えん麦(えんばく)

えん麦
えん麦

えん麦とは

えん麦(えんばく)とは、イネ科カラスムギ属の穀物で、一般的な栽培種はAvena sativaです。

漢字では「燕麦」と書き、英語ではoatと呼ばれます。
「オーツ」「オートムギ」などの名称でも呼ばれます。

穀実を食品や家畜飼料として利用するほか、植物体を青刈り飼料やサイレージとして利用したり、緑肥として圃場にすき込んだりするなど、用途の広い作物です。

ただし、
食品用、飼料用、緑肥用では求められる品種特性や栽培方法が異なります。

「えん麦」という名称だけで播種時期、収穫時期、耐寒性、線虫抑制効果などを一律に判断することはできません。

えん麦の植物としての特徴

えん麦はイネ科の一年草または越年草として栽培されます。

茎は中空で直立し、品種や栽培条件によって異なりますが、出穂期には草丈が1m前後になることがあります。

コムギやオオムギの穂とは外観が異なり、穂軸から枝分かれした枝梗の先に小穂をつける円錐花序を形成します。

冷涼な時期に栽培されることが多い作物ですが、
「えん麦は耐寒性が強く、寒さにほとんど問題がない」と考えるのは誤りです。

飼料用えん麦では冬枯れが問題になる地域があり、品種、播種時期、生育ステージ、気温などによって低温被害の程度が変わります。

えん麦の主な用途

食品用

えん麦の穀粒は食品として利用されます。

加工方法によって、オートミール、ロールドオーツ、オートブランなどさまざまな食品になります。

えん麦は食物繊維を含む穀物として知られていますが、この農業用語集では食品としての健康効果よりも、作物としての特性と農業利用を中心に扱います。

飼料用

えん麦は飼料作物として利用されます。

穀実を飼料として利用するほか、茎葉を青刈りして給与したり、サイレージとして調製したりする栽培があります。

日本では暖地を中心に、夏から初秋に播種し、年内に出穂・収穫する作型に適した極早生品種も育成されています。

一方、冬作として栽培する地域では冬枯れが問題になることがあります。

したがって、
「秋に播種して翌年夏に収穫する作物」と固定的に説明することはできません。

地域、用途、品種によって春播き、夏播き、秋播きなどの作型があります。

緑肥用

えん麦は緑肥としても利用されます。

地上部を生育させて土壌へすき込むことで有機物を供給できるほか、根が土壌中に伸長することによって、透水性などの土壌物理性の改善が期待できます。

また、生育中に土壌中の窒素を吸収するため、条件によっては硝酸態窒素の水系への流亡を抑える効果も期待できます。

ただし、
えん麦を栽培すれば自動的に土壌が良くなるわけではありません。

生育量が不足すれば投入される有機物量も少なくなります。
すき込み時期、土壌条件、後作までの期間なども効果に影響します。

緑肥えん麦と窒素肥効

イネ科であるえん麦は、マメ科緑肥のように根粒菌によって窒素固定する作物ではありません。

えん麦の植物体に含まれる窒素は、基本的に土壌や施肥由来の窒素を吸収したものです。

農研機構の緑肥利用マニュアルでは、えん麦はマメ科緑肥と比較してC/N比が高く、窒素肥効は大きくないとされています。

また、出穂後はC/N比が高くなりやすいため、後作への窒素肥効を期待する場合には、一般に出穂前のすき込みが適しています。

「緑肥を入れたから次作の窒素肥料を必ず減らせる」という判断はできません。

緑肥の生育量、すき込み時の窒素吸収量、C/N比、土壌残存窒素、後作の種類などを確認して施肥量を判断します。

えん麦の播種時期

えん麦の播種時期は、地域、品種、利用目的によって大きく異なります。

春播きのほか、地域や品種によって夏播きや秋播きも行われます。

例えば飼料用では、暖地で8月下旬から9月ごろに播種し、年内収穫を目的とする品種があります。

緑肥利用では、主作物の作型の間に組み込むため、後作の定植・播種時期から逆算して栽培期間とすき込み時期を決めます。

種袋や品種カタログに記載された播種適期を、地域を無視して使用しないでください。

同じえん麦でも、早晩性や低温への反応が異なります。

緑肥としてのすき込み時期

緑肥として利用する場合は、いつすき込むかが重要です。

生育期間を長くすれば地上部の有機物量は増えやすくなりますが、出穂後は茎葉が硬化し、C/N比も高くなるため、分解が遅くなる場合があります。

また、結実させると落下した種子が次作で発芽し、雑草化する可能性があります。

肥効や分解性を重視する場合は、出穂前を目安にすき込む方法があります。

すき込み量が多い場合は、フレールモアやハンマーナイフモアなどで茎葉を細断してから耕起すると、土壌への混和が行いやすくなります。

さらに、すき込んだ直後に後作を播種すると、植物残さの分解過程などによって発芽や初期生育へ影響する場合があります。

農研機構の緑肥利用マニュアルでは、後作を播種する場合、すき込みから少なくとも2週間程度の腐熟期間を設けることが望ましいとされています。

えん麦と線虫対策

緑肥用えん麦の中には、有害線虫の密度低減や増殖抑制を目的として利用される品種があります。

ただし、
「えん麦には線虫を減らす効果がある」と一括して考えてはいけません。

線虫抑制効果は、

  • えん麦の種類・品種
  • 対象となる線虫の種類
  • 栽培期間
  • 播種量
  • 圃場内の線虫密度

などによって変わります。

例えば、栽培種のAvena sativaでも「たちいぶき」のようにサツマイモネコブセンチュウの増殖抑制が報告されている品種があります。

一方、緑肥種子として流通する「ヘイオーツ」などには、Avena strigosaに属するものがあります。

Avena sativaとAvena strigosaの違い

農業現場では、Avena strigosaが「エンバク野生種」などの名称で流通することがあります。

しかし、一般的な栽培えん麦であるAvena sativaと、Avena strigosaは同じものではありません。

例えば農研機構の緑肥利用資料では、

  • Avena sativa:一般的な栽培えん麦
  • Avena strigosa:緑肥や線虫対策などで利用される系統

として区別されています。

「ヘイオーツ」「ネグサレタイジ」などはAvena strigosaとして整理されています。

商品名に「オーツ」「えん麦」と書かれているだけで、一般的な食用・飼料用えん麦と同じ植物だと判断しないでください。

緑肥を選定するときは学名、品種名、対象線虫、用途を確認します。

輪作での利用

えん麦は輪作体系へ組み込まれることがあります。

主作物とは異なるイネ科作物を導入することで、圃場を裸地のままにせず、有機物供給や根系による土壌物理性への効果などを期待できます。

品種によっては線虫対策など特定の目的にも利用されます。

ただし、
「えん麦を輪作すれば連作障害を解消できる」と一律に考えるのは誤りです。

後作との共通病害虫、対象線虫、緑肥の栽培期間、圃場条件などによって結果は変わります。

輪作では「何か別の作物を入れる」のではなく、解決したい問題に応じて作物を選ぶ必要があります。

施肥での注意点

えん麦は窒素を吸収して旺盛に生育しますが、窒素を多く施せばよいわけではありません。

過剰な窒素施用は過繁茂や倒伏につながる場合があります。

一方、緑肥栽培では前作の残存養分を利用して栽培できる場合もあります。

必要な施肥量は、土壌肥沃度、前作、用途、目標収量、地域の施肥基準などによって異なります。

一律の施肥量を設定せず、地域の栽培基準や土壌診断などを利用して判断します。

栽培上の主な注意点

  • 冬枯れ:品種や播種時期、地域によっては低温による冬枯れが発生します。
  • 倒伏:品種、播種密度、窒素施用量、生育量、風雨などによって倒伏することがあります。
  • 病害:冠さび病などが発生するため、「えん麦は病気に強い作物」と一括して扱うことはできません。
  • 雑草化:緑肥利用で結実まで放置すると、落下した種子が後作で発芽する場合があります。
  • すき込み後の作付け:大量の植物体をすき込んだ直後の播種・定植は避け、腐熟期間を確保します。
  • 線虫対策:対象線虫に効果のある品種でなければ、期待した密度低減効果が得られない場合があります。

よくある誤解

  • 「えん麦は耐寒性が非常に強い」:冬枯れが問題になる地域があります。耐寒性や越冬性は品種と栽培条件によって異なります。
  • 「土壌を選ばず簡単に栽培できる」:排水性、肥沃度、播種時期、気温などによって生育量は大きく変わります。
  • 「病害虫に強いので農薬を減らせる」:冠さび病などの病害があり、品種によって抵抗性も異なります。
  • 「えん麦ならどの品種でも線虫を減らせる」:線虫抑制効果は対象線虫と品種の組み合わせによって異なります。
  • 「緑肥にすると土壌へ窒素を増やせる」:えん麦はイネ科であり、マメ科緑肥のような窒素固定作物ではありません。
  • 「緑肥えん麦は大きく育ててからすき込むほどよい」:出穂後はC/N比が高まり、分解が遅くなる場合があります。結実させれば雑草化の原因にもなります。
  • 「秋に播種して翌夏に収穫する作物」:春播き、夏播き、秋播きがあり、暖地には年内収穫を目的とする飼料用品種もあります。

参考動画

緑肥Web講習会「減肥と土づくりのための緑肥の栽培」

農研機構が公開している緑肥利用の解説動画です。緑肥による土づくりや減肥の考え方、緑肥作物の使い方などを解説しています。

この動画はえん麦だけを解説した動画ではありません。えん麦を含む緑肥作物を農業で利用する際の基本的な考え方を理解するための参考資料として掲載しています。

出典:農研機構 NAROchannel

農研機構「緑肥Web講習会『減肥と土づくりのための緑肥の栽培』」

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