長穂接ぎとは
長穂接ぎ(ながほつぎ)とは、主にリンゴなどの果樹で行われる接ぎ木方法の一つで、通常の高接ぎよりも長い穂木を既存樹の枝へ接ぎ、側枝の形成や品種更新を早める技術です。「長穂接ぎ木」とも呼ばれます。
長穂接ぎの「長穂」は、太い枝へ接ぐという意味ではなく、長い穂木を使用することを指します。
リンゴの品種更新では、既存品種の枝をすべて一度に切り落とさず、長穂接ぎした枝を育成しながら元の枝を段階的に減らしていく方法があります。この方法では、更新途中も既存品種から果実を収穫できるため、一斉に高接ぎする場合と比べて収量低下を抑えながら品種転換を進めることができます。
一般的な高接ぎとの違い
リンゴの一般的な高接ぎでは、比較的短い穂木を用いて品種を更新します。更新する部分を一斉に切り替えた場合、接ぎ木した枝が成長して結実するまで収量が大きく低下することがあります。
長穂接ぎでは、より長く充実した穂木を使用し、接ぎ木直後から一定量の枝量を確保します。既存品種の枝を残して収穫を続けながら、長穂接ぎした枝へ徐々に置き換えることもできます。
農研機構が公表しているリンゴの技術資料では、50~70cm程度の長い穂木を1主枝当たり2~3本程度接ぎ木する方法が紹介されています。
長穂接ぎによる品種更新
長穂接ぎは、既存の樹体を利用して別の品種へ更新する際に利用できます。
リンゴでは、長穂接ぎした側枝が生育したのを確認しながら、それまで果実を生産していた中間台部の枝を段階的に剪定します。この方法では、園地を全面改植する場合とは異なり、既存樹の根系や骨格を利用できます。
農研機構が紹介している試験では、長穂接ぎ木による側枝と更新前の品種の枝の双方から収穫しながら品種更新を進め、約5年で更新する体系が示されています。
接ぎ木2年目には着果する例もありますが、「長穂接ぎをすれば必ず2年で収穫できる」という意味ではありません。樹勢、穂木の状態、接ぎ木位置、品種、着果量、栽培管理によって生育は変わります。
長穂接ぎの方法と管理
穂木には、健全で充実した枝を使用します。接ぎ木では穂木側と接がれる側の形成層を適切に合わせることが活着の基本です。
接ぎ木後は、接ぎ木テープなどで固定し、接合部や穂木が乾燥しないよう保護します。
長い穂木は風や果実の重さによる力を受けやすいため、必要に応じて添え木や誘引によって固定します。接ぎ木部付近から強い徒長枝が発生した場合は、接いだ枝との生育バランスを確認しながら整理します。
品種更新では、長穂接ぎした枝の生育量に合わせて既存品種の枝を徐々に減らします。一度に多く切り落とすと樹勢が大きく変化するため、樹全体の生育を確認しながら進めます。
雪害などで失った枝の回復
リンゴでは、雪害などによって側枝や成り枝を失った場合、その空間へ新しい枝を形成する方法として長穂接ぎが利用されることがあります。
青森県産業技術センターりんご研究所では、雪害を受けたリンゴ樹の早期復旧方法の一つとして「新梢長穂接ぎ」を紹介しています。
新梢長穂接ぎは、休眠期に採取した穂木ではなく、生育期間中の新梢(緑枝)を利用する方法で、6~7月にも実施できます。
したがって、長穂接ぎを「冬から春だけに行う接ぎ木」と限定するのは正確ではありません。使用する穂木と接ぎ木方法によって適期が異なります。
長穂接ぎを行う際の注意点
健全な穂木を使用する
接ぎ木では穂木とともに病原体を別の樹へ持ち込む危険があります。リンゴでは、高接ぎを繰り返した樹などから無条件に穂木を採取するのではなく、健全性を確認できる樹から採取することが重要です。
青森県では、新梢長穂接ぎの穂木について、自園の一度も高接ぎしていない樹勢のよいマルバ台樹などを利用し、高接ぎ病に注意するよう案内しています。
長い穂木ほど固定が必要になる
長穂接ぎでは穂木が長いため、短い穂木よりも風による揺れや着果時の荷重を受けやすくなります。活着していても、接ぎ木部が十分に強くなる前に大きな力が加われば折損する可能性があります。
接ぎ木後の生育を確認し、必要に応じて添え木や誘引を行います。
着果させ過ぎない
接ぎ木した枝へ早期に果実を着けられることは長穂接ぎの利点ですが、着果過多になると新梢生育が弱くなり、品種更新が進みにくくなります。
特に接ぎ木後の若い側枝では、果実を収穫することだけを優先せず、枝の育成とのバランスを取る必要があります。
登録品種の増殖条件を確認する
穂木を採取する品種によっては、品種登録や育成者権などにより増殖が制限されている場合があります。
「自分の園の樹から穂木を取るので自由に接いでよい」とは限りません。接ぎ木を行う前に、その品種が自家増殖可能か、育成者権者の許諾が必要かを確認してください。
長穂接ぎで誤解されやすい点
- 「太い枝へ接ぐ方法」という意味ではありません。
長穂接ぎの名称は、長い穂木を使用することに由来します。 - 「大枝接ぎ」「太枝接ぎ」と同じ意味ではありません。
大枝接ぎは接がれる側の枝の大きさに着目した表現で、長穂接ぎとは分類の基準が異なります。 - 必ず既存の枝を切断してから接ぐわけではありません。
既存品種を残し、そこから収穫を続けながら段階的に更新することが長穂接ぎの利点になる場合があります。 - 実施時期を冬~春だけに限定できません。
休眠枝を使用する長穂接ぎのほか、生育中の新梢を利用して6~7月に行う新梢長穂接ぎもあります。 - 接ぎ木後すぐに安定した収量が得られるわけではありません。
着果を急ぎ過ぎると枝の生育が弱くなることがあります。品種更新では着果量と枝の育成を同時に管理します。
長穂接ぎの参考動画
長穂接ぎは、穂木の調製、接ぎ木位置、形成層の合わせ方、固定方法などを文章だけで把握することが難しい作業です。
リンゴの雪害復旧にも利用される「新梢長穂接ぎ」の実際の作業については、地方独立行政法人青森県産業技術センターりんご研究所が公開している次の動画が参考になります。
りんごの「新梢長穂接ぎ」について AP27
地方独立行政法人 青森県産業技術センター りんご研究所
動画について:
この動画は、リンゴの新梢長穂接ぎの方法を理解するための参考資料として紹介しています。
農材ドットコムが制作・管理している動画ではありません。
動画の内容、公開状況、URLなどは、公開元の都合により変更または削除される場合があります。
また、長穂接ぎの方法、実施時期、使用する穂木、接ぎ木位置、接ぎ木後の管理は、樹齢、樹勢、品種、樹形、積雪条件、被害状況などによって異なります。
参考資料
- 農研機構「各地域に適したリンゴ早期成園化技術の開発と経営体における実証」― 長穂接ぎ木法による品種更新
- 福島県農業総合センター「リンゴ『長穂接ぎ木』による品種更新」
- 地方独立行政法人 青森県産業技術センターりんご研究所「りんごの『新梢長穂接ぎ』について」
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