IPM・総合的病害虫管理(あいぴーえむ・そうごうてきびょうがいちゅうかんり)

IPM・総合的病害虫管理
IPM・総合的病害虫管理

IPM・総合的病害虫管理の概要

IPM(アイピーエム)とは、Integrated Pest Managementの略で、日本語では「総合的病害虫管理」または「総合的病害虫・雑草管理」と呼ばれます。農林水産省では「総合防除」という名称も使われています。

IPMは、病害虫や雑草が増えにくい栽培環境を整え、発生状況や被害の程度を確認しながら、適切な防除方法を組み合わせて作物を守る管理体系です。

農薬だけに頼るのではなく、耕種的防除、物理的防除、生物的防除、化学的防除などを組み合わせます。農薬も有効な選択肢の一つであり、必要な防除を適切な時期に行います。

目指すのは、病害虫や雑草を完全になくすことではありません。経済的な被害を抑え、収量と品質を確保しながら、人の健康へのリスクや環境への負荷にも配慮した防除を行うことです。

IPMの基本となる3つの管理段階

IPMを実践する際は、予防、発生状況に基づく判断、防除という流れで考えます。防除後の結果を次の栽培管理に反映させることも欠かせません。

1.予防:病害虫や雑草が増えにくい環境を整える

病害虫が多発してから対処するだけでは、防除費用が増え、収量や品質にも影響するおそれがあります。そのため、栽培を始める前から発生を抑える対策を講じます。

代表的な対策には、健全な苗の使用、輪作、抵抗性品種の導入、栽培残さの適切な処理、圃場の排水改善、雑草管理などがあります。

施設園芸では、ハウス開口部への防虫ネットの設置、出入口の隙間対策、育苗時の病害虫確認なども予防に含まれます。

また、作物の過繁茂や過湿は一部の病害が発生しやすい条件となるため、整枝・誘引、換気、灌水管理なども防除体系と関係します。

2.判断:発生状況から防除の必要性を見極める

栽培中は、圃場やハウスを定期的に観察し、病害虫の種類、発生場所、発生量、被害の広がり方などを確認します。

害虫の調査には、粘着トラップやフェロモントラップが利用されます。ただし、トラップに捕獲された数が、そのまま作物上の害虫密度を示すとは限りません。葉や茎、花、果実などを直接観察することも必要です。

防除の要否は、作物の生育段階、病害虫の増殖速度、気象条件、予想される被害、使用できる防除手段などを踏まえて判断します。

病害虫によっては、被害が目に見える前の対策が求められます。特にウイルス病を媒介する害虫では、少数の侵入でも感染が成立する可能性があるため、発生数だけを基準に防除を先送りするのは危険です。

3.防除:状況に合った方法を選んで実施する

防除が必要と判断した場合は、対象となる病害虫や雑草の特徴を踏まえて、効果と費用、作業負担、周辺環境への影響などを検討します。

例えば、害虫の侵入を防虫ネットで抑え、発生初期に天敵を利用し、必要に応じて登録農薬による防除を加える方法があります。

ただし、対策を数多く組み合わせれば効果が高まるとは限りません。防除手段同士が干渉したり、作業費用が増えたりする場合もあります。

実施後は、新しい被害の有無や病害虫の発生状況を確認し、防除効果を評価します。効果が不十分な場合は、病害虫の判別、薬剤感受性、散布時期、薬液の付着状況などを見直します。

IPMで組み合わせる主な防除方法

耕種的防除

耕種的防除は、栽培方法や圃場環境を工夫して、病害虫や雑草が発生しにくい状態を作る方法です。

輪作、抵抗性品種の導入、作付け時期の調整、適正な施肥・灌水管理、感染源となる残さの処理などが含まれます。

一方、施肥量や灌水量を減らすことが、必ずしも病害の抑制につながるわけではありません。作物の生育を損なわず、対象病害虫の発生条件に合った管理を選びます。

物理的防除

物理的防除は、病害虫の侵入や活動を物理的な障壁、光、熱などによって抑える方法です。

代表的な資材には、防虫ネット、粘着捕虫シート、防蛾灯などがあります。

粘着トラップは、主に発生状況の把握に使う場合と、捕獲による密度抑制を狙う場合があります。設置しただけで十分な防除効果が得られるとは限りません。

防虫ネットでは、目合いを細かくすると害虫の侵入を抑えやすくなる一方、ハウスの換気性能が低下する場合があります。対象害虫と施設の通気条件を合わせて検討します。

生物的防除

生物的防除は、天敵昆虫や天敵ダニ、微生物などの働きを利用して病害虫を抑える方法です。

施設園芸では、アザミウマ類やコナジラミ類、ハダニ類などを対象に、作物や害虫に応じた天敵を利用する技術が普及しています。

また、昆虫病原細菌であるBT菌を利用したBT剤など、微生物由来の殺虫成分を使う製剤もあります。

天敵を導入する際は、害虫の種類や発生密度、温湿度、農薬の残効などを確認します。天敵に影響の大きい農薬を使用すると、定着や増殖が妨げられ、防除体系が崩れることがあります。

化学的防除

化学的防除は、登録された化学農薬などを用いて病害虫や雑草を抑える方法です。

IPMでも化学農薬は利用されます。病害虫の増加を抑える適切な時期に使用することで、被害の拡大を防げる場合があります。

薬剤を選ぶ際は、適用作物・対象病害虫・使用基準に加え、薬剤抵抗性や天敵への影響を考慮します。

同じ作用機構の薬剤を繰り返し使用すると、抵抗性を持つ病害虫が選抜されるおそれがあります。作用機構の異なる登録薬剤の利用や、ほかの防除手段との組み合わせを検討します。

施設園芸におけるIPMの実践例

施設園芸では、病害虫の侵入防止と施設内での増殖抑制を一体として考えます。高温期の換気、作物の生育、天敵の活動条件などが関係するため、設備と防除方法を別々に選定すると問題が生じる場合があります。

トマト栽培:コナジラミ類とウイルス病への対応

トマトでは、コナジラミ類による吸汁被害に加え、ウイルス病の媒介が問題となります。

そのため、健全な苗の導入、防虫ネットによる侵入抑制、栽培中の観察、天敵や登録農薬による密度管理などを組み合わせます。

コナジラミ類の発生を抑えられていても、ウイルス病の感染を完全に防げるとは限りません。ウイルスを媒介する種類の確認や、感染リスクが高い時期の予防対策を含めて防除体系を考えます。

イチゴ栽培:ハダニ類と天敵の利用

イチゴでは、ハダニ類に対して天敵ダニを利用する防除体系があります。

定植前から苗へのハダニ類の持ち込みを防ぎ、栽培中は葉裏などを観察します。天敵を利用する場合には、害虫の発生状況と天敵の活動状況を確認し、使用する農薬との相性も考慮します。

天敵の放飼だけで十分な効果が得られるとは限らず、害虫が多発してからの導入では抑制が難しい場合があります。

施設キュウリ:病害対策と環境管理

施設キュウリでは、うどんこ病やべと病などの病害に加え、アザミウマ類やコナジラミ類などの害虫管理も求められます。

品種の抵抗性、栽植密度、整枝、換気、灌水などを調整し、病害の発生しやすい条件を減らします。そのうえで、発病状況や病害虫の発生予察に応じて防除方法を選びます。

湿度を下げるための換気が、冬期の暖房費増加や作物の低温ストレスにつながる場合もあります。病害抑制と生育環境、設備の運転コストを合わせて判断します。

IPMを導入する際の課題と判断

防除効果と経済性の評価

IPMの導入では、防除資材の購入費だけでなく、設置・管理・撤去の労務費、農薬使用量、被害による減収、品質低下などを総合的に評価します。

例えば、高機能な防虫ネットを設置して害虫の侵入が減っても、換気量の低下で高温障害が増加すれば、経営全体では損失につながるおそれがあります。

天敵資材についても、製品価格だけでなく、導入時期、放飼回数、観察作業、追加防除の必要性まで含めて検討します。

防除手段同士の相性

複数の対策を組み合わせる場合は、それぞれの効果だけでなく、相互作用にも注意します。

天敵利用中に影響の大きい農薬を散布すると、害虫だけでなく天敵も減少することがあります。また、防虫ネットと換気設備の組み合わせによっては、ハウス内の温湿度が変化します。

防除体系の変更前には、対象病害虫、栽培条件、設備性能、資材の使用条件を確認してください。

観察・記録の継続

IPMでは、対策を実施した事実だけでなく、その結果を確認することが欠かせません。

発生した病害虫の種類、観察日、発生場所、被害の程度、実施した防除、使用資材、散布履歴、防除後の状況などを記録します。

記録を蓄積することで、毎年発生する病害虫や被害が集中する時期を把握しやすくなり、翌作の予防対策に活用できます。

IPMについて誤解されやすい点

  • IPMは無農薬栽培である:誤りです。必要に応じて登録農薬を適切に利用します。
  • 農薬の使用回数が減れば成功である:使用回数だけでは評価できません。被害、収量、品質、費用、環境負荷などを合わせて確認します。
  • 天敵を放せば害虫を防除できる:天敵の種類、害虫密度、温湿度、農薬の影響などによって結果は変わります。
  • トラップの捕獲数だけで防除時期が決まる:トラップの種類や対象害虫によって意味が異なります。作物上の発生状況も確認します。
  • 防除は被害が増えてから行う:IPMでは予防と予察を重視します。被害が発生する前の対策が必要な病害虫もあります。
  • 防除資材を多く組み合わせるほど効果が高い:対策同士の干渉や費用増加が生じる場合があります。効果と経済性の評価が必要です。

日本におけるIPMと総合防除の推進

農林水産省は、植物防疫法に基づく総合防除基本指針を定め、都道府県による総合防除計画の策定などを通じて、病害虫防除の推進に取り組んでいます。

2025年9月10日には「総合防除実践ガイドライン」を公表しました。このガイドラインは、従来の「総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針」に代わるもので、予防・予察に重点を置いた防除体系の普及を図っています。

さらに、2026年3月には「総合防除実践マニュアル」を公表し、施設キュウリ、トマト、イチゴなどを含む11作目の防除事例や導入時の課題を紹介しています。

各地域では、都道府県の病害虫防除所による発生予察情報や地域の総合防除計画、防除指針などが実際の判断材料になります。

なお、植物防疫法に基づく総合防除の制度では「指定有害動植物」などの制度上の対象が定められています。一方、IPMは雑草管理も含む幅広い考え方として利用されています。

IPM・総合的病害虫管理の参考動画

IPMでは、天敵と農薬をどのように組み合わせるか、栽培中のどの段階で対策するかによって防除効果が変わります。

施設栽培での具体的な取り組みを知るために、JA全農大阪府本部が紹介している次の動画が参考になります。

バンカーシートでハダニ類の防除

JA全農大阪府本部・全農大阪YouTubeチャンネル

バンカーシートでハダニ類の防除(YouTube)を見る

この動画では、イチゴ栽培におけるハダニ類への対策として、生物農薬と化学農薬の組み合わせや、天敵保護装置「バンカーシート」の設置方法などが紹介されています。

動画について:この動画は、イチゴのハダニ類防除におけるIPMの実践例として紹介しています。農材ドットコムが制作・管理している動画ではありません。動画の内容や公開状況、URLは公開元の都合により変更・削除される場合があります。また、動画で紹介される防除方法が、すべての作物や害虫に適用できるわけではありません。実際の防除では、最新の農薬登録情報、天敵資材の使用条件、地域の防除指針などを確認してください。

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