スプリンクラーとは
農業用スプリンクラーとは、配管やホースから供給した圧力水をノズルから散布し、一定範囲へ水を供給する灌水(かん水)器具です。
露地畑、果樹園、茶園、育苗施設、ビニールハウスなどで使用され、機種によって散水距離、吐出量、使用圧力、水滴の大きさなどが異なります。
スプリンクラーには、インパクト式などの回転式だけでなく、非回転式のスプレータイプ、小流量のマイクロスプリンクラー、大面積へ散水する大型スプリンクラーやレインガンなどがあります。
また、全円散水・部分散水、固定式・移動式など、散水範囲や設置方法による分類もあります。
なお、スプリンクラーは設置すれば自動的に均一な散水になる設備ではありません。
ノズル口径、使用圧力、吐出量、散水直径、配置間隔、高低差、風などによって散水分布が変化します。
導入時にはスプリンクラーヘッドだけでなく、ポンプ能力、配管径、配管長、同時使用台数などを含めた灌水システム全体で選定することが重要です。
農業用スプリンクラーの主な用途
- 畑地・露地栽培の補給灌水:降雨だけでは不足する水分を広い範囲へ供給します。
- 果樹園・茶園の灌水:樹上・樹下など、栽培条件に適した散水方式が利用されます。
- 育苗・施設園芸:小型スプリンクラーやマイクロスプリンクラーなどを利用し、苗や栽培床へ散水します。
- 防霜・冷却など:対応する機種やシステムでは、防霜や冷却などに利用される場合があります。
防霜などの用途では、通常の灌水とは必要な散水量、配置、運転条件が異なります。
「スプリンクラーならどの機種でも利用できる」というものではないため、用途に適合した機種・設備設計が必要です。
スプリンクラー取り扱いメーカー・代理店
| 製造・発売元 | 製品名 | 特徴 |
|---|---|---|
| 株式会社イーエス・ウォーターネット | 樹脂製スプリンクラー | 低圧スプリンクラー、マイクロスプリンクラー、ボールドライブ式など農業用樹脂製スプリンクラーを展開 |
| 株式会社イーエス・ウォーターネット | 金属製スプリンクラー | 農業用の低圧から高圧まで対応する金属製スプリンクラー |
| 株式会社イーエス・ウォーターネット | 大型レインガン・特殊スプリンクラー | 大面積散水などに使用する大型・特殊スプリンクラー |
| 株式会社イーエス・ウォーターネット | スプリンクラー関連製品 | 台車、スタンド、立上り管などスプリンクラー設置用関連資材 |
| 株式会社サンホープ | 25mmホースセット・スプリンクラー | 露地栽培向けの移動・設置がしやすいホース式散水システム |
| 株式会社サンホープ | 育苗用スプリンクラー・散水システム | 育苗・施設園芸向けの頭上散水・サイド散水システム |
| ヤンマーアグリジャパン株式会社 アグリプラント部 | 農業用スプリンクラー | 小型・中型・大型、全回転・部分回転など農業用スプリンクラーを幅広く展開 |
| 株式会社永田製作所 | スプリンクラー | 低圧・中圧・高圧、全回転・パートサークルなど各種スプリンクラー |
| 株式会社イリテック・プラス | スプリンクラー各種 | マイクロ、ボール、大型、インパクト、金属製など幅広い灌水用スプリンクラーを取り扱う |
| ネタフィムジャパン株式会社 | スプリンクラー・マイクロスプリンクラー | 露地・果樹・施設園芸向けのスプリンクラー、マイクロスプリンクラーを展開 |
| 矢野散水株式会社 | スプリンクラー・マイクロスプリンクラー | 施設園芸向け散水ノズル・スプリンクラーの製造販売、灌水設備の設計・施工 |
スプリンクラーの主な分類
スプリンクラーは一つの基準だけで分類されるものではありません。
回転方式、散水距離・流量、散水範囲、設置方法など複数の分類があります。
回転式スプリンクラー
散水する水を駆動力としてヘッドを回転させる方式です。
代表的なものにインパクト式、ギアドライブ式、ボールドライブ式などがあります。
散水距離や吐出量の異なる多くの製品があり、露地畑、果樹園、茶園など幅広い用途で利用されています。
非回転式・スプレー式スプリンクラー
ヘッド自体を回転させず、ノズルや散水板によって一定の散水パターンを形成する方式です。
比較的短距離の散水に使用される製品が多く、育苗や施設園芸などでも利用されています。
マイクロスプリンクラー
比較的少ない流量で、短い距離へ散水する小型のスプリンクラーです。
育苗、施設園芸、果樹の樹下灌水などに利用されます。
製品によって流路やノズル径が小さいため、水質によっては目詰まり対策としてフィルターが必要になります。
大型スプリンクラー・レインガン
大きな流量と散水距離を持ち、比較的大きな面積へ散水するためのスプリンクラーです。
必要となる水量や圧力も大きくなるため、ポンプ能力、配管径、配管による圧力損失まで含めた設備設計が必要です。
全円散水・部分散水
360度周囲へ散水する全円(フルサークル)タイプと、設定した角度だけ散水する部分散水(パートサークル)タイプがあります。
圃場の端部、道路や隣接地との境界、果樹園などでは、部分散水タイプを利用することで不要な場所への散水を抑えられます。
固定式・移動式
固定式はライザー管や配管などにスプリンクラーを常設する方式、移動式はホース、スタンド、三脚、台車などを利用して散水位置を移動する方式です。
固定式だから遠い水源でも安定する、移動式だから水源の近くでしか使用できないという関係ではありません。
どちらの場合も、実際にスプリンクラーが作動する位置で必要な水圧と流量を確保できるかどうかで判断します。
スプリンクラー選びで確認するポイント
使用圧力
スプリンクラーには製品ごとに適正な使用圧力があります。
水圧が低すぎると水流が十分に拡散せず、高すぎると水滴が細かくなりすぎるなどして、いずれの場合も散水距離や散水分布が悪化することがあります。
メーカーが示す使用圧力範囲を確認して選定します。
吐出量と同時使用台数
1台当たりの吐出量だけでなく、同時に何台使用するかを確認します。
必要流量は同時使用台数によって増えるため、水源の供給量、ポンプ能力、配管径が不足すると末端側の水圧が低下します。
散水直径と配置間隔
カタログに記載された散水直径だけを見てスプリンクラーを並べると、散水ムラが生じることがあります。
一般的なスプリンクラー灌水では、隣接するスプリンクラーの散水範囲を重ねることで散水分布の均一性を高めます。
配置間隔は製品の散水特性や使用目的、地形、風などによって異なるため、メーカーが示す配置条件を確認してください。
風の影響
風が強いほど水滴が流され、散水範囲と散水分布が変化します。
風の影響を受けやすい圃場では、低い散水仰角のスプリンクラーを選ぶ、配置間隔を狭くする、風の弱い時間帯に運転するなどの対策を検討します。
作物と水滴の大きさ
作物や生育段階によって適した水滴の大きさは異なります。
播種直後、育苗、軟弱な作物などでは、大きな水滴による土壌表面への衝撃や苗への負担に注意が必要です。
ノズル口径やブレーカー、散水板などの仕様を確認します。
土壌と散水強度
短時間に大量の水を散布すればよいとは限りません。
散水強度が土壌へ水が浸透する速度を上回ると、地表面に水がたまり、表面流出や土壌侵食、灌水ムラの原因になります。
土質、傾斜、作物、1回当たりの運転時間を考慮して散水量を設定します。
導入時に注意したい典型的な間違い
カタログの散水直径だけで設置間隔を決める
散水範囲の外周部まで同じ量の水が落ちるわけではありません。
隣接する散水範囲を適切に重ねることを前提に配置する必要があります。
ポンプの吐出圧力だけを確認する
ポンプからスプリンクラーまでの配管が長い場合や、配管径が小さい場合、継手やバルブが多い場合には圧力損失が生じます。
また高低差によっても使用位置の圧力は変化します。
実際の末端側で必要圧力を確保できるかを確認することが重要です。
水圧を高くすれば散水性能も上がると考える
水圧は高ければよいわけではありません。
適正圧力を超えると水滴が過度に細かくなり、飛距離や散水均一性が低下する製品があります。
必ず各製品の使用圧力範囲で使用します。
風があっても同じように散水できると考える
スプリンクラー散水は風の影響を受けます。
特に細かな水滴や散水距離の長い設備では散水分布が変化するため、風向・風速を無視した配置や運転は散水ムラの原因になります。
目詰まりや回転不良を放置する
ノズルの目詰まりや回転部の作動不良は、吐出量や散水分布を変化させます。
水質に応じてろ過器・フィルターを設置し、シーズン前の通水確認や定期的な清掃を行います。
スプリンクラーと点滴灌水の違い
点滴灌水(点滴潅水)は、ドリッパーや点滴チューブから株元や根域へ少量ずつ水を供給する方式であり、スプリンクラーとは別の灌水方式です。
広い面積や土壌表面へ散水する必要がある場合にはスプリンクラー、株元や根域への給水を主体として水分管理を行う場合には点滴灌水など、作物、栽培方式、水源、水質、圃場条件に応じて選択します。
まとめ
農業用スプリンクラーは、広い範囲への灌水を省力化できる有効な設備ですが、散水の均一性はスプリンクラーヘッドだけでは決まりません。
使用圧力、吐出量、ノズル、配置間隔、風、高低差、土壌条件などによって散水状態は変化します。
導入前には、必要な散水面積、水源の供給量、ポンプ性能、配管径、末端圧力、同時使用台数を確認し、圃場全体の灌水システムとして選定することが重要です。