りん酸(りんさん)

りん酸
NPKは植物の三大栄養素(窒素・リン酸・カリウム)

りん酸とは

りん酸(りんさん)とは、農業では植物に必要な主要な肥料成分の一つを指し、窒素、加里とともに肥料三要素に数えられます。

植物体内ではリン(P)が、ATPなどによるエネルギーの受け渡し、DNA・RNAなどの核酸、リン脂質などの構成に関与しており、細胞分裂や生育、生殖成長を支える必須元素です。

農業では「リン酸は根や花、実に効く」と説明されることがありますが、リン酸を多く施せば発根、開花、結実、収量が比例して増えるという意味ではありません。

必要量を超えた施肥は効果が乏しいだけでなく、土壌へのリン酸蓄積や養分バランスの悪化につながる場合があります。

肥料表示の「りん酸」とP・P₂O₅の違い

肥料成分は一般に「N・P・K」と略して表現されますが、日本の肥料保証票などで「りん酸」の含有量を表示する場合は、五酸化リン(P₂O₅)に換算した値が用いられます。

したがって、

  • P:元素としてのリン
  • P₂O₅:肥料成分の「りん酸」を表示するときに用いられる換算形
  • H₃PO₄:化学物質としてのリン酸(phosphoric acid)

は同じものではありません。

肥料袋に「りん酸10%」などと表示されている場合、通常は元素Pが10%含まれるという意味ではなく、P₂O₅換算の成分量を示しています。

元素PとP₂O₅を換算する場合のおおよその関係は次のとおりです。

  • P = P₂O₅ × 約0.436
  • P₂O₅ = P × 約2.29

肥料設計では、元素PとP₂O₅の数値をそのまま比較しないでください。

また、P₂O₅という表示は肥料成分量を示すための換算表現であり、植物がP₂O₅をそのまま吸収するという意味ではありません。
植物は根から主として土壌溶液中の無機リン酸イオンを吸収します。

植物体内でのリンの主な役割

リンは植物体内のさまざまな代謝に関係しています。

  • エネルギー代謝:ATPなどを介したエネルギーの蓄積・移動に関与する
  • 核酸の構成:DNAやRNAを構成する元素の一つとなる
  • 細胞膜の構成:リン脂質などの構成成分となる
  • 細胞分裂・生育:新しい組織の形成や生育に関与する
  • 生殖成長:開花、結実、種子形成などを含む植物の生育過程に関係する

「根肥」「実肥」などと表現されることがありますが、リンだけが根や果実を作っているわけではありません。
窒素、加里、カルシウム、マグネシウム、微量要素、水分、温度、日射、根域環境などとの組み合わせによって生育は決まります。

土壌中のリン酸と固定

リン酸は施肥後も、すべてがそのまま作物に吸収されるわけではありません。

特に酸性土壌や火山灰土壌などでは、リン酸が鉄やアルミニウムなどと反応し、作物が利用しにくい形になりやすい性質があります。この現象は一般にリン酸の固定と呼ばれます。

黒ボク土などではリン酸を強く保持する土壌があります。

ただし、「固定されたリン酸=永久に作物が利用できないリン酸」ではありません。
土壌中ではさまざまな形態のリンが存在し、土壌条件や根圏環境の変化によって利用性も変化します。

また、「有機物を入れれば固定リン酸が利用できるようになる」と一律に判断することもできません。
リン酸の利用性は、土壌型、pH、リン酸吸収係数、施肥履歴、有機物含量などによって異なります。

リン酸欠乏

リン酸が不足すると、生育が停滞し、根や地上部の発達が悪くなる場合があります。

作物によっては、リン酸欠乏時に葉や茎が暗緑色になったり、下位葉などに赤紫色を帯びたりする場合があります。

ただし、赤紫色になっただけでリン酸欠乏と断定してはいけません。

低温による根の吸収低下、根傷み、過湿、乾燥、土壌pH、その他の養分障害などでも、生育停滞や葉色変化が発生する場合があります。

欠乏が疑われる場合は、土壌分析や養液分析、施肥履歴、根の状態、地温などを確認して判断します。

リン酸過剰と施設栽培での蓄積

リン酸は土壌中に蓄積しやすいため、毎作同じ量を施肥していると、作物が吸収する量を上回って蓄積する場合があります。

特に施設栽培では、降雨による土壌からの流出が少なく、長期間にわたり化成肥料、液肥、堆肥などを投入するため、可給態リン酸が高くなっている圃場があります。

リン酸過剰では必ず目に見える障害が発生するわけではありませんが、条件によってはマグネシウムや亜鉛など他の養分とのバランスが崩れ、生育障害につながることがあります。

リン酸が多い圃場に「リン酸は根や花に必要だから」という理由だけで毎作施肥を続けるのは適切ではありません。

土壌中に十分なリン酸が蓄積している場合には、リン酸肥料を減肥または省略できることがあります。

可給態リン酸と土壌診断

作物へのリン酸施肥量を検討する際には、土壌中の可給態リン酸が重要な判断材料になります。

ただし、可給態リン酸の適正値は全国一律ではありません。

  • 作物
  • 土壌型
  • 測定方法
  • 地域
  • 作型
  • 施肥履歴

などによって評価基準が異なります。

「可給態リン酸が○mg/100g以上なら必ず無施肥」といった全国共通の数値で判断しないでください。

都道府県の土壌診断基準や施肥基準と、実際の分析方法を確認して施肥量を決めます。

施設栽培では、圃場全体を一つの試料だけで判断すると、局所施肥や点滴かん水による養分分布の偏りを見落とすことがあります。
採土位置、採土深、畝、株元、かん水位置などをそろえて継続的に比較することが必要です。

肥料に表示されるリン酸の種類

肥料では、製品の種類によって次のようなリン酸成分が表示される場合があります。

  • りん酸全量
  • 可溶性りん酸
  • く溶性りん酸
  • 水溶性りん酸

これらは分析方法や溶解性の区分が異なります。

「りん酸○%」という数字だけを見て、すべての肥料が同じ速さ、同じ割合で作物に利用されると判断してはいけません。

作物、土壌条件、施肥時期、肥料の種類を確認して選択します。

リン酸施肥でよくある間違い

リン酸を多く入れれば根張りや着果が良くなる

必要量を満たした後もリン酸を増やせば、生育や収量が比例して向上するわけではありません。

すでにリン酸が蓄積した圃場では追加施肥の効果が小さく、肥料費と土壌蓄積を増やすだけになる場合があります。

土壌診断結果を基準に施肥量を決めます。

肥料袋のPと元素Pは同じ意味

肥料成分をN-P-Kと略記することはありますが、日本の肥料表示で「りん酸」はP₂O₅換算で表されます。

元素Pの分析値とP₂O₅の表示値を比較するときは換算が必要です。

固定されたリン酸は完全に無効になる

リン酸固定とは、施肥したリン酸が土壌成分と反応し、作物が直ちに利用しにくい状態になる現象です。

土壌中から完全に消えるという意味ではありません。

リン酸固定には有機物を入れればよい

有機物によってリン酸の挙動が変化する場合はありますが、すべての土壌で固定問題を解決できるとは限りません。

pH、土壌型、リン酸吸収係数、可給態リン酸、施肥履歴を確認して判断します。

可給態リン酸の基準値は全国共通

可給態リン酸の診断基準は、作物、地域、土壌、分析法などによって異なります。

他地域や他作物の数値だけを切り取って、自分の圃場の施肥量を決めないでください。

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