ウンカ(うんか)とは、カメムシ目に属する小型の吸汁性昆虫のうち、農業上、特に水稲で重要な害虫として扱われる昆虫群です。水稲で問題となる代表的なウンカ類には、トビイロウンカ、セジロウンカ、ヒメトビウンカがあります。
ウンカ類は口針をイネの組織に差し込み、維管束を流れる汁液を吸汁します。多数が寄生すると生育不良や登熟不良を招き、トビイロウンカでは株がまとまって枯死する「坪枯れ」を生じることがあります。また、ヒメトビウンカやセジロウンカでは、吸汁害だけでなくウイルス病を媒介することにも注意が必要です。
ウンカとは
ウンカという名称は一つの害虫だけを指すものではありません。
水稲栽培で「ウンカ類」という場合は、主に次の3種が重要です。
トビイロウンカ
トビイロウンカは、水稲に大きな被害を与える代表的なウンカです。
成虫は褐色で、体長はおおむね4~5mm程度です。イネの株元付近に寄生して吸汁し、圃場内で個体数が急増すると、株がまとまって枯死する「坪枯れ」を引き起こします。
日本では基本的に越冬できず、主に6~7月頃、季節風などに乗って海外から飛来します。
飛来した長翅型成虫から世代を重ねるうちに、圃場内で増殖に適した短翅型成虫が多くなり、条件によっては夏から秋にかけて急激に密度が上昇します。
セジロウンカ
セジロウンカは、背中に白い筋状の模様が見られるウンカで、トビイロウンカと同様、日本では基本的に越冬できず、梅雨期を中心に海外から飛来します。
多数が寄生するとイネの生育を阻害します。
また、セジロウンカはイネ南方黒すじ萎縮ウイルス(SRBSDV)を媒介することが知られており、特に飼料用イネなどではウイルス病の発生にも注意が必要です。
ヒメトビウンカ
ヒメトビウンカは、トビイロウンカやセジロウンカより小型のウンカです。
国内では水田周辺のイネ科雑草やムギ類などでも生息でき、越冬することができます。また、海外から飛来する場合もあります。
農業上特に問題となるのが、イネ縞葉枯ウイルスを媒介することです。
ヒメトビウンカによる直接的な吸汁害だけでなく、保毒虫が水田へ侵入してイネ縞葉枯病を発生させる危険性を考える必要があります。
ウンカとツマグロヨコバイの違い
ツマグロヨコバイは水稲の代表的な吸汁性害虫ですが、ウンカではありません。
ウンカ類とヨコバイ類は形や被害の現れ方が似ているため、「ウンカ・ヨコバイ類」とまとめて扱われることがあります。
しかし分類上、ツマグロヨコバイはヨコバイ科に属し、トビイロウンカ、セジロウンカ、ヒメトビウンカなどのウンカ類とは区別されます。
防除対象を判断するときは、「小さな虫が株元にいる」というだけでウンカと決めず、種類を確認することが必要です。
ウンカによる被害
吸汁による生育・登熟への影響
ウンカ類は口針をイネに差し込み、汁液を吸います。
寄生密度が高くなるとイネの生育が低下し、黄化、草勢低下、登熟不良、減収などにつながります。
特にトビイロウンカは株元付近で増殖しやすく、多発すると一部の株から枯死が始まり、その範囲が周囲へ拡大する「坪枯れ」が発生します。
坪枯れが目に見える段階まで進行してから防除を始めても、すでに被害が大きくなっている場合があります。
ウイルス病の媒介
ウンカ類の被害は吸汁だけではありません。
代表的な例として、
- ヒメトビウンカ:イネ縞葉枯ウイルスを媒介
- セジロウンカ:イネ南方黒すじ萎縮ウイルスを媒介
などがあります。
この場合、ウンカの個体数だけでなく、ウイルスを保有している個体の割合やイネへの侵入時期も発病リスクに影響します。
ウンカが発生する時期
ウンカ類を一括して「夏から秋に発生する害虫」と考えるのは適切ではありません。
トビイロウンカとセジロウンカでは、梅雨期を中心とした海外からの飛来がその年の発生の起点になります。
飛来量、飛来時期、その後の気温、イネの生育状況、ウンカ類の増殖率などが組み合わさって、圃場内の密度が決まります。
ヒメトビウンカは国内越冬できるため、生態と発生予察の考え方がトビイロウンカやセジロウンカとは異なります。
ウンカの防除
発生予察情報を確認する
ウンカ防除では、都道府県の病害虫防除所などが発表する発生予察情報の確認が重要です。
特にトビイロウンカとセジロウンカは海外から飛来するため、前年の発生状況だけからその年の発生量を判断することはできません。
飛来状況、圃場調査、注意報・警報、防除適期などを確認して判断します。
株元を確認する
トビイロウンカはイネの株元付近に寄生するため、上から圃場を見るだけでは発見が遅れることがあります。
株を開いて株元を確認したり、払い落とし調査などによって成虫・幼虫の発生状況を確認します。
ウンカ類は種類によって発生生態や被害、防除適期が異なるため、可能な限り種まで確認します。
農薬は対象種と防除適期を確認する
薬剤防除を行う場合は、水稲と対象となるウンカ類に農薬登録のある製品を使用します。
農薬の種類だけでなく、
- 対象となるウンカの種類
- 発生量
- 成虫・幼虫の発生時期
- 地域の発生予察情報
- 薬剤感受性や抵抗性に関する情報
を確認する必要があります。
トビイロウンカの本田防除では、薬剤が寄生場所である株元まで十分に届かなければ、十分な効果が得られないことがあります。
同じ作用機構の薬剤を繰り返し使用すると薬剤抵抗性を発達させる危険があるため、地域の防除指針を確認し、異なる作用機構の薬剤を適切に組み合わせます。
農薬の登録内容は変更されるため、使用前にラベルと農林水産省「農薬登録情報提供システム」で最新の登録内容を確認してください。
水管理だけを防除手段と考えない
ウンカは「高温多湿を好むので、水田の排水を良くすれば防げる」という害虫ではありません。
農林水産省のトビイロウンカに対する総合防除の考え方には、湛水と落水を数日間隔で繰り返す水管理も含まれていますが、水稲の生育段階や地域の栽培体系と合わせて実施する対策です。
単純に水を抜いたり、水田を乾燥させたりすることをウンカ防除として行うべきではありません。
天敵の役割
水田にはクモ類などウンカを捕食する多くの天敵が生息しています。
これらの天敵はウンカ類の密度抑制に関与しますが、「クモやカエルを水田へ導入すればウンカを防除できる」と考えるのは適切ではありません。
天敵を含む水田生態系への影響も考慮し、不必要な薬剤散布を避けながら、発生予察、耕種的対策、薬剤防除などを組み合わせるIPM(総合的病害虫管理)の考え方が基本となります。
ウンカ防除で特に注意したいこと
ウンカ類では、種類を確認せず一律に防除することが大きな誤りにつながります。
トビイロウンカでは坪枯れ防止、セジロウンカでは吸汁害とイネ南方黒すじ萎縮病、ヒメトビウンカではイネ縞葉枯病への対応など、問題となる被害が異なります。
また、トビイロウンカやセジロウンカでは海外からの飛来量によって年ごとの発生状況が大きく変化します。
「毎年同じ時期に同じ薬剤を散布する」のではなく、その年の発生予察情報と圃場での発生状況を確認して防除時期を判断することが重要です。
英語表記
ウンカは英語で一般にplanthopperと表記されます。
水稲に発生するウンカ類はrice planthoppersと呼ばれることがあります。
代表的な種類では、
- トビイロウンカ:brown planthopper
- セジロウンカ:white-backed planthopper
- ヒメトビウンカ:small brown planthopper
と表記されます。
ウンカの参考動画
ウンカ類は小型で株元付近に潜むため、圃場での発生状況やトビイロウンカによる坪枯れの進行は、文章や静止画だけでは把握しにくい害虫です。
トビイロウンカの飛来、生態、被害、防除の考え方を確認する際は、次の動画が参考になります。
トビイロウンカの被害の現状と防除対策
農研機構(NAROchannel)
トビイロウンカの被害の現状と防除対策(YouTube)を見る
動画について:
この動画は、トビイロウンカの生態や水稲への被害、防除方法を理解するための参考資料として紹介しています。
農材ドットコムが制作・管理している動画ではありません。
動画の内容、公開状況、URLなどは、公開元の都合により変更または削除される場合があります。
また、動画は2021年に公開されたものであり、農薬の登録内容、薬剤感受性、防除指針などはその後変更されている場合があります。
実際の防除では、最新の農薬登録内容と都道府県の病害虫発生予察情報、防除指針を確認してください。
関連する資材分類・農業用語
参考資料
- 農林水産省「水稲の病害虫防除」
- 農林水産省 植物防疫所「指定有害動植物の総合防除を推進するための基本的な指針」
- 農研機構「農研機構技報 No.17―イネウンカ類」
- 農研機構「イネ縞葉枯病ウイルスの防除対策に関する技術指導」
- 農研機構「イネ南方黒すじ萎縮病の発生生態、診断および防除マニュアル」
- 農林水産省「農薬登録情報提供システム」
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