いもち病(いもちびょう)

いもち病とは

いもち病(いもちびょう)とは、
主に水稲に発生する糸状菌病で、
いもち病菌 Pyricularia oryzae によって引き起こされます。

文献によっては、
Magnaporthe oryzae という学名が使用されていることがありますが、
現在は Pyricularia oryzae が用いられています。

水稲では育苗期から成熟期まで発生し、
発生する部位や時期によって
苗いもち、葉いもち、節いもち、穂いもちなどと呼ばれます。

特に穂首や枝梗などに発生する穂いもちは、
籾の登熟を妨げ、
収量や品質を大きく低下させることがあります。

いもち病の主な症状

苗いもち

育苗中の苗に発生するいもち病です。

葉や苗の基部などに病斑を生じ、
発病が激しい場合には苗が萎れたり枯れたりします。

発病苗を本田へ移植すると、
その後の葉いもちの伝染源となる可能性があります。

葉いもち

本田で葉に発生するものを葉いもちと呼びます。

典型的な病斑では、
中央部が灰白色から灰色となり、
その周囲に褐色から赤褐色の部分を伴う紡錘形の病斑が見られます。

ただし、
病斑の形や色は品種、葉齢、気象条件、病斑の進行程度などによって変化します。

病斑が多数形成されると葉の光合成能力が低下し、
発病が激しい場合には株全体の生育が著しく抑制されることがあります。

葉いもちの病斑で形成された分生子は、
その後の穂いもちの重要な伝染源になります。

穂いもち

出穂後に穂へ発生するものを穂いもちと呼びます。

感染する部位によって、
穂首いもち、枝梗いもち、籾いもちなどに分けられます。

特に穂首付近が侵されると、
病斑より先の穂への水分や養分の供給が妨げられ、
穂が白化したり、
籾が十分に登熟しなかったりすることがあります。

そのため、
穂いもちは収量や玄米品質へ直接影響する重要な病害です。

いもち病はどのように広がるか

いもち病菌は、
保菌種子、罹病した稲わらや籾殻、発病苗などが伝染源となることがあります。

病斑などで形成された分生子は、
風や雨などによって周囲へ運ばれ、
水稲の葉や穂などへ感染します。

葉いもちが発生したほ場では、
葉の病斑から形成された分生子によって
穂いもちへ感染がつながる可能性があります。

したがって、
葉いもちと穂いもちは別々の病気ではなく、
水稲の生育段階や発病部位によって呼び分けられている同じいもち病です。

いもち病が発生しやすい条件

いもち病について
「高温多湿になると発生する」とだけ考えるのは正確ではありません。

感染成立には、
気温だけでなく、葉の表面がぬれている時間が大きく影響します。

雨、霧、露などによって葉面が長時間ぬれ、
感染に適した温度条件が続くと発病しやすくなります。

水稲いもち病の感染予測に利用されるBLASTAMでは、
葉面湿潤中の平均気温がおおむね15~25℃であることや、
十分な葉面湿潤時間が続くことなどを基に感染好適条件を判定します。

また、次のような条件では発病が助長されることがあります。

  • 降雨や曇天が続き、葉が長時間ぬれる
  • 日照不足が続く
  • 窒素施肥が多く、稲体の窒素濃度が高くなる
  • 過繁茂となっている
  • いもち病に弱い品種を栽培している
  • 周辺に発病苗や葉いもちの病斑などの伝染源が多い

特に注意したいのが窒素過多です。

窒素を多く施せば生育量は増えますが、
過剰になるといもち病への感受性が高まり、
過繁茂によって葉がぬれた状態も続きやすくなります。

したがって、
窒素を多く施用することが、
必ずしも水稲の収量向上につながるわけではありません。

いもち病の防除

健全な種子と苗を使用する

いもち病は種子伝染するため、
健全な種子を使用し、
適切な種子消毒を行うことが基本となります。

育苗中にいもち病が発生した苗を本田へ持ち込まないことも重要です。

また、
移植後に残った補植用苗を水田や畦畔付近へ長期間放置すると、
そこでいもち病が発生し、
本田への伝染源となる場合があります。

抵抗性品種を利用する

いもち病に対する抵抗性の強い品種を利用することで、
発病リスクを低減できます。

ただし、
「抵抗性品種だからいもち病が発生しない」という意味ではありません。

いもち病菌には病原性の異なる系統があり、
品種の持つ抵抗性の種類や栽培地域の菌の構成などによって
発病程度が変わることがあります。

品種ごとの葉いもち・穂いもち抵抗性を確認して選定します。

窒素過多を避ける

過剰な窒素施肥はいもち病の発生を助長します。

品種、地力、前作、作型、生育状況などを考慮して施肥量を決め、
単純に生育量を増やす目的で窒素を多用しないことが重要です。

葉いもちを早期に確認する

葉いもちの発生量が増えると、
穂いもちの感染リスクも高くなります。

ほ場を定期的に観察するとともに、
都道府県の病害虫防除所が発表する発生予察情報や、
地域によってはBLASTAMなどの感染予測情報も参考にします。

薬剤は防除適期を外さない

いもち病では、
薬剤によって使用時期や防除方法が異なります。

特に穂いもちは、
発病してから対応するのではなく、
葉いもちの発生状況、気象条件、品種の抵抗性、出穂時期などを基に
予防的な防除が必要になる場合があります。

農薬を使用する場合は、
水稲・いもち病への農薬登録、使用時期、使用量・希釈倍数、使用方法、使用回数を
必ず最新の登録内容で確認してください。

同じ作用機作の殺菌剤を繰り返し使用すると、
薬剤耐性菌の選抜につながる可能性があります。

地域で薬剤耐性菌が確認されている場合は、
都道府県の病害虫防除所、JA、普及指導機関などが示す防除方針を優先します。

いもち病で注意したい考え方

いもち病は「高温多湿だから発生する病気」ではありません。

葉面の濡れ時間、気温、日照、降雨、
品種の抵抗性、窒素施肥、生育状態、伝染源の量などが重なって発生します。

また、
葉いもちと穂いもちでは被害の現れ方と防除適期が異なります。

葉いもちの発生を見逃し、
穂が発病してから対策を始めると、
十分な被害軽減ができない場合があります。

いもち病防除では、
健全種子・適正施肥・抵抗性品種・発生予察・ほ場観察・適期防除を組み合わせて判断することが基本です。

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