緑肥とは
緑肥(りょくひ)とは、作物を栽培し、その植物体を収穫物として利用せず、主に土壌へすき込むことで、土づくり、養分管理、土壌物理性の改善、有害生物の抑制などに利用する作物、またはその利用方法を指します。
英語ではGreen manureと呼ばれ、緑肥として栽培する植物を緑肥作物と呼びます。
代表的な緑肥作物には、ソルガム、えん麦、ライムギ、ヘアリーベッチ、クロタラリアなどがあります。
名称に「肥」とありますが、
緑肥の役割は、単に土壌へ肥料成分を供給することだけではありません。
緑肥作物の種類や利用方法によって、
- 土壌への有機物供給
- 団粒形成など土壌物理性への作用
- 土壌中に残った養分の吸収・再利用
- マメ科緑肥による窒素固定
- 有害線虫や一部の土壌病害の抑制
- 雑草の抑制
- 土壌侵食の抑制
など、異なる効果を目的として利用されます。
「緑肥を栽培してすき込めば、土が肥えて次作の収量が上がる」と一律に考えることはできません。
目的に合った草種・品種を選び、適切な時期にすき込み、後作まで必要な期間を確保することが重要です。
緑肥と緑肥作物
「緑肥」と「緑肥作物」は厳密には意味が異なります。
緑肥作物は、緑肥として利用するために栽培する植物です。
緑肥は、それらの植物体を土壌へ還元して利用するもの、またはその農業技術を指します。
同じ植物でも、飼料として収穫すれば飼料作物となり、緑肥としてすき込めば緑肥作物として利用されたことになります。
用途は植物の種類だけで決まるものではありません。
緑肥とカバークロップの違い
緑肥と関連してカバークロップ(Cover crop)という言葉があります。
カバークロップは、主作物を栽培していない期間などに土壌を植物で覆い、土壌侵食、雑草発生、養分流亡などを抑える目的で栽培する作物を広く指します。
緑肥作物とカバークロップには共通する植物が多くありますが、意味は完全には同じではありません。
緑肥では植物体を土壌へすき込む利用が中心となるのに対し、カバークロップでは、必ずしもすき込みを目的としない利用も含まれます。
緑肥に利用される主な作物
イネ科緑肥
代表的なものには、ソルガム、えん麦、ライムギなどがあります。
イネ科緑肥は一般に生育量が多く、根系も発達しやすいため、有機物供給、土壌物理性の改善、土壌中に残った窒素やカリなどの養分回収に利用されます。
一方、成熟が進むにつれて植物体のC/N比が高くなりやすく、すき込み時期が遅いと分解が遅れたり、後作で一時的な窒素不足を起こしたりする場合があります。
マメ科緑肥
代表的なものには、ヘアリーベッチ、クロタラリア、クローバー類などがあります。
マメ科植物では、適切な根粒菌との共生が成立すると、大気中の窒素を固定して植物体へ取り込むことができます。
そのため、イネ科緑肥と比較して窒素含有率が高く、C/N比が低い状態ですき込まれる場合が多く、後作への窒素供給を期待できることがあります。
ただし、
マメ科緑肥を栽培すれば必ず窒素肥料を減らせるわけではありません。
根粒形成、生育量、すき込み時期、土壌中の無機態窒素量などによって窒素固定量や後作への肥効は変わります。
その他の緑肥作物
アブラナ科植物やソバなどが緑肥として利用される場合もあります。
アブラナ科緑肥の中には、すき込みによって生じる成分を利用した土壌病害対策などが研究・利用されているものがあります。
ただし、その効果は草種、品種、対象病原菌、すき込み条件などによって異なるため、
「アブラナ科緑肥には土壌消毒効果がある」と一括して判断することはできません。
緑肥による有機物供給
緑肥をすき込むと、茎葉や根などの植物体が土壌へ有機物として供給されます。
土壌中で植物残さが分解される過程を通じて、土壌有機物や団粒形成などに影響します。
ただし、
緑肥をすき込んだ量と、そのまま長期間土壌に残る有機物量は同じではありません。
すき込んだ植物体の一部は微生物によって分解され、二酸化炭素などとして失われます。
また、草種や生育段階によって植物体の分解しやすさは大きく異なります。
一般に、若い植物体やマメ科緑肥など分解しやすい植物体では養分供給効果が現れやすく、成熟したイネ科緑肥など分解しにくい植物体では、有機物蓄積への寄与が相対的に大きくなる場合があります。
緑肥と堆肥の違い
緑肥と堆肥は、どちらも土壌へ有機物を供給できますが、同じものではありません。
堆肥は家畜ふんや植物残さなどをあらかじめ発酵・腐熟させてから施用します。
緑肥は圃場内で植物を生育させ、その植物体を比較的新鮮な状態ですき込みます。
緑肥では、地上部だけでなく生育中の根が土壌中へ伸びることによる効果も期待できます。
一方、新鮮な植物体を大量にすき込むため、分解途中の状態で主作物を作付けすると生育障害を起こす可能性があります。
緑肥の生草重量と堆肥の施用量を単純に比較することはできません。
含水率、炭素量、窒素量、分解性などが大きく異なります。
土壌物理性への効果
緑肥作物の根が土壌中へ伸長することで、土壌構造に影響を与えます。
草種や圃場条件によっては、
- 土壌の団粒化
- 作土の軟化
- 透水性の改善
- 下層土の硬度低下
などが期待できます。
深根性の緑肥では、通常のロータリー耕より深い位置まで根が伸長するため、耕起だけでは届きにくい下層土へ作用する場合があります。
ただし、
緑肥を栽培すれば硬盤層や排水不良が必ず解消するわけではありません。
強固な耕盤、地下水位の高さ、排水路の不備などが原因の場合には、心土破砕や暗渠排水など別の対策が必要です。
緑肥による養分の回収
イネ科などの緑肥作物は、土壌中に残存している窒素、カリなどを生育中に吸収します。
主作物を栽培していない期間に緑肥を栽培することで、硝酸態窒素などが降雨によって下層へ流亡する前に植物体へ取り込める場合があります。
その植物体を適切な時期にすき込めば、吸収された養分の一部を後作で再利用できる可能性があります。
この働きは、
新しい養分を外部から増やしているのではなく、圃場内に残った養分をいったん植物体へ回収している
と考える方が適切です。
緑肥による減肥
緑肥の種類や利用条件によっては、後作の肥料施用量を減らせる場合があります。
特に、
- マメ科緑肥によって固定された窒素
- 緑肥作物が土壌から吸収した窒素やカリ
- すき込んだ植物体の分解によって無機化した養分
などが後作へ供給されます。
しかし、
「緑肥を入れたから基準施肥量から一律に○%減肥する」という判断はできません。
草種、生育量、すき込み時期、植物体の養分含有量、土壌条件、後作の種類などによって肥効は変わります。
減肥を行う場合は、緑肥の種類ごとの試験データ、地域の施肥基準、土壌診断などを組み合わせて判断します。
C/N比と窒素飢餓
緑肥の利用で重要になる指標の一つがC/N比(炭素率)です。
C/N比が比較的低い植物体は分解されやすく、窒素が無機化して後作へ供給されやすい傾向があります。
一方、C/N比が高い植物体を大量にすき込むと、分解する微生物が土壌中の無機態窒素を一時的に取り込むことがあります。
その結果、後作が利用できる窒素が不足する窒素飢餓が発生する場合があります。
特にイネ科緑肥は、生育が進み茎葉が硬化するほどC/N比が高くなる傾向があります。
緑肥は大きく育てれば育てるほど良いわけではありません。
目的と後作時期を考えてすき込み時期を決定します。
すき込み時期
緑肥の効果と作業性は、すき込み時期によって大きく変わります。
若い時期にすき込むと植物体が比較的柔らかく、分解も速くなります。
生育期間を長くすると地上部の乾物量は増えますが、茎葉が硬くなり、C/N比が高くなり、ロータリーへ絡みやすくなるなど、すき込み作業が難しくなる場合があります。
さらに、種子を成熟させると落下した種子が次作で発芽し、野良生えとして雑草化する可能性があります。
すき込み適期は緑肥作物によって異なるため、品種ごとの栽培資料を確認します。
すき込み方法
草丈が低く植物体が柔らかい段階では、ロータリーなどで直接すき込める場合があります。
ソルガムのように草丈が高くなった緑肥や、茎葉量が多い場合には、フレールモアやハンマーナイフモアなどで細断してから耕運すると作業しやすくなります。
植物体が長いまま大量に残っている状態でロータリー耕を行うと、
- ロータリー軸への絡み付き
- すき込みむら
- 耕起深の不足
- 播種床・定植床の形成不良
などにつながる場合があります。
すき込みから後作までの期間
緑肥をすき込んだ直後に後作を播種・定植すると、植物残さの分解過程によって発芽や根の生育に悪影響を与える場合があります。
農研機構の緑肥利用資料でも、腐熟期間が不足すると主作物に植え傷みが発生する可能性が示されています。
必要な期間は、
- 緑肥の種類
- すき込み量
- 生育ステージ
- 細断程度
- 地温
- 土壌水分
- 後作の種類
によって異なります。
「すき込み後○日空ければ必ず安全」という一律の期間は設定できません。
緑肥作物ごとの栽培指針を確認し、後作から逆算してすき込み時期を設定します。
緑肥と線虫対策
緑肥作物の中には、有害線虫の密度抑制を目的として利用されるものがあります。
例えば、一部のえん麦、クロタラリア、マリーゴールドなどでは、特定の線虫に対する密度抑制効果が知られています。
ただし、
「緑肥を栽培すれば線虫が減る」と考えるのは誤りです。
線虫抑制効果は、
- 緑肥の種類
- 品種
- 対象線虫の種類
- 栽培期間
- 生育量
によって異なります。
対象外の線虫に効果がないだけでなく、緑肥作物が対象線虫の寄主となり、密度を増加させる可能性もあります。
線虫対策として利用する場合は、まず圃場に存在する線虫の種類を確認し、それに対応した緑肥品種を選定します。
緑肥と土壌病害
輪作体系へ緑肥を組み込むことで、特定作物の連作期間を分断し、一部の土壌病害を軽減できる場合があります。
また、一部の緑肥には特定の土壌病原菌への抑制効果が報告されています。
しかし、
緑肥そのものが土壌消毒剤になるわけではありません。
主作物と共通する病原菌の寄主になる緑肥を導入すると、逆に病害を維持・増加させる可能性があります。
緑肥を選ぶときは、後作だけでなく周辺作物への病害虫リスクも確認します。
雑草抑制への利用
初期生育が速く地表を密に覆う緑肥では、地表への光を遮ることで雑草の発芽や生育を抑制できる場合があります。
裸地期間を短くすることも雑草管理に役立ちます。
ただし、緑肥作物自身を結実させてしまうと種子が圃場へ落下し、その後の作付けで雑草化する場合があります。
雑草抑制目的で導入した緑肥そのものを雑草化させない管理が必要です。
施設園芸での緑肥利用
施設園芸では、主作物の休作期間を利用してソルガムなどの緑肥作物を栽培する場合があります。
根系の発達、有機物供給、残存養分の吸収などを目的として利用できます。
ただし、
「緑肥をすき込めばハウス土壌の塩類集積を除去できる」という説明は誤りです。
作物が窒素やカリなどを吸収しても、その植物体を同じ圃場へすき込めば、植物体の分解に伴って吸収した養分の多くが再び圃場へ戻ります。
クリーニングクロップとの違い
施設土壌などに蓄積した過剰養分を圃場外へ除去する目的で栽培される作物は、クリーニングクロップと呼ばれることがあります。
ソルガムやトウモロコシなど、養分吸収量の大きい作物が利用されます。
緑肥と大きく異なるのは利用後の扱いです。
過剰養分を除去する目的では、吸収させた植物体を圃場外へ搬出する必要があります。
植物体をすき込めば、吸収された養分も圃場へ戻るため、過剰養分の「持ち出し」にはなりません。
したがって、
- 緑肥:植物体を圃場へ還元して利用する
- クリーニングクロップ:過剰養分を植物へ吸収させ、植物体ごと圃場外へ持ち出す
という目的の違いを理解する必要があります。
施設土壌のECが高い場合は、まず土壌診断によって何が蓄積しているのかを確認し、施肥量の適正化を優先します。
緑肥を導入する前に決めること
緑肥は「空いている圃場に何か播いておけばよい」技術ではありません。
最初に導入目的を明確にします。
- 有機物を増やしたい:十分な乾物生産量を確保できる草種を選ぶ
- 後作へ窒素を供給したい:マメ科緑肥などを検討する
- 残存窒素を回収したい:生育量の大きいイネ科緑肥などを検討する
- 土壌物理性を改善したい:根量や根の伸長特性を確認する
- 線虫を減らしたい:対象線虫に効果が確認された品種を選ぶ
- 雑草を抑えたい:初期生育と被覆力を確認する
- 施設土壌から過剰養分を除去したい:緑肥すき込みではなくクリーニングクロップとして搬出する方法を検討する
その上で、主作物の栽培開始日から逆算し、播種時期、緑肥の栽培期間、細断・すき込み、後作までの期間を設定します。
緑肥導入の主な注意点
- 作付け期間が必要:緑肥を十分に生育させる期間と、すき込み後から後作までの期間が必要です。
- 種子代と作業費がかかる:種子、播種、刈取り・細断、耕起などの費用と労力が発生します。
- 主作物の作期を圧迫する:緑肥の生育を優先してすき込みが遅れると、主作物の播種・定植適期を逃す場合があります。
- 窒素飢餓の可能性:C/N比の高い植物体を大量にすき込むと、後作で一時的な窒素不足を起こすことがあります。
- 植え傷みの可能性:腐熟期間が不足した状態で後作を導入すると、発芽や根の生育に影響する場合があります。
- 野良生え:結実させると、落下種子が後作で発芽する場合があります。
- 病害虫を増やす可能性:主作物や周辺作物と共通する病害虫の寄主にならないか確認が必要です。
- 目的に合わない草種では効果が得られない:緑肥という分類だけで選ばず、草種・品種ごとの特性を確認します。
よくある誤解
- 「緑肥は有機質肥料の一種」:養分供給だけでなく、有機物供給、養分回収、根による土壌物理性への作用、有害生物抑制などを目的として利用されます。
- 「緑肥をすき込めば土が肥える」:草種や生育段階によっては窒素飢餓を起こすこともあり、必ず肥沃度が上がるとは限りません。
- 「緑肥を使えば化学肥料を減らせる」:減肥可能量は緑肥の種類、生育量、養分含有量、すき込み時期などによって異なります。
- 「大きく育ててからすき込むほど効果が高い」:成熟するとC/N比が高くなり、分解の遅延、作業性低下、野良生えなどの問題が増える場合があります。
- 「緑肥なら線虫を減らせる」:対象線虫と品種の組み合わせが重要で、逆に線虫を増殖させる場合もあります。
- 「緑肥は連作障害を防ぐ」:原因となる病害虫や土壌条件によって効果は異なり、共通病害虫の寄主になる緑肥では逆効果になる場合があります。
- 「ハウスの塩類を吸わせてすき込めば除塩できる」:すき込めば吸収した養分を圃場へ戻します。過剰養分の除去が目的なら植物体を圃場外へ搬出する必要があります。
参考動画
緑肥Web講習会「減肥と土づくりのための緑肥の栽培」
農研機構が公開している緑肥利用の解説動画です。緑肥による減肥、土づくりの効果、緑肥作物の選び方、すき込みなど、緑肥利用の基本を体系的に確認できます。
出典:農研機構 NAROchannel
農研機構「緑肥Web講習会『減肥と土づくりのための緑肥の栽培』」
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