循環扇(じゅんかんせん)

循環扇

循環扇とは

循環扇(じゅんかんせん)とは、温室やビニールハウスなどの施設内で空気を循環させ、気温、湿度、CO₂濃度などの分布の偏りを小さくするための送風設備です。

英語ではAir Circulation FanやGreenhouse Circulation Fanなどと表記します。

温室内に水平気流を形成するタイプは、HAF(Horizontal Airflow Fan)とも呼ばれます。

循環扇は、温室内の空気を動かすことによって、暖房時の温度むらの改善、植物周辺の気流確保、局所的な高湿度状態や結露の軽減などに利用されます。

循環扇は換気扇とは異なり、施設内の空気を直接屋外へ排出する設備ではありません。

また、循環扇そのものに冷房・除湿・加湿・加温機能があるわけではなく、空気の流れを利用して栽培環境を調整する設備です。

循環扇の仕組み

温室内の空気は、日射や暖房設備、作物の蒸散などによって温度や湿度が場所ごとに異なります。

例えば、暖房時には温められた空気が上昇し、天井付近と作物付近に温度差が生じることがあります。また、作物の葉が密集している場所では、湿った空気が滞留しやすくなります。

循環扇はファンの回転によって空気を送り出し、施設内に強制的な気流を形成します。

この気流によって異なる場所の空気が混ざり合い、温度や湿度などの偏りを小さくします。

ただし、循環扇の効果は風が届く範囲に限られます。ファンの風量、設置位置、送風方向、作物群落の状態によって、施設内の気流分布は変化します。

循環扇の主な役割

温度むらを小さくする

温室では、屋根付近、側壁付近、暖房機の周囲などに温度差が生じる場合があります。

循環扇によって空気を動かすと、暖かい空気と冷たい空気が混ざり、施設内の温度分布を均一に近づけられます。

特に、暖房設備を使用する冬季や、換気窓を閉じている時間帯に効果が期待されます。

湿度の偏りを改善する

植物は蒸散によって水蒸気を放出するため、葉が密集した場所では周囲の湿度が高くなることがあります。

循環扇で空気を動かすと、作物群落内に滞留した湿った空気が周囲の空気と混ざり、局所的な高湿度状態を緩和できる場合があります。

ただし、循環扇は水蒸気を屋外へ排出しません。

湿度の均一化と除湿は別の作用です。施設全体の水蒸気量を減らすには、換気や除湿などの手段が必要になります。

結露を軽減する

植物の葉や被覆材などの表面温度が周囲空気の露点温度を下回ると、結露が発生することがあります。

循環扇によって空気を動かすと、冷たい場所と暖かい場所の温度差が小さくなったり、葉面付近の湿った空気が入れ替わったりするため、結露が軽減される場合があります。

一方、施設全体が高湿度であれば、循環扇だけで結露を防ぐことはできません。

CO₂濃度の偏りを小さくする

日中の温室では、植物の光合成によってCO₂が消費されます。

換気が少ない条件では、作物周辺と施設内のほかの場所でCO₂濃度に差が生じる場合があります。

循環扇によって空気を混合すると、こうした濃度の偏りを小さくできることがあります。

また、CO₂施用設備と併用する場合にも、供給したCO₂の分布を改善できる可能性があります。

循環扇はCO₂を発生させる設備ではないため、空気を循環させるだけで施設内のCO₂総量が増えることはありません。

循環扇と植物の蒸散・光合成

植物の葉の表面には、周囲の空気と交換が進みにくい薄い空気層が形成されます。これを葉面境界層と呼びます。

循環扇によって葉の周囲に適度な気流が生じると、この境界層が薄くなり、葉面と周囲空気との熱、水蒸気、CO₂の交換が促される場合があります。

その結果、葉温や蒸散、光合成に影響することがあります。

ただし、風が強ければ強いほど植物に有利というわけではありません。

強すぎる気流は蒸散を過度に促し、水分ストレスや葉の損傷につながる場合があります。また、作物の種類や生育段階によって適した気流条件は異なります。

「循環扇を設置すれば必ず光合成量が増える」という解釈は適切ではありません。

循環扇と飽差(VPD)

飽差(VPD)は、空気の乾燥状態や植物の蒸散環境を理解するための指標です。

循環扇によって温度や湿度の偏りが改善すると、施設内の各地点における飽差の分布も変化する場合があります。

また、葉の周囲の気流が変わることで、葉面境界層を介した水蒸気や熱の交換にも影響します。

ただし、循環扇自体が一定の飽差を作り出すわけではありません。

気温、相対湿度、葉温、気流速度を合わせて評価する必要があります。

暖房時に循環扇を利用する効果

冬季の温室では、暖房機付近と離れた場所、天井付近と作物付近などで温度差が生じることがあります。

温度むらが大きいと、最も寒い場所で必要温度を確保するために、暖房設定温度を高めざるを得ない場合があります。

循環扇で温度分布を改善できれば、作物に必要な温度を維持しながら過剰な暖房を減らせる可能性があります。

農林水産省の「施設園芸省エネルギー生産管理マニュアル(改定2版)」では、循環扇による温度むらの改善によって、10%程度の省エネルギー効果が期待されると紹介されています。

ただし、この数値は循環扇を設置したすべての施設で実現することを保証するものではありません。

暖房方式、施設の保温性能、循環扇の配置、外気条件、運転時間などによって効果は変わります。

循環扇の設置台数と気流速度

循環扇の必要台数は、施設面積だけで決まるものではありません。

施設の間口、奥行き、軒高、作物の草丈、栽植密度、ファンの性能などによって、実際の気流分布が変わります。

農研機構は、トマトを栽培する温室で循環扇の設置台数と気流分布を調査しています。

その研究では、直径0.36m、風量79m³/分の循環扇を使用し、草丈約1.8mのトマト温室で試験を行いました。

換気窓を閉じた日中の条件では、1,000㎡当たり10~15台の循環扇を稼働させることで、平均気流速度が約0.36~0.44m/sとなった試験結果が示されています。

この研究は、特定のファンと栽培条件に基づくものです。

「どの温室でも1,000㎡当たり10~15台必要」「作物には常に0.3~0.5m/sの風が最適」といった一律の設計基準として扱ってはいけません。

作物の草丈、群落密度、必要な気流条件などに応じて、台数と配置を検討します。

循環扇の設置位置と送風方向

循環扇は、単にファンを均等な間隔で設置すればよいという設備ではありません。

施設全体に空気が流れる経路を形成することが重要です。

単棟ハウスの場合

間口が比較的狭い単棟ハウスでは、長手方向へ風を送り、施設内で戻りの気流が形成されるように配置する方法があります。

ファンの風が届く距離や作物による通気抵抗を考え、必要な位置へ循環扇を配置します。

連棟ハウスの場合

間口の広い連棟ハウスでは、複数の気流循環経路を形成する配置が利用されます。

すべての循環扇を同じ方向へ向けることが適切とは限りません。棟ごとの構造や設備配置に応じて風向を検討します。

作物との位置関係

一般的には、作物の最上部と屋根の間など、ファン直後の強い風が植物体へ直接当たりにくい位置に設置します。

ただし、ファンを作物から離せば必ず適切な気流になるわけではありません。

葉面周辺や群落内部まで必要な気流が届いているか、実際に確認します。

ファン風量と気流の到達距離

循環扇を選定するときには、カタログに記載された風量だけで判断しないことが大切です。

農研機構の研究では、循環扇の気流到達範囲が機種によって異なり、仕様書に記載された風量と実際の到達範囲の間に、明確な相関が認められなかったことが報告されています。

さらに、作物群落があると、葉や茎によって気流が妨げられ、到達範囲が短くなる場合があります。

このため、風量の数値だけで機種を比較するのではなく、送風方向、風の到達距離、消費電力、設置環境などを確認します。

導入後には、実際の栽培状態で風速を測定し、配置を調整することが望まれます。

循環扇と換気扇の違い

循環扇と農業用換気扇は、どちらもファンを利用する設備ですが、目的が異なります。

循環扇

温室内の空気を循環させ、気温、湿度、CO₂濃度などの分布を均一に近づけます。

基本的には施設内部の空気を移動させるため、屋外との空気交換を直接行いません。

換気扇

施設内の空気を屋外へ排出したり、外気を取り込んだりして、空気を入れ替えるための設備です。

高温の空気や湿った空気の排出、CO₂を含む外気の導入などに利用します。

循環扇と換気扇は代替関係ではなく、必要に応じて組み合わせて使用します。

循環扇と細霧冷房の組み合わせ

細霧冷房は、微細な水滴を噴霧し、その水が蒸発するときの気化熱を利用して空気を冷却する方式です。

循環扇と組み合わせることで、噴霧した霧の分布や施設内の気流を改善できる場合があります。

ただし、気流条件によっては特定の作物へ霧が集中したり、水滴が葉へ付着したりすることがあります。

細霧冷房と循環扇を併用する場合は、ノズルの位置、噴霧量、送風方向、換気量などを一体として調整します。

循環扇とパッドアンドファンの違い

パッドアンドファンは、水の気化熱を利用して空気を冷却する設備です。

一般的な負圧式では、冷却パッドを通した外気を施設へ導入し、反対側の排気ファンから空気を排出します。

循環扇は施設内の空気を動かすことを主な目的とし、パッドアンドファンのように水の蒸発によって外気を冷却する機能はありません。

両者を併用する場合は、循環扇の風が冷却空気の流れを妨げないように配置を検討します。

循環扇と病害発生リスク

循環扇による気流は、作物群落内の高湿度状態や葉面の濡れを軽減し、病害が発生しにくい環境づくりに役立つ場合があります。

農林水産省の省エネルギー生産管理マニュアルでも、循環扇による結露の軽減と好湿性病害の抑制効果が期待されています。

ただし、循環扇に殺菌作用があるわけではありません。

また、病原体の種類や気流条件によっては、空気中の病原体や胞子の拡散に影響する可能性もあります。

循環扇を設置すれば病害を防げると判断することはできません。

病害対策では、湿度管理、換気、適切な栽植密度、感染源の除去などを組み合わせます。

夏季に循環扇を使用する場合の注意点

夏季の温室では、循環扇によって局所的な空気の滞留を改善したり、葉面周辺の熱交換を促したりできる場合があります。

しかし、循環扇は施設内の熱を直接屋外へ排出する設備ではありません。

そのため、温室内の空気そのものが高温になっている場合、循環扇だけでは十分な高温対策になりません。

また、強い気流によって蒸散が過度に促されると、植物の水分状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

夏季の高温対策では、換気、遮光・遮熱、細霧冷房などを含めて設備を検討します。

循環扇の利点

  • 温室内の気温や湿度の偏りを改善できる場合がある
  • 暖房時の温度むらを小さくし、過剰な加温を減らせる可能性がある
  • 植物周辺の空気の滞留を改善できる
  • 局所的な高湿度状態や結露の軽減に役立つ場合がある
  • CO₂濃度の偏りを小さくできる場合がある
  • 換気、暖房、細霧冷房などの設備と組み合わせて利用できる

循環扇の課題

施設の熱や水蒸気を排出できない

循環扇だけでは、屋外との空気交換や除湿を行うことはできません。

設置位置によって気流が偏る

ファンの方向や作物群落の状態によって、風が強すぎる場所と、ほとんど届かない場所が生じる場合があります。

強風が作物へ悪影響を及ぼす場合がある

過度な気流は水分ストレスや葉の損傷などにつながる可能性があります。

電力と維持管理が必要になる

循環扇の運転には電力が必要です。また、粉じんの付着やモーターの劣化、取付金具の緩みなどに注意して点検を行います。

施設条件によって必要台数が変化する

同じ床面積でも、施設の形状や作物の草丈、送風の到達距離などによって必要台数は異なります。

循環扇でよくある誤解

「循環扇はハウス内の熱気を外へ排出する」

循環扇は施設内の空気を循環させる設備です。

高温の空気を屋外へ排出するには、換気窓や換気扇などによる換気が必要です。

「循環扇を回せばハウス内の湿度が下がる」

循環扇によって局所的な高湿度状態を改善できる場合はありますが、施設内の水蒸気を除去することはできません。

除湿が必要な場合は、換気や除湿設備などの利用を検討します。

「風量が大きい循環扇ほど優れている」

ファンの風量が大きくても、施設内の必要な位置へ適切な気流が届くとは限りません。

風の到達範囲、設置方向、消費電力、作物への影響などを合わせて評価します。

「風が強いほど光合成が促進される」

適度な気流によって葉面周辺のガス交換が促される場合がありますが、強すぎる風は作物に悪影響を与える可能性があります。

作物の種類や生育段階に応じた気流管理が必要です。

「循環扇を設置すれば病害が発生しなくなる」

循環扇は結露や局所的な過湿の軽減に役立つ場合がありますが、病害を直接防除する設備ではありません。

病原体、感染源、湿度、葉濡れなどを総合的に管理します。

「メーカーの推奨台数を設置すれば必ず均一になる」

実際の気流分布は、施設形状や作物群落、設備配置によって変わります。

設置後に温湿度と気流を測定し、必要に応じて風向や台数を調整します。

循環扇を導入する前に確認したい条件

  • 施設条件:床面積、間口、奥行き、軒高、単棟・連棟の違い
  • 栽培条件:作物の種類、草丈、栽植密度、葉や茎による通気抵抗
  • 環境条件:温度むら、湿度むら、結露の発生場所、換気状態
  • 機器仕様:風量、気流到達範囲、消費電力、風向調整機能
  • 設置条件:取付位置、構造部材の強度、作物や作業者との距離
  • 連動設備:暖房機、換気扇、細霧冷房、保温カーテン、環境制御装置
  • 維持管理:電源容量、配線、防水・防湿性能、清掃、交換部品

導入効果を評価する際には、ファンの近くの風速だけでなく、作物周辺の気流、温湿度分布、暖房負荷などを確認します。

また、温湿度センサーの設置位置や測定高さが異なると、導入前後の測定結果を正しく比較できないことがあります。

循環扇の目的は、単に強い風を発生させることではなく、栽培空間に必要な空気の流れを形成することです。

関連する資材分類・農業用語

参考資料

設備選定について:
循環扇の必要台数や設置間隔、風速は、施設の形状、作物の種類、草丈、栽植密度、ファンの性能などによって異なります。研究成果に示された設置台数や気流速度は、特定の条件で得られたものです。実際の導入では、施設の条件に合わせて機器を選定し、設置後の気流・温湿度分布を確認してください。

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