葉面境界層(ようめんきょうかいそう)

葉面境界層

葉面境界層とは

葉面境界層(ようめんきょうかいそう)とは、
葉の表面近くに形成される、
周囲より空気の動きが小さい層です。

英語ではLeaf Boundary Layerと呼ばれます。

葉から離れた場所では空気が流れていても、
葉の表面に近づくほど空気の速度は小さくなります。

この葉面近くの空気層は、
二酸化炭素(CO2)、水蒸気、熱などが
葉と周囲の空気との間を移動するときの抵抗になります。

葉面境界層は、目で見える膜や固定された厚さの層ではありません。

風速、葉の大きさや形、
風に対する葉の向き、
葉の揺れ、周囲の気流状態などによって変化します。

葉面境界層
葉面境界層

風が弱いと葉面境界層は厚くなりやすい

風が弱い環境では、
葉の表面付近の空気が動きにくくなり、
葉面境界層は厚くなりやすくなります。

反対に気流が強くなると、
一般に葉面境界層は薄くなり、
葉と周囲の空気との間で
CO2、水蒸気、熱などが移動しやすくなります。

農業施設内では、
作物が繁茂して葉が重なると
群落内部の風速が低下することがあります。

ハウス内に風があるように見えても、
作物群落の内部まで同じ風速になっているとは限りません。

循環扇などを使用して
施設内に気流を作る目的の一つに、
こうした空気の停滞を小さくすることがあります。

循環扇を利用した際の効果
循環扇を利用した際の効果

葉面境界層と光合成

光合成に使われるCO2は、
周囲の空気から葉面境界層を通り、
主に気孔を経て葉の内部へ取り込まれます。

葉面境界層が厚く、
CO2が移動するときの抵抗が大きい状態では、
葉の外側から気孔付近までCO2が移動しにくくなる場合があります。

気流によって葉面境界層の抵抗が小さくなると、
CO2の移動条件は改善します。

風を強くすれば、必ず光合成速度が上がるわけではありません。

光合成は、
日射、葉温、CO2濃度、
水分状態、気孔の開閉など
複数の条件によって決まります。

強い気流によって蒸散が増え、
植物の水分状態が悪化すると、
気孔が閉じてCO2を取り込みにくくなる場合があります。

葉面境界層だけで光合成を判断することはできません。

葉面境界層と蒸散

葉の内部から気孔を通って出た水蒸気は、
葉面境界層を通過して周囲の空気へ移動します。

風が弱く葉面境界層の抵抗が大きい場合には、
水蒸気の移動も抑えられます。

気流によって境界層抵抗が小さくなると、
葉と空気との間の水蒸気交換が進みやすくなります。

ここで、
飽差との関係が重要になります。

空気が乾燥している条件で強い気流を当てると、
蒸散が過度に増え、
植物の吸水が追いつかなくなる場合があります。

葉面境界層を薄くすること自体が栽培目標ではありません。

作物の水分状態、
気孔の開閉、
気温、湿度、飽差などを含めて
気流を調整する必要があります。

葉面境界層抵抗と気孔抵抗は別のもの

葉と周囲の空気との間でCO2や水蒸気が移動するときには、
複数の抵抗が関係します。

葉の外側では、
葉面境界層による葉面境界層抵抗があります。

気孔を通過するときには、
気孔の開き具合による気孔抵抗があります。

葉面境界層抵抗と気孔抵抗は同じものではありません。

風を強くして葉面境界層抵抗を小さくしても、
乾燥などによって気孔が閉じていれば、
CO2の取り込みが十分に増えない場合があります。

逆に、
気孔が開いていても、
葉の周囲の空気がほとんど動かなければ、
葉面境界層が物質移動の抵抗になる場合があります。

気孔抵抗の逆数に相当する指標として
気孔コンダクタンスがあります。

葉面境界層抵抗の逆数に相当する
境界層コンダクタンスとは別の指標です。

葉面境界層の厚さは一定ではない

「葉面境界層は何mmか」という問いに、
作物共通の数値で答えることはできません。

葉面境界層は主に、
風速、葉の大きさ、
葉の形状、風向に対する葉の角度、
気流の乱れ、葉の振動などによって変化します。

同じハウス内でも、
循環扇の近くと遠く、
作物群落の上部と内部では条件が異なります。

また、
葉が風に対してどの角度を向いているかによっても
葉面境界層抵抗が変化することが報告されています。

風速だけから葉面境界層の状態を判断することはできません。

施設園芸と葉面境界層

換気窓を閉じたハウスでは、
外部の風が施設内へ入りにくくなり、
作物群落内の空気が停滞することがあります。

農研機構では、
トマトを栽培する温室で
0.3~0.5m/s程度の気流を形成する循環扇の利用試験が行われています。

これは特定の温室、
作物、栽培条件で得られた研究結果です。

0.3~0.5m/sをすべての作物・施設に共通する適正風速として扱うことはできません。

適切な気流は、
作物、草丈、葉の密度、生育段階、
気温、湿度、飽差、日射などによって変わります。

施設内では、
環境制御の一つとして
循環扇、換気、暖房、CO2施用などを組み合わせ、
作物周辺の気流を調整します。

葉面境界層で誤解しやすいこと

「循環扇で葉面境界層をなくす」
葉の表面には空気の速度が低下する領域が形成されます。
気流によって境界層を薄くしたり、
物質移動抵抗を小さくしたりすることはできますが、
「なくす」と考えるのは適切ではありません。

「風は強いほどよい」
強い気流は葉面境界層抵抗を小さくする方向に働きますが、
蒸散過多や水分ストレス、
葉・花・果実への機械的な負荷を生じる場合があります。

「境界層が薄ければ必ず光合成が増える」
光合成は葉面境界層だけでは決まりません。
気孔が閉じている場合や、
光、CO2、水分など別の要因が制限している場合には、
境界層抵抗だけを小さくしても光合成速度が増えるとは限りません。

「葉面境界層抵抗と気孔抵抗は同じ」
別の抵抗です。
葉面境界層抵抗は葉の外側、
気孔抵抗は主に気孔を通過するときの抵抗を表します。

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