水ポテンシャル(みずぽてんしゃる)

水ポテンシャルとは

水ポテンシャルとは、水が持つエネルギー状態を表し、水がどちらの方向へ移動しやすいかを考えるために使われる指標です。

英語ではWater Potentialと表記し、一般にΨ(プサイ)で表します。

単位にはMPa(メガパスカル)が広く使われます。

植物体内では、水は基本的に水ポテンシャルの高い側から低い側へ移動します。

基準となる純水の水ポテンシャルを0 MPaとすると、植物体や土壌の水ポテンシャルは多くの場合マイナスの値になります。

例えば、

0 MPa → -0.5 MPa → -1.0 MPa

という順では、-1.0 MPaの方が水ポテンシャルは低い状態です。

マイナスの数字が大きく見えるほど水ポテンシャルが高い、という意味ではありません。

-1.0 MPaは-0.5 MPaより低い水ポテンシャルです。

水ポテンシャルは「水分量」ではない

水ポテンシャルで最も誤解しやすいのは、水分含量そのものを示す数値だと考えることです。

水ポテンシャルは、

「植物や土壌に水が何%含まれているか」を示す値ではありません。

水がどの程度移動しやすい状態にあるかを、エネルギーの観点から表したものです。

例えば同じ含水率の土壌でも、土性や塩類濃度などが異なれば、水が植物に利用される状態は同じとは限りません。

植物体でも、溶質濃度、細胞の膨圧、水分状態などによって水ポテンシャルが変化します。

植物の水移動と水ポテンシャル

植物では、土壌から根、茎、葉、大気へと水が移動します。

一般的には、

土壌 → 根 → 茎 → 葉 → 大気

という水ポテンシャル勾配が形成されることで、水が植物体内を移動します。

葉から蒸散によって水が失われると、葉側の水ポテンシャルが低下し、水ポテンシャル差によって根から葉方向への水移動が促されます。

この水の流れは、植物の吸水、蒸散、養分輸送、生長などに深く関係しています。

水ポテンシャルを構成する要素

水ポテンシャルは一つの要因だけで決まりません。

植物細胞では主に、

  • 浸透ポテンシャル:糖、無機イオンなどの溶質による影響
  • 圧ポテンシャル:細胞内の膨圧や木部内の張力などによる影響

によって決まります。

状況によっては、マトリックポテンシャルや重力ポテンシャルも考慮します。

概念的には、

水ポテンシャル=浸透ポテンシャル+圧ポテンシャル+その他のポテンシャル

として扱います。

植物細胞では溶質濃度が高くなると浸透ポテンシャルは低下します。

十分に吸水して細胞の膨圧が高まれば、圧ポテンシャルは高くなります。

この組み合わせによって細胞全体の水ポテンシャルが決まります。

水ポテンシャルと膨圧

植物細胞に水が入り、細胞内容物が細胞壁を内側から押す圧力を膨圧といいます。

膨圧は葉や茎の張り、生長などに関係します。

水分不足が進むと細胞の水分状態が変化し、膨圧が低下して葉がしおれる場合があります。

ただし、

葉がしおれているから特定の水ポテンシャルになっている、と外観だけから数値を決めることはできません。

作物、葉齢、気象条件などによって反応は異なります。

水ポテンシャルと水分ストレス

水ポテンシャルは、植物の水分ストレスを評価する代表的な指標の一つです。

植物への水分供給が蒸散による消費に追いつかなくなると、一般に葉や枝の水ポテンシャルは低下します。

果樹栽培では、葉や枝の水ポテンシャルを測定し、樹体の水分状態や灌水時期を判断する研究や栽培技術があります。

農研機構では、ウンシュウミカンやモモなどで水ポテンシャルを樹体の水ストレス指標として利用した研究が行われています。

「水ポテンシャルが○MPaなら適正」という全作物共通の基準はありません。

作物、品種、生育段階、測定部位、測定時刻によって値の意味が変わります。

葉の水ポテンシャルと枝の水ポテンシャル

研究や栽培管理では、葉の水ポテンシャルや枝の水ポテンシャルなどが測定されます。

葉の水ポテンシャルと枝の水ポテンシャルは同じ測定値ではありません。

葉は日射、気温、湿度、風などの影響を強く受け、日中には蒸散によって水ポテンシャルが低下します。

一方、一定時間遮光した葉を枝と水分平衡させて測定するなど、枝の水分状態を評価する方法もあります。

研究論文や栽培基準に示された値を利用する場合は、

  • 葉を測った値なのか
  • 枝の水分状態を推定した値なのか
  • 夜明け前なのか日中なのか
  • どの測定法を使用したのか

を確認する必要があります。

夜明け前の水ポテンシャル

夜間は一般に日中より蒸散が小さくなります。

このため夜明け前の葉の水ポテンシャルを測定し、植物体と根域の水分状態を評価する方法があります。

果樹研究では「最大水ポテンシャル」などの名称で扱われる場合があります。

夜明け前の値と日中の値では意味が異なります。

測定時刻をそろえずに水ポテンシャルを比較してはいけません。

水ポテンシャルの測定

植物の水ポテンシャル測定には、プレッシャーチャンバー、サイクロメーターなど複数の方法があります。

果樹などで広く利用される方法の一つがプレッシャーチャンバー法です。

葉や枝を切り取り、圧力容器内で加圧して、切断面の木部に水が現れる圧力などから水分状態を評価します。

比較的迅速に測定できますが、採取から測定までの水分損失、加圧速度、葉の処理、測定時刻などによって測定値へ影響が出ます。

測定機器に表示された数値だけを比較しても、測定条件が異なれば正しい比較にならない場合があります。

水ポテンシャルとpF値の違い

pF値も土壌水分を評価する際に使用されますが、水ポテンシャルと同じ指標ではありません。

pF値は、土壌水が土壌に保持されている強さを水柱高さの常用対数として表した指標です。

水ポテンシャルは水のエネルギー状態を圧力単位などで表します。

土壌水分管理では両者に関連がありますが、

植物体の水ポテンシャルと土壌のpF値を同じ数値尺度として直接比較することはできません。

水ポテンシャルと体積含水率の違い

体積含水率は、一定体積の土壌や培地にどれだけの水が含まれているかを示す指標です。

水ポテンシャルは、水がどの程度移動しやすいエネルギー状態にあるかを表します。

同じ体積含水率でも、土性や培地の性質によって水ポテンシャルは異なります。

したがって、体積含水率の値だけから植物の水分ストレスを一律に判断することはできません。

水ポテンシャルでよくある誤解

値がマイナスなので異常だと考える:
植物体の水ポテンシャルがマイナスになること自体は一般的です。純水を0 MPaとした基準で表しているためです。

-1.0 MPaは-0.5 MPaより水ポテンシャルが高いと考える:
逆です。-1.0 MPaの方が水ポテンシャルは低い値です。

水ポテンシャルは植物体の含水率だと考える:
含水率ではなく、水のエネルギー状態を示す指標です。

他作物の基準値を灌水判断に流用する:
作物、品種、生育段階、測定部位、測定時刻などで値が変わります。他作物の数値をそのまま使用できません。

一度測定すれば樹全体の状態が分かると考える:
葉位、樹冠内の位置、日射条件、測定時刻などによるばらつきがあります。測定方法を標準化する必要があります。

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