花茎(かけい)

花茎
ラッパスイセン

花茎(かけい)とは、花または花序を付けて伸びる茎を指す言葉です。植物形態学では、地際や地下器官付近から伸び、普通葉を付けずに花や花序を付ける茎を、狭い意味で花茎(scape)と呼びます。スイセン、ヒガンバナ、タンポポ、ネギなどが分かりやすい例です。一方、農業・園芸分野ではより広い意味で使われ、チューリップのように茎の途中に普通葉を付ける植物でも、花を支えて伸びる茎を「花茎」と呼ぶことがあります。

このため、「花茎」という言葉は植物形態学上の狭義の意味と、農業・園芸現場での実用的な意味が必ずしも一致しません。切り花では花茎の長さや硬さ、曲がりなどが品質に関係し、ネギやニラなどでは花茎の伸長(抽苔・とう立ち)が収穫や商品性に関係します。作物によって花茎の意味や扱いが異なる点を理解することが重要です。

花茎とは

花茎は、花や花序を付ける茎を表す言葉です。ただし、その定義や使われ方には幅があります。

狭義の植物形態学では、普通葉を付けず、地際や地下器官付近から伸びて先端に花または花序を付ける茎を花茎(scape)と呼びます。例えばタンポポでは、地際に広がる葉の中心から葉を付けない花茎が伸び、その先端に多数の小花からなる頭状花序を形成します。スイセンやヒガンバナ、ネギなどでも、普通葉とは区別できる花を付ける軸が伸長します。

一方、「花茎」という日本語は必ずしもscapeだけを意味するわけではありません。植物学関係の資料でも「花または花序を形成する苗条」と広く捉える場合があり、農業・園芸の現場では、花を支えて伸びる茎を広い意味で花茎と呼ぶことがあります。

その代表例がチューリップです。チューリップは茎の途中に普通葉を付けるため、典型的な無葉のscapeとは形態が異なります。しかし、園芸や切り花、農業研究の分野では「チューリップの花茎」「花茎伸長」などの表現が一般的に使われています。

花茎と花柄・花序柄の違い

花茎と混同されやすい言葉に、花柄(かへい)や花序を支える柄があります。

一般に花柄は、個々の花を直接支える柄を指します。一方、花茎は花または花序を付けて伸びる、より大きな茎・苗条を指す言葉として使われます。ただし、植物の形態は非常に多様で、「花茎」「花柄」「花序柄」などの用語の使い分けは資料によって異なる場合があります。

そのため、花の下にある細長い部分をすべて一律に「花茎」と判断するのではなく、どの位置から伸びているのか、普通葉を付けているのか、1個の花を支えているのか、花序全体を支えているのかを確認する必要があります。

チューリップと花茎

チューリップは、農業・園芸分野における「花茎」という言葉の使われ方を理解するうえで重要な作物です。

チューリップの球根からは地上茎が伸び、その途中に数枚の葉を展開しながら、一般的な品種では茎の先端に1個の花を付けます。このため、普通葉を付けない狭義の花茎(scape)とは形態が異なります。

一方、チューリップの栽培や切り花、園芸研究では、花を支えて伸びる茎を「花茎」と呼ぶことが広くあります。実際に農業・園芸分野では、「花茎長」「花茎伸長」「花茎の節間」などの表現が使用されています。

切り花生産では、花そのものだけでなく、花茎の長さ、太さ、硬さ、曲がり、葉とのバランスなどが草姿や商品品質に関係します。また、チューリップでは開花に伴って茎が伸長するため、栽培時だけでなく収穫後の品質管理でも茎の伸びや曲がりが問題になることがあります。

チューリップの地植え

チューリップ球根生産と摘花

チューリップの球根生産では、切り花生産とは花の扱いが異なります。

富山県の球根生産では、開花期に花を確認して病株などを取り除いた後、球根の肥大を促進するために花を摘み取る作業が行われます。花を残して結実させるのではなく、球根生産を優先する管理です。

ただし、摘花と葉の除去は別です。チューリップの球根は開花後から葉が枯れるまでの期間にも肥大します。葉は光合成によって球根へ蓄える養分をつくるため、球根を養成する場合には花を摘んだ後も健全な葉を残すことが重要です。

ネギの花茎と抽苔

ネギでは、花茎の伸長が栽培上の重要な問題になります。

ネギが生殖生長へ移行すると、葉の間から花茎が伸び、その先端に多数の花が球状にまとまった花序を形成します。この花序は俗に「ネギ坊主」と呼ばれます。

農研機構では、春から初夏にかけてネギの葉から花茎が伸びてくることを「抽だい(抽苔)」とし、「とう立ち」とも呼ぶと説明しています。ネギの花茎は葉に比べて非常に硬いため、青果用ネギでは抽苔すると商品価値が大きく低下します。

そのため、春から初夏に収穫する作型では、晩抽性品種の利用や適切な播種・定植時期の設定など、抽苔を避けるための管理が重要になります。

ニラの花茎と花ニラ

ニラでも生育が進むと花茎が伸び、先端に花序を形成します。葉を主な収穫対象とする一般的なニラ栽培では、花茎をそのまま残すと株の養分が生殖生長に使われるため、栽培目的や作型によっては花茎を早めに除去し、株の充実を図ります。

一方、花蕾と若い花茎を食用として収穫する野菜の「花ニラ」では、花茎そのものが商品になります。同じニラでも、葉を収穫する栽培と花茎を収穫する栽培では、花茎の扱いが異なります。

なお、食用の花ニラと、観賞用植物の「ハナニラ」は別の植物です。観賞用のハナニラ(イフェイオンなどと呼ばれる球根植物)は食用ではありません。名称や葉の形が似ているため、食用ニラや花ニラと混同しないよう注意が必要です。

新鮮な花にら

ニンニクの花茎と「ニンニクの芽」

ニンニクでも品種や栽培条件によって花茎が伸長します。一般に野菜として流通している「ニンニクの芽」は、発芽した鱗片内部の芽そのものではなく、ニンニクから伸びる若い花茎を収穫したものです。

つまり、ニンニクでは地下の鱗茎だけでなく、花茎も野菜として利用されています。農林水産省でも、料理に利用される「ニンニクの芽」は、葉の後に出るニンニクの花茎であると説明しています。

花茎と「抽苔・とう立ち」の関係

抽苔(ちゅうだい・とう立ち)とは、植物が花を形成する段階へ移行し、花を付ける茎が目立って伸長してくる現象を指します。

ただし、抽苔の起こり方や農業上の意味は作物によって異なります。ネギのように葉を主な商品とする作物では、収穫前の抽苔によって花茎が硬くなり、商品価値が低下する場合があります。一方、花ニラやニンニクの芽のように、伸長した花茎そのものを収穫物として利用する作物もあります。

また、抽苔には品種、生育程度、温度、日長、播種・定植時期などが関係しますが、それぞれの要因がどのように作用するかは作物によって異なります。そのため、「低温に遭えば抽苔する」「長日になると抽苔する」など、一つの条件だけで作物を横断して判断するのは適切ではありません。

農業で花茎を見るときのポイント

農業では、花茎があること自体を良い・悪いと判断することはできません。重要なのは、何を収穫する作物なのか、どの生育段階で花茎が伸びたのか、花茎を収穫するのか、それとも抽苔を避ける必要があるのかを区別することです。

  • スイセン・タンポポなど:普通葉を付けない狭義の花茎を理解しやすい植物
  • チューリップ:茎に普通葉を付けるが、園芸・切り花分野では広い意味で「花茎」と呼ばれる
  • ネギ:花茎の伸長=抽苔が青果品質を低下させるため、栽培上は抑制対象になる
  • ニラ:葉ニラでは花茎を除去する場合がある一方、花ニラでは花蕾と花茎が収穫対象になる
  • ニンニク:若い花茎は「ニンニクの芽」として食用になる

このように花茎は、植物の形態を説明するだけでなく、切り花品質、抽苔、摘花、球根肥大、花茎野菜の収穫など、農業生産と密接に関係する器官です。「花茎」という言葉を見た場合には、植物学上の狭義の意味なのか、農業・園芸上の広い意味なのかを確認することが大切です。

参考

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