タバコガ(たばこが)

タバコガ
タバコガは、主にピーマンやトマトなどナス科作物の果実を食害するチョウ目ヤガ科の害虫です。

タバコガとは

タバコガ(たばこが)とは、チョウ目ヤガ科に属する蛾の一種で、学名をHelicoverpa assultaといいます。

幼虫が新芽、蕾、花、幼果、果実などを食害する農業害虫で、日本では特にピーマン、トウガラシ類などのナス科作物で問題になります。

近縁種のオオタバコガ(Helicoverpa armigera)とは外観や被害がよく似ていますが、同じ種類ではありません。

タバコガは比較的寄主範囲が狭いのに対し、オオタバコガは非常に多くの作物を加害する広食性害虫です。

農業現場や発生予察情報では、両種をまとめて「タバコガ類」と表記する場合があります。
「タバコガ」と「タバコガ類」は同じ意味ではありません。

タバコガとみられる成虫。タバコガとオオタバコガは近縁で、写真だけでの種判定には注意が必要です。
タバコガとみられる成虫(写真のみで種を確定したものではありません)

タバコガによる被害

タバコガで問題になるのは幼虫による食害です。

ふ化後の幼虫は蕾や花などを食害し、その後、果実へ食入します。
ピーマンなどでは果実のへた周辺や肩部などから内部へ入り、果肉や種子を食害します。

果実には次のような症状がみられます。

  • 果実表面の食害孔
  • 食害孔付近の虫糞
  • 内部の果肉や種子の食害
  • 食害部からの腐敗
  • 幼果の落果

1頭の幼虫が複数の果実を移動しながら加害することがあるため、幼虫数が少なくても被害果が増える場合があります。

果実内部へ食入してからでは薬剤が幼虫へ届きにくくなります。
目立つ被害果が増えてから防除を始めるのでは遅いことがあります。

タバコガが発生する主な作物

タバコガはナス科植物への適応性が高い害虫です。

国内では特に次のような作物で注意します。

  • ピーマン
  • パプリカ
  • ししとう
  • トウガラシ類
  • タバコ
  • ホオズキ類

トマト、ナスなどからも発生記録があります。

ただし、トマトやナスなどではオオタバコガによる被害も多く、果実に穴が開いているという理由だけでタバコガと断定できません。

キュウリ、オクラ、キャベツ、レタス、花き類など、タバコガとしては典型的でない作物でタバコガ類に似た幼虫を確認した場合は、まずオオタバコガや他のチョウ目害虫を含めて確認してください。

オオタバコガの広い寄主範囲を、そのままタバコガの寄主範囲として記載するのは誤りです。

卵・幼虫・蛹・成虫

卵

卵は蕾、葉、果実のへた付近などへ1個ずつ産み付けられます。

ヨトウムシ類のような大きな卵塊を探す方法では見落としやすいため、発生が疑われる圃場では蕾や花、幼果周辺も観察します。

幼虫

成熟した幼虫はおおむね25~40mm程度になります。

体色は淡緑色、黄緑色、黄褐色、褐色など変異が大きいため、

「緑色だからタバコガ」「褐色だからオオタバコガ」といった判定はできません。

特に若齢・中齢幼虫ではタバコガとオオタバコガの形態的な識別が困難です。

終齢幼虫では刺毛や斑紋などに識別上の特徴がありますが、現場写真だけから確実に種を判定できるとは限りません。

蛹

老熟幼虫は地表から土中へ移動し、蛹になります。

地域や栽培条件によって発生経過は異なりますが、タバコガは蛹で越冬します。

栽培終了時に被害果や作物残さだけを除去すれば完全に発生源をなくせるわけではありません。
すでに土中へ移動した個体が存在する可能性も考える必要があります。

成虫

成虫は夜行性の蛾で、開張はおおむね35mm前後です。

施設栽培では側窓、天窓、妻面、出入口などから侵入し、作物へ産卵します。

成虫そのものによる食害より、産卵後に発生する幼虫が問題になります。

タバコガとオオタバコガの違い

項目 タバコガ オオタバコガ
学名 Helicoverpa assulta Helicoverpa armigera
寄主範囲 比較的狭く、ナス科植物を中心とする 非常に広い
国内で特に問題となる作物 ピーマン、トウガラシ類など トマト、ナス、ピーマン、キャベツ、レタス、豆類、花き類など多数
若齢・中齢幼虫の識別 外観だけによる確実な識別は困難
果実への食入 あり あり
フェロモントラップ 種ごとに対象となる誘引剤を使用する。非標的種が捕獲されることもあるため同定に注意する

「タバコガ(オオタバコガを含む)」という表記は避けてください。

タバコガという種の中にオオタバコガが含まれるように読めるためです。

両種をまとめて扱う場合は、「タバコガ類(タバコガ・オオタバコガ)」などと明記します。

発生時期と発生予察

タバコガは春から秋にかけて複数世代を繰り返しますが、発生時期や発生回数は地域、気温、栽培作型によって変わります。

「毎年○月に防除する」と固定して判断するより、地域の病害虫防除所が公表する発生予察情報やフェロモントラップ調査と、実際の圃場観察を組み合わせる方が適切です。

フェロモントラップは成虫の発生消長を把握するために利用できます。

ただし、

トラップに成虫が捕獲されたことと、圃場内で幼虫被害が発生していることは同じではありません。

誘殺数が増えた場合は、蕾、花、幼果、果実などの調査を強化し、産卵や若齢幼虫を早く見つけるための情報として利用します。

また、フェロモントラップには対象種以外の近縁種などが混入することがあります。
捕獲虫の外観だけで誘殺数を集計すると誤った発生予察につながる可能性があります。

タバコガ防除の考え方

若齢幼虫のうちに防除する

薬剤防除では、果実内部へ食入する前の若齢幼虫期を狙うことが基本です。

果実内に入った幼虫は薬液へ直接触れにくくなるため、同じ薬剤を使用しても防除効果が得られにくくなります。

見回りでは葉だけでなく、

  • 新芽
  • 蕾
  • 花
  • 幼果
  • 果実のへた周辺
  • 食害孔
  • 虫糞

を確認します。

被害果を圃場内に残さない

幼虫が入っている被害果を発見した場合は、幼虫ごと圃場外へ持ち出すなど適切に処理します。

ただし、穴の数だけで「幼虫が中にいる」「すでに脱出した」と断定することはできません。

被害果を除去した時点ですでに幼虫が脱出している場合もあります。
被害果の除去だけを防除手段とせず、周囲の果実や蕾も調査します。

防虫ネットで成虫の侵入を減らす

施設では防虫ネット・防虫網によって成虫の侵入を減らす方法があります。

タバコガ類のような大型の蛾を対象とする場合、アザミウマ類やコナジラミ類を対象とする微細目ネットほど細かな目合いが必須とは限りません。

実際にピーマン栽培では、比較的大きな目合いのネットでもタバコガ類の被害軽減効果が確認された事例があります。

「目合いは細かいほどよい」と考えるのは誤りです。

細目化すると通気抵抗が増し、施設内温度や湿度へ影響します。

対象害虫だけでなく、

  • 同時に侵入を防ぎたい害虫
  • 必要換気量
  • ハウスの換気方式
  • ネットの開口率
  • 夏季の高温リスク

を含めて選定してください。

光を利用した防蛾対策

黄色灯などの光を利用し、夜行性のヤガ類の活動や産卵行動を抑制する技術があります。

これは「黄色いものを置けばタバコガが来なくなる」という意味ではありません。

照度、波長、設置間隔、周囲からの侵入、作物への日長反応などによって結果が変わります。

黄色い花やマリーゴールドを植えることを、タバコガの主要防除技術として扱う根拠にはなりません。

農薬による防除

タバコガに農薬を使用する場合は、農薬登録情報と製品ラベルに記載された

  • 作物名
  • 適用害虫名
  • 希釈倍数・使用量
  • 使用方法
  • 使用時期
  • 使用回数
  • 有効成分ごとの総使用回数

を確認してください。

「ピーマンに登録がある農薬だからタバコガにも使える」とは限りません。

また、

「オオタバコガに登録があるからタバコガにも使える」と判断することもできません。

登録上の適用害虫名が「タバコガ」「オオタバコガ」「タバコガ類」など、どの表記になっているかを確認する必要があります。

農薬登録内容は変更されることがあるため、農材ドットコムの記事中に薬剤名を固定して列挙するより、使用時点の農林水産省「農薬登録情報提供システム」で確認する方法が安全です。

同じ作用機構の薬剤を繰り返し使用する場合は、薬剤抵抗性発達のリスクにも注意します。

タバコガで起こりやすい誤判断

幼虫の色だけでタバコガと判断する

幼虫の体色は大きく変化します。

緑色、黄褐色、褐色といった色だけでは、タバコガ、オオタバコガ、その他のヤガ類を確実に識別できません。

トマトの果実に穴があればタバコガと判断する

トマトではオオタバコガも重要な害虫です。

食害孔だけからタバコガと断定すると、発生予察や農薬の適用害虫確認を誤る可能性があります。

フェロモントラップの捕獲数だけで防除を決める

フェロモントラップは成虫の発生消長を把握するための道具です。

誘殺数と圃場内の卵・幼虫密度や被害量は必ずしも一致しません。

誘殺増加を圃場調査開始の合図として利用し、実際の作物を確認します。

果実に入ってから農薬を散布すればよいと考える

食入後は薬液が幼虫へ届きにくくなります。

防除の中心は食入前の若齢幼虫期です。

オオタバコガの情報をそのままタバコガへ当てはめる

オオタバコガは広食性ですが、タバコガは寄主範囲が比較的狭い害虫です。

キャベツ、レタス、豆類、トウモロコシ、花き類などに発生するオオタバコガの情報を、そのまま「タバコガの被害作物」として掲載しないでください。

防虫ネットを細かくすればするほどよいと考える

目合いを細かくすれば小型害虫の侵入防止性能は高くなりますが、換気性能は低下します。

タバコガだけでなく、アザミウマ類、コナジラミ類など同時に防除する害虫と施設環境を含めて目合いを選びます。

タバコガ対策の基本

  • 蕾、花、幼果、果実のへた周辺を重点的に観察する。
  • 食害孔や虫糞を見つけたら周辺の果実も調査する。
  • 被害果を幼虫ごと圃場内に放置しない。
  • 薬剤防除は果実へ食入する前の若齢幼虫期を重視する。
  • 施設では防虫ネットなどで成虫の侵入を減らす。
  • フェロモントラップは発生消長の把握に利用し、誘殺数だけで防除を決定しない。
  • 幼虫の色や被害だけでタバコガと断定しない。
  • 農薬は「作物名」と「適用害虫名」の両方を確認する。
  • 地域の病害虫防除所が発表する発生予察情報を確認する。

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