
保水力(ほすいりょく)とは、土壌が降雨や水やりによって得た水分を蓄え、植物の根に適度に供給し続ける能力を指します。農業においては、作物の健全な成長と収量の安定に不可欠な要素であり、水資源の有効利用にも深く関わっています。
特に気候の変動や雨量の少ない地域では、土壌の保水力が低いと水分不足が起きやすく、作物が枯れたり、成長が妨げられたりするリスクが高まります。
保水力は土壌の構造や粒径、腐植(ふしょく)の含有量、有機物の質や量に大きく左右され、有機物が豊富な土壌ほど保水力が高くなります。
同意語としては「水分保持力」「土壌の水持ち」などがあります。
保水力の概要
土壌が水を保持する力、つまり保水力は、農業における「命の綱」とも言える機能です。
保水力が高い土壌は、短時間の水やりや降雨でも水を逃さずに蓄えることができ、作物の根に必要なタイミングで水分を供給します。反対に、保水力が低い土壌では水がすぐに地中深くに浸透してしまい、根が水分を十分に吸収できなくなります。これは特に砂質土や傾斜地で顕著です。
保水力の詳細説明
保水力を決定づける要因には次のようなものがあります。
- 土壌構造:団粒構造が発達した土壌は、水分をしっかり保持できる。
- 有機物の量:堆肥(たいひ)や腐植(ふしょく)が多い土壌はスポンジのように水を吸収。
- 土壌粒子の大きさ:粘土質は水を抱え込みやすく、砂質は水を通しやすい。
また、保水力の維持と向上のためには、定期的な土壌改良が欠かせません。腐葉土やバークなどを投入することで、土壌の保水性を高めることが可能です。農業現場では、水の無駄を省くスマート農業の観点からも、保水力の高い土壌づくりが注目されています。
保水力の役割
- 安定した水分供給
作物の根が必要とする水を切らすことなく供給する。 - 肥料の流亡防止
水持ちが良いと肥料も流れにくく、効率的な養分供給が可能。 - 省水効果
少ない水やりで済むため、労力と水資源の節約につながる。
保水力に関する課題と対策
課題1:砂質土壌による水分保持不足
砂質土では保水力が低いため、水がすぐに浸透してしまい作物の根が乾燥しやすくなります。
対策:堆肥やバーミキュライト、ピートモスなどの有機資材を混ぜることで、保水性を高めることが可能です。
課題2:過剰な水分保持による根腐れ
逆に粘土質などで保水力が強すぎると、根が常に水に浸かり酸欠を起こしやすくなります。
対策:排水性を改善するために、暗渠排水や高畝(たかうね)の利用、砂や腐葉土のすき込みを行います。
課題3:土壌の劣化による団粒構造の崩壊
長期的な化学肥料の連用や耕作放棄などで土壌構造が劣化すると、保水力が低下します。
対策:緑肥(りょくひ)の活用、輪作、堆肥施用などで団粒構造を回復させ、健全な土壌を維持します。