花粉管(かふんかん)

花粉管
花粉管(かふんかん)

花粉管とは

花粉管(かふんかん)とは、
花粉が発芽したときに伸びる管状の構造で、
精細胞を胚珠内の雌性配偶体まで運ぶ役割を持ちます。
英語では pollen tube(ポーレンチューブ) といいます。

被子植物では、適合する花粉が
柱頭に付着して吸水・発芽すると、
花粉から花粉管が伸び始めます。
花粉管は花柱などの
雌しべ内部を伸長し、
子房内の胚珠へ向かいます。

花粉管は単なる通路ではありません。
先端を伸ばしながら雌しべや胚珠からのさまざまな情報に応答し、
通常は胚珠の珠孔へ向かって伸長します。
被子植物の有性生殖では、
この花粉管によって2個の精細胞が雌性配偶体へ届けられ、
受精へ進みます。

花粉から花粉管が伸びるまで

被子植物では、成熟した花粉が柱頭に運ばれて付着することを
受粉といいます。
ただし、花粉が柱頭に付着しただけで
花粉管が必ず伸びるわけではありません。

花粉と柱頭の組み合わせが適合し、
温度などの条件も適している場合、
花粉は柱頭上で吸水して発芽します。
その際、花粉粒の発芽孔などから花粉管が伸び始めます。

発芽するのは花粉であり、「花粉管が発芽する」のではありません。
花粉管は、発芽した花粉から伸長する構造です。

花粉管はどこを通るのか

一般的な被子植物では、花粉管は柱頭から雌しべ内部へ入り、
花柱の組織を通って子房へ向かいます。
その後、胚珠へ向かって伸び、
通常は胚珠の珠孔(しゅこう)から内部へ進入します。

花粉管の伸長方向は、
単一の「誘導物質」だけで決まるわけではありません。
雌しべ内を移動する間には、
雌しべ側のさまざまな組織との相互作用があります。

胚珠の近くでは、
雌性配偶体にある助細胞が花粉管の誘引に重要な役割を持ちます。
植物によっては、助細胞から分泌される誘引物質を花粉管が認識して、
胚珠の珠孔へ向かうことが明らかになっています。

精細胞を運ぶ役割

被子植物の精細胞は自ら泳いで卵細胞まで移動することができません。
そこで花粉管が伸長し、
その内部を通して2個の精細胞を雌性配偶体まで運びます。

花粉管が胚珠内の雌性配偶体へ到達すると、
先端部から精細胞が放出されます。

この2個の精細胞のうち、
1個は卵細胞と融合して受精卵を形成し、
もう1個は中央細胞と融合して、
多くの場合は胚乳形成へとつながります。

この仕組みを重複受精といい、
被子植物を特徴づける重要な生殖現象です。

精細胞はいつできるのか

花粉内には生殖細胞系の細胞があり、
最終的に2個の精細胞が形成されます。

ただし、
「柱頭に花粉が付着してから初めて精細胞ができる」とは限りません。
植物によって、花粉が葯から放出される時点ですでに2個の精細胞を持つ場合と、
花粉管の伸長中に生殖細胞が分裂して2個の精細胞になる場合があります。

花粉管と重複受精

  1. 受粉:
    花粉が柱頭に付着します。
  2. 花粉の吸水・発芽:
    適合する花粉が柱頭上で吸水し、発芽します。
  3. 花粉管の伸長:
    花粉管が雌しべ内部を子房方向へ伸びます。
  4. 胚珠への誘導:
    花粉管が胚珠へ向かい、通常は珠孔から内部へ進入します。
  5. 精細胞の放出:
    花粉管から2個の精細胞が雌性配偶体へ届けられます。
  6. 重複受精:
    1個の精細胞が卵細胞と融合し、
    もう1個が中央細胞と融合します。

したがって、
「花粉が柱頭についた=受精した」ではありません。
受粉後に花粉が正常に発芽し、
花粉管が胚珠へ到達して精細胞を届ける必要があります。

花粉管の伸長と温度

花粉の発芽や花粉管の伸長速度は、
温度などの環境条件の影響を受けます。

ただし、適温や障害が現れる温度は、
作物・品種・生育段階によって異なります。
「低温だから花粉管が伸びない」
「高温なら必ず停止する」と一律に判断することはできません。

例えばトマトでは、高温によって花粉の発芽や
花粉管伸長が阻害され、着果不良につながる場合があります。
一方、果樹などでは低温によって花粉発芽や花粉管伸長が遅くなる場合もあります。

したがって、着果不良が発生した場合には、
その作物・品種について、
開花前後の実際の温度履歴と受粉条件を確認する必要があります。

農業で花粉管を見る意味

花粉管そのものを肉眼で栽培管理することはできませんが、
受粉したのに種子や果実が正常に形成されない場合には、
受粉後の花粉発芽や花粉管伸長も原因候補になります。

着果不良を調べる場合は、少なくとも次の段階を分けて考えます。

  • 正常な花粉が形成されているか
  • 葯から花粉が正常に放出されているか
  • 花粉が柱頭まで運ばれているか
  • 柱頭が受粉可能な状態か
  • 花粉が柱頭上で発芽しているか
  • 花粉管が正常に伸長しているか
  • 花粉管が胚珠まで到達しているか
  • 受精が成立しているか

着果不良を見ただけでは、花粉管伸長障害が原因とは判断できません。
花粉量、花粉の稔性、柱頭の状態、不和合性、
開花期の温度、訪花昆虫の活動などを含めて確認する必要があります。

肥料を与えれば花粉管は伸びるのか

ホウ素など一部の無機元素は、
植物の生殖過程や花粉管伸長にも関係します。

しかし、
着果不良を見てすぐにホウ素やマグネシウムを施用する判断は適切ではありません。
花粉管伸長不良の原因が養分不足とは限らず、
過剰施用による生育障害を起こす可能性もあります。

養分不足を疑う場合は、
作物の症状、施肥履歴、土壌・培地条件、養液分析、
必要に応じて植物体分析などをもとに判断します。

交配相手と花粉管伸長

植物には、自家受粉が可能なものと、
自家不和合性などによって
特定の花粉では受精しにくいものがあります。

また、異なる種や系統の組み合わせでは、
花粉の発芽や花粉管伸長などの段階で
生殖障壁が生じる場合があります。

しかし、
「異なる品種を交配すると花粉管誘導が異常になる」と一般化することはできません。
品種間交配は育種や採種で一般的に利用されています。
交配の可否は、作物ごとの不和合性や交配特性を確認して判断します。

よくある間違い

花粉管が発芽する?

違います。
発芽するのは花粉です。
花粉が発芽した結果として花粉管が伸びます。

花粉管は精細胞ですか?

違います。
花粉管は精細胞を運ぶ管状の細胞構造で、
精細胞そのものではありません。

花粉管は直接卵細胞まで伸びる?

単純に「卵細胞を目標に一直線に伸びる」と考えるのは正確ではありません。
花粉管は雌しべ内を伸長し、
胚珠へ誘導され、通常は珠孔から雌性配偶体へ進入します。
その後、精細胞が放出されて受精へ進みます。

花粉管が伸びないときはホウ素を与えればよい?

その判断はできません。
温度、花粉の稔性、柱頭の状態、不和合性など、
花粉管伸長以前の問題でも受精不良は発生します。
養分欠乏が確認できない状態で微量要素を施用するべきではありません。

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