重複受精(ちょうふくじゅせい・じゅうふくじゅせい)

重複受精とは

重複受精(ちょうふくじゅせい・じゅうふくじゅせい、double fertilization)とは、被子植物の生殖において、花粉管によって運ばれた2個の精細胞が、それぞれ卵細胞と中央細胞に受精する仕組みです。

一方の精細胞は卵細胞と受精して受精卵を形成し、その後、次世代の植物体のもととなる胚へ発達します。

もう一方の精細胞は、胚嚢内の中央細胞と受精し、胚乳形成を開始します。

  • 精細胞+卵細胞 → 受精卵 → 胚
  • 精細胞+中央細胞 → 胚乳形成

このように、同じ胚嚢内で二つの受精が行われるため「重複受精」と呼ばれます。

重複受精で最も重要な点:
「2個の精細胞があること」だけを重複受精というのではありません。一方が卵細胞、もう一方が中央細胞という異なる二つの細胞と受精することが重複受精です。

「ちょうふくじゅせい」と「じゅうふくじゅせい」

「重複受精」には、ちょうふくじゅせいとじゅうふくじゅせいの両方の読み方があります。

植物生殖の研究分野では「ちょうふくじゅせい」と呼ばれることが多い一方、現在の高校教科書では「じゅうふくじゅせい」という読み方も用いられています。

どちらか一方だけが誤りというわけではありません。農材ドットコムでは、植物研究分野で広く使われている「ちょうふくじゅせい」を主な読み方として扱い、「じゅうふくじゅせい」も併記すると分かりやすくなります。

重複受精が起こるまで

重複受精は、受粉した直後に起こるわけではありません。

被子植物では、一般に次の過程を経て重複受精に至ります。

  1. 受粉
    花粉が柱頭へ到達します。
  2. 花粉の発芽
    適合する花粉が柱頭上で発芽し、花粉管を形成します。
  3. 花粉管の伸長
    花粉管が花柱など雌しべ内部を通って子房方向へ伸びます。
  4. 胚珠への誘引
    胚珠内部にある胚嚢の助細胞などが花粉管の誘引に関わります。
  5. 胚嚢への到達
    多くの被子植物では、花粉管が珠孔側から胚珠へ入り、胚嚢へ到達します。
  6. 精細胞の放出
    花粉管から2個の精細胞が放出されます。
  7. 二つの受精
    一方の精細胞が卵細胞と、もう一方が中央細胞と受精します。

したがって、「受粉した=重複受精が成立した」ではありません。

1つ目の受精―卵細胞との受精

花粉管によって運ばれた精細胞の一方は、胚嚢内の卵細胞と融合します。

通常の有性生殖では、単相(n)の精細胞と単相(n)の卵細胞が受精し、複相(2n)の受精卵(接合子)が形成されます。

受精卵はその後、細胞分裂と分化を繰り返して胚へ発達します。

精細胞(n)+卵細胞(n) → 受精卵(2n) → 胚

胚は、将来発芽したときに新しい植物体となる部分です。

2つ目の受精―中央細胞との受精

もう一方の精細胞は、胚嚢内にある中央細胞と受精します。

最も一般的なタデ型の胚嚢では、中央細胞には母親由来の2個の極核があります。極核は受精前に融合している場合もあれば、別々の状態で存在する場合もあります。

典型的な場合には、母親由来の2個の単相核(n+n)に父親由来の精細胞の核(n)が加わり、通常3nとなる胚乳核が形成されます。

精細胞(n)+中央細胞側の核(n+n) → 通常3n → 胚乳

この受精を契機として胚乳の形成が進みます。

「精細胞+極核=胚乳」とだけ覚えない方が正確です。
極核は中央細胞の内部にある核です。細胞レベルでは、精細胞が中央細胞と受精すると説明すると、胚嚢の構造との関係を理解しやすくなります。

なぜ「3n」になるのか

学校教育では、重複受精について「胚は2n、胚乳は3n」と説明されることが多くあります。

最も一般的なタデ型の胚嚢では、この説明で問題ありません。

  • 卵細胞:n
  • 精細胞:n
  • 受精卵:2n
  • 中央細胞側:母親由来の極核 n+n
  • もう一方の精細胞:n
  • 胚乳形成を始める核:通常3n

ただし、「胚乳は必ず3n」という説明は正確ではありません。

被子植物にはタデ型以外の胚嚢形成様式もあり、植物によっては5n、7nなど、異なる核相の胚乳が形成される例があります。

重複受精の本質は「3nの組織をつくること」ではありません。

父親由来の精細胞が中央細胞と受精し、その受精を経て胚乳形成が進むことが重要です。

重複受精後に種子が形成される

重複受精が正常に成立すると、胚珠内部で胚と胚乳の形成が進みます。

  • 受精した卵細胞 → 受精卵 → 胚
  • 受精した中央細胞 → 胚乳
  • 珠皮 → 種皮の形成に関与
  • 胚珠全体 → 種子

つまり、重複受精によって形成される胚と胚乳は同じものではありません。

胚は次世代の植物体となる部分であり、胚乳はその発達や発芽後の初期生育を支える組織です。

なぜ中央細胞も受精するのか

中央細胞との受精によって、父親由来のゲノムが胚乳形成に加わります。

胚乳では母親由来と父親由来のゲノムが同じように働くとは限らず、どちらの親から由来した遺伝子かによって発現が異なるゲノムインプリンティングが知られています。

種によって適正な母親由来ゲノムと父親由来ゲノムの比率があり、そのバランスが大きく崩れると、胚乳が正常に発達せず種子形成に異常が生じることがあります。

ただし、「重複受精が進化した理由はこれ一つで説明できる」と断定することはできません。

重複受精がどのように進化し、被子植物の繁栄にどのような利点を与えたのかについては研究が続いています。

重複受精と胚乳形成の関係

被子植物では、中央細胞への受精が胚乳形成の重要な起点となります。

このため、胚の受精だけが正常に成立しても、中央細胞側の受精や胚乳発達に異常があると、種子が正常に成熟しない場合があります。

反対に、中央細胞側の受精だけでは正常な次世代植物体をつくることはできません。

正常な種子形成には、胚形成と胚乳形成が適切に進行することが重要です。

重複受精と交雑・倍数性

農業や植物育種では、異なる品種・系統・種・倍数性の植物を交配することがあります。

交配の組み合わせによっては、卵細胞との受精が起きても、胚乳における母親由来と父親由来のゲノム量のバランスが崩れ、胚乳形成が異常になる場合があります。

その結果、胚の発達停止、種子の未熟化、種子形成率の低下などにつながることがあります。

このような胚乳発達の異常は、異なる倍数性間や遠縁交雑などにおける生殖障壁の一つになる場合があります。

ただし、交雑不稔の原因は胚乳だけではありません。花粉発芽、花粉管伸長、受精そのもの、染色体異常、胚発達など複数の段階が関係します。

重複受精は被子植物だけにあるのか

被子植物における、一方の受精から胚、もう一方の受精から胚乳を形成する重複受精は、被子植物を特徴付ける重要な生殖様式です。

ただし、「二回の受精現象そのものが被子植物以外には一切存在しない」と断定すると不正確です。

裸子植物のうちマオウ属(Ephedra)やグネツム属(Gnetum)などでは、二つの受精に相当する現象が報告されています。

しかし、これらでは被子植物のように二回目の受精によって胚乳を形成するわけではありません。

したがって農業・植物学の基本用語としては、「卵細胞と中央細胞への二つの受精によって、胚と胚乳を形成する重複受精は被子植物に特徴的」と理解するのが適切です。

農業で重複受精を理解する意味

果実や種子が形成されない場合、「受粉不足」と説明されることがあります。

しかし、受粉から正常な種子形成までには、多くの段階があります。

  • 正常な花粉が形成されているか
  • 柱頭へ花粉が到達しているか
  • 花粉が正常に発芽しているか
  • 花粉管が正常に伸長しているか
  • 胚珠・胚嚢が正常に形成されているか
  • 卵細胞・中央細胞などが正常に分化しているか
  • 花粉管が胚嚢へ到達しているか
  • 2個の精細胞が正常に放出されているか
  • 卵細胞との受精が成立しているか
  • 中央細胞との受精が成立しているか
  • 受精後の胚と胚乳が正常に発達しているか

このため、種子が少ない、落花・落果する、種子が途中で退化するといった症状だけから、重複受精のどこに異常があるかを判断することはできません。

現場での注意:
「花粉が付いたから受精済み」「果実が肥大したから重複受精は正常」と判断することはできません。受粉、花粉管伸長、受精、胚・胚乳形成はそれぞれ別の段階として確認する必要があります。

重複受精について間違えやすい点

  • 重複受精=受粉ではありません。
    受粉後に花粉発芽や花粉管伸長などを経て重複受精に至ります。
  • 2個の精細胞が存在するだけでは重複受精ではありません。
    一方が卵細胞、もう一方が中央細胞と受精することが重要です。
  • 2個の精細胞が2個の卵細胞と受精する仕組みではありません。
    被子植物の典型的な重複受精では、受精相手は卵細胞と中央細胞です。
  • 胚と胚乳は同じ受精からできるわけではありません。
    胚は卵細胞側、胚乳は中央細胞側の受精から形成されます。
  • 胚乳は必ず3nとは限りません。
    3nは最も一般的なタデ型胚嚢の場合です。植物によって胚乳の核相は異なります。
  • 中央細胞=極核ではありません。
    極核は中央細胞内部に存在する核です。
  • 受精卵から胚乳ができるわけではありません。
    受精卵は胚へ発達します。胚乳は中央細胞側の受精から形成されます。
  • 重複受精が成立しただけで正常な種子形成が保証されるわけではありません。
    その後の胚・胚乳発達が正常に進む必要があります。
  • 「重複受精の進化的な理由」は一つに確定していません。
    資源配分、胚乳形成、親由来ゲノムの働きなど多くの観点から研究されています。

重複受精の参考動画

重複受精では、花粉管が胚珠へ到達し、精細胞を胚嚢へ送り込んで二つの受精が行われます。この過程は静止画だけでは理解しにくいため、植物の受精を実際に撮影した次の動画が参考になります。

未来を創る科学者達(24)神秘の瞬間に立ち会う ~東山哲也~
科学技術振興機構(JST)・SCIENCE CHANNEL

未来を創る科学者達(24)神秘の瞬間に立ち会う ~東山哲也~(YouTube)を見る

動画について:
この動画は、被子植物で花粉管が胚嚢へ到達し、受精が進む過程を理解するための参考資料として紹介しています。
科学技術振興機構(JST)のサイエンスチャンネルで公開されている動画で、農材ドットコムが制作・管理しているものではありません。
動画の内容、公開状況、URLなどは、公開元の都合により変更または削除される場合があります。
また、胚嚢の構造、花粉管の伸長速度、受精までの時間、胚乳の核相などは植物種によって異なります。

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