葉面散布(ようめんさんぷ)

葉面散布とは

葉面散布(ようめんさんぷ)とは、肥料、農薬、バイオスティミュラントなどの散布液を、作物の葉、茎、果実など地上部へ散布する方法です。

英語ではfoliar applicationと表します。

肥料成分を葉などから吸収させることを目的とする場合は、葉面施肥(foliar fertilization、foliar feeding)とも呼ばれます。

ただし、「葉面散布」と「葉面施肥」は同じ意味ではありません。

農薬の葉面散布では、葉面、病原菌、害虫などへ薬剤を付着させること自体が目的になる場合があります。
浸透移行性の農薬もありますが、すべての農薬を植物体内へ吸収させることが目的ではありません。

一方、葉面施肥では、散布した肥料成分の一部を葉などから植物体内へ取り込ませることを目的とします。

葉面散布は資材の種類ではなく施用方法

「葉面散布剤」という名称は農業現場で広く使われますが、葉面散布は資材の法的な分類を表す言葉ではなく、散布方法を表す言葉です。

葉へ散布する製品には、

  • 肥料
  • 農薬
  • バイオスティミュラント
  • その他の農業資材

などがあります。

「葉面散布剤」と表示・紹介されているだけで、その製品が肥料や農薬として登録・届出されているとは判断できません。

製品の表示、保証票、農薬登録内容、メーカー資料などを確認してください。

葉面施肥で養分が吸収される仕組み

葉や果実など植物の地上部表面は、主としてクチクラによって覆われています。

葉面へ散布された水溶性の肥料成分の一部は、植物表面を通過して植物体内へ取り込まれます。

吸収経路にはクチクラを通る経路や、気孔など葉面構造が関係する経路があると考えられています。

ただし、どの経路から、どの程度吸収されるかを一律に決めることはできません。

葉面吸収には、

  • 植物の種類・品種
  • 葉齢
  • 葉面のクチクラやワックスの状態
  • 気孔密度
  • 肥料成分の種類
  • 散布液の濃度
  • 散布液のpH
  • 温度
  • 湿度
  • 散布液が葉面に留まる時間

など多くの条件が関係します。

葉に付着した肥料成分がすべて植物体内へ吸収されるわけではありません。

また、「葉裏には気孔が多いから葉裏へ散布すれば必ず吸収量が増える」と一律に判断することもできません。
気孔分布や葉面構造は植物によって異なります。

葉面散布が利用される場面

葉面施肥は、特定の養分を比較的少量補給したい場合や、特定の生育段階で養分を補給したい場合などに利用されます。

例えば、

  • 特定の微量要素欠乏への応急的な補給
  • 小麦などでの特定時期の窒素補給
  • 果樹における特定時期の養分補給
  • 根からの吸収が一時的に低下している場合の補助

などがあります。

鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素などの微量要素は、作物の必要量が比較的少ないため、作物や障害によっては葉面散布による補給が利用されます。

ただし、葉面散布が有効かどうかは、欠乏原因と対象元素によって異なります。

根が弱っているときの葉面散布

過湿、根傷み、低温などによって根からの養分吸収が低下した場合、葉面散布が補助的に利用されることがあります。

しかし、

「根が弱っているから葉面散布をすれば回復する」という考え方は危険です。

根傷みの原因が、

  • 過湿
  • 酸素不足
  • 高EC
  • 根域温度の異常
  • 根部病害
  • pH不適正

などにある場合、葉面散布を続けても根本原因は解消されません。

また、根が機能している条件では、土壌や培地からの養分吸収を回復させた方が、植物体全体への養分供給量を確保しやすい場合があります。

葉面散布は原因対策の代用ではなく、必要に応じて利用する補助的な方法と考えます。

根からの施肥との違い

葉面施肥は施肥方法の一つですが、通常の作物栽培では根からの養分吸収が栄養管理の中心です。

葉面散布では、薬害を起こさない濃度や葉面に保持できる液量に限界があります。

そのため、窒素、リン、カリウムなど作物が比較的多量に必要とする養分を、葉面散布だけで長期間供給することは一般に困難です。

例えば尿素は葉面施肥に利用されますが、一度に高濃度で散布すれば葉焼けなどの障害を起こす可能性があります。

葉面施肥は、通常の根からの施肥を全面的に置き換える技術ではありません。

ただし、小麦の実肥など、作物・生育時期・目的が限定された条件では、葉面施肥が実用的な施肥方法として利用される場合があります。

吸収した養分の植物体内での移動

葉から養分が吸収されても、その成分が必要な器官へ自由に移動するとは限りません。

吸収後の移動性は元素によって異なります。

特にカルシウムは植物体内で再移動しにくい元素です。

そのため、葉へカルシウムを散布して葉中カルシウム濃度が高くなっても、そのカルシウムが果実や新しい生長点へ十分移動するとは限りません。

果実のカルシウム不足に関係する生理障害では、

  • 根からのカルシウム吸収
  • 土壌・培地水分
  • 根域EC
  • 蒸散
  • 生育速度
  • 果実へのカルシウム供給

などを総合的に確認します。

作物によっては果実表面へカルシウム剤を直接散布する技術が利用される場合もありますが、葉へ散布すれば果実へ十分移行するという意味ではありません。

葉面散布の濃度

葉面散布では、散布液を濃くすれば吸収量や効果が比例して高まるわけではありません。

肥料濃度が高すぎると、葉面の浸透圧上昇などによって葉焼け、斑点、葉縁枯れなどの障害が発生する場合があります。

適正濃度は、

  • 作物
  • 生育段階
  • 肥料成分
  • 製品
  • 気温
  • 湿度
  • 散布量

などによって異なります。

「尿素なら0.5%」「カルシウムなら○%」など、成分名だけで共通濃度を決めないでください。

対象作物について確認された栽培指針、試験研究成果、製品表示を基準にします。

散布する時間帯と環境条件

高温・強日射下で散布すると、散布液が急速に濃縮・乾燥し、製品によっては葉焼けなどの障害リスクが高まります。

一方、湿度が高ければ常に効果が高いというものでもありません。

散布直後の降雨や結露によって散布液が流れれば、期待した付着量を確保できない場合があります。

したがって、

「葉面散布は必ず早朝」「必ず夕方」と時刻だけで決めるのではなく、そのときの気温、日射、湿度、葉面の乾き方、製品特性を確認します。

農薬については登録内容や使用上の注意、肥料等についてはメーカーが示す散布条件を優先します。

葉面散布と展着剤

展着剤は、散布液の濡れ、広がり、付着などを調整する目的で利用されます。

ただし、

展着剤を加用すれば葉面吸収が必ず増えるわけではありません。

葉面の濡れ方が大きく変化すると、散布液の浸透や付着状態が変わり、製品・作物・条件によっては薬害リスクが変化する場合があります。

農薬では、使用する農薬や展着剤の適用、注意事項を確認します。

葉面散布肥料でも、メーカーが展着剤加用の可否を示している場合はその指示に従います。

農薬と葉面散布肥料の混用

農薬散布と同時に葉面散布肥料を施用できる場合があります。

小麦では、尿素葉面施肥と赤かび病防除を同時に行う技術例もあります。

しかし、特定の組み合わせで問題がなかったことを、すべての農薬と肥料の組み合わせへ一般化してはいけません。

混用によって、

  • pHの変化
  • 沈殿
  • 凝集
  • 成分の分解
  • 葉面への付着や浸透状態の変化
  • 薬害
  • 農薬効果の低下

などが起こる可能性があります。

使用する農薬の登録内容・ラベル、肥料メーカーや農薬メーカーの混用情報を確認します。

確認できない組み合わせを、作業回数を減らす目的だけで安易に混用しないでください。

養分欠乏が疑われるときの判断

葉色の変化や葉縁枯れなどの症状を見て、直ちに葉面散布するのは適切ではありません。

似た症状でも原因は、

  • 養分欠乏
  • 養分過剰
  • 根傷み
  • 高EC
  • pH障害
  • 低温・高温
  • 過湿・乾燥
  • 病害

などさまざまです。

例えば根域pHが原因で鉄やマンガンなどを吸収できなくなっている場合、一時的に葉面散布で症状が軽減しても、根域条件を改善しなければ再発する可能性があります。

葉面散布で症状が軽減したことと、障害の原因そのものが解消されたことは同じではありません。

土壌・培地分析、養液分析、葉分析、根の状態、栽培履歴などから原因を確認します。

葉面散布でよくある間違い

葉面散布なら根より早く、効率よく養分を吸収できる

養分や条件によっては速やかな補給が可能ですが、すべての成分・作物で根からの吸収より優れるわけではありません。

供給できる総量にも限界があります。

葉裏に散布すれば必ずよく吸収される

葉の表裏における気孔密度やクチクラの構造は植物によって異なります。

葉裏散布をすべての作物へ一般化することはできません。

根が弱っているときは葉面散布で回復できる

葉面施肥によって一部の養分を補給できる場合はありますが、根腐れ、高EC、過湿などの根本原因は解決しません。

原因の診断と根域環境の改善を優先します。

カルシウムを葉へ散布すれば果実のカルシウム不足を解消できる

カルシウムは植物体内で再移動しにくいため、葉から吸収されたカルシウムが果実へ十分移動するとは限りません。

作物によっては果実へ直接散布する技術もありますが、葉面散布だけで生理障害対策が完結するとは考えません。

濃度を高くすれば効果も高くなる

高濃度散布では薬害リスクが高くなります。

試験・表示された濃度範囲を基準にします。

展着剤を入れれば葉面吸収が増える

展着剤は散布液の物理性を変化させる資材です。

吸収促進効果をすべての肥料・作物で保証するものではありません。

農薬と葉面散布肥料を混ぜれば作業を省力化できる

混用できる組み合わせもありますが、すべてではありません。

混用可否と薬害・効果への影響を確認せずに混ぜないでください。

葉面散布で症状が改善すれば原因も解決した

葉面散布は一時的な養分補給になる場合があります。

土壌pH、根傷み、ECなどが原因なら、その原因を改善しなければ再発する可能性があります。

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