極核とは
極核(きょくかく、polar nucleus / polar nuclei)とは、被子植物の胚嚢にある中央細胞の内部に形成される核です。
最も一般的なタデ型の胚嚢では、胚嚢形成の過程で2個の極核が中央細胞内に配置されます。
この2個の極核は、植物によっては受精前に融合して二次核(にじかく)を形成します。一方、受精時まで2個の極核が分かれた状態で存在する植物もあります。
重複受精では、花粉管から運ばれた2個の精細胞のうち、一方が卵細胞と受精し、もう一方が中央細胞と受精します。その際、精細胞由来の核と、極核または極核が融合してできた二次核との核融合が起こり、胚乳形成へ進みます。
極核は「細胞」ではありません。
極核は中央細胞の内部にある核です。中央細胞そのものを極核と呼ぶことはできません。
極核はどのようにできるか
最も一般的なタデ型の胚嚢では、胚珠内部に形成された機能的大胞子の核が通常3回分裂し、8個の核が形成されます。
初めは、4個の核が珠孔側、残り4個の核が反対側の合点側に配置されます。
その後、それぞれの側から1個ずつの核が胚嚢中央部へ移動し、中央細胞内の2個の極核になります。
残る核は、典型的なタデ型では卵細胞、助細胞、反足細胞の核になります。
このため、典型的な成熟胚嚢は次のような7細胞8核の構造として説明されます。
- 卵細胞:1細胞・1核
- 助細胞:2細胞・2核
- 反足細胞:3細胞・3核
- 中央細胞:1細胞・極核2個
ただし、これは最も一般的なタデ型の説明です。被子植物には異なる胚嚢形成様式もあり、すべての植物で極核の数や核相が同じとは限りません。
なぜ「極核」と呼ばれるのか
典型的な胚嚢形成では、核分裂によって生じた核が胚嚢の珠孔側と合点側の両極に分かれ、その後、それぞれの側から1個ずつが中央部へ移動します。
こうして中央細胞内に配置される核が極核です。
成熟した胚嚢では中央部にあるため、「極核なのになぜ中央にあるのか」と混乱しやすい用語ですが、胚嚢形成の途中で両極に由来する核であることを理解すると位置関係を整理しやすくなります。
極核と中央細胞の違い
極核と中央細胞は同じものではありません。
- 中央細胞:胚嚢を構成する1個の細胞
- 極核:中央細胞内部に存在する核
細胞と核の関係で表すと、
中央細胞 > 極核
となります。
ここでの「>」は大小ではなく、中央細胞の内部に極核が存在するという位置関係を示しています。
学校教育では「精核と極核が融合する」と説明されることがありますが、細胞レベルでは精細胞が中央細胞と受精し、その後、精細胞由来の核と中央細胞内の核が融合すると整理すると、重複受精をより正確に理解できます。
極核と二次核の違い
2個の極核は、植物によっては受精前に互いに接近し、核膜が融合して1個の二次核を形成します。
- 極核:中央細胞に由来する、融合前の核
- 二次核:通常2個の極核が受精前に融合して形成された核
例えばシロイヌナズナなどでは、胚嚢が成熟する過程で2個の極核が融合します。
そのため、成熟した中央細胞を観察したときに、常に2個の極核が独立して見えるわけではありません。
「中央細胞には必ず2個の極核がある」と断定しないようにします。
胚嚢形成の途中では2個の極核が形成されますが、植物種や成熟段階によっては受精前に融合し、1個の二次核になっています。
極核と重複受精
被子植物では、受粉後に花粉管が伸長し、胚珠内部の胚嚢へ2個の精細胞を届けます。
2個の精細胞はそれぞれ異なる細胞と受精します。
- 精細胞+卵細胞 → 受精卵 → 胚
- 精細胞+中央細胞 → 胚乳形成
中央細胞側では、細胞融合に続いて精細胞由来の核と極核、または二次核との核融合が進みます。
典型的なタデ型胚嚢では、2個の極核はそれぞれ母親由来の単相(n)です。
もう一方の精細胞も通常nであるため、典型的な場合には、
母親由来n+母親由来n+父親由来n → 通常3n
となり、胚乳形成を開始する核ができます。
「3核融合」と極核
重複受精について、古い資料や学校教材では「1個の精核と2個の極核が融合する」、あるいは「3核融合」と説明されることがあります。
これは典型的なタデ型胚嚢における核相を理解するには便利な説明です。
ただし、実際には受精前に2個の極核がすでに融合して二次核となっている植物もあります。
その場合、形態的には「精細胞由来の核+二次核」という核融合になります。
したがって、重複受精の本質を「受精時に必ず3個の独立した核が同時に合体すること」と理解するのは不正確です。
重要なのは、中央細胞に母親由来の核があり、そこへ父親由来の精細胞が受精することです。
極核と胚乳の違い
極核そのものが胚乳ではありません。
極核は受精前の中央細胞内に存在する核です。
中央細胞が精細胞と受精した後、核融合が完了し、その受精産物が分裂・発達することで胚乳が形成されます。
基本的な関係は次のように整理できます。
極核 → 必要に応じて極核融合 → 二次核 → 精細胞との受精・核融合 → 胚乳形成
ただし、極核融合の時期や受精時の核の状態は植物によって異なります。
胚乳が通常3nとなる理由
典型的なタデ型の胚嚢では、中央細胞に母親由来のnの極核が2個形成されます。
これに父親由来のnの精細胞が加わるため、受精後の胚乳形成を開始する核は通常3nとなります。
- 母親由来の極核:n
- 母親由来の極核:n
- 父親由来の精細胞:n
- 合計:通常3n
このため、典型的な被子植物の種子では、胚は通常2n、胚乳は通常3nとなります。
ただし、胚乳は必ず3nではありません。
タデ型以外の胚嚢形成様式をもつ植物では、中央細胞側の核数・核相が異なり、5nや7nなど異なる核相の胚乳が形成される例があります。
そのため、極核を「3nの胚乳をつくるための2個のn核」とだけ定義することはできません。
極核融合とは
極核融合とは、中央細胞内の2個の極核が互いに融合し、1個の二次核を形成する核融合です。
これは精細胞との受精とは別の核融合です。
被子植物の生殖過程では、例えばシロイヌナズナでは次のような核融合が起こります。
- 胚嚢形成時:2個の極核が融合する
- 重複受精時:精細胞由来の核と卵細胞側の核が融合する
- 重複受精時:もう1個の精細胞由来の核と中央細胞側の核が融合する
これらはすべて核融合ですが、起こる場所と役割が異なります。
シロイヌナズナを用いた研究では、GEX1などの核膜タンパク質が極核融合や受精時の核融合に関与することが示されています。
極核とゲノムの母親・父親由来比
典型的な3nの胚乳では、母親由来のゲノムが2セット、父親由来のゲノムが1セット存在します。
これは、母親由来の2個の極核と父親由来の1個の精細胞から胚乳形成が始まるためです。
胚乳では、母親由来と父親由来の遺伝子が必ず同じように働くわけではなく、親由来によって遺伝子発現が異なるゲノムインプリンティングも知られています。
また、異なる倍数性の植物間などで交配すると、母親側と父親側のゲノム量のバランスが通常とは異なり、胚乳形成が異常になる場合があります。
ただし、交雑不稔を極核だけの異常として説明することはできません。受粉、受精、染色体構成、胚形成、胚乳形成など複数の段階が関係します。
農業で極核をどう考えるか
極核は、通常の栽培現場で直接観察して生育診断に使用する構造ではありません。
種子ができない、種子数が少ない、未熟種子が多いといった現象があっても、外観から「極核の異常」と診断することはできません。
正常な種子形成までには、次のような複数の過程があります。
- 正常な胚珠が形成される
- 胚嚢形成が正常に進む
- 中央細胞と極核が正常に形成される
- 必要な場合には極核融合が正常に進む
- 花粉形成・受粉・花粉管伸長が正常に進む
- 精細胞が正常に胚嚢へ届けられる
- 卵細胞と中央細胞への重複受精が成立する
- 受精後の胚・胚乳が正常に発達する
高温・低温、水分ストレスなどが生殖過程へ影響する場合がありますが、どの段階が障害されるかは作物、品種、発育時期によって異なります。
現場での注意:
結実不良や種子形成不良を見ただけで、極核形成不良、受粉不足、肥料不足など特定の原因へ結びつけることはできません。原因診断には発生時期と生殖過程を分けた確認が必要です。
極核について間違えやすい点
- 極核=中央細胞ではありません。
中央細胞は細胞全体、極核はその内部に存在する核です。 - 極核=二次核ではありません。
二次核は通常、2個の極核が融合して形成された核です。 - 極核=胚乳ではありません。
極核を含む中央細胞が精細胞と受精し、その後に胚乳が形成されます。 - 受精時に必ず2個の極核が独立して存在するわけではありません。
植物によっては受精前に極核が融合して二次核になっています。 - 極核自体が精細胞と「細胞融合」するわけではありません。
細胞レベルでは精細胞と中央細胞が融合し、その後、内部で核融合が行われます。 - 「精核+極核2個」の3核が必ず同時に融合するわけではありません。
極核があらかじめ融合している植物では、精細胞由来の核と二次核との融合として進みます。 - 極核が2個だから胚乳は必ず3nになるわけではありません。
3nは代表的なタデ型胚嚢の場合です。異なる胚嚢形成様式では核相も異なります。 - 種子形成不良=極核異常ではありません。
花粉形成から受精後の胚・胚乳発達まで多くの原因候補があります。
極核の参考動画
極核は胚嚢内部にある非常に小さな構造で、受精時には中央細胞側の核として重複受精に関わります。胚嚢へ花粉管が到達し、受精が進む位置関係を理解するには、植物の受精を実際に撮影した次の動画が参考になります。
未来を創る科学者達(24)神秘の瞬間に立ち会う ~東山哲也~
科学技術振興機構(JST)・SCIENCE CHANNEL
未来を創る科学者達(24)神秘の瞬間に立ち会う ~東山哲也~(Science Portal)を見る
動画について:
この動画は、被子植物の花粉管伸長や受精の過程を通して、極核を含む中央細胞が関わる重複受精を理解するための参考資料として紹介しています。
科学技術振興機構(JST)のサイエンスチャンネルで公開されている動画で、農材ドットコムが制作・管理しているものではありません。
動画の内容、公開状況、URLなどは、公開元の都合により変更または削除される場合があります。
また、極核の数、極核融合の時期、成熟胚嚢の構造、胚乳の核相などは植物種によって異なります。
関連する資材分類・農業用語
参考資料
- 日本植物形態学会「重複受精についての考察」(2026)
- 名古屋大学「生殖過程の核融合の鍵となる膜タンパク質GEX1」
- 日本植物生理学会「極核融合においてBiPは異なる2つの過程で機能する」
- 日本植物形態学会「精細胞の動態から迫る重複受精機構」
- 科学技術振興機構「植物の受精の瞬間におけるカルシウムシグナルをとらえた」
- 科学技術振興機構 Science Portal「未来を創る科学者達(24)神秘の瞬間に立ち会う ~東山哲也~」
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