循環扇とは
循環扇(じゅんかんせん)とは、
ビニールハウスや温室などの施設内に気流を作り、
空気を循環させるための送風機です。
施設内の気温、湿度、二酸化炭素(CO2)濃度などの
場所による偏りを小さくしたり、
暖房時に上部へたまりやすい暖気を動かしたりする目的で使用されます。
循環扇と換気扇は同じ設備ではありません。
換気は、
施設内の空気と外気を入れ替えることです。
循環扇は主に施設内部の空気を動かします。
施設内で循環扇だけを運転しても、
外気との空気交換が行われるとは限りません。
外気を強制的に取り入れたり、
施設内の空気を排出したりする場合には、
農事用換気扇(農業用換気扇)や
換気開口部などを使用します。
循環扇で施設内の空気を動かす目的
気温のムラを小さくする
暖房中のハウスでは、
暖められた空気が上部へ移動し、
暖房機や温風ダクトの位置、
施設形状などによって場所ごとの温度差が生じることがあります。
循環扇で空気を動かすことで、
こうした温度分布の偏りを小さくできる場合があります。
農研機構の温室試験でも、
温風暖房時に循環扇を使用することで
施設内の気温差が小さくなった例が報告されています。
循環扇を設置すれば必ず暖房費が下がるわけではありません。
暖房設備、設定温度、ハウスの断熱性、
循環扇の配置や運転方法などによって効果は変わります。
空気の停滞を減らす
作物が繁茂したハウスでは、
葉が重なった部分や群落内部で空気が動きにくくなることがあります。
循環扇によって気流を作ることで、
局所的な高湿度や温度の偏りを緩和できる場合があります。
循環扇そのものに除湿能力はありません。
施設内で空気を循環させても、
水蒸気そのものを施設外へ排出しているわけではありません。
施設全体の水蒸気量を減らすには、
外気条件を確認したうえでの換気や、
除湿設備などが必要になります。
葉の周囲に気流を作る
風が非常に弱い環境では、
葉の表面付近に空気が動きにくい層が形成されます。
これを葉面境界層と呼びます。
葉面付近に適度な気流があると、
葉面境界層の抵抗が小さくなり、
葉と周囲の空気との間で行われる
CO2、水蒸気、熱などの交換に影響します。
農研機構のトマト温室試験では、
換気窓を閉じた条件で、
施設内に0.3~0.5m/s程度の気流を形成する試験が行われています。
この数値をすべての作物にそのまま適用することはできません。
作物の種類、生育段階、葉面積、
気温、湿度、飽差などによって、
適する気流条件は変わります。
風を強くすれば光合成が増えるという意味ではありません。
強すぎる気流は
蒸散を増加させたり、
葉や花、果実を揺らしたり、
乾燥ストレスや擦れなどを生じさせる場合があります。
CO2濃度の偏りを小さくする
CO2施用を行う施設では、
施用位置や作物群落の状態によって
施設内のCO2濃度に差が生じることがあります。
循環扇や送風設備を利用して空気を動かすことで、
CO2を施設内へ拡散させる用途があります。
循環扇はCO2を発生させる設備ではありません。
CO2施用設備や換気設備と組み合わせて使用し、
必要に応じて環境制御機器から連動させます。
循環扇だけではハウスの熱を外へ出せない
夏季に循環扇を運転すると、
局所的な空気の停滞を減らし、
作物や作業者の周囲に気流を作ることができます。
しかし、
施設を閉め切った状態で循環扇を回しても、
ハウス内の熱を施設外へ排出しているわけではありません。
平均的な施設内気温を下げるには、
換気、
遮光・遮熱、
細霧冷房など、
外部への排熱や熱負荷を減らす方法との組み合わせを検討します。
高温障害対策として循環扇を使用する場合も、
「循環」と「冷却」を同じものとして扱わないことが必要です。
循環扇と病害の関係
空気が停滞して局所的な高湿度や結露が続いている場合には、
循環扇による気流形成が
葉面や群落周辺の環境改善に役立つことがあります。
しかし、
循環扇は病害防除装置ではありません。
病害の発生は、
病原菌、気温、湿度、葉濡れ時間、
作物の感受性など複数の条件に左右されます。
病原菌の種類によっては、
胞子などの移動に気流が関係する場合もあります。
「循環扇を回せば病気を防げる」と判断するのは適切ではありません。
循環扇の選び方
循環扇は、
羽根径やカタログ上の風量だけでは選定できません。
確認したいのは、
送風方向、風速分布、到達距離、
消費電力、電源、運転音、
耐湿性・耐食性、
設置方法、風量調節や外部制御への対応などです。
中でも注意したいのが到達距離です。
メーカーが示す到達距離は、
所定の試験条件で測定された値です。
実際のハウスには、
作物群落、内張カーテン、暖房ダクト、
支柱、誘引資材、栽培ベンチなどがあります。
これらが気流を遮るため、
カタログ値と同じ距離まで
同じ風速で届くとは限りません。
農研機構の試験でも、
作物群落によって循環扇の気流到達範囲が低下しています。
循環扇の配置で注意すること
循環扇は、
単純に等間隔で取り付ければよい設備ではありません。
単棟ハウスでは、
施設内に大きな循環流を形成するように
同一方向へ配置する方法があります。
連棟ハウスでは、
棟数、間口、谷部、カーテン、
作物群落などによって気流が複雑になります。
連棟だから対角線配置と決めつけることはできません。
施設形状と作物配置を確認して、
空気がどこを通り、どこで戻るのかを考えて配置します。
作物への直接風に注意する
循環扇の正面では、
作物周辺よりかなり強い風になる場合があります。
一般には作物群落上部などへ設置し、
強い風が同じ葉や花、果実へ
長時間直接当たり続けないようにします。
適切な設置高さは、
循環扇の機種、作物の草丈、
栽培方式、ハウス形状によって異なります。
「作物の最上部と天井の間ならどこでもよい」
という意味ではありません。
設置後に気流を確認する
循環扇は設置しただけで終わりではありません。
作物群落上部だけでなく、
群落内部、通路、妻面付近、
ハウス中央部など複数の場所で
実際の気流を確認します。
必要に応じて風速計などを使用し、
風向、風速、停滞部分を確認して
角度や運転台数を調整します。
作物が小さい時期と繁茂した時期でも、
気流の通り方は変化します。
暖房機と循環扇
冬季は、
ハウス暖房機や
ダクトから供給された暖気を
施設内へ分散させるために循環扇が利用されます。
温風が届きにくい場所や、
施設上部に暖気が滞留している場合には、
循環扇によって温度分布を改善できる可能性があります。
循環扇の風向を誤ると、
暖房ダクトからの気流と干渉したり、
意図しない場所へ暖気を移動させたりすることがあります。
暖房設備と循環扇は別々に配置するのではなく、
施設全体の気流として検討します。
自動制御する場合
循環扇には、
タイマー、温度センサー、
暖房機、CO2施用装置、
複合制御盤などと
連動できる製品があります。
例えば、
暖房運転中だけ循環させる、
時間帯によって運転する、
CO2施用時に送風するなどの制御が可能です。
センサーと接続しただけで
施設内を「最適な温度・湿度」に維持できるわけではありません。
循環扇が直接制御できるのは主に気流です。
温度、湿度、CO2濃度などは、
換気、暖房、冷房、除湿、CO2施用など
他の設備との組み合わせで調整します。
循環扇の電源・施工で確認すること
循環扇には、
単相100V、三相200Vなど
機種によって異なる電源仕様があります。
複数台を設置する場合は、
総負荷、配線、ブレーカー、
制御盤の容量なども確認します。
アース、漏電対策、
過電流保護などは
各製品の施工説明書に従って施工してください。
施設園芸用製品でも、
水や薬液への耐性は機種によって異なります。
「農業用だから防水」と判断してはいけません。
散水、細霧、農薬散布などが行われる施設では、
製品の保護等級やメーカー指定の設置条件を確認します。
循環扇で起こりやすい誤選定・誤使用
「循環扇を回せば換気できる」
誤りです。
施設内部で空気を循環させるだけでは、
外気との空気交換は行われません。
「到達距離40mなら40m間隔で設置できる」
誤りです。
作物群落やカーテンなどによって
実際の到達範囲は変化します。
「強い風ほど作物に良い」
誤りです。
過度な気流は蒸散過多や乾燥、
葉や花などへの機械的な負荷につながる場合があります。
「循環扇を付ければ病害を防げる」
誤りです。
循環扇は局所的な高湿度や空気停滞を改善する手段の一つであり、
病害防除そのものではありません。
「循環扇を付ければ暖房費が下がる」
温度ムラの改善によって暖房運用を改善できる場合はありますが、
省エネルギー効果は施設条件や制御方法によって変わります。
循環扇取り扱いメーカー・代理店
| 製造・発売元 | 製品名・製品群 | 特徴 |
|---|---|---|
| フルタ電機株式会社 | 循環扇 エアビーム | 施設園芸用循環扇。直進性の高い気流を形成するABシリーズを展開。パイプハウス向けから大型鉄骨ハウス向けまで複数機種があります。 |
| メルコエアテクノロジー株式会社 | 25cmストレートパワーファン | 施設園芸向け循環扇。羽根径25cm、単相100V・三相200Vを展開。近距離の空気循環向け。 |
| メルコエアテクノロジー株式会社 | 30・35cmストレートパワーファン | 直進性の高い気流を中・遠距離へ送る施設園芸用循環扇。30cm・35cmタイプを展開。 |
| 株式会社スイデン | すくすくファン SHC-35C-1/-3 | 施設園芸用循環扇。ステンレス製、全閉型モータを採用した35cmタイプ。 |
| ユニバーサリー電工株式会社 | JET FAN JF370 | 370mm金属製軸流羽根を使用した三相200V循環扇。専用システムでは温度による5段階風速制御にも対応。 |
| 日農工業株式会社 | 循環扇 風来望シリーズ | 風来望POWER、風来望Ⅱ、風来望Jr'Proなどを展開。100V・200V仕様や各種制御盤があります。 |
| ネポン株式会社 | ネポンFAN FANシリーズ | 水平固定気流を形成する施設園芸用ファン。FAN-303S1、FAN-303T、FAN-400Tを展開。 |
| ネポン株式会社 | ダイレクトファン DFN-102TE | 吹出口が360度旋回する施設園芸用ファン。作物上部に空間のある施設などに対応。 |
| パナソニック環境エンジニアリング株式会社 | マザーファン NK-35MTB | 施設園芸・畜産向け循環扇。羽根径35cm、三相200V仕様。NK-30MTCは生産終了品のため除外。 |
| 渡辺パイプ株式会社 グリーン事業部 | ドライファン はやぶさ・はやてプラス | 大規模ハウス向けの「はやぶさ」と、小~中規模パイプハウス向けの「はやてプラス」を展開。 |
| トミタテクノロジー株式会社 | Priva エコ・ファン | Priva B.V.の日本正規ディーラー。並列循環方式・直列循環方式に対応する温室用循環ファンを取り扱います。 |
| 株式会社山本産業 | ボルナドファン | 施設園芸向け循環扇として現在も流通を確認できます。現行公式メーカー製品ページを確認できなかったため外部リンクは付けておりません。 |