くん蒸(くんじょう)

くん蒸とは

くん蒸(燻蒸・くんじょう、fumigation)とは、揮発性の薬剤やガスを土壌、倉庫、サイロ、コンテナなどの対象に行き渡らせ、一定時間作用させることで、対象となる病原菌、線虫、害虫などを防除・消毒する処理方法です。

農業では、土壌にくん蒸剤を処理する土壌くん蒸のほか、植物検疫や貯蔵施設などで行われるガスくん蒸があります。

「蒸気を使って土壌を加熱する処理」という意味ではありません。
水蒸気の熱を利用する蒸気土壌消毒は、くん蒸剤を利用する土壌くん蒸とは原理が異なります。

土壌くん蒸

農業現場で「くん蒸」という場合、土壌消毒の一方法である土壌くん蒸を指すことがあります。

土壌くん蒸では、土壌に処理した薬剤から有効成分が揮発し、土壌中のすき間をガスとして移動することで作用します。

代表的な土壌くん蒸剤の一つにクロルピクリン剤があります。
対象となる病害虫や使用できる作物、使用量、処理方法、処理時期などは製品によって異なるため、農薬登録内容を確認して使用します。

くん蒸処理によって土壌中のすべての微生物や害虫が完全になくなるわけではありません。
「土壌くん蒸=土壌を完全に無菌化する処理」ではありません。

土壌くん蒸の効果を左右する条件

土壌くん蒸剤は、薬剤を土壌へ入れれば同じ効果が得られるものではありません。

効果には、次のような条件が関係します。

  • 土壌温度:薬剤の揮発や土壌中での移動に影響します。
  • 土壌水分:極端な乾燥や過湿では、薬剤の拡散や処理効果が変わることがあります。
  • 砕土状態:大きな土塊が多いと、薬剤が土壌中へ均一に行き渡りにくくなります。
  • 処理深度:対象となる病原菌や線虫などが存在する深さと処理方法が合っている必要があります。
  • 被覆状態:薬剤の大気中への漏出を抑え、必要な濃度を土壌中に維持するために重要です。

必要な条件は使用する農薬によって異なります。
使用量や処理間隔、被覆期間などを一般論だけで判断せず、使用する製品の登録内容とラベルを確認してください。

土壌くん蒸剤と被覆

クロルピクリン剤など、被覆を必要とする土壌くん蒸剤では、薬剤処理後の適切な被覆が必要です。

被覆は薬剤の効果を高めるためだけの作業ではありません。
周辺への薬剤の揮散を抑え、人への曝露を防ぐための安全対策でもあります。

ビニールハウス内で処理する場合も、ハウスそのものを閉めれば土壌表面の被覆が不要になるわけではありません。

被覆に穴や破れがある場合、端部の密閉が不十分な場合などには薬剤が漏出するおそれがあります。
周辺に住宅、学校、道路、畜舎などがあるほ場では、使用の可否を含めて慎重に判断する必要があります。

ガス透過性を低くした土壌消毒用フィルムも利用されています。

くん蒸とくん煙の違い

くん蒸とくん煙は同じ処理ではありません。

くん蒸は、ガス状になった有効成分を対象となる土壌や空間に行き渡らせて作用させる方法です。

これに対して、くん煙は、くん煙剤を発煙させ、有効成分を含む微粒子を温室やビニールハウスなどの密閉可能な空間へ分散させる農薬処理方法です。

そのため、

  • くん蒸剤を使う処理
  • くん煙剤を使う処理

を同じものとして扱わないでください。

蒸気土壌消毒との違い

名称が似ていますが、土壌くん蒸と蒸気土壌消毒も別の技術です。

蒸気土壌消毒では、水蒸気を土壌へ送り込んで土壌温度を上昇させ、その熱によって病原菌や害虫などの密度を低下させます。

土壌くん蒸剤による薬剤処理ではないため、作用原理が異なります。

土壌消毒には、このほかにも太陽熱土壌消毒、熱水土壌消毒、土壌還元消毒などがあります。
土壌消毒のすべてが「くん蒸」ではありません。

植物検疫などで行われるくん蒸

くん蒸は農地だけで行われる処理ではありません。

輸入植物、穀類、木材などに付着・侵入している害虫等を対象として、植物検疫でくん蒸処理が行われる場合があります。

植物検疫では、指定されたくん蒸倉庫、サイロなどを使用し、定められた基準に従って処理が行われます。
農家がほ場で行う土壌くん蒸とは、対象物、薬剤、設備、安全管理、法令上の取扱いが異なります。

くん蒸を行う際の注意点

くん蒸剤は揮発した成分によって作用するため、使用方法を誤ると作業者や周辺住民への曝露につながるおそれがあります。

特に注意する点は次のとおりです。

  • 農薬登録内容を確認する:適用作物、対象病害虫、使用量、使用方法、使用回数などを守ります。
  • 指定された被覆を確実に行う:被覆が必要な土壌くん蒸剤では、施設内であっても省略しません。
  • 被覆の破損を確認する:穴、裂け、端部からの漏出を防ぎます。
  • 周辺環境を確認する:住宅、学校、畜舎、道路など周囲の状況を確認し、必要な周知や安全対策を行います。
  • 指定された防護具を使用する:農薬用マスク、保護メガネなど、使用する農薬のラベルに従った防護装備を使用します。
  • 処理後の管理を守る:被覆期間、被覆除去、ガス抜き、播種・定植までの期間などは使用する製品の表示に従います。

「臭いが弱いから安全」「ハウスを閉めているから外部へ漏れない」といった判断はできません。
必ず使用する農薬の最新の登録内容とラベルを確認してください。

くん蒸の参考動画

土壌くん蒸は、薬剤の処理だけでなく、土壌中でのガスの保持、被覆、周辺環境への揮散防止まで含めて考える必要があります。

農林水産省が公開している次の動画では、農研機構の研究者が土壌くん蒸剤の施用方法や使用量低減、土壌還元消毒について解説しています。

グリーンな栽培体系実践セミナー
「土壌くん蒸剤の低減化のための施用方法の高度化と低濃度エタノールを用いた土壌還元消毒の普及拡大に向けて」

農林水産省 maffchannel
講演:農研機構 小原裕三氏
※土壌くん蒸剤に関する講演は35分01秒頃からです。

グリーンな栽培体系実践セミナー(YouTube・35分01秒頃から)を見る

動画について:
この動画は、土壌くん蒸剤の作用や施用方法、環境負荷低減技術を理解するための参考資料として紹介しています。
農材ドットコムが制作・管理している動画ではありません。
動画の内容、公開状況、URLなどは公開元の都合により変更または削除される場合があります。
実際に土壌くん蒸剤を使用する場合は、動画中の事例だけで判断せず、使用する農薬の最新の登録内容と製品ラベルを確認してください。

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