くん煙(くんえん)

くん煙とは

くん煙(燻煙)とは、農業では主に、農薬の有効成分を加熱していったん気化させ、空気中で冷却して生じた微細な粒子を、温室やビニールハウスなどの施設内へ拡散・充満させる農薬の施用方法です。

施設内に広がったくん煙粒子を作物や病害虫に付着させることで、防除効果を発揮します。

農薬には「くん煙剤」という剤型があり、殺菌剤や殺虫剤などに使用されています。

くん煙は、施設内へ薬液を直接噴霧する方法とは異なり、散布作業中に作業者が施設内を歩いて薬液を散布する必要がないため、省力的な防除方法として利用されています。

くん煙剤が施設内に広がる仕組み

農林水産省の資料では、くん煙法について、農薬の有効成分を高温に加熱して気化させ、空気中で直ちに冷却・固化した直径0.1~10μm程度の微粒子を施設内へ拡散させる方法と説明されています。

この微細なくん煙粒子が施設内の空気の流れに乗って広がり、作物などへ付着します。

したがって、くん煙は単に「煙を発生させること」そのものを目的とした処理ではありません。

農薬成分を適切な大きさの微粒子として施設内へ均一に拡散させることが、防除効果を得るうえで重要です。

施設の形状、間口、奥行き、高さ、カーテンや作物の繁茂状態などによって空気の流れは変わるため、施設内での薬剤分布が常に均一になるとは限りません。

くん煙剤の主な方式

くん煙剤には、製品自体に発熱剤などを含み、点火などによって発煙させる製品と、外部の加熱装置を利用する製品があります。

発熱剤を利用するくん煙剤

農薬登録されているくん煙剤には、有効成分のほかに発熱剤などを含み、所定の方法で作動させることで有効成分を微粒子化して施設内へ拡散させる製品があります。

例えば、円板状や顆粒状などのくん煙剤が登録されています。

使用する際は、製品に指定された点火方法、くん煙装置、設置方法を守ります。

ライターなどで薬剤そのものへ直接点火してよいとは限りません。

電気加熱式くん煙器を使用する方法

硫黄を有効成分とするくん煙剤には、専用の電気加熱式くん煙器を使用する製品があります。

薬剤を電気ヒーターで加熱し、硫黄成分を施設内へ拡散させます。

この方式では、使用する薬剤だけでなく、登録された使用方法に適合する専用のくん煙器を使用する必要があります。

硫黄くん煙

施設園芸では、硫黄を有効成分とする硫黄くん煙剤が利用されています。

現在の農薬登録には、イチゴ、メロン、キュウリ、トマト、ナス、バラなどのうどんこ病や、キクの白さび病などを対象として、専用の電気加熱式くん煙器で使用する硫黄くん煙剤があります。

使用できる作物、対象病害、使用量は製品の農薬登録によって決められています。

「硫黄だから、どの作物にも同じ条件で使用できる」という考え方は誤りです。

また、くん煙器の設置台数や運転方法を自己判断で変更すると、施設内での薬剤濃度が不均一になったり、薬害や十分な防除効果が得られない原因になることがあります。

必ず農薬ラベルと使用する機器の取扱説明書を確認してください。

くん煙とくん蒸の違い

くん煙とくん蒸は同じ処理ではありません。

くん煙では、加熱によって有効成分をいったん気化させた後、空気中で冷却して生じた微細な粒子を施設内へ拡散・付着させます。

これに対して、くん蒸は、ガス状になった有効成分を土壌、農産物、倉庫などへ作用させる処理です。

代表的なものに土壌くん蒸剤による土壌処理があります。

したがって、

  • くん煙剤:微細なくん煙粒子を施設内へ拡散させる剤型
  • くん蒸剤:ガス状の有効成分を作用させる剤型

として区別します。

名称が似ていますが、農薬登録上も別の剤型として扱われています。

くん煙と常温煙霧の違い

くん煙と常温煙霧も別の施用方法です。

くん煙では、農薬成分を加熱して気化させた後、冷却によって微細な粒子を形成します。

一方、常温煙霧では、薬液を加熱せず、常温煙霧機を使用して薬液そのものを微細なミストにし、送風によって施設内へ拡散させます。

どちらも施設内で微細な農薬粒子を広げる方法ですが、粒子を作る仕組みが異なります。

「煙のように見えるから、すべてくん煙」という判断はできません。

くん煙剤の使用量は施設容積で決める場合がある

くん煙剤では、農薬登録上の使用量が施設の床面積ではなく容積を基準として定められている製品があります。

例えば、

「くん煙室容積400m³当たり50g」

などのように登録されています。

同じ床面積のハウスでも、軒高や施設形状が異なれば容積は変わります。

面積だけを基準に薬量を決めると、登録された使用量から外れる可能性があります。

実際の使用量は、必ず使用する農薬の登録内容とラベルを確認してください。

くん煙処理時の施設管理

くん煙剤は、一般に温室やビニールハウスなど、密閉可能な施設内で使用します。

製品によって条件は異なりますが、くん煙処理では施設を閉鎖した状態で薬剤を作用させ、処理中は人が施設内へ立ち入らないことが基本です。

農林水産省では、くん煙中はハウス内へ入らず、処理終了後に施設を開放して十分に換気してから入室することを、使用者の曝露を抑えるための重要な管理方法として示しています。

施設内への薬剤の拡散状態には、

  • 施設の形状や容積
  • 作物の草丈や繁茂状態
  • 内張りカーテンなどの配置
  • くん煙剤やくん煙器の設置位置

なども影響します。

製品の登録内容や説明書に指定された設置方法を守ってください。

くん煙剤を使用する際の注意点

くん煙は省力的な防除方法ですが、作業者が施設内で直接散布しないからといって、安全対策が不要になるわけではありません。

特に次の点を確認します。

  • 農薬登録を確認する:適用作物、対象病害虫、使用量、使用時期、使用回数、使用方法を確認します。
  • 施設容積を確認する:容積基準で登録されている製品では、床面積だけから薬量を決めません。
  • 施設を適切に閉鎖する:処理中に薬剤が施設外へ不用意に漏れないよう管理します。
  • 処理中は入室しない:くん煙中の施設へ立ち入らないようにします。
  • 処理後は換気する:農薬ラベルに従い、十分に換気してから入室します。
  • 指定された器具を使用する:専用くん煙器や所定の点火器具が指定されている場合は、それ以外の方法を使用しません。
  • 火災事故を防止する:発熱を伴う製品では、可燃物との位置関係や設置場所にも注意し、製品の使用上の注意を守ります。

農薬ごとに注意事項は異なります。
「以前使ったくん煙剤と同じ方法でよい」と判断せず、使用する製品ごとに最新の登録内容とラベルを確認してください。

くん煙の参考動画

くん煙は、薬剤の設置、施設の密閉、点火・作動、退室、処理後の換気までを一連の作業として理解した方が分かりやすい施用方法です。

公的機関が公開する農業用くん煙剤の実演動画は、今回確認した範囲では適切なものを確認できませんでした。

メーカー公式動画ですが、実際のくん煙剤の準備や使用方法を確認する資料として、次の動画が参考になります。

日曹のくん煙剤を使ってみた!(くん煙剤使用方法のご紹介)
日本曹達株式会社

https://youtu.be/y8BI-J2szoM

日曹のくん煙剤を使ってみた!(YouTube)を見る

動画について:
この動画は、農業用くん煙剤の使用手順を理解するための参考資料として紹介しています。
農材ドットコムが制作・管理している動画ではなく、農薬メーカーである日本曹達株式会社が公開している動画です。
動画で紹介されている製品や使用方法を、他のくん煙剤へそのまま適用できるとは限りません。
使用する農薬の適用作物、対象病害虫、使用量、使用時期、使用方法などは、最新の農薬登録内容と製品ラベルを確認してください。
動画の内容、公開状況、URLなどは、公開元の都合により変更または削除される場合があります。

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