高温登熟障害(こうおんとうじゅくしょうがい)の概要
高温登熟障害は、病原菌(びょうげんきん)や害虫(がいちゅう)が原因の病害虫ではなく、登熟期(とうじゅくき)の高温を主因として米粒(こめつぶ)の充実が乱れ、主に外観品質が低下する生理障害(せいりしょうがい)です。農薬(のうやく)散布で治る障害ではなく、発生後に「元の正常粒へ戻す」ことはできません。
現場対応の中心は、発生させない条件づくり(回避)と、発生した場合に品質低下や調製ロスを拡大させない管理です。高温登熟障害は「高温であれば必ず発生する」単純な現象ではなく、出穂(しゅっすい)時期、夜温(やおん)、日射(にっしゃ)、水管理(みずかんり)、籾数(もみすう)、窒素(ちっそ)栄養、品種(ひんしゅ)、圃場(ほじょう)条件が重なった場合に発生リスクが高まります。
高温登熟障害・白未熟粒(しろみじゅくりゅう)・登熟不良(とうじゅくふりょう)の違い(簡易整理)
- 高温登熟障害
登熟期の高温を主因として米粒の充実過程が乱れ、品質低下を招く生理障害。病害虫ではなく、農薬で治療する対象ではありません。 - 白未熟粒
米粒が白く見える外観上の症状名であり、高温・強日射・籾数過多・栄養条件など複数要因の結果として現れます。白未熟粒は原因名ではありません。 - 登熟不良
でんぷんの蓄積が不十分で粒の充実が不足する状態の総称。日照不足・低温・根傷み・倒伏(とうふく)など原因は幅広く、高温登熟障害と必ずしも一致しません。
高温登熟障害(こうおんとうじゅくしょうがい)の詳細説明
高温登熟障害は、登熟期に米粒へ同化産物(どうかさんぶつ)が移動・蓄積する過程において、高温条件により供給と消費のバランスが崩れ、米粒の充実が不均一になったり、品質形質が悪化したりすることで問題化します。代表的には、乳白粒(にゅうはくりゅう)・背白粒(せじろりゅう)・基白粒(もとじろりゅう)などの白未熟粒が増える、胴割粒(どうわれりゅう)が増える、外観品質が低下する、といった形で現場の損失に直結します。ここで重要なのは、外観症状だけで原因を単独決め打ちしないことです。高温は主要因になり得ますが、夜温が下がらない、日射が強い、籾数が多すぎる、登熟期の水管理が不適切、根の機能低下、窒素条件の偏りなどが重なるとリスクが高まります。
発生条件として現場で問題になりやすいのは、出穂後の高温が連続すること、特に夜温が高い状態が続くことです。夜間は呼吸(こきゅう)による同化産物の消耗が増えやすく、昼間に作られた養分が米粒へ十分に回りにくくなるため、登熟が不利になる場合があります。さらに、籾数が過多だと一粒あたりに配分される同化産物が相対的に不足しやすく、白未熟粒が増えやすい条件となります。圃場の乾きやすさ、用水の確保状況、土壌の保水性、根の健全性も、水分・養分吸収を通じて登熟の安定性に関わります。
症状は「葉が急に枯れる」などの明確な病徴として現れるものではなく、収穫後の玄米品質で初めて顕在化することが多い点が現場での落とし穴です。圃場観察では、出穂期の把握、登熟期の気象条件(高温・夜温・日射)、水管理の実績、籾数過多の有無、倒伏や根傷みの兆候を合わせて整理し、収穫後の品質(白未熟粒・胴割粒)と突き合わせて原因仮説を絞り込みます。ここでいう「原因仮説」は翌作の改善に活用するための整理であり、その場で農薬使用に結びつける判断ではありません。
高温登熟障害(こうおんとうじゅくしょうがい)が圃場で引き起こす影響
高温登熟障害による影響は、まず検査等級や販売評価の低下として経済面に表れ、その後に精米歩留(ぶどまり)の低下、胴割粒増加による砕米(さいまい)の発生、用途制限といった形で具体化します。炊飯(すいはん)時の食味低下が問題になる場合もありますが、現場では収量が確保されていても販売単価や歩留が下がることで、実質的な手取りが減少する点が最も深刻です。
このため、同じ収量でも等級低下や調製ロスにより収益性が悪化し、用途が限定される、乾燥調製(かんそうちょうせい)工程でのロスが増えるといった影響が現実的に発生します。さらに、発生要因の整理や対策が不十分なまま作付を続けると、作期設計・品種選択・施肥設計・水管理の見直しが遅れ、同一圃場で品質低下が繰り返されるリスクがあります。
お米の高温登熟障害(整粒、胴割米、中心部白未熟粒、背部白未熟粒)
高温登熟障害(こうおんとうじゅくしょうがい)への対応と判断基準
- 発生前・発生初期で影響を抑えられる状態
高温登熟障害が顕在化する前、または発生リスクが高い段階で、登熟期の水分ストレスを避ける水管理や、過度な籾数を招かない施肥・作期の調整など、条件側の是正によって被害の発生や拡大を抑えられる状態。
対処方法:出穂期の把握を前提に、登熟期に田面(でんめん)が乾きやすい圃場では用水計画を優先し、籾数過多が見込まれる場合は翌作で施肥・作期・栽植密度(さいしょくみつど)を見直す判断軸を持つ。 - 品質低下が固定化する可能性がある状態
高温条件が続き、白未熟粒や胴割粒の増加が避けにくいと判断される状態。発生後に症状そのものを回復させることはできないため、損失の拡大を抑える運用が中心となる。
対処方法:乾燥調製条件で胴割れを助長しないよう、収穫時期の見極めと乾燥条件の適正化を重視し、圃場ごとの品質傾向を記録して翌年の設計に反映する。 - 作り直し・更新判断が必要な状態
同一圃場で高温登熟障害が恒常化し、作期・品種・水利・土壌条件のいずれかが構造的に不利で、現行体系のままでは品質リスクが高い状態。
対処方法:出穂期が高温期に重なる体系の見直し、耐暑性(たいしょせい)を考慮した品種選択、用水・区画・土壌改良など、複数年を前提にした再設計の判断軸へ切り替える。
高温登熟障害(こうおんとうじゅくしょうがい)に関する留意点と課題
- 典型的な誤判断①:病害虫と誤認して農薬散布に走る
なぜ誤りか:高温登熟障害は非感染性の生理障害で、障害が現れる部位は主に籾や玄米であり、登熟期の葉に明確な病徴が出ない場合が多い。そのため原因を特定できず、農薬散布に結びつきやすいが、農薬は原因に作用せず、コスト増と無用な使用につながる。
対処方法:圃場で葉の病斑(びょうはん)や害虫加害痕(かがいこん)の有無を確認した上で、問題が「登熟期の品質低下」である場合は、気象条件、出穂期、水管理、籾数の整理を優先する。 - 典型的な誤判断②:白未熟粒が出た=高温だけが原因と決め打ちする
なぜ誤りか:白未熟粒は高温以外の要因でも増え、籾数過多、根傷み、水分ストレス、日射条件などが複合的に関与するため、原因を単純化すると対策が外れ、再発につながる。
対処方法:出穂期と登熟期の気象条件に加え、籾数、倒伏の有無、根の健全性、圃場の乾きやすさ、施肥履歴をセットで整理し、翌作の改善点を特定する。 - 典型的な誤判断③:水を多く入れれば必ず防げると過信する
なぜ誤りか:水管理は重要な要素だが、夜温の高さ、品種特性、籾数過多など他要因の影響が大きい年には、水管理だけで高温登熟障害を十分に抑えきれない場合がある。
対処方法:水管理は「水分ストレス回避」の位置づけに留め、作期調整、施肥設計、品種選択、圃場条件(用水・土壌)の改善と組み合わせ、体系としてリスク低減を図る。 - 典型的な誤判断④:収穫を遅らせれば充実して品質が戻ると考える
なぜ誤りか:一度発生した白未熟粒が正常粒に戻ることはなく、遅刈りによって胴割れや品質低下を助長する条件が増える場合がある。
対処方法:圃場と品種の成熟特性に基づき適期収穫を優先し、乾燥調製条件の管理によって胴割れを増やさない運用を徹底する。







