助細胞とは
助細胞(じょさいぼう、synergid cell)とは、被子植物の胚嚢内で、卵細胞の両側に位置する細胞です。
最も一般的なタデ型の胚嚢では、卵細胞1個の両側に2個の助細胞が形成されます。卵細胞と2個の助細胞を合わせて卵装置(らんそうち、egg apparatus)と呼びます。
助細胞は花粉管を胚珠へ誘引するだけでなく、到達した花粉管を受け入れ、花粉管から2個の精細胞が放出される過程にも重要な役割を果たします。
つまり助細胞は、被子植物で雄性側の花粉管と雌性側の胚嚢をつなぐ、受精成立の重要な接点となる細胞です。
助細胞は受精する細胞ではありません。
被子植物の重複受精で精細胞と受精するのは、卵細胞と中央細胞です。助細胞は、その受精が成立するまでの花粉管誘引・受け入れなどを支えます。
助細胞は胚嚢のどこにあるか
典型的な被子植物の胚嚢では、助細胞は珠孔側に位置します。
珠孔側には、次の3細胞が並びます。
- 卵細胞:1個
- 助細胞:2個
この3細胞を合わせて卵装置と呼びます。
花粉管は多くの被子植物で胚珠の珠孔側へ誘引され、助細胞の一方へ到達します。
したがって、助細胞は単に卵細胞の横に配置されているのではなく、花粉管が精細胞を送り届ける入口側に位置しています。
助細胞の主な役割
助細胞には、被子植物の受精成立に関わる複数の役割があります。
花粉管を胚珠へ誘引する
助細胞の代表的な役割が、花粉管を適切な胚珠へ誘引することです。
トレニアを用いた研究では、助細胞から分泌されるLURE(ルアー)と呼ばれるペプチドが、花粉管誘引物質として働くことが明らかになりました。
花粉管はこうした化学的シグナルを感知しながら伸長方向を変え、最終的に目的となる胚珠へ到達します。
シロイヌナズナでもLURE型の花粉管誘引物質が見つかっており、花粉管側にはLUREを認識するPRK6などの受容体が存在することが明らかになっています。
ただし、すべての被子植物でまったく同じLURE分子が使われているわけではありません。花粉管誘引に関わる分子や仕組みには植物種による違いがあります。
花粉管を受け入れる
胚珠へ誘引された花粉管は、最終的に助細胞と接触します。
その後、花粉管の伸長が停止し、先端部が破裂するなどして、内部に運ばれてきた2個の精細胞が胚嚢側へ放出されます。
この花粉管の受け入れと内容物の放出にも、助細胞と花粉管の間の細胞間シグナルが関係しています。
助細胞は、単なる「花粉管の目印」ではなく、到着した花粉管に精細胞を適切に放出させる受容側の細胞でもあります。
精細胞を受精位置へ届ける過程に関与する
花粉管から放出された2個の精細胞は、それぞれ卵細胞と中央細胞へ到達し、重複受精を行います。
近年のライブイメージング研究では、花粉管内容物が助細胞側から受精領域へ送り込まれ、精細胞が卵細胞と中央細胞の近くへ配置される過程も解析されています。
このため助細胞は、花粉管誘引だけでなく、精細胞を受精位置へ正確に届ける過程にも関係しています。
助細胞の線形装置
多くの被子植物の助細胞では、珠孔側に線形装置(せんけいそうち、filiform apparatus)と呼ばれる特徴的な構造が形成されます。
線形装置は、助細胞の細胞壁が複雑に内側へ入り込んだ構造です。
細胞膜の表面積が大きくなるため、物質の分泌や細胞間の情報交換に適した構造と考えられており、花粉管誘引や花粉管受容に関係するタンパク質もこの領域に集積します。
助細胞は花粉管から見ると、単純な袋状の細胞ではありません。珠孔側に受精に特化した構造を発達させています。
ただし、線形装置の形態や発達程度は植物種によって異なります。
LUREとは
LURE(ルアー)は、助細胞から分泌される花粉管誘引物質として発見された低分子のペプチドです。
トレニアを用いた研究では、LURE1、LURE2などが花粉管を強く誘引することが確認されました。
LUREは花粉管に対して単純な栄養源として働くのではありません。花粉管側の受容体によって認識され、花粉管の伸長方向を変化させる細胞間シグナルとして働きます。
また、LUREによる誘引には種特異性がみられます。
このため、植物が自分と近い種類の花粉管を選択的に受精場所へ誘導する仕組みの一部としても研究されています。
LURE=すべての植物に共通する唯一の誘引物質ではありません。
トレニアやシロイヌナズナなどでLURE型ペプチドの働きが詳しく解析されていますが、被子植物全体の花粉管誘引を一種類の物質だけで説明することはできません。
2個の助細胞は同じ働きをするのか
典型的な胚嚢には2個の助細胞があります。
受精時には、一般にそのうち一方が花粉管を受け入れる受容助細胞となり、花粉管から精細胞が放出される過程で退化します。
もう一方は直ちには失われず、受精後まで残ることがあり、残存助細胞(persistent synergid)などと呼ばれます。
正常な重複受精が成立すると、この残った助細胞の花粉管誘引機能も停止します。
シロイヌナズナを用いた研究では、重複受精が失敗した場合、残った助細胞が機能を維持し、2本目の花粉管を誘引することがあります。
これは、最初の花粉管による受精が失敗した場合に、別の花粉管を受け入れて受精を再試行できる仕組みと考えられます。
ただし、「2個の助細胞が存在する進化上の理由は、この再試行のためだけである」と断定することはできません。
受精後に助細胞はどうなるか
正常な重複受精が成立した後も花粉管誘引が続くと、同じ胚珠へ複数の花粉管が集まり続けることになります。
そのため、受精後には花粉管誘引を停止する仕組みがあります。
シロイヌナズナの研究では、受精後に残っていた助細胞が不活性化され、さらに受精後の中央細胞から形成される胚乳側と融合する現象も確認されています。
この過程によって助細胞に残っている花粉管誘引物質などが失われ、追加の花粉管を誘引する能力が停止します。
卵細胞側の受精と中央細胞側の受精の双方が、残存助細胞の不活性化に関与することも示されています。
ただし、この詳細な不活性化機構は主としてシロイヌナズナなどのモデル植物で解析されたものです。すべての被子植物で全く同じ過程が起こると断定することはできません。
助細胞と多精拒否
一つの胚珠へ多数の花粉管が続けて進入すると、正常な受精や種子形成の妨げになる可能性があります。
被子植物には、受精後に別の花粉管が同じ胚珠へ向かうのを抑える仕組みがあります。
助細胞の不活性化と花粉管誘引停止も、その仕組みの一部です。
2024年には、生きた花の内部を二光子励起顕微鏡で観察することにより、胚珠と花粉管の1対1の誘引が高い精度で制御されている様子も報告されています。
ただし、多数の花粉管を排除する仕組みは助細胞だけで成立しているわけではありません。花粉管同士、胚珠、受精後のシグナルなど複数の仕組みが関与します。
助細胞と卵細胞の違い
助細胞は卵細胞のすぐ隣にあるため、両者を混同しやすいですが、役割は異なります。
- 卵細胞:精細胞と受精し、受精卵を経て胚になる雌性配偶子
- 助細胞:花粉管の誘引・受け入れ・精細胞放出などを支える細胞
助細胞そのものが胚になるわけではありません。
また、卵細胞と2個の助細胞をまとめて卵装置と呼びますが、3細胞すべてが精細胞と受精するわけではありません。
助細胞と中央細胞の違い
中央細胞も胚嚢を構成する細胞ですが、助細胞とは役割が異なります。
- 助細胞:主に花粉管誘引・受け入れなどに関与する
- 中央細胞:重複受精で精細胞と受精し、胚乳形成へ進む
重複受精で精細胞と融合するのは卵細胞と中央細胞であり、助細胞ではありません。
助細胞は雌性配偶子なのか
胚嚢は被子植物の雌性配偶体です。
その内部にある卵細胞と中央細胞は精細胞との受精に直接関わりますが、助細胞は受精相手ではありません。
助細胞は雌性配偶体を構成する付随細胞として、受精成立を支える役割を担います。
したがって、「胚嚢を構成する細胞だから、すべて雌性配偶子である」とするのは不正確です。
助細胞と植物の交雑
助細胞が分泌する花粉管誘引物質と、それを認識する花粉管側の受容体には、植物種による違いがあります。
この種特異性は、異なる植物種の間で花粉管が正しく胚珠へ到達できるかどうかに関わる生殖隔離の一部となる可能性があります。
そのため、LUREなどの花粉管誘引機構は、将来的な種間交雑や育種技術との関連でも研究されています。
ただし、異種間交雑が成立しない原因を助細胞やLUREだけに求めることはできません。
柱頭上での花粉認識、花粉発芽、花粉管伸長、花粉管誘引、受精、染色体構成、胚・胚乳発達など、多数の生殖障壁があります。
農業で助細胞をどう考えるか
助細胞は、通常の農業現場で直接観察して生育診断に利用する細胞ではありません。
着果不良、種子数不足、落花、落果などが発生しても、外観から「助細胞の異常」「LURE不足」と診断することはできません。
正常な受精には、少なくとも次のような段階が関係します。
- 正常な胚珠・胚嚢が形成される
- 助細胞・卵細胞・中央細胞が正常に分化する
- 正常な花粉が形成される
- 受粉が成立する
- 花粉が正常に発芽する
- 花粉管が雌しべ内を正常に伸長する
- 花粉管が胚珠へ正常に誘引される
- 助細胞が花粉管を正常に受け入れる
- 精細胞が正常に放出される
- 卵細胞と中央細胞で重複受精が成立する
- 受精後の胚・胚乳が正常に発達する
どこか一つに障害が起きても、最終的には「種子ができない」「着果しない」という似た結果になる場合があります。
現場での注意:
受粉しているのに結実しないという結果だけで、花粉管誘引や助細胞の異常と判断することはできません。花粉稔性、柱頭の状態、花粉管伸長、胚珠形成、受精後の発達などを段階的に確認する必要があります。
助細胞について間違えやすい点
- 助細胞=卵細胞ではありません。
助細胞は卵細胞の両側にあり、花粉管誘引や受け入れなどを担います。 - 助細胞は精細胞と受精しません。
重複受精の相手は卵細胞と中央細胞です。 - 助細胞=胚珠ではありません。
助細胞は胚珠内部の胚嚢を構成する細胞の一つです。 - 助細胞が花粉管を物理的に引っ張るわけではありません。
花粉管誘引物質などの化学的シグナルによって花粉管の伸長方向を制御します。 - LUREがすべての被子植物に共通する唯一の誘引物質ではありません。
花粉管誘引の分子機構には植物種による違いがあります。 - 2個の助細胞が同時に2本の花粉管を受け入れるのが通常ではありません。
正常な受精では、一般に1本の花粉管が一方の助細胞側へ受け入れられます。 - 残った助細胞が永久に機能し続けるわけではありません。
正常な重複受精後には花粉管誘引機能が停止します。 - 助細胞が2個存在する理由を一つに断定することはできません。
受精失敗時の再誘引などの機能が確認されていますが、進化上の理由をそれだけで説明することはできません。 - 結実不良=助細胞異常ではありません。
受粉前から受精後まで多数の原因候補があります。
助細胞の参考動画
助細胞は花粉管を胚珠へ誘引し、花粉管から精細胞が放出される受精直前の過程に関与します。この動きは静止画だけでは理解しにくいため、実際の植物の受精過程を撮影した次の動画が参考になります。
未来を創る科学者達(24)神秘の瞬間に立ち会う ~東山哲也~
科学技術振興機構(JST)・SCIENCE CHANNEL
未来を創る科学者達(24)神秘の瞬間に立ち会う ~東山哲也~(Science Portal)を見る
動画について:
この動画は、花粉管が胚嚢へ到達し、助細胞などが関与する植物の受精過程を理解するための参考資料として紹介しています。
科学技術振興機構(JST)のサイエンスチャンネルで公開されている動画で、農材ドットコムが制作・管理しているものではありません。
動画の内容、公開状況、URLなどは、公開元の都合により変更または削除される場合があります。
また、助細胞の構造、花粉管誘引物質、花粉管受容、受精後の助細胞の変化には植物種による違いがあります。
関連する資材分類・農業用語
参考資料
- 科学技術振興機構・名古屋大学「植物の花粉管誘引物質を発見―140年来の謎解明」
- 名古屋大学ITbM「花粉管誘引物質LUREを認識する受容体の仕組み」
- 名古屋大学「植物の受精~受精後、ライブイメージングで全貌解明」
- 名古屋大学「見えた!植物がたくさん種子を作るしくみ―花の中身を観察する新手法で、オスとメスが結ばれるしくみ究明―」
- 日本農芸化学会「花粉管誘引物質ルアーの発見」
- 科学技術振興機構 Science Portal「未来を創る科学者達(24)神秘の瞬間に立ち会う ~東山哲也~」
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