浸透ポテンシャルとは
浸透ポテンシャル(しんとうポテンシャル)とは、水に溶けている糖、無機イオンなどの溶質が、水の水ポテンシャルを低下させる作用を表す指標です。
英語ではOsmotic Potentialと表記します。
Solute Potentialと呼ばれることもあります。
記号にはΨs、Ψπ、Ψoなどが使われ、文献によって表記が異なります。
単位にはMPa(メガパスカル)などを使用します。
基準状態の純水では浸透ポテンシャルを0とし、溶質が溶けることで値は低下します。
一般に溶質濃度が高くなるほど、浸透ポテンシャルはより低い、つまりより負の値になります。
浸透ポテンシャルと水ポテンシャル
植物細胞の水ポテンシャルは、単純化すると、
水ポテンシャル = 浸透ポテンシャル + 圧ポテンシャル
として考えることができます。
浸透ポテンシャルは溶質によって水ポテンシャルを低下させる方向に働きます。
これに対して、生きた植物細胞の膨圧に関係する圧ポテンシャルは、通常、水ポテンシャルを高める方向に働きます。
実際の植物体では重力など他の成分を考慮する場合もあるため、この式は植物細胞の水分状態を理解するための単純化した表現です。
浸透ポテンシャルと浸透圧の違い
浸透ポテンシャルと浸透圧は、同じ符号の値ではありません。
浸透圧は、半透膜を隔てた溶液への水の移動を止めるために必要な圧力として、通常は正の値で表します。
これに対して浸透ポテンシャルは、溶質によって水ポテンシャルが低下する効果を負の値で表します。
理想的な条件では、
浸透ポテンシャル = -浸透圧
という関係で表すことができます。
したがって、
「浸透圧が高い」
と
「浸透ポテンシャルが高い」
を同じ意味で使ってはいけません。
溶質濃度が上昇した場合、
浸透圧は大きくなり、浸透ポテンシャルは低くなります。
浸透ポテンシャルと浸透
選択的に物質を通す膜を隔てて水ポテンシャルの異なる溶液が存在すると、水は基本的に水ポテンシャルの高い側から低い側へ移動します。
植物細胞では原形質膜などが選択的透過性を持つため、細胞内外の溶質状態が水の移動に影響します。
細胞内へ水が入ると膨圧が高まり、その圧力によって水ポテンシャルも変化します。
最終的な水の移動方向を決めるのは、
浸透ポテンシャルだけではなく、各場所の水ポテンシャルの差です。
溶質濃度が高くなると浸透ポテンシャルはどうなるか
糖、カリウムイオン、ナトリウムイオン、有機酸、アミノ酸などの溶質濃度が高くなると、一般に浸透ポテンシャルは低下します。
希薄な理想溶液では、この関係をファントホッフの式によって近似できます。
ただし、植物細胞液のように多数の溶質を含む系では、常に単純な理想溶液として扱えるわけではありません。
溶質濃度だけから植物組織の浸透ポテンシャルを正確に決められるとは限りません。
浸透ポテンシャルと膨圧
細胞内の浸透ポテンシャルが外部より低い条件では、水が細胞内へ移動する方向に働きます。
水が入ることで膨圧が高まり、圧ポテンシャルが上昇します。
十分に水を吸収した植物細胞では、
低い浸透ポテンシャルと正の圧ポテンシャルが組み合わさって、細胞の水ポテンシャルが決まっています。
このため、
浸透ポテンシャルが低い=膨圧が低い、とは限りません。
浸透ポテンシャルを低下させながら水を保持し、膨圧を維持している植物もあります。
水分ストレスと浸透ポテンシャル
植物が水分ストレスを受けて水を失うと、細胞内の溶質が濃縮され、浸透ポテンシャルが低下することがあります。
ここで注意が必要です。
乾燥によって水が減り、結果として溶質濃度が高まっただけでは、必ずしも「浸透調節」が起きたとはいえません。
単なる濃縮と、植物が生理的に溶質を蓄積する浸透調節は区別する必要があります。
浸透調節とは
植物は乾燥や塩類ストレスなどに対して、糖、アミノ酸、無機イオンなどを細胞内へ蓄積し、浸透ポテンシャルを低下させる場合があります。
これによって水を保持しやすくし、膨圧の維持に寄与する反応を浸透調節と呼びます。
プロリン、糖類など、生理機能への悪影響を比較的抑えながら蓄積される物質は適合溶質と呼ばれることがあります。
ただし、
浸透ポテンシャルが低下しただけで浸透調節が起きたと判断してはいけません。
水分を失ったことによる単純な濃縮の影響を除いて評価する必要があります。
研究では、十分に吸水させた葉の浸透ポテンシャルやP-V曲線などを利用して浸透調節を評価する場合があります。
塩類集積と浸透ポテンシャル
施設栽培では肥料成分などが根域に集積すると、土壌溶液や培養液の浸透ポテンシャルが低下します。
根の外側の水ポテンシャルが低下すると、根から水を吸収するために必要な水ポテンシャル差が小さくなったり、条件によっては吸水が強く制限されたりします。
このため、
土壌や培地が湿っていても、塩類濃度が高ければ植物が水を吸いにくくなることがあります。
これは塩類集積による生育障害を理解するうえで重要です。
浸透ポテンシャルとECの違い
ECは、溶液が電気をどの程度通すかを測定し、主に溶存イオンの量を推定する指標です。
浸透ポテンシャルは、水に存在する溶質全体が水ポテンシャルへ与える影響を表します。
糖など電気をほとんど運ばない溶質も浸透ポテンシャルに影響します。
そのため、
ECと浸透ポテンシャルは同じ指標ではありません。
ECが高くなれば浸透ポテンシャルが低下する傾向を示す場面はありますが、溶質の種類や組成が異なれば同じECでも浸透特性は同一とは限りません。
ECだけから植物の浸透ポテンシャルを直接求めることはできません。
養液栽培と浸透ポテンシャル
養液栽培では、培養液の肥料濃度を高めるほど植物が多くの肥料を吸収するとは限りません。
濃度が高くなれば培養液の浸透ポテンシャルが低下し、根の吸水を制限する場合があります。
特に高温・高日射条件では蒸散量が増えるため、根からの吸水と葉からの水分損失のバランスが崩れることがあります。
培養液管理では、養分供給だけでなく水分吸収への影響も考える必要があります。
浸透ポテンシャルの測定
植物組織の浸透ポテンシャルを評価する方法には、サイクロメーター、浸透圧計、P-V曲線などを利用する方法があります。
どの方法でも同じ値を直接測定しているとは限らず、測定対象や前処理も異なります。
例えば、
- 採取直後の組織を測定した値
- 十分に吸水させた組織の値
- 原形質分離が始まる時点の値
では意味が異なります。
論文に示された浸透ポテンシャル値を比較する場合は、測定方法と植物体の水分状態を確認してください。
浸透ポテンシャルでよくある誤解
溶質が多いほど浸透ポテンシャルが高くなると考える:
逆です。溶質濃度が高くなるほど、一般に浸透ポテンシャルはより負の値になります。
浸透圧と浸透ポテンシャルを同じ符号で扱う:
理想的な関係では両者は逆符号です。浸透圧は正、浸透ポテンシャルは負として表します。
浸透ポテンシャルが低ければ植物が弱っていると考える:
植物が浸透調節によって溶質を蓄積し、膨圧維持に利用している場合があります。低いこと自体が障害を意味するわけではありません。
乾燥後に浸透ポテンシャルが低下したら浸透調節と判断する:
水が減ったことによる単純な濃縮でも低下します。浸透調節の評価には水分状態をそろえた比較などが必要です。
ECから浸透ポテンシャルを直接判断する:
ECは主にイオンによる電気伝導性、浸透ポテンシャルは溶質による水ポテンシャル低下を表します。同一の指標ではありません。
関連する資材分類・農業用語
見つからない用語・製品の登録をリクエスト
個人情報の入力は不要です。掲載してほしい名称だけをお知らせください。