農薬飛散防止ネットとは
農薬飛散防止ネットとは、農薬散布時に発生する薬液のドリフト(飛散)を低減し、隣接する農作物、住宅、道路、水域などへ散布液が移動するのを抑えるために設置するネットです。
特に異なる作物が隣接している圃場では、散布対象作物に登録のある農薬であっても、隣接作物へ飛散すると、その作物に設定された残留農薬基準を超える原因となる場合があります。
ただし、農薬飛散防止ネットを設置すればドリフトを完全に防止できるわけではありません。風向・風速、液滴の大きさ、散布圧力、ノズル、散布位置、スピードスプレーヤの送風量など、複数の条件を組み合わせて対策することが重要です。
農薬のドリフトとは
農薬のドリフトとは、散布した農薬の液滴や粒子が風などによって散布対象区域の外へ移動することです。
ドリフトによって隣接する食用作物へ農薬が付着すると、その作物に適用のない農薬成分が検出されたり、残留基準を超えたりする可能性があります。
また、住宅、学校、道路、水域などが近接する場所では、周辺環境や第三者への飛散にも十分な配慮が必要です。
ネットだけではドリフト対策は完結しない
農薬飛散防止ネットは有効な物理的対策の一つですが、ドリフト対策をネットだけに依存することは適切ではありません。
農薬散布時は、次のような対策を組み合わせます。
- 風の弱い時間帯に散布する:強風時の散布を避け、風向・風速を確認します。
- 散布対象へ近づけて散布する:必要以上に遠い位置から噴霧すると、空中を移動する距離が長くなります。
- ノズルを適切に選ぶ:必要に応じてドリフト低減ノズルを使用します。
- 散布圧力を適切に設定する:必要以上の高圧散布による微細液滴の発生を避けます。
- 圃場端部では散布方向を調整する:隣接圃場側へ向いている不要なノズルを停止するなどの対策を行います。
- スピードスプレーヤの送風量を調整する:樹高や散布位置に必要な範囲で風量を設定します。
- 周辺農家と情報共有する:散布日時、作物、使用農薬などを必要に応じて事前に連絡します。
- 飛散防止ネットなどの遮蔽物を設置する:圃場境界などで物理的に薬液の移動を抑えます。
農薬飛散防止ネットの仕組み
散布された薬液がネットへ到達すると、ネットの糸や幅広テープなどに液滴が付着したり、ネットによって風速や気流が変化したりすることで、ネット外側への飛散量を低減します。
ただし、ネットの性能は単純に「目合いが細かいほど高い」とは限りません。
目合いが非常に細かく遮蔽性が高くなると、ネット面で上方へ流れる気流が発生し、薬液がネット上部を越えて移動する場合があります。
そのため、農薬飛散対策では目合いだけでなく、ネットの構造、被覆率、設置高さ、散布位置、風向・風速などを含めて判断する必要があります。
防風ネットとの違い
防風ネットにも風速を低減する作用があるため、農薬ドリフトの軽減に利用される場合があります。
しかし、防風性能が高いネットほど農薬飛散防止性能も必ず高いとは限りません。
農薬飛散では、風速の低減だけでなく、散布液滴がネットへどの程度捕捉されるか、ネット周辺の気流がどのように変化するかなども関係します。
農薬ドリフト対策を主目的とする場合は、農薬飛散防止用途がメーカーから示されている製品や、用途・試験情報を確認できる製品を優先して検討してください。
農薬飛散防止ネットの選び方
- 農薬飛散防止用途の表示:メーカーが農薬飛散・防薬用途を明示しているか確認します。
- ネット構造:目合いだけでなく、糸の太さ、幅、織り・編み構造、被覆面積などを確認します。
- 設置高さ:使用する散布機、作物・樹高、散布方向などを考慮して設置します。
- 設置位置:隣接作物や住宅など、飛散を避けたい方向との位置関係を確認します。
- 耐候性:長期屋外設置では紫外線、風雨、農薬などへの耐久性を確認します。
- 加工仕様:ハトメ、ロープ、縁補強など、設置方法に適した加工を選びます。
- 支柱・固定構造:ネットが風を受けるため、支柱、ワイヤー、アンカーなどを含めて施工します。
設置・使用時の注意点
ネットの高さだけに頼らない
高いネットを設置しても、薬液が上端を越えたり、ネットの端部を回り込んだりする場合があります。
ネットの高さだけでなく、散布位置、風向、風速、散布機の設定を含めて対策してください。
破れ・隙間を点検する
ネットの破損、固定部の緩み、地際・支柱部分の大きな隙間などがあると、期待した飛散低減効果を得にくくなります。
散布シーズン前や強風後にはネットと固定部を点検してください。
農薬散布時の風向を確認する
ネットが設置されていても、強風時やネットを越える方向へ風が吹いている場合には飛散する可能性があります。
農薬散布は無風または風の弱い時間帯を選び、風向を確認しながら行います。
ドリフト低減ノズルと組み合わせる
必要に応じて、比較的大きな液滴を形成するドリフト低減ノズルなどを使用します。
ただし、液滴径を大きくすると付着状態や散布密度も変わるため、農薬、作物、散布機に適したノズルと圧力を選択してください。
スピードスプレーヤ使用時の対策
果樹園などで使用するスピードスプレーヤは、送風によって薬液を樹冠内部へ届けるため、散布能力が高い一方で圃場外への飛散にも注意が必要です。
- 園地外側へ向く不要なノズルを停止する
- 樹高に合わせて使用するノズルの位置を調整する
- 必要以上の送風量を使用しない
- 風向・風速を確認する
- 必要に応じてドリフト低減ノズルを使用する
- 圃場境界に飛散防止ネットを設置する
これらを組み合わせて、散布対象へ必要な薬液を届けながら圃場外への飛散を抑えます。
残留農薬基準と隣接圃場への配慮
農薬は、登録された作物・使用方法・希釈倍率・使用時期・使用回数などを守って使用する必要があります。
自分の圃場で適正に農薬を使用していても、その農薬が隣接する別の作物へ飛散すると、隣接作物側で残留農薬基準の問題が生じる可能性があります。
特に収穫期が近い作物や、使用する農薬が異なる作物が隣接している場合は、周辺農家との情報共有を含めたドリフト対策が重要です。
農薬飛散防止ネット取り扱いメーカー・代理店
| 製造・発売元 | 製品名 | 素材・構造 | 主な用途・特徴 |
|---|---|---|---|
| ポリエチレン/幅広糸を使用した飛散防止ネット | 農薬散布時のドリフト低減を目的とした専用ネット。幅広糸によって散布液の飛散を抑制。青色でネット越しの視認性にも配慮。メーカー公式で農薬飛散防止用途を明示。 | ||
| ポリエチレン/ラッセル編/約1mm目 | 防風・防砂・飛散防止等に使用する多目的ネット。メーカー公式ではダイオネットシリーズを防風・防砂・防薬・防鳥用途として案内。農薬ドリフト専用品ではないため、使用時は設置条件や散布方法を含めて検討する。 |
関連する資材分類・農業用語
まとめ
農薬飛散防止ネットは、散布液が圃場外へ移動するドリフトを低減するための物理的対策の一つです。
ただし、ネットを設置するだけで飛散を完全に防止できるわけではありません。
風向・風速、散布位置、ノズル、散布圧力、スピードスプレーヤの送風量、周辺作物との位置関係などを確認し、必要に応じて飛散防止ネットやドリフト低減ノズルを組み合わせてください。
また、ネットの目合いが細かいほど必ず飛散低減性能が高くなるとは限りません。製品の用途・構造・施工条件を確認し、散布方法を含めた総合的なドリフト対策として利用することが重要です。