養液栽培用培地(人工培地・有機培地)とは
養液栽培用培地とは、土壌の代わりに植物の根を支持し、水分・養分・酸素を保持する根域として使用する資材です。
養液栽培には、培地を使用せず根を培養液中で管理する水耕栽培と、ロックウールやヤシ殻などの固形培地へ養液を供給する固形培地耕があります。
養液栽培用培地には、ロックウールなどの無機質培地、ヤシ殻(ココ)などの有機質培地、ウレタン等の合成樹脂系培地などがあります。
「人工培地=ロックウール」「養液栽培用培地=無菌」と一律に考えることはできません。素材や製造方法によって、保水性、通気性、排水性、養分保持性、pH・ECへの影響、耐久性などが異なります。
養液栽培用培地の主な種類
ロックウール培地
玄武岩などの鉱物を高温で溶融し、繊維状に加工した無機質培地です。
製品として物理性を均一にしやすく、保水性と通気性を設計しやすいため、トマト、パプリカ、キュウリ、バラ、葉菜類などの養液栽培で使用されています。
播種用プラグ、育苗用キューブ、定植用スラブ、葉菜類向けマットなど、栽培段階や作物に応じた形状があります。
ロックウールは高温で製造されるため、製造時には病原菌や雑草種子を持ち込みにくい培地ですが、使用開始後は根、養液、作業器具などを介して病原体が侵入する可能性があります。栽培中も衛生管理が必要です。
ヤシ殻培地・ココ培地
ココヤシの果皮から得られる繊維や粒子を洗浄・調整して使用する有機質培地です。「ココピート」「ココ」「コイヤー」などの名称で流通しています。
細かなココピート、粗い繊維、チップなどの配合によって保水性・排水性・通気性が変わります。
トマト、ミニトマト、キュウリ、パプリカ、イチゴ、花きなどの固形培地耕で広く利用されています。
ヤシ殻培地は製品ごとの品質差にも注意が必要です。原料産地、粒度、繊維・チップの割合、洗浄状態、EC、塩類、緩衝処理などを確認します。
合成樹脂系培地
ウレタンフォームなどの合成樹脂を利用した培地は、主に水耕栽培の播種・育苗時に植物体を支持するために使用されます。
葉菜類の水耕栽培などでは、小型のスポンジ状培地へ播種・育苗した後、そのまま定植パネルへ移植する方式があります。
製品ごとに吸水性、硬さ、切れ込み形状などが異なるため、使用する栽培システムとの適合を確認してください。
ロックウールとヤシ殻培地の違い
ロックウールとヤシ殻培地はいずれも固形培地耕に利用できますが、根域管理の性質は異なります。
ロックウール
- 工業的に製造され、物理性を均一化しやすい
- 培地水分量を比較的精密に管理しやすい
- プラグ、キューブ、スラブなど規格化された製品が多い
- 製品によって繊維方向や密度が異なり、保水・排水特性が異なる
- 使用後の処理・回収方法を導入前に確認する必要がある
ヤシ殻培地
- ヤシ殻由来の天然有機質資材
- 繊維・チップ・細粒の配合によって保水性と通気性を調整できる
- 圧縮品は給水して膨張・復元して使用するものが多い
- 原料や処理状態によってEC・塩類・物理性に差が生じる場合がある
- 使用後に土壌改良資材などとして利用できる製品もある
どちらが一律に優れているというものではありません。栽培する作物、栽培期間、給液設備、排液管理、廃棄・再利用方法などに合わせて選定します。
養液栽培用培地を選ぶポイント
1. 保水性と通気性
根には水分だけでなく酸素も必要です。
保水性が高すぎて培地内が常時過湿になると、根域の酸素不足や根傷みにつながる場合があります。一方、排水性が高すぎる培地では給液回数を増やす必要があります。
培地単体の性能だけでなく、使用する点滴チューブ・ドリッパー、給液量、給液回数と合わせて考えます。
2. 培地容量
1株当たりの培地容量は、作物、作型、栽培期間、植栽密度、培地の保水特性などによって決めます。
培地量を少なくすると根域環境を変化させやすくなりますが、水分やECの変動も大きくなるため、より細かな給液管理が必要になります。
3. EC
EC(電気伝導度)は、培養液や培地内溶液に含まれるイオン量の影響を受ける指標です。
特にヤシ殻培地では、導入時に製品のECや洗浄・調整状態を確認します。また栽培中は給液ECだけでなく、排液や培地内溶液のECも確認して根域環境を管理します。
4. pH
培地の種類によって、根域pHへの影響が異なります。
給液pHが適正であっても、作物の養分吸収、培地、原水、肥料処方、排液率などによって培地内のpHは変化します。給液だけでなく排液・根域の状態を確認してください。
5. 製品の均一性
同じ栽培ベッド内で培地ごとの保水量・排水量に大きな差があると、株ごとの生育差につながります。
大規模栽培では、培地サイズ、密度、復元量、ECなどの品質管理も選定項目になります。
6. 使用後の処理
ロックウールとヤシ殻培地では使用後の処理方法が異なります。
ロックウールではメーカー回収・リサイクル制度を利用できる場合があります。ヤシ殻培地では土壌への還元などが可能な製品もありますが、病害が発生した培地を安易に再利用・圃場還元しないよう注意します。
培地管理で注意したいこと
給液量だけで判断しない
同じ量の養液を供給しても、日射量、気温、湿度、作物の大きさ、根量によって吸水量は変化します。
給液量だけでなく、排液量・排液率、培地水分量、EC、pH、植物の生育状態を組み合わせて管理します。
過湿を避ける
固形培地耕では、養液が多ければ多いほど生育が良くなるわけではありません。
低日射時や夜間まで過剰に給液すると、培地内の空気量が減少し根域が酸素不足になる場合があります。
病害を持ち込まない
新品の培地が清浄であっても、苗、養液、排液、作業者、器具などから病原菌が侵入する可能性があります。
循環式養液栽培では、病原体が培養液を介して施設内へ広がる可能性もあるため、必要に応じてろ過・殺菌設備などを検討します。
培地を変更するときは給液設定も見直す
ロックウールからヤシ殻培地へ変更するなど、異なる物理性の培地へ変更した場合、従来と同じ給液時間・回数が適するとは限りません。
培地変更時には、保水性、排水性、培地容量に合わせて給液開始時刻、1回当たり給液量、給液回数、排液率などを再設定してください。
養液栽培用培地取り扱いメーカー・代理店
| 製造・発売元・取扱元 | 製品名 | 培地の種類 | 主な用途・特徴 |
|---|---|---|---|
| ロックウール/無機質培地 | 播種・育苗から果菜類、バラ等の定植栽培まで対応する国産ロックウールシリーズ。ブロック、ポット、定植用ベッドを展開。 | ||
| ロックウール/無機質培地 | 植物工場・葉菜類の水耕栽培向け。高い吸水・保水性を持つ播種・育苗用マット。 | ||
| ロックウール/無機質培地 | ROCKWOOL社製。プリスティージ、クラシックMY、バイタル、マスターなどを展開。繊維方向、厚み、排水性、水分均一性の異なるスラブから作物・管理方法に合わせて選択。 | ||
| ロックウール/無機質培地 | デルタ、プラントップデルタ、プラグ、マルチブロック等を展開。果菜・花き・葉菜類の播種、挿し木、育苗に対応。 | ||
| ヤシ殻/有機質培地 | スリランカ産ヤシ殻原料を品質管理して使用。ココベッドはトマト・ナス・切り花等、ココブロックはイチゴ等の培地として使用。 | ||
| ヤシ殻/有機質培地 | ココピートを圧縮した養液栽培用スラブ。給液によって復元して使用し、果菜類などの固形培地耕に対応。 | ||
| ヤシ殻成形培地/有機質培地 | ヤシ殻を成形した育苗用ポット。水分量を管理しやすく、同社コイヤー®スラブへの定植を想定した育苗にも利用。 | ||
| ロックウール/無機質培地 | Cultilene製ロックウールの国内取扱。プラグ、キューブ、スラブ等を栽培方式・作物に合わせて供給。 | ||
| ヤシ殻培地(ココバッグ)/有機質培地 | ココヤシ由来培地をバッグ状にした固形培地耕システム。トマトなど果菜類の養液栽培に利用し、点滴給液や排液管理と組み合わせて根域環境を管理する。培地単体より栽培システムとしての性格が強いため、将来的に養液栽培システム側への分類変更も検討。 |
関連する資材分類・農業用語
まとめ
養液栽培用培地には、ロックウールなどの無機質培地、ヤシ殻由来の有機質培地、合成樹脂系培地などがあります。
培地によって保水性、通気性、排水性、EC・pHへの影響、耐久性、使用後の処理方法が異なるため、素材名だけで選定することはできません。
作物、栽培期間、培地容量、給液設備、排液管理を含めて根域環境を設計し、培地の特性に合わせて給液量・回数を管理することが重要です。