サイトカイニンの概要
■サイトカイニンとは
サイトカイニン(cytokinin、略称:CK)とは、植物ホルモンの一種であり、植物の細胞分裂促進、芽の分化(形成)、葉の老化抑制などを司る物質の総称です。主に根の成長点などで合成され、導管を通じて地上部へ運ばれますが、近年の研究では葉から根へ移動し、根粒菌との共生バランスを調整する役割も確認されています。
■現場での判断・注意点
現場実務において、本用語を扱う際は以下の点に注意が必要です。
- 単独の診断名ではない:葉の黄化や生育不良は、肥料不足・根腐れ・日照不足など複合的な要因で発生します。外観のみで「サイトカイニン不足」と断定することはできません。
- 「多ければ良い」わけではない:植物ホルモンは、オーキシンなど他のホルモンとの濃度比(バランス)で作用が決まります。人為的かつ過剰な付与は、奇形や生育停止を招くリスクがあります。
- 資材利用時の厳格な管理:サイトカイニン様作用を持つ「植物成長調整剤」を使用する場合、登録適用(作物・時期・濃度)の遵守が必須であり、「散布すれば無条件に品質が上がる」という解釈は誤りです。
サイトカイニンとオーキシンの違い
植物の生育制御において対になることが多い、オーキシンとの役割の違いは以下の通りです。これらは相互に影響し合い、その量的バランスによって根や芽の分化が決定されます。
- サイトカイニン(CK)
主な作用:細胞分裂の促進、側芽(わきめ)の成長促進、老化の遅延。
体内移動:基本は根で作られ地上部へ移動する(※マメ科など一部の制御系を除く)。 - オーキシン
主な作用:細胞の伸長成長、発根の促進、頂芽優勢(ちょうがゆうせい)の維持。
体内移動:主に茎頂(先端)で作られ、基部へ移動する。
主な生理作用と実務上の解釈
1. 細胞分裂と器官形成
サイトカイニンは細胞分裂を促し、新しい芽や若い葉の形成に関与します。しかし、分裂には光合成産物(エネルギー)や窒素・ミネラルが必須です。「サイトカイニンの働きだけで収量が増える」という単純な因果関係は成立しません。
2. 老化の抑制(緑色の維持)
葉緑素(クロロフィル)の分解を抑え、緑色を保つ働きがあります。現場では「根が健全でサイトカイニンが供給されていれば、下葉の枯れ上がりは遅くなる」という推測の枠組みとして利用されます。ただし、老化は水分ストレスや病害でも促進されるため、根の状態確認が不可欠です。
3. 頂芽優勢の打破(側枝の発生)
先端の芽(頂芽)が優先的に伸びる性質を抑え、脇芽(側枝)の発生を促します。摘心(ピンチ)作業は、頂芽を切除することでオーキシン供給を断ち、相対的にサイトカイニンの影響を強めて脇芽を伸長させる技術と解釈されます。
4. マメ科植物における根粒形成の制御
基礎研究(基礎生物学研究所など)により、マメ科植物では「葉で作られたサイトカイニンが根へ長距離移動し、根粒(こんりゅう)の数を制限する」働きがあることが解明されています。これは、窒素栄養が十分な環境下で根粒を作りすぎないよう、植物自身が共生バランスを調整していることを示しています。
不確実性と診断時の注意
作物体内のサイトカイニン量やその働きを、圃場での目視観察だけで確定することは不可能です。不調の原因を探る際は、以下の要素を含めて総合的に判断する必要があります。
- 根域環境の確認:主要な合成場所は根であるため、地温、土壌水分、根腐れの有無を確認します。根が傷んでいれば、ホルモンバランスが崩れている可能性が高いと推測します(断定はしません)。
- 他の類似要因の除外:葉の黄化が見られる場合、窒素・マグネシウム欠乏、ウイルス病、生理障害との区別を行います。
- 気象条件の影響:日照不足や極端な温度障害がある場合、ホルモン以前に基本生理が低下していると判断します。






