孔運動に関係する
- 酵素反応:多くの酵素反応や代謝に関与する
- 電荷・イオンバランス:細胞内の電気的なバランスや膜電位の維持に関係する
- 物質移動:植物体内における光合成産物などの移動に関与する
カリウムは植物の生育に不可欠ですが、加里を多く施用すれば光合成、根張り、果実肥大、糖度、耐病性などが比例して向上するわけではありません。
すでに必要量を満たしている場合には、追加施肥による効果が得られないことがあります。
土壌中のカリウム
土壌中のカリウムは、すべてが同じように作物へ利用されるわけではありません。
土壌溶液中のカリウム、土壌粒子の表面に保持された交換性カリウム、粘土鉱物などに保持されたカリウムなど、異なる状態で存在します。
土壌診断では、作物が利用できるカリウムの状態を判断する指標の一つとして交換性加里(交換態カリ)が測定されます。
ただし、交換性加里の適正範囲は全国一律ではありません。
- 作物
- 土壌型
- 土性
- CEC
- 地域
- 施肥履歴
- 堆肥や作物残渣からの供給量
などによって判断が変わります。
他地域や他作物の「○mg/100g」という数値だけを利用して、加里施肥量を決めないでください。
土壌によるカリウム保持の違い
カリウムは陽イオンであるため、土壌の粘土鉱物や腐植などに保持されます。
一般に、砂質でCECの小さい土壌ではカリウムを保持できる量が小さく、降雨やかん水による溶脱の影響を受けやすくなります。
粘土鉱物の種類によっては、カリウムが鉱物内部に取り込まれ、作物が直ちに利用しにくい状態になることもあります。
したがって、
「土壌にカリウムが多い・少ない」だけでなく、土壌がどの程度カリウムを保持し、作物へ供給できるかを見る必要があります。
加里欠乏
カリウムは植物体内で比較的移動しやすいため、欠乏症状は下位葉や古い葉から現れることがあります。
典型的には、
- 葉縁や葉先の黄化
- 葉縁・葉先の褐変や枯れ
- 生育停滞
などが見られる場合があります。
ただし、症状は作物や生育段階によって異なります。
葉縁が黄色や褐色になっただけで加里欠乏と断定してはいけません。
塩類障害、根傷み、乾燥、過湿、マグネシウム欠乏、病害などでも似た症状が発生する場合があります。
土壌分析、養液分析、施肥履歴、根の状態などを確認して判断します。
加里過剰
作物は、収量の増加に直接結び付かない量までカリウムを吸収することがあります。
このような現象は贅沢吸収と呼ばれます。
加里を必要以上に施用しても、収量や品質がそれに比例して向上するとは限りません。
また、土壌や培養液中のK濃度が高すぎる場合には、条件によってマグネシウム(Mg)やカルシウム(Ca)の吸収との競合が問題になることがあります。
そのため、加里だけを増やすのではなく、Ca、Mgを含めた塩基バランスを確認します。
水溶性肥料を過剰に施用すれば、根域のEC上昇につながる場合もあります。
「加里を過剰に施用するとナトリウムが増える」という関係ではありません。
ナトリウム濃度は、肥料や原水などから実際にNaが供給された量によって判断します。
主な加里の供給源
塩化加里
塩化加里(塩化カリウム、KCl)は、カリウムとともに塩化物イオンを供給します。
露地栽培では、作物や条件によって硫酸加里から塩化加里へ代替できる場合があります。
施設土耕など降雨による洗脱が少ない条件では、塩化物イオンやその他の塩類が根域に残留しやすいため、施用量、作物、原水、排水条件、土壌ECなどを確認して使用します。
硫酸加里
硫酸加里(硫酸カリウム、K₂SO₄)は、カリウムと硫黄を供給する肥料です。
塩化加里と異なり硫酸根を伴うため、塩化物イオンの投入を抑えたい条件などで利用されます。
硫酸加里を「塩分を含まない肥料」と表現するのは誤りです。
硫酸カリウム自体が水に溶けてイオンとなる塩類であり、過剰に施用すればEC上昇に関与します。
硝酸加里
硝酸加里(硝酸カリウム、KNO₃)は、カリウムと同時に硝酸態窒素を供給します。
養液栽培や液肥処方などでも利用されますが、加里だけを補給しているわけではありません。
硝酸加里による窒素投入量も施肥設計に含めます。
硫酸加里苦土・けい酸加里肥料など
加里だけでなく、マグネシウムやけい酸など他の成分を供給する肥料もあります。
製品名だけで判断せず、保証票の成分と保証形態を確認します。
堆肥や作物残渣から供給される加里
加里は化学肥料だけから供給されるわけではありません。
家畜ふん堆肥、作物残渣などにもカリウムが含まれています。
特に家畜ふん堆肥に含まれる加里は、比較的肥効が高いことが知られています。
そのため、堆肥を連用している圃場で、堆肥から供給されるカリを計算せずに化学肥料の加里を毎作同量施用すると、過剰投入になることがあります。
稲わらなど、圃場から持ち出す作物残渣に含まれるカリ量も、圃場のカリ収支に影響します。
加里施肥量は「肥料袋から投入した量」だけで計算しないでください。
堆肥、作物残渣、場合によってはかんがい水などからの供給も考慮します。
肥料保証票に表示される加里
肥料では、製品によって次のような表示があります。
- 加里全量
- く溶性加里
- 水溶性加里
これらは同じ意味ではなく、分析方法や溶解性の区分が異なります。
表示値はいずれも肥料制度上、K₂O換算で扱われます。
単に「加里○%」という数字だけを比較するのではなく、どの形態の加里が保証されているかを確認してください。
施設園芸・養液栽培での加里管理
施設園芸では降雨による養分の洗脱が少ないため、長期間の施肥によって土壌中の交換性加里や可溶性塩類が高くなる場合があります。
土耕施設では、
- 交換性加里
- カルシウム・マグネシウムとのバランス
- 土壌EC
- 堆肥の施用履歴
- 原水の成分
などを確認します。
養液栽培では給液ECだけではK濃度を判断できません。
給液処方、原水、排液または循環液の分析、生育段階、吸水・吸肥量などを踏まえて管理します。
ECが適正だからカリウム濃度も適正とは限りません。
加里施肥でよくある間違い
加里はカリウムそのものなのでKとK₂Oは同じ数値
元素Kと肥料表示のK₂Oでは数値が異なります。
分析値や海外資料などを比較するときは、どの単位で示されているか確認して換算します。
加里を増やせば果実が大きくなり、糖度も上がる
カリウムは物質移動や浸透圧調節などに関与しますが、必要量を超えて追加しても果実肥大や糖度が比例して向上するわけではありません。
すでに十分な圃場では追加施肥が不要な場合があります。
加里は病害虫を防ぐ肥料である
適正なカリウム栄養が植物の生理状態や環境ストレスへの応答に関係することと、肥料そのものに病害虫防除効果があることは別です。
加里施肥を農薬や防除対策の代用にはできません。
硫酸加里は塩分を含まない
誤りです。
硫酸カリウムも塩類であり、過剰施用すれば根域のEC上昇に関係します。
塩化加里との主な違いの一つは、カリウムとともに供給する陰イオンが塩化物か硫酸かという点です。
有機質肥料なら加里過剰にならない
堆肥などにも加里は含まれています。
特に家畜ふん堆肥を連用している圃場では、堆肥由来の加里を施肥量として計算する必要があります。
「有機だから過剰にならない」という判断はできません。
カリ欠乏らしい症状が出たら加里を追肥する
葉先枯れや葉縁の黄化だけでは加里欠乏を確定できません。
根傷み、EC障害、他の養分欠乏などを確認せず追肥すると、症状を悪化させる場合があります。
関連する資材分類・農業用語
参考資料
- 農林水産省「肥料の表示の手引き」
- 農林水産消費安全技術センター(FAMIC)「肥料等試験法」
- 農研機構「水田土壌のカリ収支を踏まえた水稲のカリ適正施用指針」
- 農研機構「混合堆肥複合肥料の製造とその利用」
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