受精(じゅせい)

受精とは

受精(じゅせい、fertilization)とは、有性生殖において雄性配偶子と雌性配偶子が融合し、新しい世代の発生につながる過程です。

被子植物では、雄性配偶子である精細胞と、雌性配偶子である卵細胞が融合すると受精卵(接合子、zygote)が形成されます。

受精卵はその後、細胞分裂と分化を繰り返して胚へ発達します。

さらに被子植物では、もう1個の精細胞が胚嚢内の中央細胞と受精します。卵細胞と中央細胞で二つの受精が行われる仕組みを重複受精(ちょうふくじゅせい)といいます。

受粉と受精は同じ現象ではありません。
受粉は花粉が柱頭など受粉可能な部分へ到達すること、受精はその後、精細胞と卵細胞などが融合することです。受粉しても、必ず受精するとは限りません。

被子植物で受精するまでの流れ

被子植物では、受粉してすぐに受精が成立するわけではありません。

一般的には次のような過程を経ます。

  1. 受粉する
    花粉が雌しべの柱頭へ到達します。
  2. 花粉が発芽する
    柱頭上で適合する花粉が発芽し、花粉管を伸ばします。
  3. 花粉管が伸長する
    花粉管は花柱内部などを通って子房方向へ伸びます。
  4. 花粉管が胚珠へ誘引される
    胚珠内部の胚嚢にある助細胞などが花粉管誘引に関わります。
  5. 花粉管が胚嚢へ到達する
    多くの被子植物では、花粉管は珠孔側から胚珠へ進入し、通常は助細胞の一つへ到達します。
  6. 2個の精細胞が放出される
    花粉管から胚嚢内へ2個の精細胞が届けられます。
  7. 重複受精が起こる
    一方の精細胞が卵細胞と、もう一方が中央細胞と受精します。

したがって、「花粉が柱頭についた=受精した」ではありません。

被子植物の重複受精

被子植物の受精で特に重要なのが重複受精です。

花粉管から放出された2個の精細胞は、それぞれ異なる細胞と融合します。

  • 精細胞+卵細胞 → 受精卵 → 胚
  • 精細胞+中央細胞 → 受精した中央細胞 → 胚乳

つまり、被子植物では「卵細胞との受精」だけでなく、「中央細胞との受精」も同じ胚嚢内で行われます。

典型的なタデ型の胚嚢では、卵細胞は単相(n)、中央細胞には通常2個の極核(n+n)があり、精細胞(n)との受精によって、受精卵は通常2n、胚乳形成を始める核は通常3nとなります。

ただし、胚嚢の形成様式は植物によって異なるため、すべての被子植物の胚乳が必ず3nになるわけではありません。

受精後に何ができるか

正常な受精後には、胚珠内部や子房でさまざまな発達が始まります。

  • 受精した卵細胞 → 受精卵 → 胚
  • 受精した中央細胞 → 胚乳
  • 珠皮 → 種皮の形成に関与
  • 胚珠 → 種子
  • 子房 → 一般に果実形成の中心となる

ここで特に間違えやすいのが、受精卵そのものが発芽するわけではないという点です。

受精卵は胚へ発達し、胚を含む種子が形成・成熟します。その後、適切な条件がそろったときに種子が発芽し、幼植物の生育が始まります。

基本的な流れは次のように整理できます。

卵細胞 → 受精 → 受精卵 → 胚 → 種子内で成熟 → 種子の発芽 → 幼植物

受粉と受精の違い

受粉と受精は、植物の生殖を理解するうえで必ず区別する必要があります。

  • 受粉:花粉が柱頭などの受粉可能な部分へ到達すること
  • 受精:雄性配偶子と雌性配偶子が融合すること

被子植物では、受粉と受精の間に、花粉発芽、花粉管伸長、胚珠への誘引、精細胞の放出など複数の段階があります。

このため、柱頭に花粉が十分付着していても、花粉が発芽しない、花粉管が正常に伸びない、胚珠へ到達しない、精細胞が正常に放出されないなどの理由で受精に至らない場合があります。

農業現場での注意:
着果不良を見て「受粉不足」と即断するのは危険です。受粉が成立していても、その後の花粉管伸長や受精、胚・胚乳の発達に問題が生じている可能性があります。

自家受粉・自殖・他殖の違い

従来の説明では「自家受精」「他家受精」という表現が使われることがありますが、農業や植物育種では、受粉と受精を区別して自家受粉・他家受粉、自殖・他殖という言葉を使い分ける方が関係を理解しやすくなります。

自家受粉

同じ花、または同じ個体に由来する花粉が柱頭へ到達することです。

ただし、自家受粉したからといって必ず受精するとは限りません。自家不和合性をもつ植物では、自分自身と同じ遺伝的背景をもつ花粉の発芽や花粉管伸長などが阻害され、受精に至らない場合があります。

自殖

同じ個体に由来する雄性配偶子と雌性配偶子によって子孫が形成されることです。

イネ、コムギ、ダイズ、トマトなどには自殖しやすい作物があります。育種では自殖を繰り返すことによって、遺伝的に均一性の高い系統を作ることがあります。

他殖

異なる個体に由来する雄性配偶子と雌性配偶子によって子孫が形成されることです。

ただし、「他殖なら必ず優れた子孫になる」「自殖なら必ず弱くなる」と単純化することはできません。自殖・他殖の影響は植物の繁殖様式、遺伝的背景、世代数などによって異なります。

自家不和合性と受精

植物によっては、自分自身または特定の遺伝型の花粉では正常な受精に至りにくい自家不和合性をもっています。

この場合、柱頭へ花粉が付着していても、その後の花粉発芽や花粉管伸長などが阻害されることがあります。

果樹や野菜の一部では、受粉樹・受粉品種の組み合わせが結実に大きく影響します。

したがって、結実不良を調べる場合には、単に「花粉があるか」だけでなく、品種間の交配親和性も確認する必要があります。

受精と単為結果

果実が形成されたからといって、必ず卵細胞の受精が成立しているとは限りません。

植物や品種によっては、受精を伴わずに子房などが発達して果実を形成する単為結果が起こります。

また、無種子果実ができる仕組みは単為結果だけではありません。受精後に胚や種子の発達が停止する場合などもあります。

そのため、「果実がある=正常に受精した」「種がない=受精しなかった」と外観だけから判断することはできません。

植物群による受精方法の違い

「植物の受精」は、すべての植物で同じ方法が使われるわけではありません。

被子植物

花粉管が精細胞を胚嚢へ運び、卵細胞と中央細胞で重複受精が行われます。

裸子植物

裸子植物にも受精がありますが、被子植物のような子房や胚嚢における重複受精とは異なります。

マツ類などでは花粉管によって雄性配偶子が雌性側へ運ばれます。一方、イチョウやソテツ類では、鞭毛をもつ運動性の精子が受精に関与します。

シダ植物・コケ植物

シダ植物やコケ植物では、鞭毛をもつ精子が水中を移動して卵細胞へ到達します。そのため、受精には水が重要な役割を果たします。

「植物の受精=花粉管によって精細胞が運ばれる」と説明できるのは主として種子植物についてであり、植物全体へそのまま当てはめることはできません。

農業で受精不良を考えるときの確認点

果菜類、果樹、採種栽培などで結実・種子形成が不良になった場合、受精までのどの段階に問題があったのかを分けて考えます。

  • 正常な花粉が形成されているか
  • 葯が正常に開裂しているか
  • 十分な花粉が柱頭へ到達したか
  • 柱頭に受容性があったか
  • 花粉が正常に発芽したか
  • 花粉管が正常に伸長したか
  • 胚珠・胚嚢・卵細胞が正常に形成されたか
  • 花粉管が胚珠へ正常に誘引されたか
  • 精細胞が正常に放出されたか
  • 卵細胞・中央細胞との重複受精が成立したか
  • 受精後の胚・胚乳が正常に発達したか
  • 自家不和合性など交配上の問題がないか

開花前後の高温・低温、水分ストレスなどがこれらの過程へ影響する場合がありますが、感受性の高い時期や障害が生じる条件は作物・品種によって異なります。

原因診断の注意:
落花、落果、種子数不足、奇形果などの結果だけから「受精不良」と断定することはできません。受精以前の花器形成・花粉形成から、受精後の胚・胚乳・果実発達まで確認する必要があります。

受精について間違えやすい点

  • 受粉=受精ではありません。
    受粉後に花粉発芽、花粉管伸長、精細胞の輸送などを経て受精に至ります。
  • 被子植物では「精子」より「精細胞」とする方が適切です。
    イチョウやソテツのような運動性の精子とは区別して考える必要があります。
  • 精細胞と卵細胞だけが受精するわけではありません。
    被子植物では、もう1個の精細胞が中央細胞とも受精する重複受精が行われます。
  • 受精卵が発芽するわけではありません。
    受精卵は胚へ発達し、胚を含む種子が形成された後に、その種子が発芽します。
  • 受精卵=種子ではありません。
    受精卵から形成されるのは胚です。胚珠全体が発達して種子になります。
  • 自家受粉=自殖成立ではありません。
    自家不和合性などによって、自家受粉しても受精しない場合があります。
  • 果実形成=正常な受精成立とは限りません。
    単為結果など、受精を伴わずに果実が形成される場合があります。
  • 種子が少ない=受粉不足とは限りません。
    胚嚢形成、花粉管伸長、重複受精、胚・胚乳発達など多くの段階が関係します。

受精の参考動画

被子植物の受精では、花粉管が胚珠へ誘引され、胚嚢へ精細胞を届けます。この過程は静止画だけでは理解しにくいため、実際の植物の受精を撮影した次の動画が参考になります。

未来を創る科学者達(24)神秘の瞬間に立ち会う ~東山哲也~
科学技術振興機構(JST)・SCIENCE CHANNEL

未来を創る科学者達(24)神秘の瞬間に立ち会う ~東山哲也~(Science Portal)を見る

動画について:
この動画は、被子植物の花粉管誘引や受精の過程を理解するための参考資料として紹介しています。
科学技術振興機構(JST)のサイエンスチャンネルで公開されている動画で、農材ドットコムが制作・管理しているものではありません。
動画の内容、公開状況、URLなどは、公開元の都合により変更または削除される場合があります。
また、花粉管の伸長速度、受精までの時間、胚嚢の構造などは、植物種や品種、環境条件によって異なります。

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