かいよう病とは
かいよう病(かいようびょう)とは、植物の葉、茎、枝、果実などに壊死、コルク化、陥没、亀裂などの病変を生じる病害につけられる名称です。
英語ではcanker、細菌によるものではbacterial cankerなどと表記されます。
注意が必要なのは、「かいよう病」という名称だけで一つの病原体や一つの病気を指しているわけではないことです。
カンキツ、トマト、キウイフルーツ、ウメなど、複数の作物に「かいよう病」と呼ばれる病害がありますが、作物によって病原細菌、病徴、伝染経路、防除方法が異なります。
そのため、農業現場では「かいよう病かどうか」だけでなく、「何の作物の、どのかいよう病か」まで確認して防除方法を判断する必要があります。
代表的なかいよう病
| 作物 | 代表的な病原 | 主な症状・特徴 |
|---|---|---|
| カンキツ | Xanthomonas citri 系統の細菌 | 葉、緑枝、果実などに盛り上がった病斑を生じ、進行すると中央部がコルク化します。風雨や傷が感染に大きく関係します。 |
| トマト | Clavibacter michiganensis 系統の細菌 | 萎凋、葉縁の黄化・褐変、茎内部の褐変、果実の鳥目状病斑などを生じます。施設栽培では典型的なかいよう状病斑が目立たないこともあります。 |
| キウイフルーツ | Pseudomonas syringae pv. actinidiae | 葉の褐色斑点、花蕾の褐変、新梢や枝の枯死、枝幹から赤色または白色の樹液が流出する症状などがみられます。 |
病原菌の学名は分類体系の変更によって表記が変わることがあります。公的資料でも旧分類名や異なる階級名が併記される場合があるため、実際の診断や防除では作物名と病名を基準に確認してください。
カンキツかいよう病
カンキツかいよう病は、カンキツ栽培で重要な細菌病です。
葉では初め淡黄色から水浸状の小さな病斑が現れ、病斑が発達すると盛り上がって中央部がコルク化します。
果実にも同様の病斑が生じ、外観品質を大きく低下させる原因になります。
病原細菌は発病した葉や枝などの病斑で生存し、そこから雨滴などによって周囲へ広がります。
強風による擦れ傷やミカンハモグリガの食害痕は感染を助長する要因になります。
したがって、カンキツかいよう病では薬剤散布だけでなく、発病部位の除去、防風対策、ミカンハモグリガ対策などを組み合わせて伝染源と感染機会を減らすことが基本になります。
トマトかいよう病
トマトかいよう病も細菌による病害ですが、カンキツかいよう病とは病原細菌も発生生態も異なります。
トマトでは葉や果実の病斑だけでなく、病原細菌が植物体内へ侵入することによる萎凋や株全体の枯死が大きな問題になります。
特に施設栽培では、摘芽、摘葉、誘引などの管理作業によってできた傷口から感染し、作業者の手やハサミなどを介して畝に沿って広がることがあります。
種子、土壌、植物残さ、栽培資材などが伝染に関係する場合もあります。
発病株を触った器具で健全株を連続して管理すると、病害を人為的に広げる可能性があります。
発病株の早期発見、衛生管理、器具類の消毒、発病残さの適切な処理などが重要です。
キウイフルーツかいよう病
キウイフルーツかいよう病は、Pseudomonas syringae pv. actinidiaeによる細菌病です。
葉では褐色の斑点が生じ、病斑の周囲に黄色いハローが形成されることがあります。
新梢や結果母枝が枯死したり、枝幹から赤色または白色の樹液が流出したりする場合もあります。
日本では複数の系統が確認されており、特にPsa3系統については農林水産省が防除対策を公表しています。
剪定やその他の管理作業による傷、降雨などが病原細菌の伝染に関係するため、発病部位の管理だけでなく、園地全体で感染を広げない作業体系が必要です。
かいよう病の診断で注意すること
病斑を見ただけで、かいよう病と断定しないでください。
褐色斑点、コルク状病斑、枝枯れ、萎凋などは、他の細菌病、糸状菌による病害、生理障害、薬害、物理的な傷などでも発生します。
例えばカンキツでは、そうか病などが外観上かいよう病と似る場合があります。
トマトでは青枯病、萎凋病などでも萎凋が起こるため、「しおれているからかいよう病」と判断することはできません。
診断では、少なくとも次の情報を組み合わせます。
- 対象作物と品種
- 葉、茎、枝、果実、根のどこに症状があるか
- 病斑の形、色、盛り上がり、陥没、亀裂の有無
- 維管束や茎内部の変色
- 圃場内での発病株の並び方や広がり方
- 降雨、台風、強風、かん水などの履歴
- 剪定、摘芽、摘葉、誘引などの管理作業履歴
- 発病株に使用した器具や資材の共用状況
病徴だけで判別が難しい場合は、都道府県の病害虫防除所、農業試験場、普及指導機関などへ相談し、必要に応じて病原体の検査を行います。
かいよう病の防除
かいよう病の防除方法は作物によって異なります。
共通して重視されるのは、病原体を圃場へ持ち込まないこと、伝染源を増やさないこと、管理作業で健全株へ広げないことです。
発病部位や発病株の除去、健全な種苗の使用、管理器具の衛生管理、風雨や傷による感染リスクの低減などを、対象作物の発生生態に合わせて組み合わせます。
薬剤防除
かいよう病は細菌によるものが多く、対象となる作物・病害によって使用できる農薬が異なります。
「殺菌剤なら何でもかいよう病に効く」という判断は誤りです。
農薬を使用する場合は、製品ラベルおよび農林水産省の農薬登録情報提供システムで、対象作物と適用病害虫名に「かいよう病」が登録されていることを確認してください。
また、細菌病では感染後の組織を元の健全な状態へ戻すことはできません。
薬剤散布だけに依存せず、感染前の予防と伝染源対策を組み合わせることが基本です。
かいよう病でよくある誤解
「かいよう病は一つの病気」ではない
作物が違えば病原体も異なる場合があります。
カンキツで有効な防除方法を、そのままトマトやキウイフルーツへ当てはめることはできません。
「潰瘍状の病斑がなければ、かいよう病ではない」とは限らない
特にトマトかいよう病では、施設栽培で萎凋や葉縁の枯死が主体となり、典型的なかいよう病斑が目立たない場合があります。
病名の文字だけから病徴を決めつけないことが必要です。
「湿度を下げれば防げる」という病気ではない
風雨、傷口、管理作業、種子、土壌、栽培資材など、伝染に関係する要因は作物ごとに異なります。
単に換気や除湿を行うだけでは、防除対策として不十分な場合があります。
「殺菌剤を散布すれば治る」わけではない
すでに壊死した組織や枯死した組織が、薬剤散布によって正常な組織へ戻ることはありません。
農薬は登録内容と防除適期を確認して使用し、伝染源除去や衛生管理と組み合わせます。
参考資料
- 農研機構「侵入調査事業等における調査手法―カンキツかいよう病」
- 和歌山県果樹試験場「かいよう病(カンキツ)」
- 宮城県病害虫防除所「トマト かいよう病」
- 農林水産省「キウイフルーツかいよう病の新系統(Psa3系統)」
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