BT剤(びーてぃーざい)

BT剤
BT剤は、BT菌が作る殺虫性タンパク質を利用した微生物殺虫剤です。

BT剤の概要

BT剤(ビーティーざい)とは、昆虫病原細菌の一種であるBT菌(Bacillus thuringiensis:バチルス・チューリンゲンシス)が作る殺虫性タンパク質を利用した微生物殺虫剤です。

主にコナガ、アオムシ、ハスモンヨトウ、オオタバコガなど、チョウ目害虫の幼虫を防除する目的で使用されます。ただし、製剤によって対象となる害虫や効果は異なります。

BT剤は、害虫が薬剤の付着した葉などを食べることで作用します。一般的な接触毒性の殺虫剤とは異なり、害虫に有効成分を摂食させることが重要です。

また、BT剤は生物農薬の一種ですが、すべての害虫に有効というわけではなく、使用方法や散布時期によって防除効果が変わります。

BT剤の殺虫作用の仕組み

BT菌が作る代表的な殺虫性タンパク質には、Cry(クリスタル)タンパク質と呼ばれるものがあります。

BT剤の代表的な作用は、害虫がこのタンパク質を摂取し、消化管内で活性化された毒素が中腸の細胞を傷つけることで生じます。

  1. 摂食:対象害虫の幼虫がBT剤の付着した葉などを食べます。
  2. 毒素の活性化:幼虫の消化管内で殺虫性タンパク質が溶解・分解され、活性化します。
  3. 中腸への作用:活性化した毒素が中腸の細胞に作用し、細胞膜の機能を損ないます。
  4. 摂食停止:中腸が正常に働かなくなり、幼虫の摂食活動が低下または停止します。
  5. 死亡:その後、衰弱して死亡します。死亡までの経過は害虫や製剤、環境条件などによって異なります。

BT剤では、摂食停止が先に起こり、死亡するまでに時間がかかる場合があります。そのため、散布直後に害虫が生きていることだけを理由に、防除効果がないと判断するのは適切ではありません。

BT剤の主な種類

BT菌の系統による違い

BT菌には複数の系統があり、作り出す殺虫性タンパク質の種類や対象害虫に対する活性が異なります。

  • クルスターキ系(kurstaki):チョウ目害虫の幼虫に作用する代表的な系統です。
  • アイザワイ系(aizawai):チョウ目害虫の幼虫を対象とする製剤に利用されています。

これらの系統は、日本で利用されるBT剤の代表例です。ただし、同じ系統の製剤でも殺虫性タンパク質の組成や製剤特性が異なるため、対象害虫に対する効果が同一とは限りません。

また、BT菌にはハエ目や甲虫目などに作用する系統もありますが、日本国内での使用可否は個別の農薬登録によって判断します。

生芽胞剤と殺芽胞剤

BT剤には、生きた芽胞(がほう)を含む製剤と、殺菌処理された製剤があります。

  • 生芽胞剤(生菌剤):BT菌の生きた芽胞と殺虫性タンパク質を含む製剤です。
  • 殺芽胞剤(死菌剤):製造工程で芽胞を不活化した製剤です。殺虫性タンパク質の作用を利用します。

芽胞とは、細菌が形成する耐久性の高い構造のことです。

生菌剤と死菌剤は、単に菌が生きているかどうかだけで優劣を判断できません。製剤ごとの殺虫活性、対象害虫、使用条件を確認する必要があります。

BT剤による防除が期待できる害虫

国内で使用されるBT剤は、主にチョウ目害虫の幼虫を対象としています。

代表的な対象害虫には、次のようなものがあります。

  • コナガ
  • アオムシ
  • ハスモンヨトウ
  • ヨトウムシ
  • シロイチモジヨトウ
  • オオタバコガ
  • ハマキムシ類

上記はBT剤全体の代表例であり、すべてのBT剤がこれらの害虫に使用できるという意味ではありません。

農薬を選定する際は、対象害虫だけでなく、適用作物、使用時期、希釈倍数、使用回数なども確認してください。

BT剤を効果的に使用するためのポイント

1.若齢幼虫の発生初期を狙う

BT剤は、一般に若齢幼虫の時期に使用すると高い防除効果が得られやすい殺虫剤です。

幼虫が成長すると摂食量や薬剤への感受性が変化し、果実、結球内部、茎などへ入り込んで防除しにくくなる場合があります。

ただし、若齢幼虫にしか効果がないわけではありません。農研機構のイネツトムシを対象とした研究では、中・老齢幼虫の発生期でもBT水和剤による防除効果が確認されています。

したがって、若齢幼虫期の散布を基本としながら、害虫の種類と製剤ごとの試験結果に基づいて防除時期を判断します。

2.幼虫が食べる場所に薬液を付着させる

BT剤では、害虫に殺虫性タンパク質を摂取させることが重要です。

コナガなど葉裏で食害する害虫では、葉の表面だけでなく、葉裏まで十分に薬液が届くように散布する必要があります。

また、オオタバコガなどが果実や茎の内部へ食入した後では、薬剤が付着した部分を幼虫が食べにくくなり、防除効果が低下することがあります。

薬液が届く範囲と、実際に害虫が摂食する場所を確認することが重要です。

3.降雨や紫外線の影響を考慮する

BT剤に含まれる殺虫性タンパク質は、紫外線などの影響で活性が低下する場合があります。また、散布後の降雨によって薬剤が流失すると、十分な効果が得られないことがあります。

残効期間は製剤や害虫、散布条件によって異なるため、すべてのBT剤について一定の日数を示すことはできません。

散布後は害虫の発生状況と新しい食害の有無を確認し、必要に応じて次の防除を判断してください。

4.薬剤抵抗性を考慮する

BT剤は、IRACの殺虫剤作用機構分類でグループ11Aに分類されています。

生物農薬であっても抵抗性が発達しないわけではなく、コナガなどではBT毒素に対する抵抗性が報告されています。

同じ作用機構の薬剤を繰り返し使用すると、抵抗性を持つ個体が選抜され、防除効果が低下するおそれがあります。

BT剤の製品名や菌株の系統を変更するだけでは、必ずしも独立した作用機構への切り替えになりません。地域の防除指針や薬剤感受性情報を確認し、必要に応じて異なるIRACグループの登録薬剤や物理的防除などを組み合わせます。

施設園芸でBT剤を利用する際の注意点

施設園芸では、ハウス内の害虫密度や作物の生育状態に加えて、薬液の付着状況を確認する必要があります。

特にトマトなどでは、オオタバコガの幼虫が果実内部へ食入すると、薬剤が付着した植物表面を摂食しなくなり、防除が難しくなります。

葉裏、成長点、花蕾、果実周辺などを定期的に観察し、卵や若齢幼虫、新しい食害痕を見逃さないことが重要です。

また、施設内で天敵昆虫や授粉昆虫を利用している場合は、BT剤であっても製品別の影響情報と使用上の注意を確認してください。

BT剤の安全性と使用上の注意

対象外の昆虫への影響

BT剤は、殺虫性タンパク質の種類によって作用する昆虫が異なり、一般的に選択性のある殺虫剤として利用されています。

しかし、天然由来の微生物農薬だから、すべての有用昆虫に無害というわけではありません。

特にカイコはチョウ目の昆虫であり、BT剤による影響に注意が必要です。養蚕地帯や養蚕施設周辺では、製品の注意事項に加えて地域の防除指針を確認し、飛散による被害を防いでください。

ほかの農薬・資材との混用

BT剤の中には、強アルカリ性の農薬や肥料などとの混用を避けるよう指定されている製品があります。

混用の可否は製剤の処方や使用条件で異なります。BT剤であるという理由だけで、すべての農薬や展着剤と混用できると判断してはいけません。

有機栽培での利用

BT水和剤は、有機JASの基準に基づいて利用できる微生物農薬の一つです。

ただし、有機JASへの適合と、農薬として使用できる作物・害虫・使用方法は別の確認事項です。使用する製剤が有機JASの基準に適合することを確認し、農薬登録の範囲内で使用してください。

BT剤について誤解されやすい点

  • BT剤はすべての害虫に効く:誤りです。殺虫性タンパク質の種類や製剤によって対象害虫が異なります。
  • 散布直後に害虫が死ななければ効果がない:誤りです。摂食停止が先に起こり、死亡までに時間がかかる場合があります。
  • BT剤は若齢幼虫にしか効かない:正確ではありません。若齢期が防除適期となる場合が多いものの、中・老齢幼虫に効果が確認されている事例もあります。
  • 生物農薬なので抵抗性は発達しない:誤りです。BT毒素に対する抵抗性の報告があり、同一作用機構の薬剤の連用には注意が必要です。
  • 天然由来なので有用昆虫にも安全:誤りです。カイコなど影響を受ける昆虫があり、製品別の注意事項を確認する必要があります。
  • BT剤ならどの商品でも有機栽培に使える:正確ではありません。有機JASの適合条件と農薬登録の両方を確認する必要があります。

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参考資料

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