人工光型植物工場とは
人工光型植物工場(じんこうこうがたしょくぶつこうじょう)とは、太陽光を栽培光源として利用せず、LEDなどの人工光によって植物を育て、温度、湿度、CO2濃度、養液などの生育環境を制御して計画生産を行う植物工場です。
英語ではPlant Factory with Artificial Lighting(PFAL)という表現が研究分野などで使われます。
過去の国内資料では完全人工光型植物工場という名称も広く使われています。
現在、農林水産省では「人工光型植物工場」という名称を使用し、人工光型植物工場における葉菜類の栽培環境管理(JAS 0012)が制定されています。
人工光型植物工場の仕組み
人工光型植物工場では、栽培空間を外部環境からある程度隔離し、植物の生育に必要な環境を設備によってつくります。
主な設備には次のものがあります。
- LEDなどの人工照明
- 冷暖房・空調設備
- 除湿・加湿設備
- CO2供給設備
- 養液供給設備
- 栽培ベッド・栽培棚
- 温度・湿度・CO2・光などのセンサー
- 環境制御・生産管理システム
これらを組み合わせ、光周期、光量、気温、湿度、CO2濃度、養液EC、pHなどを管理します。
人工光型植物工場で栽培される作物
人工光型植物工場では、レタス、リーフレタス、ベビーリーフ、ハーブ類などの葉菜類が代表的です。
これらは比較的草丈が低く、生育期間が短いため、多段式栽培と組み合わせて空間を有効利用しやすい特徴があります。
苗、薬用・機能性植物、イチゴ、果菜類などを対象とした研究や生産も行われています。
人工光型植物工場だから、どの作物でも経済的に栽培できるわけではありません。
草丈が高い作物や栽培期間の長い作物では、照明面積、空調負荷、栽培空間などが大きくなり、採算性が課題になる場合があります。
人工光型植物工場と多段式栽培
人工光型植物工場では、栽培棚を上下に配置する多段式栽培が広く利用されています。
限られた床面積に複数の栽培面を設けられるため、建物床面積当たりの栽培面積を増やすことができます。
ただし、「人工光型植物工場=多段式栽培」ではありません。
一段式の人工光型施設もあり、多段化は人工光型植物工場を成立させる必須条件ではありません。
人工光型植物工場と垂直農法の違い
多段式人工光型植物工場は、垂直農法(Vertical Farming)の一例として扱われることがあります。
しかし、垂直農法と人工光型植物工場は完全な同義語ではありません。
人工光型植物工場は光源と環境制御方式を基準とした概念であるのに対し、垂直農法は垂直方向・多層方向へ栽培空間を利用する生産方式を中心とした概念です。
人工光型植物工場と養液栽培
人工光型植物工場では養液栽培が広く利用されています。
養液のECやpHを測定し、植物の生育段階に応じて水分と養分を管理します。
養液を循環利用する方式では水や肥料を効率的に使用できる可能性があります。
その反面、病原菌が養液系統へ侵入した場合には、循環によって複数の株へ広がる可能性があるため、衛生管理が必要です。
人工光型植物工場の利点
天候の影響を受けにくい
栽培光を人工照明で供給するため、曇天や日照不足による光量変動を小さくできます。
台風、豪雨などによる植物への直接的な影響も一般的な露地・温室栽培より小さくできます。
光環境を設定できる
照明の点灯時間や光量を管理できるため、作物に応じた光環境を設定できます。
LEDでは光源の仕様によって分光特性を選択できる場合もあります。
衛生管理を行いやすい
外部との出入りを制限し、防虫・衛生管理を徹底することで、害虫や病原菌の侵入リスクを低減できる可能性があります。
ただし、閉鎖施設であっても病害虫や微生物汚染が完全になくなるわけではありません。
人工光型植物工場の課題
照明電力
人工光型では植物の光合成に必要な光を電力からつくるため、照明電力が主要な運転コストになります。
光量を増やせば必ず利益が増えるわけではありません。光合成速度、生育速度、収穫量、電力料金を合わせて判断する必要があります。
空調負荷
LEDなどの照明で使用された電力の多くは最終的に熱となり、栽培室の冷房負荷になります。
そのため、照明効率だけでなく空調効率も人工光型植物工場のエネルギー性能を左右します。
設備故障の影響が大きい
照明、空調、養液供給などを設備に依存しているため、停電や設備故障が栽培環境へ短時間で影響する場合があります。
非常用電源、警報、遠隔監視、設備の冗長化なども施設設計上の重要な検討事項です。
人工光型植物工場JAS
農林水産省では、人工光型植物工場における葉菜類の栽培環境管理(JAS 0012)を制定しています。
このJASは、人工光型植物工場で生産された野菜そのものの味や栄養価を格付けする規格ではありません。
栽培環境を適切に管理する能力や、その管理方法を評価するための規格です。
「人工光型植物工場で生産された野菜だからJAS認証品」という意味でもありません。認証を受けた事業者と、一般的な人工光型植物工場は区別する必要があります。
人工光型植物工場でよくある誤解
「人工光型なら無農薬」と考える
人工光型では害虫の侵入を抑えやすいものの、無農薬であることが定義に含まれているわけではありません。
農薬使用の有無は施設ごとに確認する必要があります。
「LEDなら植物工場」と考える
誤りです。
一般的な温室でLED補光を行っても、それだけで人工光型植物工場になるわけではありません。
太陽光を基本にLEDを補助的に使用している施設は、太陽光利用型または太陽光・人工光併用型として扱われます。
「電気代だけを見れば採算性を判断できる」と考える
人工光型植物工場の経営では、電力費だけでなく、設備償却費、人件費、種苗費、物流費、歩留まり、販売価格、施設稼働率などを含めて判断します。
電力効率が高い設備でも、生産・販売計画が成立しなければ収益性は確保できません。
「閉鎖施設だから環境は均一」と考える
栽培棚の位置、空調の吹き出し・吸い込み、照明配置、植物の葉面積などによって、温度、湿度、CO2濃度、風速、光量にむらが生じます。
室内平均値だけではなく、栽培面での環境分布を確認する必要があります。
関連する資材分類・農業用語
人工光型植物工場の参考動画
人工光型植物工場では、栽培環境の管理方法が生産工程全体に関係します。
農林水産省が公開している、人工光型植物工場JASの説明動画が参考になります。
植物工場JASで管理能力をアピール!
農林水産省
植物工場JASで管理能力をアピール!(YouTube)を見る
動画について:
この動画は、人工光型植物工場における栽培環境管理JASの考え方を理解するための参考資料として紹介しています。農材ドットコムが制作・管理している動画ではありません。動画の内容、公開状況、URLなどは公開元の都合により変更または削除される場合があります。JASの規格内容は改正される場合があるため、認証や規格について確認する場合は農林水産省が公開する最新の規格を確認してください。
参考資料
- 農林水産省「JASの対象となる品目(規格)」
- 農林水産省「人工光型植物工場JASマップ」
- 農研機構「データを活用した人工光型植物工場の最新動向」
- 農研機構「植物工場 九州実証拠点」
- 農畜産業振興機構「植物工場における栽培技術および品種開発」
導入・運用について:
人工光型植物工場は、外部気象の影響を小さくできる一方、照明・空調などの電力費と設備投資が経営を大きく左右します。設備仕様だけで採算性を判断せず、対象作物、生産量、販売価格、電力単価、人件費、設備償却、稼働率を含めて検討してください。
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