頭上灌水設備とは
頭上灌水設備とは、温室やビニールハウス、育苗施設などで、作物や栽培ベッドより上方に設置した配管や散水装置から水を供給する灌水(かんすい)設備です。
天井部や上部配管からスプリンクラーや散水ノズルで散水する固定式のほか、レールなどに沿って散水装置が移動する自走式・移動式もあります。
水稲・野菜・花きなどの育苗、葉菜類、鉢物、切り花などで利用され、手灌水の省力化や散水範囲の均一化を目的として導入されます。
配管や散水器具を栽培面より上部に配置できるため、地表部の配管が作業や台車の通行を妨げにくいことも特徴です。
なお、「頭上灌水」は散水位置・方式を示す言葉であり、必ずしも水を霧状にする設備ではありません。
微細な水滴を空中で蒸発させ、主に施設内の冷却や加湿を行う細霧設備とは目的やノズル、水圧、粒径、制御方法が異なるため、設備選定では区別する必要があります。
頭上灌水設備の主な方式
固定式
ハウス上部の配管からスプリンクラーや散水ノズルを吊り下げ、一定位置から散水する方式です。
ノズルの散水範囲を重ね合わせるように配置し、栽培面全体へできるだけ均一に水を供給します。
構造が比較的単純で、自動弁やタイマーと組み合わせた自動灌水にも対応しやすい方式です。
移動式・自走式
散水ノズルを備えた装置がレールなどに沿って移動しながら灌水する方式です。
固定ノズルを多数配置する方式とは異なり、移動する散水装置によって栽培面を順次灌水します。
製品によっては灌水だけでなく、防除や薬液散布など複数用途に対応するものもあります。
頭上灌水設備の特徴
- 栽培面の上方から広い範囲へ散水できる
- 地表部に灌水配管を配置しない構成が可能で、通路や作業空間を確保しやすい
- タイマー、電磁弁、灌水コントローラーなどと組み合わせて自動化できる
- ノズルの種類、設置高さ、設置間隔、水圧を適切に設計することで散水ムラを抑えられる
- 育苗、葉菜類、花き、鉢物など、面として灌水したい栽培に利用しやすい
頭上灌水設備の用途
頭上灌水設備は、特に多数の苗や株へ面状に水を供給したい用途で利用されています。
代表的な用途には次のようなものがあります。
- 水稲育苗
- 野菜苗・花苗などの育苗
- 葉菜類の栽培
- 花き・切り花栽培
- 鉢物・ポット栽培
- 施設内の栽培ベッドへの灌水
ただし、作物によっては葉や茎を濡らすこと自体が病害リスクを高めます。
特に水滴の跳ね返りによって病原菌が伝播しやすい作物や育苗方式では、点滴灌水や底面給水など、植物体を濡らしにくい方式との比較が必要です。
頭上灌水設備取り扱いメーカー・代理店
| 製造・発売元 | 製品名 | 特徴 |
|---|---|---|
| イノチオアグリ株式会社 | マスプレー | 施設栽培用の自走式防除・灌水システム。ナイアガラタイプでは作物の頭上から灌水可能 |
| 株式会社誠和 | 雨車 | 水圧を動力として走行する自走式散水装置。花壇苗、水稲、軟弱野菜などの育苗に対応 |
| 佐藤産業株式会社 | タレント | 頭上灌水用ノズル。散水ノズルと後だれ防止弁を一体化 |
| 株式会社グリーンテック | グリンメイト Rタイプ 多目的システム | 温室・ハウス向け自走式散布装置。自動灌水、防除、薬液散布などに対応 |
| 株式会社サンホープ | ハンガースプレーセット | 頭上配管型スプリンクラーセット。水稲育苗やハウス栽培などに対応 |
| ネタフィムジャパン株式会社 | スピンネット(SpinNet) | 温室・トンネル・ネットハウス向け逆吊りマイクロスプリンクラー。均一散水や水だれ抑制を考慮した構造 |
頭上灌水設備のメリット
- 灌水作業を省力化できる
手灌水と比較して広い栽培面を一括または自動で灌水できます。 - 地表部の作業空間を確保しやすい
配管や散水器具を上部に配置する方式では、通路や栽培ベッド周辺の配管を減らせます。 - 多数の苗や株をまとめて灌水できる
育苗トレイや密植された葉菜類など、個々の株へ点滴するより面状散水が適している用途があります。 - 自動化しやすい
タイマー、電磁弁、灌水コントローラーなどを組み合わせることで、設定した時間や条件に基づく灌水が可能です。
頭上灌水設備の注意点・デメリット
葉濡れと病害リスク
頭上灌水では葉、茎、苗、培地表面などが濡れます。
葉が長時間濡れた状態になるほか、水滴が病原菌を含んだ水や土壌を跳ね上げることで、病害の発生・拡大を助長する場合があります。
特に育苗では作物や対象病害によって頭上灌水を避ける必要があるため、「育苗には頭上灌水が適している」と一律に判断することはできません。
作物、病害履歴、育苗方式を確認したうえで灌水方式を選定します。
散水ムラ
頭上灌水設備は、ノズルを設置すれば自動的に均一な灌水になるわけではありません。
ノズルの散水パターン、設置高さ、設置間隔、水圧、配管径、配管長、同時使用するノズル数などによって散水量は変化します。
特に長い配管では末端側の圧力低下によって散水量が変化する場合があります。
設計時にはノズルの適正使用圧力と必要流量を確認し、ポンプ能力や配管径を含めて検討する必要があります。
ノズルの目詰まり
細かな散水口を使用する設備では、用水中の砂、鉄分、藻類、有機物などによる目詰まりが散水ムラの原因になります。
水源の状態に応じてろ過器・フィルターを設置し、ノズルやフィルターを定期的に点検します。
停止後の水だれ
配管内部に残った水が灌水停止後に特定のノズルから流れ続けると、その直下だけが過湿になる場合があります。
育苗など均一性を重視する用途では、逆止機能や後だれ防止機構を備えたノズル・バルブの使用も検討します。
頭上灌水設備の自動化
固定式の頭上灌水設備では、電磁弁・電動弁・制御機器を利用して自動化できます。
基本的な方式は、設定した時刻または灌水時間に応じて弁を開閉するタイマー制御です。
設備によっては土壌・培地水分、日射などのセンサーや上位の環境制御装置と連携することもできます。
ただし、日射比例制御やセンサー制御、AI制御が頭上灌水設備に標準的に備わっているわけではありません。
必要とする制御方法に対応できるコントローラー、センサー、電磁弁等を別途組み合わせてシステムを構成します。
頭上灌水設備の選び方
頭上灌水設備では、ノズル単体ではなく、水源から作物までを一つの灌水システムとして設計することが重要です。
主に次の項目を確認します。
- 作物・栽培方式:葉濡れを許容できる作物か、病害リスクが高くないか
- 必要灌水量:栽培面積と必要な水量に対して十分な水源・ポンプ能力があるか
- ノズルの散水範囲:散水直径、散水パターン、流量がハウス間口やベッド幅に適しているか
- 設置高さ・間隔:ノズル同士の散水範囲を適切に重ねられるか
- 使用水圧:すべてのノズルでメーカー指定の使用圧力を確保できるか
- 水質とろ過:砂、藻類、鉄分などに応じたフィルターを設置できるか
- 停止時の水だれ:必要に応じて後だれ防止機構を採用するか
- 自動化:タイマー、電磁弁、センサー、環境制御装置との連携が必要か
- 保守性:ノズルや配管を清掃・交換できる位置に設置できるか
細霧設備との違い
頭上灌水設備と細霧設備は、ハウス上部にノズルを設置するため外観が似る場合がありますが、同じ設備ではありません。
頭上灌水は作物や培地へ水を供給することが主目的です。
一方、細霧設備は微細な水滴を噴霧し、その蒸発による気化熱を利用した施設内冷却や加湿などを主目的とします。
冷房目的で設備を選ぶ場合には、一般的な頭上灌水用スプリンクラーではなく、必要な粒径・圧力・噴霧量を確保できる細霧設備として設計する必要があります。