再生二期作(さいせいにきさく)とは、水稲(すいとう)の一期目収穫後に、切り株の基部節に残った腋芽が分げつとして再生する「ひこばえ」を育成し、二度目のコメ収穫を行う栽培手法です。
追加の田植えを行わずに再生生育を利用するため、条件が整えば農家の労力軽減やコスト低減、農地利用効率の向上につながります。この仕組みは、生育後半まで有効積算温度を確保できる温暖な地域を中心に注目されており、農研機関による生理生態や収量性に関する研究も進められています。
再生二期作は、気候変動下における局地的・補完的な生産量確保手段として、地域稲作の持続性向上に寄与する可能性があります。成功には、一期作収穫時のコンバイン刈り高設定、再生初期の適切な追肥、水管理が重要な要素となります。
同意語としては「ひこばえ栽培」「ひこばえ米(まい)」が使われることがあります。
再生二期作の概要
再生二期作は、再播種や再移植を前提とする二期作体系とは異なり、一度の田植えで二度の収穫を目指す点が特徴です。
一期作の収穫時には、切り株に腋芽が残る節位を確保するため、通常より高めの刈り取りを行い、均一で生育のそろったひこばえの再生を促します。二期目の生育期間を確保するため、一期作の収穫時期は出穂後日数や登熟状況を考慮しつつ、再生期間を確保できる時期に設定されます。
品種については、再生力が強く、出穂・登熟が早い早生または中生品種が適するとされています。
再生二期作の作業ステージ
再生二期作の詳細説明(生理と栽培管理)
ひこばえ再生は、一度目の収穫後も稲の根系が生存し、基部節に腋芽が残るという生理的特性を活用する技術です。これらの腋芽が再び分げつとして伸長することで、二期目の生育が成立します。以下の栽培管理が重要となります。
刈り取り管理:刈高が低過ぎると基部節や腋芽が損傷し再生不良を招きます。一方、高過ぎる場合は再生茎の発生位置が高くなり、重心が不安定となることで倒伏リスクが増加します。
追肥:再生初期の分げつと葉面積確保のため、窒素(N)を主体に施用しますが、過剰施用は徒長や倒伏、品質低下につながるため注意が必要です。
水管理:切り株の乾燥を避け、湛水から浅水管理を行うことで、ひこばえの活着と初期生育を安定させます。
病害虫防除:再生稲は生育ステージが不揃いになりやすく、いもち病や紋枯病(もんがれびょう)、カメムシ類の発生リスクが高まるため、発生予察に基づく適期防除が重要となります。
再生二期作のメリット(役割と意義)
労働力・資材削減:育苗や再田植えを行わずに再生生育を利用することで、苗資材や田植え作業、燃料使用量の削減が可能となり、条件が整えば農家経営の効率化に寄与します。
生産量確保の補完的役割:気候不順や作付制限下において、局地的・補完的な生産量確保手段として、需給変動の緩和に寄与する可能性があります。
農地利用の高度化:限られた農地を同一作期内で複数回活用することで、単位面積当たりの生産機会を高め、土地利用効率の向上が期待されます。
再生二期作の課題と対策
再生二期作には、以下の三つの主要な課題があり、それぞれに対してリスクを低減するための対策が求められます。
① 気象・環境リスク
二期目の登熟期が晩秋にかかるため、低温や初霜、日長短縮による積算温度不足により登熟不良が生じる場合があります。
対策としては、再生期間を確保できる早生品種の採用や、一期作の出穂・登熟状況を踏まえた収穫時期の調整、地域の気象データに基づく作期設計により、リスクを事前に評価・低減することが重要です。
② 収量・品質の安定性
再生稲では粒径の小型化や成熟の不揃い、食味低下が生じやすく、年次変動も大きい傾向があります。
対策としては、再生初期の過不足のない追肥管理や、刈り取り精度の確保による分げつの均一化、収穫適期を見極めた一斉収穫、乾燥・調製条件の最適化により、品質ばらつきの抑制を図ります。
③ 病害虫・経営リスク
一期作由来の病原菌や害虫が圃場内に残存しやすく、紋枯病やいもち病、カメムシ類の被害が増加する可能性があります。また、防除回数の増加は経営コストの上昇につながります。
対策としては、防除暦や発生予察に基づく適期防除の徹底、地域内での作期・防除の協調、必要最小限の防除体系の構築により、病害虫リスクとコストのバランスを取ることが重要です。
暖地向けの再生二期作 年間栽培カレンダー(工程順)
本カレンダーは、暖地向けの移植栽培(田植え機利用)を前提とし、1回目の田植えから2回目の収穫までの作業を工程順に整理した内容です。秋季に十分な積算温度が確保できる暖地を想定しています。
再生二期作の栽培工程(全体像)
再生二期作の基本工程は次の4つで構成されます。
再生二期作|工程順カレンダー(移植栽培)
| 工程 | 主な作業 | 作業の要点 |
|---|---|---|
| ① 一期作:田植え (例:4月上旬〜5月中旬) |
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| ② 一期作:生育管理 (〜7月〜) |
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| ③ 一期作収穫(高刈り) (例:8月中旬〜9月) |
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| ④ ひこばえ再生管理 (例:8月下旬〜9月上旬) |
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| ⑤ 二期作:再生生育〜登熟 (例:9月〜10月) |
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| ⑥ 二期作収穫 (例:10月中旬〜11月上旬) |
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再生二期作のリスクと回避策(暖地向け)
- 低温・霜害:早生品種の採用や、登熟状況を踏まえた収穫時期調整で生育時間を確保
- 台風・長雨:排水強化・補植不要のため倒伏対策重視
- 病害虫(紋枯病・いもち病・カメムシ):適期防除と圃場衛生
- 肥料過多による倒伏:追肥量を窒素中心で適正化
使用が想定される農機具
- 田植え機(移植栽培)
- コンバイン(刈高調整)
- 防除機/ドローン散布
- ハロー、代かき用トラクター
参照
- 農研機構 九州沖縄農業研究センター:「良食味多収水稲品種『にじのきらめき』を活用した再生二期作による画期的多収生産の実現」プレスリリース
https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/karc/159911.html
→ 多収・良食味品種「にじのきらめき」を用いた再生二期作で、移植時期と刈り取り高さを調整し、1回目と2回目の合計収量・コスト低減効果を検証した事例。 - 農研機構 九州沖縄農業研究センター:「温暖化条件下で威力を発揮する 水稲の再生能力を活かした米の飛躍的多収生産」プレスリリース
https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/karc/136334.html
→ 九州地域の試験ほ場で、再生二期作における1回目収穫時期・刈高と2回目収量の関係を解析し、通常栽培より多収かつ低コスト化が可能であることを示した研究。 - 国際農林水産業研究センター(JIRCAS):「低投入型稲作のためのひこばえ栽培」技術レポート(GARS-J 第5号)PDF
https://www.jircas.go.jp/sites/default/files/publication/gars-j/gars-j5-_-.pdf
→ アジアモンスーン地域における持続可能な稲作技術として再生二期作を位置づけ、その概念・日本での研究史・技術的特徴・課題と展望を整理した総説。 - 農研機構 広報誌「NARO」:「水稲の再生能力を生かした米の飛躍的多収生産」記事
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/responsive/naro/naro18-cont05.html
→ 収穫後の「ひこばえ」を利用する再生二期作の考え方を平易に紹介し、九州地域での試験により平均収量の約3倍(約1.5t/10a)を達成した事例を解説。 - 農林水産省 近畿農政局:「猛暑を逆手にとって、水稲再生二期作に挑戦」現地取材レポート
https://www.maff.go.jp/kinki/tiiki/otsu/photo/20251105.html
→ 滋賀県のほ場で、田植え時期の前倒しと高刈り・追肥・水管理により、猛暑条件下での再生二期作を実証した事例。刈高30cm以上や積算温度の考え方など実務的なポイントが示されている。







