けい酸肥料(けいさんひりょう)

けい酸肥料とは

けい酸肥料(けいさんひりょう)とは、
植物へケイ素(Si)を供給することを目的として利用される肥料・資材を広く指す言葉です。

農業では、ケイ素成分を一般にけい酸(SiO2)換算で表示するため、
「けい酸肥料」「ケイ酸資材」などと呼ばれます。

「シリカ肥料」という名称が使われることもありますが、
これらは必ずしも肥料制度上の正式な分類名ではありません。

日本の普通肥料の公定規格には「けい酸質肥料」という区分があり、
鉱さいけい酸質肥料、シリカゲル肥料、シリカヒドロゲル肥料、
けい灰石肥料、軽量気泡コンクリート粉末肥料、
熔成けい酸質肥料などが含まれます。

一方、
けい酸加里肥料など、ケイ素を供給できても別の肥料区分に分類される肥料もあります。

したがって、
「けい酸肥料」と「けい酸質肥料」を完全な同義語として扱うのは正確ではありません。

ケイ素は植物の必須元素なのか

ケイ素は、
窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどと同じ意味での
一般的な植物必須元素とは現在位置づけられていません。

しかし、
多くの植物で生育や環境ストレスへの適応に有益な作用を示す「有用元素」
として研究されています。

特にイネはケイ素を多量に吸収・蓄積する植物です。

イネ以外にも、
コムギ、オオムギ、サトウキビなどのイネ科作物は
比較的多くのケイ素を蓄積します。

ただし、
作物が違えばケイ素の吸収量や施用効果も同じではありません。

トマト、果樹、花きなどにもケイ素に関する研究例はありますが、
水稲と同じ施肥効果が得られると一律に考えることはできません。

植物はケイ素をどのように吸収するか

土壌中には大量のケイ素が存在していますが、
そのすべてを植物が直ちに吸収できるわけではありません。

植物は、
土壌溶液中に溶けているケイ素を主にケイ酸の形で根から吸収します。

吸収されたケイ素は地上部へ運ばれ、
蒸散に伴って葉、茎、籾などの組織に蓄積します。

イネでは、
表皮などにシリカとして沈積することによって、
植物体の物理的強度などに関与します。

「土壌中にケイ素が多い=作物が利用できるケイ酸も十分」とは限りません。

土壌中のケイ素総量と、
作物が利用できる可給態けい酸は区別して考える必要があります。

イネに対するけい酸の主な作用

葉や茎の物理的強度に関係する

イネが吸収したケイ素は、
葉や茎などに蓄積します。

ケイ素が十分に蓄積したイネでは、
茎葉の物理的強度や耐倒伏性が高まることがあります。

ただし、
倒伏は窒素過多、品種、草丈、栽植密度、風雨などにも左右されます。

けい酸肥料を施用すれば倒伏しなくなるという意味ではありません。

受光態勢に関係する

ケイ素が十分に蓄積すると、
葉が立ちやすくなり、
群落内部への光の入り方が改善することがあります。

その結果、
群落全体として良好な受光態勢を維持しやすくなる場合があります。

これを単純に
「けい酸が光合成を直接促進する」と説明するのは正確ではありません。

病害や害虫に対する抵抗性に関係する

ケイ素の蓄積による物理的障壁や植物側の生理応答を通じて、
一部の病害・害虫に対する抵抗性が高まることがあります。

水稲では、
いもち病などとの関係が研究されています。

ただし、

けい酸肥料は農薬ではありません。

病原菌や害虫を直接殺す資材ではなく、
農薬による防除の代替になると考えるのは誤りです。

病害虫が発生した場合は、
病害虫の診断と登録農薬による適切な防除を別に行います。

環境ストレスへの反応に関係する

ケイ素については、
高温、乾燥、塩類ストレス、金属ストレスなど
さまざまな環境ストレスとの関係が研究されています。

ただし、
効果の程度は作物、品種、栽培条件、ケイ素供給状態によって異なります。

「ケイ酸を施用すれば高温障害を防げる」などと単独効果として断定することはできません。

肥料表示の「可溶性けい酸」とは

けい酸質肥料では、
保証成分として可溶性けい酸が表示されることがあります。

肥料の品質の確保等に関する制度では、
けい酸成分は二酸化けい素(SiO2)として算出されます。

ここでいう「可溶性」は、
単純に「水に溶けやすい」という意味ではありません。

FAMICの肥料等試験法では、
肥料の原料によって、
塩酸溶液または水酸化ナトリウム溶液などを用いた
規定の方法で抽出されるけい酸を可溶性けい酸として測定します。

一方、
水に溶けるけい酸については「水溶性けい酸」という別の保証成分があります。

「可溶性けい酸」と「水溶性けい酸」を混同しないでください。

代表的なけい酸質肥料

鉱さいけい酸質肥料

鉄鋼などの製造工程で生じる鉱さい(スラグ)を原料とする肥料です。

一般に「ケイカル」と呼ばれる製品の多くは、
この鉱さいけい酸質肥料に該当します。

可溶性けい酸に加え、
アルカリ分や製品によっては苦土、マンガン、ほう素などを含みます。

アルカリ分を多く含む製品では、
ケイ素供給だけでなく土壌酸性の矯正にも影響します。

シリカゲル肥料・シリカヒドロゲル肥料

水ガラスなどを原料として製造される
けい酸質肥料です。

従来の鉱さいけい酸質肥料とは
原料や化学的性質が異なります。

シリカゲル肥料は、
水稲育苗などで利用される場合もあります。

けい灰石肥料

けい灰石を原料とするけい酸質肥料です。

可溶性けい酸に加えてアルカリ分を含みます。

軽量気泡コンクリート粉末肥料

軽量気泡コンクリートに由来する原料を粉砕して製造される肥料で、
可溶性けい酸とアルカリ分を含みます。

熔成けい酸質肥料

原料を高温で熔融する工程を経て製造される
けい酸質肥料です。

製品ごとに成分組成が異なるため、
肥料の種類名だけで施用量を判断せず、
保証票を確認します。

けい酸加里肥料との違い

けい酸加里肥料は、
名称に「けい酸」と付いていますが、
公定規格上は「けい酸質肥料」ではなく加里質肥料に分類されます。

けい酸加里肥料には、
く溶性加里と可溶性けい酸などが含まれます。

カリウム供給とケイ素供給の両方を目的として利用されます。

したがって、
「ケイ酸を含む肥料=すべてケイカル」と考えるのは誤りです。

原料、保証成分、アルカリ分、加里や苦土などの副成分を確認して
製品を選定する必要があります。

けい酸肥料の施用量は土壌診断で判断する

水田では、
土壌中の可給態けい酸や
稲体中のけい酸含有率などを参考にして施用量を判断します。

農林水産省が公開する施肥基準資料でも、
土壌中の可給態けい酸含量や
収穫期の稲わら中のけい酸含有率などを確認して、
けい酸質資材の施用量を決める方法が示されています。

したがって、

「水稲には毎年○kg施用すればよい」という全国共通の施用量はありません。

土壌、地域、資材の成分濃度、
稲わらを圃場へ還元しているか、
過去の施用履歴などによって必要量は変わります。

土壌診断や地域の施肥基準を確認して判断します。

稲わらの持ち出しにも注意する

イネが吸収したケイ素の多くは、
茎葉や籾殻などに蓄積します。

稲わらを圃場外へ継続的に持ち出す栽培では、
圃場からケイ素も持ち出されます。

一方、
稲わらを還元している圃場では、
ケイ素の一部が再び土壌へ戻ります。

したがって、
けい酸肥料の必要量を考える際には、稲わらの処理方法も確認する必要があります。

アルカリ分を無視しない

鉱さいけい酸質肥料などには、
可溶性けい酸だけでなく
アルカリ分を多く含む製品があります。

このため、
酸性土壌では土壌pHの矯正効果が期待できる場合があります。

逆に、
土壌pHがすでに高い圃場へ大量に施用すれば、
pHをさらに上昇させる可能性があります。

pHの上昇によって、
鉄、マンガン、亜鉛などの微量要素が
作物に利用されにくくなる場合もあります。

「けい酸だから多く施しても問題ない」という判断は避けてください。

可溶性けい酸だけでなく、
アルカリ分、苦土、加里など
肥料全体の成分を確認する必要があります。

液体けい酸肥料・葉面散布の注意点

液体状のケイ素資材も流通していますが、
「液体だから葉から速やかに吸収される」と一律には判断できません。

ケイ素化合物の形態、
濃度、pH、散布方法、作物などによって挙動は異なります。

また、
水稲などで大量に蓄積されるケイ素は、
基本的に根からの吸収が重要です。

葉面散布用製品を使用する場合は、
メーカーが示す対象作物、希釈倍率、使用方法を確認します。

土壌施用のけい酸肥料と葉面散布用資材を同じものとして扱わないでください。

けい酸肥料でよくある誤解

  • 「ケイ素はすべての作物の必須元素」:現在は一般的な植物必須元素ではなく、有用元素として扱われています。
  • 「けい酸質肥料はすべて水に溶けやすい」:誤りです。肥料の種類によって溶解性は大きく異なります。
  • 「ケイ酸を入れれば病害虫を防除できる」:農薬ではありません。抵抗性への効果と防除効果を混同しないでください。
  • 「ケイ酸を多く入れるほど収量が増える」:土壌や作物のケイ素供給状態によって効果は異なります。
  • 「ケイ酸肥料はどれも同じ」:鉱さいけい酸質肥料、シリカゲル肥料、けい酸加里肥料などでは成分と性質が異なります。
  • 「ケイカルは単なる土壌改良材」:ケイカルとして流通する鉱さいけい酸質肥料は、肥料制度上の普通肥料です。

参考動画

水稲における高温障害対策(JA全農大阪)

水稲の高温障害対策について解説した動画で、対策の一つとしてケイ酸の利用について紹介されています。

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