太陽光利用型植物工場とは
太陽光利用型植物工場(たいようこうりようがたしょくぶつこうじょう)とは、温室などで太陽光を主な光源として利用しながら、温度、湿度、CO2濃度、水分、養分などの生育環境を計測・制御し、計画的で安定した植物生産を目指す植物工場です。
トマト、キュウリ、パプリカ、イチゴなどの果菜類を中心に、高度な施設園芸で利用されています。
太陽光利用型植物工場は、一般的なビニールハウスや温室の別名ではありません。
一般的な施設園芸でも暖房、換気、灌水などの環境調節は行われますが、太陽光利用型植物工場では、環境や作物の状態を計測し、そのデータを利用して複数の環境要素を総合的に制御することが大きな特徴です。
農林水産省の大規模施設園芸・植物工場の実態調査では、植物工場などを、一定の気密性を持つ施設内で環境・生育のモニタリングに基づく高度な環境制御や生育予測を行い、周年・計画生産を行う施設として整理しています。
「太陽光利用型」と「太陽光型」の違い
「太陽光利用型植物工場」と「太陽光型植物工場」は、資料によって使い方が異なることがあります。
農研機構では「太陽光利用型植物工場」という名称が広く使用されています。
農林水産省の大規模施設園芸・植物工場の実態調査では、次のように区分しています。
- 太陽光型:太陽光を基本として高度な環境制御を行い、人工光による補光を行わない施設
- 太陽光・人工光併用型:太陽光を基本として高度な環境制御を行い、人工光による補光も行う施設
- 人工光型:太陽光を使わず、人工光を利用して高度な環境制御を行う施設
そのため、公的統計や調査結果を比較するときは、資料内でどの区分が採用されているかを確認する必要があります。
一般的な施設園芸との境界
施設の大きさや設備の数だけで、太陽光利用型植物工場かどうかを判断することはできません。
大型温室であっても、単純な温度制御だけを行っている施設を植物工場と呼ぶとは限りません。
反対に、温度、湿度、CO2、日射、灌水などを計測し、生育情報と組み合わせて高度な環境制御を行う施設では、植物工場として扱われる場合があります。
「環境制御装置が1台付いている」「養液栽培をしている」「1ha以上ある」といった一つの条件だけで植物工場になるわけではありません。
なお、農林水産省の実態調査では調査対象を整理するため、太陽光型について施設面積がおおむね1ha以上などの条件を設けていますが、これは調査対象を区切る条件であり、「1ha未満は植物工場ではない」という定義ではありません。
太陽光利用型植物工場の主な設備
施設、作物、地域気象、作型によって設備構成は異なります。
代表的には、次のような設備が組み合わされます。
- 天窓・側窓などの換気設備
- 暖房設備
- 細霧冷房などの冷房・暑熱対策設備
- パッドアンドファン
- 遮光・遮熱・保温カーテン
- 循環扇
- CO2施用設備
- 灌水・養液供給設備
- 温度、湿度、CO2、日射、培地水分などのセンサー
- 環境制御装置・栽培管理システム
すべての施設がこれらの設備を備えているわけではありません。
設備を増やすこと自体が植物工場の目的ではなく、作物の生育と外部環境に応じて必要な設備を組み合わせることが基本です。
太陽光利用型と人工光型の違い
人工光型植物工場との最も大きな違いは、光合成に必要な光をどこから得るかです。
人工光型では、太陽光を利用せず、LEDなどの人工光を栽培光源として使用します。
太陽光利用型では、自然の日射を主な光源として利用します。
そのため、栽培面全体を人工照明で照射する人工光型と比較すると照明用電力を抑えられますが、日射量、外気温、外気中の水分量、風など屋外気象の影響を受けます。
太陽光利用型は、外部気象から独立した完全閉鎖型の栽培方式ではありません。
太陽光・人工光併用型との関係
太陽光を主な光源としながら、曇雨天時、朝夕、特定の時間帯などにLEDや高圧ナトリウムランプなどで補光する施設があります。
農林水産省の実態調査では、このような施設を太陽光・人工光併用型植物工場として、人工光による補光を行わない太陽光型とは区別しています。
温室でLEDを使用しているから人工光型植物工場、という判断は誤りです。
人工光型植物工場は太陽光を栽培光源として利用しない方式です。
太陽光利用型植物工場と環境制御
太陽光利用型植物工場では、日射、外気温、外気中の水分量、風速などが時間とともに変化します。
施設内でも、温度、湿度、CO2、気流、根域水分などは互いに影響し合います。
例えば、晴天時に施設内温度が上昇して天窓や側窓を開くと、施設内外の空気交換量が増えます。
CO2施用によって施設内濃度を外気より高くしている場合、換気量の増加はCO2の施設外への損失を増やし、高濃度を維持しにくくします。
反対に、CO2を施用しておらず、作物の光合成によって施設内濃度が外気より低下している場合には、換気によって外気からCO2が供給されます。
「換気するとCO2濃度が下がる」と一律に考えるのは誤りです。
温度、湿度、CO2、光、気流、灌水を別々に考えるのではなく、植物の光合成、蒸散、生育状態を含めて管理します。
湿度管理では相対湿度だけを見ない
施設内の湿度管理では、相対湿度だけで換気や除湿の可否を判断しない方が適切です。
例えば、外気の相対湿度が高くても、外気温が低く、外気に含まれる実際の水蒸気量が施設内より少ない場合には、換気によって除湿できることがあります。
反対に、外気の水蒸気量が多ければ、換気だけでは十分に除湿できない場合があります。
そのため、換気による除湿を判断するときは、相対湿度だけではなく、温度、絶対湿度、露点なども確認します。
飽差(VPD)の管理
施設園芸では、温度と相対湿度から求める飽差(VPD)を、植物周辺の乾燥程度や蒸散環境を把握する指標として利用する場合があります。
VPDが大きくなると、一般に葉と周囲の空気との水蒸気圧差が大きくなり、蒸散を促す力も大きくなります。
根からの吸水が追い付かない状態などでは、植物の水分状態が悪化し、気孔コンダクタンスが低下することがあります。
反対に、VPDが極端に小さい状態では蒸散が小さくなり、養水分移動や植物体表面の乾燥などに影響する場合があります。
ただし、空気温度と相対湿度から求めたVPDだけで植物の蒸散量を決めることはできません。
葉温、日射、植物の水分状態、気孔開度、風速、葉面境界層なども影響します。
また、結露は表面温度が露点温度以下になることで発生するため、「VPDが小さい=必ず結露する」という関係でもありません。
CO2施用
換気が少ない日中には、作物の光合成によって施設内のCO2濃度が外気より低くなることがあります。
そこでCO2施用を行い、光合成に必要なCO2を補給する場合があります。
CO2施用の効果は、CO2濃度だけで決まりません。
日射量、葉面積、温度、湿度、植物の水分状態、気孔開度、生育段階などによって変わります。
また、換気量が多い状態で外気濃度以上のCO2を維持しようとすると、施設外へ失われるCO2量が増えます。
「CO2濃度を高く設定するほど収量が増える」と考えないでください。
投入したCO2量と作物が利用できる量、換気による損失、CO2コストを含めて管理します。
養液栽培との組み合わせ
太陽光利用型植物工場では養液栽培が広く利用されています。
トマトやパプリカなどでは、ロックウールやヤシ殻などの培地を利用し、点滴灌水によって水分と肥料成分を供給する方式があります。
イチゴでは高設栽培と組み合わせる例があります。
日射量、培地水分、生育段階、植物の吸水量などに応じて灌水量や灌水回数を調整し、根域の水分・養分状態を管理します。
ただし、養液栽培は太陽光利用型植物工場の必須条件ではありません。
土耕栽培を行う高度環境制御施設も存在します。
高軒高温室と長期栽培
太陽光利用型植物工場では、トマトやキュウリなどで高軒高温室とハイワイヤー誘引を組み合わせ、長期間収穫を続ける栽培方式が利用されることがあります。
軒高を確保することで栽培空間や温室内の空気量を確保し、長く伸長する植物を管理しやすくできます。
ただし、高軒高温室であることは太陽光利用型植物工場の定義条件ではありません。
イチゴなど、作物や栽培方式によって施設構造は大きく異なります。
太陽光利用型植物工場の利点
太陽光を栽培光源として利用できる
光合成に必要な光を主として自然の日射から得るため、栽培面全体を人工光で照射する方式と比較して照明用電力を抑えられます。
ただし、補光を行う施設では補光設備の電力も必要になります。
果菜類の高度な生産管理に利用できる
トマト、キュウリ、パプリカ、イチゴなどで、環境計測、灌水制御、CO2施用などを組み合わせた生産管理が行われています。
データを栽培改善に利用できる
日射、温度、湿度、CO2、灌水量、生育量、収量などを記録することで、生育と環境の関係を分析し、次の栽培管理へ反映できます。
ただし、データを取得するだけでは改善にはつながりません。測定値を栽培判断へ結び付ける必要があります。
太陽光利用型植物工場の課題
外部気象の影響をなくすことはできない
太陽光を利用するため、日射不足、猛暑、低温、強風などの影響を受けます。
設備によって影響を緩和することはできますが、外部気象を完全に無視できる施設ではありません。
暖房・冷房などにエネルギーが必要
冬季には暖房、高温期には冷房・暑熱対策が必要になる場合があります。
地域気象、作物、作型、施設性能によって必要エネルギーは大きく異なります。
設備費と維持費がかかる
CO2施用、細霧冷房、パッドアンドファン、補光、自動灌水、センサーなどの設備には導入費だけでなく、電力、水、燃料、保守、部品交換などの費用がかかります。
導入できる設備を増やすことと、利益が増えることは同じではありません。
増収、省力化、品質安定、エネルギー削減などによる利益と、設備投資・維持費を比較する必要があります。
センサー値が施設全体を代表するとは限らない
大規模温室では、場所によって温度、湿度、CO2濃度、光量、気流などに差が生じることがあります。
センサーの設置位置が不適切であれば、制御装置が正確に動作していても、作物群落の環境を適切に把握できません。
センサーの位置、精度、校正、施設内の環境分布も確認します。
太陽光利用型植物工場でよくある誤解
「大きな温室なら植物工場」と考える
誤りです。
規模だけで植物工場かどうかは決まりません。
環境・生育情報の計測と、それを利用した高度な環境制御・生産管理が重要です。
「環境制御装置を付ければ植物工場になる」と考える
環境制御装置は設備を動かすための道具です。
不適切なセンサー値や設定値を入力すれば、自動制御されていても適切な生育環境にはなりません。
「設定温度を一定にすればよい」と考える
植物の生育は瞬間的な気温だけでは決まりません。
日射、昼夜温、平均温度、湿度、CO2、根域環境、水分状態などが相互に影響します。
一定温度を維持すること自体を目的にせず、作物と生育段階に応じて管理します。
「外気の相対湿度が高ければ換気しても除湿できない」と考える
相対湿度だけでは判断できません。
施設内外の温度が異なる場合、相対湿度だけを比較しても空気中に含まれる水蒸気量を正しく比較できません。
絶対湿度や露点などを含めて判断します。
「CO2を多く与えるほど収量が増える」と考える
誤りです。
CO2施用の効果は、光、温度、湿度、葉面積、気孔開度などに左右されます。
他の要因が光合成を制限している状態では、CO2濃度だけを高くしても投入量に見合う効果が得られない場合があります。
「養液栽培なら植物工場」と考える
養液栽培と植物工場は同義ではありません。
一般的な施設園芸でも養液栽培は行われます。
植物工場かどうかは、栽培培地ではなく、生産システム全体の環境計測・制御・生産管理を含めて判断します。
「高度な設備を入れれば多収になる」と考える
設備は生産性向上のための手段です。
品種、栽植密度、草勢管理、着果負担、根域管理、作業精度などが適切でなければ、設備性能を収量や利益へ結び付けることはできません。
関連する資材分類・農業用語
太陽光利用型植物工場の参考動画
太陽光利用型植物工場では、温室内で作物を長期間栽培しながら、環境制御、灌水、誘引などの管理を継続して行います。
農研機構が公開している次の動画では、太陽光利用型施設におけるトマト生産の仕組みを確認できます。
植物工場におけるトマト生産
農研機構
動画について:
この動画は、太陽光利用型施設におけるトマト生産の仕組みを理解するための参考資料として紹介しています。農材ドットコムが制作・管理している動画ではありません。動画の内容、公開状況、URLなどは公開元の都合により変更または削除される場合があります。また、実際の施設構造、栽培方式、環境制御方法は、施設、地域、作物、品種、作型などによって異なります。
参考資料
- 農林水産省「施設園芸のページ・大規模施設園芸/植物工場 実態調査・事例集」
- 農研機構「植物工場 つくば実証拠点」
- 農研機構「施設生産ユニット」
- 農研機構「太陽光利用型植物工場の施設概要」
- 農畜産業振興機構「施設園芸・植物工場をめぐる動向と課題」
施設導入について:
太陽光利用型植物工場の適切な設備構成は、作物、地域気象、作型、施設規模、既存設備、エネルギー条件、販売計画によって異なります。高度な設備を増やすこと自体を目的にせず、増収、省力化、品質安定、エネルギー削減などの目的を明確にし、設備投資、維持費、期待される効果を含めて判断してください。
見つからない用語・製品の登録をリクエスト
個人情報の入力は不要です。掲載してほしい名称だけをお知らせください。