補光・補光栽培(ほこう-ほこうさいばい)

補光・補光栽培
補光・補光栽培は、冬や曇天などで足りない日差しをLEDなどの人工光で補う栽培方法

補光・補光栽培とは

補光(ほこう)とは、太陽光などの自然光だけでは不足する光を、LEDや高圧ナトリウムランプなどの人工光源によって補うことです。

補光栽培(ほこうさいばい)は、この補光を利用して、主に植物の光合成を促進し、生育、収量、品質などの改善を図る栽培方法を指します。

冬季や曇雨天が多い地域の施設園芸、育苗施設、太陽光利用型植物工場などで利用されます。また、作物の葉群内部など、自然光が届きにくい場所を照射する方法もあります。

補光によって作物が受ける光子量を増やせますが、光合成速度や収量が必ず増加するわけではありません。効果は作物、品種、生育段階、光量、照射時間、温度、CO₂濃度、養水分管理などによって異なります。

補光栽培では、不足する光量を把握したうえで、作物の生育に適した照射条件と経済性を検討することが基本です。

補光栽培の主な目的

冬季・曇天時の光量不足を補う

冬季は日長が短く、太陽高度も低くなるため、地域や施設条件によっては作物の受光量が不足します。

また、曇天や雨天が続く場合、日中の光量が低下し、光合成による有機物の生産が制限されることがあります。

適切な補光によって受光量を増やし、生育の停滞や収量低下を軽減できる場合があります。

育苗の生育促進と苗品質の安定

育苗では、光量不足によって苗の生育が遅れたり、徒長したりすることがあります。

適切な補光は、光合成量を確保し、苗の生育や品質を安定させるために利用されます。

ただし、必要な光量や照射時間は作物と育苗段階によって異なります。強い光や長時間の照射が常に有効とは限りません。

収量・品質の改善

果菜類や葉菜類などでは、光量不足が生産性の制限要因となっている場合、補光によって乾物生産、生育速度、収量、品質などが改善することがあります。

ただし、光合成産物の利用や果実の肥大には温度、CO₂濃度、着果負担、養水分状態なども関係します。

補光による効果を評価するときは、光環境だけでなく、こうした栽培条件も確認します。

補光栽培と電照栽培の違い

人工照明を利用する農業技術には、光合成の促進を主目的とする補光栽培と、日長反応などを利用して開花・生育を調節する電照栽培があります。

光合成を促進する補光栽培

補光栽培では、植物に届く光合成有効域の光子量を増やすことが主な目的です。

そのため、PPFD(光合成光量子束密度)やDLI(日積算光量子量)、光質、照射時間などを評価します。

開花などを調節する電照栽培

電照栽培では、植物の光周性を利用し、人工照明によって花芽分化や開花時期などを調節します。

例えばキクでは、夜間に照明を行って暗期を中断し、花芽分化を抑える方法が利用されています。

電照による日長調節では、光合成促進用の補光ほど強い光を必要としない場合があります。

ただし、両者は完全に独立した作用ではありません。補光による日長の変化が開花反応に影響したり、強い電照によって光合成有効光子量が増えたりすることもあります。

設備の選定では、光合成促進と日長制御のどちらを主目的とするかを明確にします。

補光に使用する主な光源

植物育成用LED

植物育成用LEDは、赤色光、青色光、白色光などを利用し、作物の光環境を調整する照明です。

製品によっては遠赤色光を含むものもあり、光合成に関係する光子量だけでなく、植物の形態形成や開花反応にも影響する場合があります。

LEDには光源の形状や配光の選択肢が多く、上部補光、群落内部への補光、育苗など、用途に応じた配置が可能です。

ただし、LEDであれば必ず省エネルギーであるとは限りません。光子効率、設置条件、消費電力、光出力の維持率などを確認します。

高圧ナトリウムランプ(HPS)

高圧ナトリウムランプは、施設園芸の補光に利用されてきた高輝度放電ランプの一種です。

光合成に利用できる光を多く放出しますが、点灯時の発熱、消費電力、器具重量などを考慮する必要があります。

LEDとの比較では、光子効率だけでなく、照明から発生する熱が施設の暖房・冷房負荷に与える影響も確認します。

その他の光源

メタルハライドランプや蛍光ランプなども、補光や育苗に利用されてきました。

設備を新設・更新する場合は、用途に適した光量、光質、配光、維持管理性、経済性などを基準に比較します。

補光設備の設置方法

トップライティング(上部補光)

作物群落の上部に照明器具を設置し、上方から光を照射する方法です。

育苗、葉菜類、果菜類など幅広い用途で利用されます。

照明器具の設置高さ、配光、器具間隔、作物の草丈などによって栽培面の光量が変わるため、PPFDの分布を確認します。

インターライティング(群落内補光)

トマトやキュウリなど、草丈が高く葉群が発達する作物では、群落内部に光が届きにくくなる場合があります。

このような条件で、葉群の中・下位部などに照明器具を設置する方法をインターライティングと呼びます。樹間補光と表現される場合もあります。

群落内部への光供給を改善できる場合がありますが、照明位置、葉への距離、作業性、設備への接触、植物体の温度上昇などに注意します。

局所補光

施設内の柱の陰や壁際、栽培ベッドの端など、光量が不足する場所に限定して補光する方法です。

施設全体を照射する方法よりも設置範囲を絞れる場合がありますが、対象部分への光量分布と生育改善効果を測定して判断します。

PPFDとDLIを利用した補光設計

補光設備を選ぶ場合は、照明器具の消費電力や明るさだけでなく、作物が受ける光子量を評価します。

PPFD(光合成光量子束密度)

PPFDは、単位面積・単位時間当たりに入射する光合成有効域の光子量です。

従来のPPFDでは波長400~700nmを対象とし、単位はμmol/m²/sです。

PPFDは光源から作物までの距離や配光、反射条件、遮光物などによって変化します。

DLI(日積算光量子量)

DLIは、1日を通して単位面積に入射した光合成有効域の光子量を積算した値です。

単位はmol/m²/dayです。

PPFDが一定の場合、次の式で追加DLIを計算できます。

追加DLI=補光による追加PPFD×照射時間(h)×0.0036

例えば、人工照明が栽培面へ追加で150μmol/m²/sのPPFDを与え、6時間点灯する場合は、次のようになります。

150×6×0.0036=3.24mol/m²/day

これは、追加PPFDが照射時間中に一定であり、従来のPAR域を対象とする場合の計算例です。

実際の施設では、自然光によるDLIと補光による追加DLIを合わせて評価します。

ただし、自然光と人工光を同時に測定したDLIには両方の光が含まれています。そこへ補光によるDLIを再度加算すると二重計上になるため注意します。

補光する時間帯と運用方法

日中の補光

曇雨天時や自然光が不足する時間帯に補光し、作物の受光量を増やす方法です。

自然光が十分にある時間帯は、光合成の増加が小さくなる場合があるため、不要な点灯を減らす運用も検討します。

早朝・夕方の補光

自然光が弱い時間帯に人工光を追加し、1日当たりの受光量を確保する方法です。

ただし、照射時間の延長は日長や暗期に影響するため、作物の光周性も確認します。

夜間の補光

夜間に補光することで、日中とは異なる時間帯に光合成有効域の光子を供給することもあります。

ただし、夜間の補光は植物の暗期を短縮または中断するため、作物によっては花芽分化や開花、生育などに影響します。

夜間電力が安いという理由だけで、夜間補光を一律に選択するのは適切ではありません。

日射連動・積算光量による補光制御

日射センサーや光量子センサーの測定値を利用し、自然光が不足する条件で照明を点灯する方法があります。

また、日積算光量の目標値に応じて補光時間や出力を調整する方法もあります。

ただし、日射量とPPFDでは測定対象が異なるため、日射センサーの値をDLIへ換算する場合は、使用条件に適した換算関係を確認します。

補光による栽培試験の例

イチゴの高輝度LED補光

農研機構は、寡日照地域のイチゴ栽培において、配光制御型高輝度LEDを使用した補光試験を行っています。

その結果、試験条件下では葉の光合成が促進され、可販果収量の増加が確認されています。

一方、補光時間を長くした試験では、12時間を超える条件で光合成促進や増収効果が小さくなる傾向も報告されています。

この結果は特定の品種、施設、照明器具、温度条件などで得られた研究成果です。すべてのイチゴ栽培で12時間補光が最適という意味ではありません。

葉菜類の夜間補光

農研機構は、レタスやシュンギクを対象にLEDによる夜間補光を行い、試験条件下で生体重の増加を確認しています。

ただし、効果は光源の波長構成や光量、栽培条件などによって変化します。

これらの研究結果を利用する場合は、対象品種、照射条件、温度などを確認します。

補光設備の導入前に確認すべき事項

  • 光量不足の実態:施設内のPPFDやDLIを測定し、作物の受光量が不足しているか確認します。
  • 栽培目的:育苗期間の短縮、増収、品質改善など、設備導入によって改善したい項目を明確にします。
  • 光量・光質:照明器具のPPF、PPE、分光分布、配光、栽培面でのPPFDを確認します。
  • 照射時間:作物の光要求性と光周性を考慮し、適切な明期・暗期を設定します。
  • 施設環境:温度、CO₂濃度、湿度、養水分管理など、光合成を制限する他の要因を確認します。
  • 電源・施工:契約電力、回路容量、配線、防水・防塵性能、結露対策、設置強度などを確認します。
  • 維持管理:光出力の低下、器具の汚れ、電源装置の寿命、交換・修理費用を確認します。
  • 経済性:設備費、電力費、保守費と、増収・品質改善による追加収益を比較します。

補光設備の経済性と投資判断

補光設備は電力を消費するため、生産量が増えても必ずしも利益が増えるとは限りません。

例えば、消費電力の合計が10kWの補光設備を1日6時間使用する場合、照明設備の電力使用量は次のようになります。

10kW×6時間=60kWh/日

これは説明用の計算であり、実際の電力使用量は照明器具の消費電力、調光状態、点灯時間、関連設備などによって変わります。

電力料金を試算する場合は、電力量料金だけでなく、基本料金、最大需要電力、契約条件なども確認します。

また、照明器具の取得費、施工費、交換費用、照明による施設内熱環境の変化なども考慮します。

設備導入の採算性は、補光によって増える売上高だけで判断せず、追加の経費を差し引いた利益で評価します。

特に、LED補光とCO₂施用、温度管理などを同時に変更した試験では、増収効果のすべてをLED補光だけに帰属させることはできません。

本格導入前には、可能であれば同一施設内で補光区と無補光区を設け、収量・品質・費用を比較することが望まれます。

補光栽培で起こりやすい間違い

照明を増やせば必ず収量が増えると考える

光合成には光飽和があり、CO₂濃度や温度などが制限要因となる場合もあります。

補光の効果は、作物の生育反応と環境条件を合わせて評価します。

補光時間が長いほど有利だと考える

過剰な照射は電力費を増やす一方、光合成の増加が小さくなる場合があります。また、日長反応によって開花などに影響する作物もあります。

照射時間はPPFD、DLI、光周性を考慮して設定します。

照度や消費電力だけでLEDを比較する

照度は人間の目の感度を基準とする指標です。また、消費電力が同じでも光子効率や配光は異なります。

PPF、PPE、栽培面のPPFD分布、測定波長域などを確認します。

光源のPPFを作物のPPFDと混同する

PPFは光源が放出する光子量、PPFDは栽培面などに入射する単位面積当たりの光子量です。

照明器具の総出力だけでは、作物に届く光量を判断できません。

自然光と補光のDLIを二重に計上する

自然光と人工光を合わせて測定したDLIに、人工光の寄与を再度加算すると、光量を過大評価します。

測定値がどの光源を含むものなのかを確認して計算します。

海外の補光条件をそのまま採用する

光量や補光時間の適正値は作物、品種、地域、施設構造、栽培時期などによって異なります。

研究成果を利用するときは、試験条件と実際の施設の違いを確認します。

増収率だけを見て設備投資を決める

補光による増収が確認されても、設備費や電力費を回収できるとは限りません。

追加粗利益、投資回収期間、設備の耐用年数などを踏まえて判断します。

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参考資料

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